「な、ななななによこの破廉恥な本は!?」
私は思わず大声を上げてしまったわ。
目の前では、まだ未成年と思われる裸の少女が男に抱きしめられていた。
目の前では、まだ未成年と思われる裸の少女が男に抱きしめられていた。
もちろんリアルの話ではなく、これはマンガのワンシーン。
日向のものらしい散らかったマンガを片付けようとして、手に取ったところ、
何気なく開いたページがコレで、つい声が出てしまったわ。
日向のものらしい散らかったマンガを片付けようとして、手に取ったところ、
何気なく開いたページがコレで、つい声が出てしまったわ。
「あっ!ちょっとルリ姉、あたしのマンガ勝手に読まないでよ!」
私の声にテレビを見ていた振り返った日向が抗議の声をあげてくる。
動揺を抑えるために深く息を吐き、私は日向に向き直って口を開いた。
動揺を抑えるために深く息を吐き、私は日向に向き直って口を開いた。
「そんなことより質問に答えなさい。なぜこんな本を持っているというの?」
「べっつに普通の少女マンガじゃーん」
「べっつに普通の少女マンガじゃーん」
事も無げに言う日向。
ど、どこが普通よ。
ど、どこが普通よ。
「ふ、普通の少女マンガで、こ、こんな……」
上ずった声をごまかすようにして再びマンガに目を落とす。
扇情的な目で男を見つめる少女と目があった気がして頬が上気するのを感る。
私だってそりゃ少女マンガくらい何冊か持ってるけど、
こ、こんな破廉恥なものは、持ってないわよ。
扇情的な目で男を見つめる少女と目があった気がして頬が上気するのを感る。
私だってそりゃ少女マンガくらい何冊か持ってるけど、
こ、こんな破廉恥なものは、持ってないわよ。
「ルリ姉ってば、こんなのイマドキの少女マンガでは当たり前だよ~」
「あ、当たり前ってあなた、小学生でしょう!」
「えー、でもコレ、いまメチャクチャ流行ってるマンガだし~」
「なんですって!?」
「あ、当たり前ってあなた、小学生でしょう!」
「えー、でもコレ、いまメチャクチャ流行ってるマンガだし~」
「なんですって!?」
「――というわけなのよ」
「いきなり呼び出したかと思ったら、そんなことか」
「いきなり呼び出したかと思ったら、そんなことか」
私が差し出した日向のマンガを手に、そう呟く京介。
私は急須でお茶を入れながら、事の顛末を説明していた。
私は急須でお茶を入れながら、事の顛末を説明していた。
あの後私は京介を家に呼んで、どうすればいいのかを相談することにしたわ。
私の身近な人間で、同じように妹のことで頭を悩ませている人といったら京介以外にいないし、
最近はとても怪しくなってはいるものの、
元々はオタクではない一般的な感覚の持ち主だったということもある。
私の身近な人間で、同じように妹のことで頭を悩ませている人といったら京介以外にいないし、
最近はとても怪しくなってはいるものの、
元々はオタクではない一般的な感覚の持ち主だったということもある。
今日はたまたま両親も妹たちも外出していたから、こういう相談するにはちょうど良かったわ。
「急に呼び出したりして御免なさい。他に頼れる人がいなかったのよ」
「いや、別にかまわねーよ。
前にも言ったろ、お前の頼みは聞けることはなんでも聞くって」
「いや、別にかまわねーよ。
前にも言ったろ、お前の頼みは聞けることはなんでも聞くって」
私の突然の我が儘にも笑顔で答えてくれる京介。
胸がドキリとして思わず急須を落としそうになった。
胸がドキリとして思わず急須を落としそうになった。
「ありがとう。……じゃあさっそくで悪いのだけれど、ちょっと読んでみてくれるかしら」
「おう、まかせとけ」
「おう、まかせとけ」
京介はパラパラとページをめくっている。
もっとも、彼自身は当然少女マンガなんて興味もないのだろう、あまり楽しそうには読んでいないようだけれど。
京介が読んでいる間にざっとおさらいするわ。
もっとも、彼自身は当然少女マンガなんて興味もないのだろう、あまり楽しそうには読んでいないようだけれど。
京介が読んでいる間にざっとおさらいするわ。
このマンガは主人公の女の純愛がテーマらしいけれど、
連載当初からその過激な表現で賛否が分かれているのだという。
元々は高校生向けのものらしいが、大人や小中学生など幅広いファンがいるのだとネットに書いてあったわ。
今年の冬にはドラマ化も決まっていて、まさに今話題の作品みたいね。
連載当初からその過激な表現で賛否が分かれているのだという。
元々は高校生向けのものらしいが、大人や小中学生など幅広いファンがいるのだとネットに書いてあったわ。
今年の冬にはドラマ化も決まっていて、まさに今話題の作品みたいね。
さて、京介が一巻の中盤くらいまで読んだあたりで――
「うげっ、なんだこの超展開は!」
「ね、ついていけないでしょう」
「これは酷い」
「まさかこんなマンガを読んでるなんて知らなかったわ。
あの子はちょっとマセてるところがあるとは思っていたのだけど……」
「これってこんなマンガだったんだな。タイトルだけは聞いたことあったけど知らなかったよ」
「ね、ついていけないでしょう」
「これは酷い」
「まさかこんなマンガを読んでるなんて知らなかったわ。
あの子はちょっとマセてるところがあるとは思っていたのだけど……」
「これってこんなマンガだったんだな。タイトルだけは聞いたことあったけど知らなかったよ」
このマンガの主人公の女は親友の彼氏といきなり、その……関係を持ってしまうのよ。
しかも翌日その男はいきなり交通事故に遭って記憶喪失になってしまう。
そして主人公は失意のまま堕ちていくなんてとんでもない展開なのよ。
しかも翌日その男はいきなり交通事故に遭って記憶喪失になってしまう。
そして主人公は失意のまま堕ちていくなんてとんでもない展開なのよ。
「なるほどな。最近の少女マンガは過激だなんて聞いたことあったけど、こんなことになってたんだな」
「私もまさかここまでとは予想してなかったわ」
「これはお前が心配する気持ちもよくわかるよ」
「そうでしょう。ねぇ、ところで……」
「ん、どうした?」
「その……、見せたのは私なのだけど、
あまり露骨に鼻の下を伸ばさないでほしいわね」
「の、伸ばしてねえよ!」
「私もまさかここまでとは予想してなかったわ」
「これはお前が心配する気持ちもよくわかるよ」
「そうでしょう。ねぇ、ところで……」
「ん、どうした?」
「その……、見せたのは私なのだけど、
あまり露骨に鼻の下を伸ばさないでほしいわね」
「の、伸ばしてねえよ!」
京介は慌てながらマンガを閉じた。
ちなみに主人公は巨乳よ。
そ、そんなに大きな胸がいいというのかしら?
ちなみに主人公は巨乳よ。
そ、そんなに大きな胸がいいというのかしら?
「はぁ、あなたもどうしようもない雄ね」
「その……、えーと、すまん!」
「わ、私だって、前世では、それくらいゴニョゴニョ……」
「え?」
「な、なんでもないわ、莫迦」
「その……、えーと、すまん!」
「わ、私だって、前世では、それくらいゴニョゴニョ……」
「え?」
「な、なんでもないわ、莫迦」
私の視線に耐えれなくなったのか、京介はゴホンと咳をついた。
「で、つまりだな。」
「露骨に話を逸らしたわね」
「いいから聞けって。お前は、日向ちゃんがこういうマンガを読まないようにさせたいってことか?」
「違うわ」
「露骨に話を逸らしたわね」
「いいから聞けって。お前は、日向ちゃんがこういうマンガを読まないようにさせたいってことか?」
「違うわ」
私はきっぱりと言い切った。
そんなことをしても無駄なのはわかっているのよ。
そんなことをしても無駄なのはわかっているのよ。
「え?」
「もう日向は諦めたわ、あの子は言うことを聞かないし」
「じゃあどうしたいんだよ」
「日向をどうこうじゃなく、ただ、その、珠希に悪影響だけはないようにしないと……」
「あぁ、なるほどね……」
「もう日向は諦めたわ、あの子は言うことを聞かないし」
「じゃあどうしたいんだよ」
「日向をどうこうじゃなく、ただ、その、珠希に悪影響だけはないようにしないと……」
「あぁ、なるほどね……」
そうよ。日向に読むなと言っても隠れて絶対読むに決まっているのだから無意味よ。
それより、最近日向の言うことをよく真に受けるようになった珠希が心配なのよ。
以前は私のことを常に尊敬の眼差しで見ていたのに、最近は時々様子がおかしい。
どう考えても日向に悪影響を受けているわ。
それより、最近日向の言うことをよく真に受けるようになった珠希が心配なのよ。
以前は私のことを常に尊敬の眼差しで見ていたのに、最近は時々様子がおかしい。
どう考えても日向に悪影響を受けているわ。
「……考えすぎじゃねえかなぁ」
「無責任なことを言わないで頂戴。これはとても大切なことなのよ」
「す、すまん」
「無責任なことを言わないで頂戴。これはとても大切なことなのよ」
「す、すまん」
脳裏をふと、茶髪の丸顔モデルの顔がよぎる。
あの女に初めて会ったときの日向のはしゃぎっぷりが思い出された。
もし、もしも、日向だけじゃなく珠希まであんな風になってしまったら……。
想像するだけでぞっとする。
あの女に初めて会ったときの日向のはしゃぎっぷりが思い出された。
もし、もしも、日向だけじゃなく珠希まであんな風になってしまったら……。
想像するだけでぞっとする。
珠希だけは、珠希だけはスイーツに汚染させるわけにはいかないのよ。
その後、日向と珠希の教育方針についてしばらく話をしていたのだけれど、
ふと京介がため息をついた。
ふと京介がため息をついた。
「……なによそのため息は」
「いや、そのー、久しぶりに黒猫の家で二人っきりだっていうのにさ、もっとこう……」
「いや、そのー、久しぶりに黒猫の家で二人っきりだっていうのにさ、もっとこう……」
言いかけながら京介は立ち上がると、私の隣に座りなおした。
ち、近いわよ、恥ずかしいじゃない。
私は高鳴る鼓動を悟られないように努めて冷静に声を出した。
ち、近いわよ、恥ずかしいじゃない。
私は高鳴る鼓動を悟られないように努めて冷静に声を出した。
「……何かしら?」
「俺としてはこう、もっと刺激的な感じを期待してたというか」
「俺としてはこう、もっと刺激的な感じを期待してたというか」
言うが早いか、京介は、わ、私の腰に手を回してきた。
身体中の血液が逆流しそうになったような気がした。
身体中の血液が逆流しそうになったような気がした。
「な、なななによこの手は」
「いやね、黒猫だって、妹たちがいないときに家に呼んでくれたんだし、
ちょっとはこういうことも期待してくれてたり、なんて」
「そ、そんなわけないでしょう。まったく、破廉恥な雄ね。
い、一度許したくらいで、調子に乗らないで頂戴」
「いやね、黒猫だって、妹たちがいないときに家に呼んでくれたんだし、
ちょっとはこういうことも期待してくれてたり、なんて」
「そ、そんなわけないでしょう。まったく、破廉恥な雄ね。
い、一度許したくらいで、調子に乗らないで頂戴」
照れくさくて私はふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いたのだけれど、
京介は優しく私の髪を撫でると、ふぅっと耳に息を吹きかけてきた。
京介は優しく私の髪を撫でると、ふぅっと耳に息を吹きかけてきた。
「ひゃっ」
小さな悲鳴が出てしまったじゃない。
抗議の視線を向けると、京介は爽やかな笑顔を向けてきた。
抗議の視線を向けると、京介は爽やかな笑顔を向けてきた。
「な、なにを――」
「黒猫、好きだよ」
「黒猫、好きだよ」
卑怯だわ、そんなの、何も言えないじゃない。
「……莫迦」
頬が燃えるように熱くなる。
心臓の鼓動の高鳴りと反比例するように、京介との距離が近づいていく。
瞳を閉じて、唇が触れ合うまさにそのとき――
(姉さま、すてきです)
(ちょっと、たまちゃんおさないでよバレちゃう)
(ちょっと、たまちゃんおさないでよバレちゃう)
「「………!?」」
私は目を見開いて振り返った。
いつの間に帰ってきたのか、日向と珠樹が扉の隙間からこちらを見ていたわ。
心臓が止まりそうになった。
いつの間に帰ってきたのか、日向と珠樹が扉の隙間からこちらを見ていたわ。
心臓が止まりそうになった。
「あ、バレちゃったぁ、えへへ」
「バレちゃいましたねー」
「バレちゃいましたねー」
二人ともクスクス笑っていた。
ま、まさか、ずっと見られていたの?
ま、まさか、ずっと見られていたの?
「あ、あなたたち、いったい何時から……」
「にゅふふ、普通にさっき帰ってきたんだけどねぇ、
ただいまって言おうと思ったらさぁ、京介くんもルリ姉もいちゃいちゃに夢中で、
もうね、全然こっちのこと気づかないんだもんねー」
「ねー」
「にゅふふ、普通にさっき帰ってきたんだけどねぇ、
ただいまって言おうと思ったらさぁ、京介くんもルリ姉もいちゃいちゃに夢中で、
もうね、全然こっちのこと気づかないんだもんねー」
「ねー」
頭を抱えたくなったわ。
京介は「恥ずかしいところ見られたな」って頬を掻いていた。
京介は「恥ずかしいところ見られたな」って頬を掻いていた。
その後、結局京介があっさりマンガのことで相談されたとバラしてしまった。
でも日向は特に何も言わず、にやにやとこちらを見てくる。
でも日向は特に何も言わず、にやにやとこちらを見てくる。
「なによ?」
「べーっつにー。
ただぁ、こんなのをダシに京介くんを呼び出して、なんて、
ルリ姉もけっこう単純だよね~って思って」
「ななななにを言っているのかしら?」
「べーっつにー。
ただぁ、こんなのをダシに京介くんを呼び出して、なんて、
ルリ姉もけっこう単純だよね~って思って」
「ななななにを言っているのかしら?」
ま、まったく、そんな意図なんてこれっぽちもないというのに、
京介といい、日向といい、何を言っているのかしら。
京介といい、日向といい、何を言っているのかしら。
「だいたいさ~、こんなマンガで悪影響うんぬんって言うならさ――」
そこで今まで京介の太ももに抱きついて遊んでいた珠希が頭を持ち上げ、
太陽のような笑顔を私と京介に向けながら言った。
太陽のような笑顔を私と京介に向けながら言った。
「そういえばおにぃちゃん」
「なんだい珠希ちゃん」
「姉さまになにをゆるしてもらったのですか?」
「なんだい珠希ちゃん」
「姉さまになにをゆるしてもらったのですか?」
「「なっ!?」」
「……ルリ姉らのほうがよっぽど悪影響だと思うよ」