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『調理するだけでも簡単なお仕事じゃありません』:(アップローダー投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
注:作中に登場するアイドルは某ソーシャルゲームのキャラクターです。
  ビジュアルイメージなどにつきましては、お手持ちの俺猫二巻帯をご参照下さい。
  なお、「デビューが同時期」はこの作品の独自設定となっています。

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「お姉ちゃん、姉さまがしんぶんにのっていますよ!」

宿題をすませた後、床の上に置きっぱなしになっていた新聞を拾ったたまちゃんが、びっくりした
様子であたしを呼んだ。
と言っても、別に何かしでかして警察のお世話になったわけではない――いや、あの格好でそこらを
歩いてたらそうなってもおかしくはないけど。
信じられないことだけどルリ姉は、しばらく前からアイドルとしてテレビやなんかに出るように
なっているのだ。

「でも、かいてあることがむずかしくてよめません……」

よし、ここはこの姉、日向の知性を示してあげることにしよう。

「まあ、一年生じゃしょうがないよね。見せてみ?」

たまちゃんから受け取った新聞をちゃぶ台の上に広げてみると、確かにテレビ欄のすみっこに、
ルリ姉と、同じような格好をした女の人が結構大きく写っていた。

「このひと、だれでしょうか?」
「この人? 神崎蘭子さんって、ルリ姉と同じ厨二アイドルの人だよ」

まさか、同じ時期に同じようなのがデビューしてくるとは、って高坂くんやほかのスタッフさんも
驚いていたけれど、それはむこうも同じだったみたいで、仕事を何となくかぶらせないようにして
すみ分けていたらしい。
それでも、やっぱりお互い人気が出てくるとバッティングしそうだし、どっかで一度共演した方が
いいかも、なんて話は前に聞いていたけど、この番組がそうなんだろう。

「えーと、『神崎・五更、二大厨二アイドル……に激突! ……、スタジオに魔界が……!?』ね……」

よ、読めない……いかん、たまちゃんの目がジト目になりかけてる。

「ちょ、ちょっとど忘れしちゃった。辞書持ってくるね」

どうしてこいつらのしゃべりやら文章はいちいち大げさで漢字が多いんだ、ってイライラしたけど、
学校で辞書の使い方を教わってたおかげで、読めない漢字を漢和辞典で引いて、その漢字を国語辞典で
調べて、とやってなんとか全部の字を読むことができた。
きっと、神崎さんのご家族も大変なんだろうな。

「えーと、『遂:つい』とうとう、ってことだね。『今宵:こよい』これは今夜、で、
 『顕現:けんげん』……『神仏などがはっきりした形をとって現れること』か」
「姉さま、どうなってしまうんですか?」
「……いや、たぶんテレビで話して、歌うだけだと思うよ」

要するに、いつもうちで言ってるようなことを言ってまわりから突っ込まれたり、二人でかみ合って
いるんだかいないんだか、みたいなトークをするんだろう。
それにしても、『二大厨二アイドル』ってことは、ほかにもこんなアイドルがまだいるんだろうか?

「姉さまのうたうところ、みたいです!」
「そうだね。じゃあ、早めにお風呂にして、ごはんの後で見ようか?」
「はい!」

   ◇   ◇   ◇

さて、ごはんと簡単に言ったけれど、さっきも言ったように、ルリ姉は現在アイドルとしての仕事を
しているわけで、いつもみたいに「お腹すいたよルリ姉」って言ってれば毎日ごはんが出てくる
わけじゃない。
お父さんやお母さんも、ルリ姉が家を空けることが多くなった分、できるだけ早く帰るようには
してくれてるけど、それでも二人そろって遅くなることも普通にあって、毎日の夕方、うちに
いるようにする、なんてことはなかなかできない。
そうなると、誰がごはんの用意をしなきゃならないか。
無論、このあたしだ。
最初はルリ姉からメモを渡されて、書かれたとおりのものを買って、でやってたけど、最近は
だんだんあたしが任せられてるところも増えてきて、いろいろ大変だったりする。
冷蔵庫の中に残っているものと、預かってるお金を考えて、今夜は何にしようか考えると、
どうしたって新聞の折り込みチラシをいろいろ見なくちゃならなくなる――それで、チラシを見る
ついでに新聞放り出しちゃってたんだけど。
それはさておき、そんなことをしてると、そういえばルリ姉も、タイムセールがどうとか、日替わり
特売がどうとか言いながら買い物に出てたよなあ、って思い出す。
そうやって晩ごはんの支度して、お父さんやお母さん、自分のお弁当の下ごしらえして、他にも
時々晩ごはんのおかずとは別にちょっとしたものを用意して、つまみ食いしようとするあたしに
「これは父さんが晩酌する時のおつまみだからダメよ」と怒ったりしてたっけ。
少なくとも、今のあたしはみんなの晩ごはんを用意するのに精一杯で、とてもそんな余裕はない。
それを全部やって、それからオタク活動をしてたわけで……いったい、いつ寝てたんだろう?

   ◇   ◇   ◇

それに、うちのことってごはんだけじゃない。
毎日お風呂に入るには、お風呂をきれいにしとかなきゃいけないわけで、そのためにはお風呂掃除も
毎日しなきゃいけないわけで。
それでお風呂に入ったら、当然服やタオルは洗濯しなきゃいけないわけで。
洗濯したら、それは干さなきゃいけないわけで。
そんなわけで、お風呂掃除や洗濯もルリ姉の、今はあたしの仕事のうちだ。
床の方はそう毎日、ってわけでもないけど、お風呂そのものは毎日洗っておかないと湯垢が
こびりついて取れにくくなるから、しっかり洗うようにしている。

「お姉ちゃん、わたしもあらうのおてつだいしましょうか?」

たまちゃんもいろいろ手伝おうとはしてくれるけど、身体が小さいと難しいことや危ないことも
多いから、あんまりいろいろお手伝いしてもらうわけにはいかない。
特に、料理は火や包丁を使うから絶対ダメ、ってきつく言われてる。
それだけあたし、信用されてるのかなあ。

「大丈夫、もう終わるから……そうだたまちゃん、悪いけどシャワーでお風呂の泡、流しといて
 くれる? お父さんたち見れないかもしれないから、テレビの予約しとかなくちゃ」
「はい!」

さっきも言ったけど、うちのお父さんとお母さんは共働きしていて、帰りが遅かったり休みが
不規則だったりする。
そんなだから、せっかくルリ姉がテレビに出たりしても、その時に見られなくて、だいたいは録画
しておいて後から見返すことになる。
それなら、休みとルリ姉の仕事がかぶった時にでも撮影を直に見に行けばいいんだろうけど、
お父さんやお母さんはルリ姉が仕事してるところへ行こうとは思ってないみたいだ。
「ステージパパやステージママなんて、瑠璃の稼ぎを当てにしてるみたいでみっともないしな!」
まではよかったけど、「それに、ステージ婿がいるから大丈夫だろ!」なんてルリ姉によけいな
ことを言ったもんだから、お弁当を作ってもらえなくてしょんぼりしていたお父さんは、間違いなく
あたしのお父さんだと納得した、なんてこともあったっけ。
まあ、本放送で見たのも、結局何回も見返したりするんだから、録画しといた方がいいんだけどさ!

   ◇   ◇   ◇

たまちゃんとふたりでお風呂に入ってから、晩ごはんの仕上げをする。
ごはんとおかずは作ってあるから、おかずを温め直して、おみそ汁作ってよそうだけ。
その間に、たまちゃんがお茶碗とおはしを出して、夜にエサをあげることになっている。

「たまちゃん、夜のエサは後だよ!」
「はいです!」

逆だと手が汚れるから、と前にルリ姉に言われたことを思いだして声をかけたけど、たまちゃんは
わかってるみたいで、夜に「ちょっとまっててくださいね」なんて言いながら、ちゃぶ台にお茶碗を
並べていた。
いけない、たまちゃんの方見てたらおみそ汁の鍋がふきかけた。
「風味が落ちるからダメ」って言われてたっけ、と思いながら火を止めて、お椀によそう。
さあ、ごはん済ませてからゆっくりテレビ見よう。

   ◇   ◇   ◇

ごはんの後、金曜日の八時から生放送でやってる、あたしどころか、ルリ姉が生まれる前からお昼の
リーダーだったおじさんが司会をやってる音楽番組をルリ姉いつ出るかな、と思いながら見てると、
オープニングの司会者とアナウンサーの挨拶が終わってゲストがステージに上がってくる中に、
いつものポーズをばしっと決めたルリ姉と神崎さんがいた。

「あ、姉さまです!」

一応、拍手と歓声があるから、そう場違いってことでもないんだろう。
そう思いながらお茶を飲み飲みテレビを見てたけど、いつもより早く、この番組に間に合うように
ごはんの支度やお風呂の用意を済ませたもんだから、もうあたしは疲れ切っていて、案の定だった
ルリ姉と神崎さんのトークを聞いているうちに、まぶたが重くなっちゃっていた。
それでも、トークが終わって神崎さんの歌が始まったくらいまではなんとか覚えていたんだけど、
これまたルリ姉の喋りとよく似た、訳のわからない歌詞を追っかけているうちに頭まで
重くなってきて、遠くから聞こえてきた「闇に飲まれよー!」って決めゼリフに、

「ハイ……ヤミノホノオニダカレテキエマス……」

って返事したようなしなかったような。

   ◇   ◇   ◇

しばらくして、ハッと目が覚めた。
いかん、寝ちゃったんだ、ルリ姉の歌、まだ間に合うかなと思って顔を上げたらテレビはもう
消えてて、見終わってから片付けようと思ってたお茶碗もなくなってた。
台所から水の音がしてたから、誰か帰ってきてたのかな、と思って台所に入ると、ルリ姉が
戸棚からものを下ろす時に使ってた踏み台が流しのところに動かされてて、その上でたまちゃんが
流しに向かっていた。

「たまちゃん、お皿運んでくれたの?」
「はい、姉さまからあらうまえにはおみずにつけておくようにおそわりました!」
「ありがと。ごめんね、面倒かけちゃって。でも転んだりしたら危ないから、あたしが洗うよ」
「でも、わたしもおてつだいしたいです」
「じゃ、たまちゃんは洗ったお皿とか拭いてくれる?」
「はい!」

にこにこしながら手伝ってくれるたまちゃん。
あたしにはもったいないくらいのよくできた妹だよなあ、って思ってたら、ルリ姉の顔が
頭に浮かんだ。
あたしは、少なくともよくできた妹じゃなかったな。
ルリ姉がやってくれるのをいいことに、家のこと任せっきりにしてあんまり手伝わなかったし、
そもそもそんなに手伝えるようなスキルもなかったし……

「お姉ちゃん、どうしたんですか?」
「あ、うん、なんでもない」

考えごとをしてたもんだから、洗い桶の中が空になってたのに気がつかないまま、中のお皿を
探していたらしい。

「そうですか……ふああ」

眠くなってきたんだろう、たまちゃんがあくびをする。
時計を見ると、もう九時近い。
いくらなんでもそろそろお父さんたちも帰ってくるだろうけど、ルリ姉が帰ってくるのはもう少し
遅くなるだろう。

「たまちゃん、そろそろ寝ないと明日起きられなくなっちゃうよ? 後はあたしがやっとくから、
 先に寝てていいよ」
「でも、おとうさんたちや姉さまがかえってくるまでまっていたいです」
「テレビ終わったって、着替えたり挨拶したりするんだから、すぐ帰ってはこないってば。
 大丈夫、早い時間だったら起こしてあげるから」
「はい……」

ちょっとフラフラしてるたまちゃんを歯磨きさせてからお布団に連れて行って、また台所に戻る。
残りの食器を拭いて、棚に戻してから火の元と勝手口の戸締まりを確かめると、毎日ルリ姉も
こうしてたっけ、とまたルリ姉のことを思い出した。
ジャージの上から割烹着を着て忙しそうにしながら、それでもどこか楽しそうにお料理したり、
洗い物したりしてたルリ姉のことを。
きっとここは、厨二にあふれたルリ姉の部屋とは別の、ルリ姉のもう一つの居場所だったんだ。
だったら、ルリ姉が安心してアイドルしてられるように、ここはあたしが守っておいてあげなくちゃ。
よくできてない妹だったあたしの、ちょっとした姉孝行だ。

   ◇   ◇   ◇

もう一度火の元を確認して、電気を消そうとしてから、ふと思いついた。
そうだ、せっかくの姉の晴れ舞台だ。
寝る前に麦茶でも用意して、録画しといたテレビちゃんと見ておこう。
何を言ってるのかとか、歌ってる歌詞の意味とかは、たぶんわかんないままだと思うけど……いや、
わかっちゃったらそれはそれで困るか。

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