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『天候は急変しました』:◆MsHTck9REk(アップローダー投稿)

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匿名ユーザー

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97スレでネタになった「花火大会に出かける直前に雨が降ったら」という設定でのWhatif?もの、
日向が天丼チックに、余計なことを言って無自覚に状況を引っかき回す話です。


『天候は急変しました』


「すごいあめです……」
「これ、どう考えても無理じゃない?」
「だな。ツイッターにも中止になったって出てるわ」

窓を見ながらの日向と珠希の言葉に、携帯に目を落としていた京介が顔を上げて応えた。

「…………」

いったいどこの能力者が我が”運命の記述”を阻まんとしているのか。
今日この時、二人の関係は大きく変わる、その手はずであったというのに。
瑠璃は、険しい顔で窓の外を見つめていた。

◇ ◇ ◇

立ったまま窓の外を見続けている瑠璃に京介が声をかける。

「とりあえず、着替えてきたらどうだ?」
「……そうね、そうするわ」
「あれ~、高坂くんルリ姉の浴衣姿もう見たくないの? あ、そうか! 浴衣の下を見たいんゴフッ」

何も言わず、日向の後頭部に拳を振り下ろす瑠璃。

「痛た……でもホント残念だよね、遠距離になっちゃう直前、最後のラブラブイベントだったのに」
「えっ?」

頭をこすりながらの日向の言葉を京介が聞きとがめる。

「え、何? まだもう一回くらいデートするの?」

慌てて日向の口を封じるが、すでに遅かったようだ。

「いや、『遠距離になっちゃう』って何だよ?」
「マッメ、ムミミッモミミミャウ……」
「な、何を言っているのかしらこの子は」

むがむがと暴れる日向を取り押さえながら、なんとかこの場を収め、”運命の記述”に従った未来を展開
させねば、とそのための方法を考える。
だが、それに気をとられすぎた瑠璃は、二つのことを忘れていた。
塞ぐべき口はもう一つあること。

「……珠希ちゃん、ひょっとして、ここからお引っ越しするの?」
「はい! おひっこしして、にがっきからはあたらしいがっこうにかよいます」

そして、両手で日向の口を塞いでいる瑠璃にはそれを封じる術がないことを。
しまった、と思った瞬間、手の力が緩んだ。
日向が瑠璃の手の内から逃れ、ぷはあ、と息を吐く。

「そう、うち引っ越しして、ルリ姉も転校するんだよ! 高坂くん、ルリ姉から何も聞いてないの?」

その質問の答えは、何を聞いていいものかわからない、といった表情で瑠璃を見る京介の姿だった。

「ま、まさか……ルリ姉、高坂くんと別れるつもりでいたとかじゃないよね?」

重い沈黙が部屋を包んだ。

◇ ◇ ◇

しばらくの後、いかにも慎重に言葉を選びました、といった様子で京介が沈黙を破る。

「あ、あのな、黒猫……もしこの何日かのことが、お前の壮大な釣りだったというなら……」

この場を立て直すきっかけとして、京介の質問はうってつけだった。
肯定して別れを告げ、家に帰してしまえばあの子のことだ、傷心の彼を放ってはおかないだろう。
自分の計画とはやや違う形になるが、彼ら二人の間にあるものを見据えさせることにつながるのであれば、
多少の修正は已むを得ない。

「ないないそれはない! だって、もしそうなら枕抱えて幸せごろごろしたり、延々一人ファッションショー
 したりとかしないもん!」

だが、京介の言葉が終わらないうちに重ねられた日向の言葉に、口を挟む機会を失ってしまう。

「ねえさま、ずっとにこにこしていました~」

珠希までもが、本人も気付かない援護射撃を放ってくる。

「あ、当たり前でしょう。私たちは前世から定められた誓いのもとに巡り会った間柄なのだもの。からかう
 ためにこんなことをするなんてあり得ないわ!」

気付けば、言おうと思っていたこととはまるで反対のことを口走っていた。
とんでもないことになってしまった、とは思うのだが、それをどこか嬉しく思っている自分がいる。

「よかった。そしたら遠距離恋愛するんだね、ルリ姉」

『遠距離』と聞き、これなら、と思いつく。
実際に、これが原因で別れるカップルもいる、とも聞いているし、別れの理由としてさほど不自然では
ないだろう。

「……こ、これから二人の距離は遠く離れてしまうの。京介は受験生だし、負担はかけられないわ」

だから、と言い継ごうとしたが、またも日向が口を挟んでくる。

「『遠く離れてしまう』ったって、引っ越すの松戸じゃん。そりゃあ、今みたいにちょくちょくは会えない
 だろうけど、週末とか連休とかでデートしたらいいんじゃないの?」
「うっ……」

認めたくはないが、極めて正論だ。

「高坂くんだって、ルリ姉が引っ越すから別れようなんて思ってないでしょ?」
「当然だろ」

なぜこんな時だけそんなことを即答するのか、とさえ思ってしまう京介の言葉にどう反応していいか
わからない。

「言い出しにくかったのはわかるが、そんな大事なことは、今度からは早めに話してくれよな」

誤解されている。
しかし、それを否定する気力も、否定しようとする意志も今の瑠璃には薄かった。

「ええ、そうよね……そうさせてもらうわ」

もうどうにでもなれ、と半ば自棄になりながら言葉を返す。
しばらく後、ゲリラ豪雨であったのだろう、激しい雨が嘘のように止んだ夜道を京介は帰って行った。

◇ ◇ ◇

翌日、瑠璃は自室の整理を続けながら昨日のことを思い返していた。
計画の早期修正を行い、”運命の記述”に従った未来を迎えねばならない。
そうだ、なんだかんだ言っても引っ越してしまえば、連絡を絶つことは容易にできるはず。
そこから、あの二人が互いの関係を見つめ直す展開に持っていくことは可能なはずだ。
昨日のことはなかったことにしよう、そう考えたところでチャイムが鳴った。

「どちら様でしょうか?」
「黒猫か。俺だけど」
「京介?」

一体どうしたのだろう、と思いながら玄関を開ける。

「ああ、やっぱりそうだったか」
「いきなり何よ?」
「いや、珠希ちゃんが2学期から新しい学校だ、って言ってたから、そろそろ引っ越しの準備するんじゃ
 ないかなと思ってたんだ。それでジャージ着てるんだろ?」
「え、ええ……」

引っ越しの準備をしているから、というわけではないのだが。

「ま、それでさ。少しぐらいは手伝わせてもらおうと思ったわけだ」

ポケットから軍手とタオルがはみ出している。

「手伝いに来た、と言うの? 本当にお節介焼きなのね」
「いつか言ったろ。これからもお節介焼き続けるってな」

うっかり玄関を開けてしまったのが間違いだった。
どう言って帰したものか、瑠璃が思案に暮れていると、折悪しくか折良くか、母が玄関に顔を出した。

「瑠璃、お客様なの?」
「ええ、学校の先輩で……」
「あら、そうなの? ごめんなさい、ご存じでしょうけど、引っ越すもので今ちょっと立て込んでまして……」

どうやら、母は彼を帰そうとしているようだ。これなら問題はない。
そう安堵していたところに、物音を聞きつけた日向も玄関に顔を出してきた。

「あ、高坂くん! 引っ越しの手伝いに来てくれたの?」
「日向、こちらの方を知っているの?」
「うん! ルリ姉の彼氏の高坂くん!」
「『彼氏』って……瑠璃、本当なの?」
「あ、その……」
「はじめまして、高坂と申します。黒……瑠璃さんとは……その、少し前からお付き合いさせて
 いただいています」
「クラブの先輩なんだって!」
「先日引っ越しの話を伺いましたもので、何かお手伝いできることがあれば、と思いましてお邪魔させて
 いただきました」
「まあ、そうでしたの」
「ね、ね、高坂くん! お父さんもうバテバテなんだよ。畳上げたりするの手伝ってくれる?」

瑠璃が口を差し挟む間もなく、『京介と瑠璃が交際していること』『京介が引っ越しの準備を手伝うこと』が
既定のこととなりつつある。

「ああ、最初からそのつもりだったしな」
「で、でも、受験生の先輩にそんなことさせちゃ悪いわ……」

必死の抵抗を試みる。

「ルリ姉、ここんとこ毎日みたいにデートしてたじゃん。変な格好したり、お弁当用意したりして出かけて
 たのって高坂くんとデートしてたんでしょ?」
「ま、まあな」

『変な格好』に思い当たるところがあったのだろう、やや微妙な笑みを浮かべて京介が応える。

「でしょ? 今さら、今日一日だけそんなこと言うなんて変じゃん」
「あら、そんなに仲のいいボーイフレンドだったの? 瑠璃、お母さんたちにも紹介してくれなくちゃ
 だめじゃない」

なぜか、話せば話すほどドツボにはまっていくように思える。

「あなた、あなた! お掃除、瑠璃のボーイフレンドが手伝ってくださるって!」
「瑠璃のボーイフレンドぉ?」

驚いた様子の父の声が聞こえる。
父にまで知られてしまった。

「おにいちゃんですか?」

母の声を聞いて、珠希も玄関に出てくる。

「こんにちは、珠希ちゃん」
「たまちゃん、高坂くんってば引っ越しの手伝いしてくれるんだって!」
「ほんとうですか? ありがとうございますおにいちゃん。あたらしいおうちにもあそびにきてくださいね」

珠希の言葉に気付く。
そうだ、家族に知られたところで修正された計画を進行するうえではなんの問題もないのだ。
引っ越した後、こちらからの連絡を絶ってしまえば、彼にとっては同じことだろう。

「新しいお家で思い出したけどさ、高坂くん、後でメールアドレスと電話番号教えてね! 向こうの詳しい
 住所とか電話番号とか送るから!」

が、日向がその思いをすべて無にする。
これで、自分以外に京介が五更家へのチャンネルを持つことになってしまう。
”運命の記述”と、それに基づいての計画はすべて無になってしまった。
ショックではあるし、友人である栗色の髪の少女のことを思うと複雑な心境ではあるが、その一方、
まだ京介と自分は別れることなく未来を紡げるのだ、と思うと、それが喜ばしくもある。
”運命の記述”が意味をなさないのなら、自分はあの時の言葉に従って、遠慮をせず、最も望む結果が
得られるように思い切り欲張って頑張るだけだ。

「……そうでなければ、きっと嘘でしょう?」
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」

日向と珠希にまとわりつかれて笑顔を見せる京介の姿を、穏やかにそれを見守る母の姿を見ながら、
瑠璃はかつての自分の言葉をそっと繰り返した。

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