2ch黒猫スレまとめwiki

◆iImnD8ZhUs

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匿名ユーザー

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 ― 緩やかな拘束 ―



俺は畳の上で横になり、じっとしている。

正確には身じろぎひとつできない状況だ。

別に拘束されているわけではない。

――いや、これはこれで拘束されているのに等しい状況と言えるんじゃないか?



少し時を遡り、こうなった経緯を説明させてくれ。

秋深まる土曜日の午後、俺は五更家にお使いに来ていた。

実は最近、黒猫が冬コミに向けて同人ゲームの製作を少しずつ始めていたんだ。

しかし、前にいたゲー研と違って家にはツールを使いこなすための専門書なんかがない。

部室にあった本が借りられれば…… 

なんて言っていたのを俺が部長に話したら、二つ返事で貸してくれることになったんだ。

というわけで、借りてきた本を黒猫に渡すために、俺は五更家にやってきたのさ。

――言っとくけど、けして 「ふひひひ、俺が作画資料を提供してやるよ」 
 とかいった下衆なもんじゃないからな。



昼食をごちそうになった俺は、「ふぅ」と畳の上に足をのばして座った。

「おなかいっぱいだね~」

日向ちゃんはそう言うと、俺の右横にちょこんと座る。

珠希ちゃんは、さっき俺があげたストラップ(途中で買ったペットボトルのお茶のおまけだ)
 に夢中で、俺の足元で手にかざして見ながらにこにこと嬉しそうだ。

黒猫は今、昼食の後かたづけをしてくれている。

「黒猫の料理はあっさり目だけど、とてもおいしいな」

「ルリ姉の料理は世界一だよ」

「そうだな」

なんて他愛もない話をしていたら、ちょっと眠くなってきたな。

ふと、俺は右腿に重みを感じて足元の方に目を向けると、
 珠希ちゃんが俺の脚に頭を乗せてすやすやと眠っていた。

俺の目線を追って、日向ちゃんも珠希ちゃんの様子を見ると、

「寝ちゃったねぇ」

と言って、珠希ちゃんの頭をなでている。

「なんだか、俺も眠くなってきたなぁ」

と言って、珠希ちゃんを起こさないようにゆっくりと大の字になって寝転がった。

「にゅふふ……」

日向ちゃんは悪戯っぽい目で笑うと、俺の右腕に頭を載せて俺の横に寝そべった。

「ねぇねぇ、高坂くんはさ、ルリ姉のどんな所が好きになったの?」

こ、こいつは小声でとんでもないことを聞いてきやがった。

「い、いや、そのな…… えーっと、口下手で、素直じゃなくて、
  ちょっとひねくれてて……」

「それ、ぜんっぜん褒めてないよ?」

「でも、本当はとっても優しくて、そして一途なところかな」

「ふぅ~ん、そうなんだ。あたしもルリ姉みたいにしたら、彼氏ができるかな?」

「いやぁ、それはどうかなぁ? 日向ちゃんには日向ちゃんの魅力があるから……」

「ホント? ホントにそう思う?」

「あぁ、本当だ」

「高坂くんみたいな彼氏が見つかるといいなぁ?」

「俺なんかよりも、もっとかっこいい奴が見つかるさ」

「じゃぁさ、どうしたら見つかるの?
  高坂くんとルリ姉は、いつからどうやって付き合い始めたの?」

「うぐっ……」

日向ちゃんは眠そうに眼をこすりながら、またも答えにくいことを聞いてきやがる。

「ねぇ、ねぇ……」

「そ、そうだなぁ……」

俺は天井を見上げながら、これまでの黒猫との付き合いを思い出していた。

最初に黒猫を意識し始めたのは、出版社に一緒に行った時あたりかな。

んで、その後、秋葉原でメイドパーティーをやったりしたっけ。

まぁ、なんといっても後輩として高校に入学してきて、いろいろ一緒にやった事が……

って、こんなこと恥ずかしくていえるか!



「まぁ、いろいろだな……」

なんて、誤魔化しの返事をしながら日向ちゃんの方を見たら……

いつのまにか日向ちゃんも気持ちよさそうに眠っていたよ。

俺は眠っている黒猫シスターズを見て、なんとも微笑ましい気分になり、
 ついつい顔がニヤケてしまった。

「あら、二人とも寝てしまったのね」

片付けが終わった黒猫が部屋にやってきて俺の横に座った。

「――幸せそうな寝顔ね」

黒猫はそんな二人を見て、それこそ自分が幸せそうに微笑んで言った。

俺もそんな黒猫の顔を見て、頬が自然と緩んできたよ。

「それにしても―― あなたもずいぶんと仲良くなったものね」

と、ため息混じりに黒猫が言う。

「そ、そうか? っていうか、ちょっと助けてくれ。これじゃ動けねーよ」

「あら? 満更でもなさそうな顔をして、本当はずっとそうしていたいのではなくて?」

そう言って、なぜか黒猫にジト目でにらまれた。

「?」

「妹たちに慕われて、とても嬉しそうに見えるわ」

「はい? 何言ってるんだ?」

「あなたは私のことなんかよりも、妹たちと仲良くしていた方がいいのかしら」

「お、おい。ちょっと待て……」

「ククク…… そうしてしばらく動けないでいるといいわ」

「お~い、黒猫~」

「そうね―― いいことを思いついたわ。
  どうせなら、もっとあなたをいじめてあげましょう」

そう言うと、黒猫は俺の左腕に頭をあずけ、勝ち誇ったようなドヤ顔で横になった。

「フフ…… これでどうかしら? あなたはもうまったく動けないわ」

俺は両手に腕枕、片足に膝枕といった状態になり、
 本当にビクともできない状態にされちまった。

っていうか、黒猫、お前まで腕枕してどうすんだよ!

か、顔がすぐ近くにあって、恥ずかしいじゃねーか!

そんな赤くなった俺の顔を見た黒猫は、急に我に返ったのか、
 今の自分の状態に気がついて、みるみる顔が真っ赤になっている。

「黒猫? お、お前、いまさら自分のしていることに気がついたのか?」

「だ、だって、なんだかちょっと悔しかったのよ。
  それに、とても気持ちよさそうだったから……」

黒猫は赤い顔で、胸の前にある両手を所在なさげに動かして、
 それをじっと見つめたまま言った。

「と、ところで、さっきの話なのだけれど……」

「さっきの話?」

「あなた、い、いつから私と付き合おうと思ったの?」

「な、なに言いだすんだよ」

「だ、だって…… さっきあなたは、私の、す、好きなところを言っていたわ。
  だから、その……」

「俺と日向ちゃんの話を聞いていたのか?」

黒猫は目線を合わせないまま、コクンとうなづいた。

右腕に寝ている日向ちゃんがなんかモゾモゾと動いているようだが、それどころじゃあない。

「まぁ、その…… なんだ、なんていうかな……」

「ククク…… 答えられないの? まったくヘタレな雄ね」

「ぐぬぬ……」

黒猫は赤い顔のまま、悪戯っぽい目で笑っていやがる。

くそぅ、日向ちゃんといい、黒猫といい、なんちゅう質問をしてくる姉妹だよ。

こうなったら死なばもろともだ。反撃してやる!

「そ、そういうお前はどうなんだよ?」

「ふぇ?」

「い、いつか黒猫も言っていたよなぁ。『あなたのそんな情けないところも好きよ』とか、
  『永遠にあなたのことが好きよ。たとえこの身体が滅びても』とか……」

「な、ななな何を言っているの。」

「で、どうなんだ? 黒猫。いったい何時から俺のことを……」

「ば、莫迦なことを言わないで頂戴」

黒猫は真っ赤な顔で俯いている。

俺は『逆襲成功! してやったり!』って感じで「ハハハハ……」と笑っていたら、

「も、もう…… やっていられないわ」

とか言って拗ねてしまった。

そんな黒猫の顔を見て『可愛いなぁ』なんて思いながら、俺は天井を見上げて言ったよ。

「なんだか…… こんな緩やかな時間もいいな」

きっと今の俺の顔は頬が緩みっぱなしなんだろう。

そんな俺の横顔を見ているのか、黒猫は

「そうね。とっても穏やかというか、温かいというか…… 私も眠くなってしまったわ」

なんて言っている。

俺は天井を見上げながら、また黒猫と一緒に過ごしてきた『幸せな時間』を思い出して、
 一人でニヤニヤとしちゃったよ。

「なぁ、黒猫。今度、日向ちゃんや珠希ちゃんも一緒に、みんなで……」

どこかに出かけようかって言おうとして横を向いたら――

「すぅ、すぅ……」

って、黒猫も眠っていた。



――というわけで、

俺は畳の上で、まったく身じろぎひとつできない状況だ。

まさに、黒猫三姉妹に拘束されちゃったよ、俺の心まで……

でも、こんな緩やかな拘束なら、何度でもOKだ。

……なんだか俺も本当に眠くなってきた。

いいや、このまま寝ちゃうか……






さて、この話にもまた恐ろしい後日談があってだな……

あのまま俺も眠ちゃったんだけどさ、

そしたら、なんと黒猫の母親が帰ってきたということだ。

それで、居間で四人がひと塊りになって眠っている様を見て、最初は相当びっくりしたらしい。

で、そのあと、なんだか可笑しくなってきて、ひとしきり笑った後、

俺たちに毛布を掛けてくれたそうだ。

いや、俺、恥ずかしくって、黒猫の母親に顔見せできねーよ。



更にだ……

「ねぇねぇ、高坂くん、ルリ姉と二人で、何を話していたのかな?」

「なんのことだ?」

「またまたぁ。二人で一緒に寝ながらお話をしてたじゃない」

「ちょ、お前、人聞きの悪い言い方すんな!
  っていうか、起きていたんか、お前!」

「にょほほほ……」

まったく、油断も隙もありゃしない。

隅に置けないよ、日向ちゃんは……

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