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闇の世界の住人

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明けましておめでとうございます、黒にゃん!!

今年も作者十周年記念の目玉コンテンツやエロマンガ先生への登場、
等身大フィギュアの完成などが控えていると言う事で、まだまだ
公式からの話題があるのは嬉しいものですね。

それらに負けないよう、眷属としても黒にゃんの幸せを全力で祈る為に
新年にちなんだSS『未来への祈願』を投稿させて頂きました。

この話は原作終了後の話しとして黒にゃんの二十歳の誕生日を
題材にした拙作『新たなる一歩』の続きとなっています。
この話し単体でもお読み頂けますが、合わせてご覧頂けますと
より楽しんで頂けるのではと思います。

それでは相変わらず拙いSSですが、少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

------------------------------------

『明けましておめでとう、桐乃。今年も宜しくお願いするわ』
『あけおめーことよろー。なんて、最近じゃもう言わないか。ホント、こういう
のってあっという間に消えてくよねぇ。ま、あたしもそういう流行ってのは人事
じゃないんだけどさ』
『クククッ、流行などと言うのは所詮、泡沫の夢。そんな曖昧なものに毎度右往
左往している哀れな人間風情には、遙かな道の果てに至る真理など及びもつかぬ
ものなのでしょうね』
『はいはい、邪気眼乙。っていうか、あんたもすぐに成人式だってのにいい加減
厨二も卒業しなさいよねー。まさか社会人になってもやってるつもりじゃないで
しょうね?』
『ふっ、当然でしょう。これは『彼方の世界』から『此方の世界』に投影された
私の『根源』<オリジン>なのだから、卒業などありえないわね』

  つい先程、桐乃の方でも日付も年も変わったばかりの元日の朝。

 私は朝食と朝の家事を済ませてから、桐乃といつものチャットで新年の挨拶を
交わしていた。
  普段なら勿論ここに沙織もいる所だけど。二十歳になった事で、実家の都合を
優先せざるを得なくなったらしく、新年の挨拶やら一族の行事やらで、文字通り
飛び回る忙しさらしい。
  それでも昨夜は遅くまで、本来の『オタクっ娘』のオンラインイベントを主催
していたりもしたし、裏の私達とチャットで年越しの挨拶は勿論、冬コミの収穫
や年末年始のアニメの特番などで盛り上がっていたのだけどね。

 まったく、幾つになろうと如何にも沙織らしい振る舞いだけど。
  新年早々から、身体に無理が掛かってなければいいのだけどね。

『はぁ、ま、あんたの人生なんだから、そりゃ好きにすればいいんだけどさぁ』
『そうよ。あなただってモデルの修行の為に海外に留学するだなんて、好き放題
に生きているじゃない。私と何も変わらないわよ』

 桐乃は昨年の春に高校を卒業した後、本格的にモデルになる為にフランスへと
留学している。今でもあちらの大学に通いながら、モデルの修行に勤しんでいる
のだけど。しかも年明けから、あちらでファッションイベントやらショーやらが
続くらしく、今年は帰省も出来ないとの事だった。

  もっとも、それ自体は昨年の私の誕生日に既に聞いていた事なのだけど。
  いざそれを現実に迎えるとなると、やはり物悲しいものも感じてしまう。

  思わず益体も無い様な、憎まれ口を叩いてしまう位には、ね。

『かわるっつーの。社会に出たら、あんただけの問題じゃなくなるんだかんね?
あたしはともかく他の友達とか、将来の瑠璃の旦那さんや子供に恥ずかしい思い
をさせないようにしろ、って言ってるワケ』
『なぁっ!?な、何を突然言い出すのよ、あなたは……』
『は?それはこっちの台詞だってーの。そんなのまだ先の話しなんて思ってても、
そんなのあっと言う間だかんね?目標に向かって突き進むのも大事だケド、少し
は自分の周りのコトとか考える余裕を持ちなさいってば、瑠璃は』

  それは単なるチャットに表示された、文字情報に過ぎないのだけど。
  私の脳裏では、桐乃の声や表情までもがまざまざと再現されていた。
  
  それは桐乃が、私に幾度となく繰り返してきた苦言でもあるのだし。
  何より桐乃が日本から旅立つ前に、私に言い置いたものでもあったから。
  
『……それこそあなたに人の事など言えるのかしらね?自分だけ納得して早々に
海外に羽撃いていってしまうなんて、残された者の事など何も考えてはいないの
でしょう?』
『ゔ ……そ、そんなワケ無いじゃん?大体、誰だっていつか社会に出てくもん
でしょ?それがあたしの場合、ちょっと早かっただけだしー。それに』

  そこまで軽快に表示されていた文章がそこではたと止まった。

  その理由も、その後に続く言葉も恐らくは予想通りでしょうけど。
  それでも私は余計な茶々など入れずに、ただじっとそれを待った。

『……そっちの問題はもうあんたたちの話しでしょ?好きにやりなさいってば』
『ふっ、今の間はなんなのかしら?『語るに落ちる』とはこの事ね。いえ、この
場合は正確には『語らぬが故に落ちる』と言うべきかしら?』
『うっさい!大体、これから初詣にいってくるって、あんただって張り切ってた
じゃん!その調子でご自慢の晴着姿、見せつけてきなさいっての』
『当然ね、あなた達が託してくれたこの『神衣』<カムイ>。無為にする様な私
ではないわ。今日の初詣も、そして『成人の儀』<イニシエーション>も、我が
全霊で持って挑むのだから』

  互いの考えも秘めた想いでさえも、あなたとは十分に通じ合っている筈なのに。
  それでも何時まで経ってもこうして言い合ってしまうのは、何故なのかしらね?

『はいはい、精々頑張んなさいな。あ、今日の写真もあいつに撮ってもらったら
忘れずにあたしに送んなさいよ?このあたしが成人式のために、プロ目線でダメ
出ししておいてあげんだから感謝しなさいよねー』
『それがこの『神衣』を授けられし刻の『誓約』<ゲッシュ>である以上、私は
それに従わざるを得ないわ。それこそ要らぬ心配と言うものよ』
「おっけー。んじゃ、あたしもそろそろ寝とかないと。明日は朝から忙しいしね」
「ええ、お休みなさい、桐乃。それから……ありがとう」
「なーに、今更いってんのよ。沙織やみんなにもおめでとうって言っといてね。
そんじゃ、おやすみー」

  そう書き込むや否や、私の返事も待たずに桐乃がチャットを退席したシステム
メッセージがログウィンドウに表示されていた。
  
  それを少しだけ寂しく思ってしまうの事実だけれど。
  まあ、そんな思い切りの良さもあの娘らしい所よね。

  私もそれに習ってすぐにチャットのクライアントを終了させると、PCの電源
を落とした。そして椅子から立ち上がると、部屋の反対側に据えられた衣装箪笥
に向かい、一番上の棚をゆっくりと引き出した。

  ここには深い蒼の、瑠璃色の生地に艶やかな色形の花模様を配している振袖を
大切に仕舞ってあるわ。

  だってこれは間違いなく、私にとって一生の宝物だもの。
  私の為に皆が想いを籠めて贈ってくれたものなのだから。

  私は右手で滑らかな布地をゆっくりとなぞりながら。
  この振袖を贈られた時の記憶に想いを馳せた。

  皆の笑顔と祝福とに包まれた二十歳の誕生パーティ。
  その光景を、まるで昨日の事の様に鮮明に思い出せる。

  何故ならそれは、私の闇の魂にまで刻み込まれた光溢れる記憶なのだから。



        *        *        *



  お母さんに着付けを手伝って貰って手早く振袖を身に着けた私は、外出の用意
まで済ませると先輩の来訪を待っていた。その間に、冷やかし半分に絡んでくる
日向や、憧憬の眼差しを向けてくる珠希を相手にしていたのだけど。
  程なく先輩がやってきたので、予定通りに家の近くの神社へと初詣に向かう事
になった。

「でも、私達だけで本当に良かったのかしら?」
「まあ、しょうがないだろ?桐乃と沙織はともかく、他のみんなも旅行とか用事
で都合がつかないって話しだしな」
「それはそうなのだけど……さすがに私達だけ、というは、ね」

  昨年までは桐乃や沙織は勿論として、ユウや秋美、瀬菜や花楓、時にはあやせ
や加奈子や田村先輩、それに日向や珠希も一緒に初詣に行っていたのだけれど。
今年に限って私と先輩以外の誰もが、用事があるとかで皆、不参加になっていた。
  それなら元旦に拘らずに、日にちをずらそうとも考えたけれど。どこも予定が
合わないとか、行ける人だけで行って欲しいとかと全員に断られてしまい、結局、
私と先輩の二人だけになってしまったのよね……

  当然そんなのは単なる言い訳で、何らかの目的で皆が共謀しているなんて事は、
我が『神眼』を使うまでもなく誰が見ても明白なのだし。
  ましてやその意図する所を察すると、お節介過ぎる皆の配慮には、心の底から
呆れ返ってしまった。

  だって、それこそ今更の事でしょう?
  私と先輩は、今でもお付き合いをしている間柄ではないけれど。
  普段から友人として。大学では後輩として。先輩の部屋では家事の師匠として。
  二人きりになる様な状況は、今迄幾らでもあったのだから。

  かといって皆の気持ちを無下にする事なんて、とても私には出来なくて。
  結局、私は先輩と二人で新しい春を迎えた朝の町並みの中を歩いていた。
  
  幸いな事に雲一つない快晴な上に風も凪いでいるので、昨日までの『冬祭り』
の冷え込みが嘘の様な日の暖かさを背中に感じる良い日和だった。

  『運命』と言うものは常に私の前に立ち塞がるばかりか、峻烈にその牙を向け
てくるものだとばかり思っていたのに、まさかそれに助けられるなんて。
  少なくともその点に関しては、今年は良い年になるのかもしれないわね。

  ふと隣を歩く先輩の顔を盗み見ると、新年早々だと言うのに相変わらずの覇気
の無い顔をしてはいたのだけど。
  それでも普段よりも愉しげに見えるのは、私の気のせいではないのよね?
  それがこの振袖のお陰だと言うのなら、私とて悪い気はしないもの。
  
「まあ、俺も春から社会人だからな。これからはみんなと会える時間も中々取れ
なくなっちまうんだろうし、ちょっと残念だけどな」

  ……まったく、これだからこの人は。
  まあ、それも先の私の言葉に対して、あなたなりに気遣ってくれたのだと理屈
では解っているのだけど。
  折角のこの気持ちに水を差されてしまったのも事実よね。

「あら、そう?何時でも顔を合わせている私だけでは不服と言う事かしら?」
「そ、そうは言って無いだろ?こんな着物姿の綺麗な女の子と一緒にいて、文句
なんて言うような男は罰があたるってもんだぜ」

  ま、また先輩の癖に、随分と生意気な返し方をしてくれるじゃない……
  この晴着を見るのは二度目だと言うのに、家の玄関先で出迎えてくれた時には
誕生日と同じ様に暫く立ち尽くしていた癖にね。

「その良い様だと、綺麗な女の子さえいれば後はどうでも良い、とも聞こえるの
だけど?まあ、あなたの周りにいる女の子は、皆、美人揃いだものね。これから
社会人になろうというのに、相変わらず浅ましい雄だわ」
「い、いや、そうじゃなくてだな……それとこれとは、全然話が違うっていうか、
この場合、誰なのかが重要だというか……って、黒猫、顔が笑ってるぞ!単に俺
をからかいたいだけだろ」
「ええ、あなたの狼狽える様は、何時になっても面白いもの」

  今度は演技ではなく、私がくすくすと笑い出すと、先輩もやれやれとばかりに
溜息をついて苦笑いを浮かべていた。

  本当、始めてあなたと顔を合わせてからもう5年余りも経つというのに。
  私が成人式を控え、あなたが大学の卒業を待つ身の今となっても、私達のこう
したやり取りは何も変わらないのかしらね?

  それもどうかと思わないでもないのだけど。
  今の私達には、それ位で丁度良いのかもしれないわね。
  だって、それが変わる時があるのなら。
  私達の関係が大きく変化するが故なのでしょうから。

  それからは我ながら取りとめもない事を話しながら神社までの道中を歩いた。
  それこそ他愛もない日常的な事や桐乃達の事や大学の事、それに一週間後の私
の成人式の事なんかを話題にしてね。

  ここ最近の先輩は、最後の単位取得と卒業論文に打ち込んでいるので、桐乃に
頼まれた家事の指南もすっかりご無沙汰になっている。
  そんな先輩を多少なりともフォローするべく、今迄とさして変わらない頻度で
先輩の部屋を訪れては家事の半分をこなしていたわ。
  勿論、先輩に請われた訳ではなく、私から率先してね。

  だから大学以外でも、二日置きには先輩と顔を合わせているものね。
  新年の始まりとはいえ、何か特別な話題を探す方が難しい位なのだけど。

  それでも私達には珍しく、口滑らかに四方山話で盛り上がっていたのは。

  私は、いえ、或いは先輩も、かしら?

  この姿で共に歩いている事に、心躍らせていたからかもしれないわね。

  いくら私は『通過儀礼』<イニシエーション>前だとは言え。
  お互い『成人』した身の上で、子供の様に浮れて燥いでいた、だなんて。

  まったく、この時の自分を思い返すだけで顔が熱くなってしまうわね……
  まあ、目撃者は先輩だけだから、それも良しと納得するしかないのだけど。

  そうこうしている内に、私達は程なく目的の神社に辿り着いた。
  朝のそれなりに早い時間とはいえ、さすがに元旦の今日はこの神社にも多くの
人が詰め掛けていて、拝殿が空くまでには暫く時間が掛かりそうだった。

  その間に桐乃との約束の写真を、先輩に撮って貰う事にしたのだけど。
  改めてこの姿で写真を撮られるとなると、やはり緊張してしまうものね……

  でも、桐乃に言いたい放題にされるのも癪だもの。
  先のチャットでのやり取りを思い出した私は、先輩の構えたカメラに向かって
『夜魔の女王』の誇りと尊厳とを全霊で籠めた笑みを浮かべて見せたわ。

  その後は手水舎で手と口を清めたりして、静かに自分達の順番を待った。
  特に互いに話す事もなかったけれど、それも何時もの私達の間の空気かしら?
  交わす言葉はなくとも、互いがそこにいるだけで安らぐ気持ちになれるもの。
  
  漸く私達の番となって、私達は二人並んで拝殿の前に立った。

  軽くお辞儀をしてから予め用意していた硬貨を賽銭箱に落とし入れる。
  そして鈴を一回鳴らしてから二拝二拍手を行い、一年の祈りを籠めた。
  
  祈る内容は勿論決まっていた。例年通りに、家内安全は当然だけど。
  神前でそれを心の中で堅く誓う。成就をご照覧あれ、とばかりにね。
  
  最後にもう一度深々と頭を下げ、速やかにその場を離れようと思ったのだけど。
  先輩はその間も熱心に祈り続けていたものだから、私も待たざるを得なかった。

  まったく『祈りは簡潔に自らの決意を示す様に』と、事前に伝えておいたのに。
  ここの御祭神-有名な『日本武尊』<ヤマトタケル>よ-だって、長々と願い
を聞かされては、折角の御神得を顕す気にもならなくなってしまうでしょう?

  漸く顔を上げた先輩が私の表情から状況を察したのか、慌てて最後の一拝を済
ませると、私達はすぐに拝殿を後にした。

  それから御神籤を引いたり、絵馬-予め描き込んだ、夜魔の女王に除災招福を
祈願したものね-を奉納して、私達はすんなりと初詣を済ませたわ。

  そして今度はその足で、最寄りの駅へと歩いている所なのだけど。

「とても熱心に祈っていた様だけど、一体何を願っていたのかしら?」

  ずっと気になっていた事を私は先輩に尋ねた。

「ん?ああ、こういうのは人に話しちゃいけないのが定番じゃないのか?」
「そうね。確かに神秘と言うものは人に知られる程に、力が薄らいでしまうもの
だけど。でも、初詣の祈りは本来神様への『宣誓』がその本質だから、あなたが
秘密にしたい訳でもないなら、それを訊ねても特に問題はないでしょう?」
「そういうもんか。ま、隠しておくようなことでもないんだけどな。春から俺も
社会人だから、うまくやっていけるように頑張りますってさ」
「そう、でもその割には長い時間だったわね?」
「そ、そりゃあ、社会人を頑張ります、って言ってもよ?仕事が上手くいくよう
にとか、学生からの気持ちの切り替えとか、健康面だったりもするだろ?その辺
をいろいろと、な」

  あからさまに言葉を濁した先輩を、さらに追求してみたくもなったけれど。
  あなたにも社会に出るに当たっては、密やかな誓いもあるのでしょうしね。
  これ以上それを追求するのも、無粋と言うものかしら?
  
「そういう黒猫は何を祈ったんだ?」

  だから実にわざとらしく、こちらに話を振ってきた事も。
  まあ、今回だけは女王の器量で見逃してあげましょうか。

「私はずっと単純な事よ」

  だって、半年以上も前から。

  あなたが『こちらで』就職すると選んだ時から決めていた事だもの。
  
「あなたの新生活を必ず支えてみせますって」

  だから何気ない調子であなたに応える事も出来た。
  胸の内で大きく跳ねあがった心悸とは裏腹に、ね。

  先輩は私の言葉によほど驚いたのか、暫く呆気に取られていたのだけど。

「ああ、それと日向の合格祈願もね。高校は私と同じ所に行きたいみたいだけど、
もう少し頑張ってくれないと厳しいみたいだもの」

  だから、何事も無い様に次の台詞にも繋いでおいた。
  オチに使ってしまった日向には、申し訳ないけどね。

「そ、そうか……俺も手が開いたら、また日向ちゃんに勉強を教えにいくよ」
「いいえ、あなたは卒論に集中しなさいな。祈願をした以上、私が責任を持って
日向に受験の知識を叩き込むからこちらの心配はいらないわ。そう、どんな手段
を使ってでも、ね。クククッ……」
「お、おう。まあ、お手柔らかにしてやってくれよ?」

  それで漸く呪縛から解かれた先輩と、再び取り留めも無い話を続ける。

  まったく、あなたが日本に残る決心をしたのは、少し位はそういう心算もある
と思っていたのだけどね?話題を変えた事にそんなに安心されてしまうと、私の
空回りかと心配にもなってくるじゃない……
  まあ、桐乃にこっ酷く詰られたから、というのが真相かもしれないけれど。

  それでも桐乃が日本へ戻る迄の間、あなたが自らの意思で待つと決めた事には
変わりがないもの。以前に約束した通り、私に相談をしてくれた上で。
  しかも、私はあなたの決意の正反対な事を提案していたというのにね。

  桐乃のサポートをする為に大学を卒業したら海外に出る。

  それが先輩の本心だとずっと思っていたのだし、恐らくは今でもそれに間違い
はないのでしょうけれど。

『けどな、俺はまだまだ未熟者だ。正直、今のままじゃ桐乃の足を引っ張るだけ
なのは目に見えてるぜ。そりゃお前が言う通り、それでもあいつは喜んでくれる
のかもしれない。もっともこの事を桐乃に話してみたら、散々っぱら怒鳴られち
まったけどな。いい加減、妹離れしろ、ってよ』
『ええ、でもそれこそ桐乃の本音だと解らないあなたでもないでしょう?だから
結局はそんな建前より、全てはあなたの気持ち次第と言う事よ』
『ああ、だからこそ俺が一人前になるまでは、こっちで頑張ることに決めたよ。
桐乃やお前は勿論だけど、俺にだって目指してるものはあるんだぜ?今はそれを
追いかけるのが、俺に、いや『俺たち』にとって一番大切だと思うんだ』
『……そう。あなた自身でそう決めたのなら、それでいいと思うわ』

  それでもあの時、あなたはこちらに残る決断をしたのだから。
  桐乃の気持ちも、私の提案も、そしてあなたの考えの全てを踏まえた上で。
  それならもう、そこに私が口を挟めるわけがないじゃない。

  でもその代わり。私があなたの手伝いをする位は、罰はあたらないでしょう?

  それに、私とて順当にいけば2年後には大学を卒業して社会に出る事になる。
  その後の『方略』も、既に『運命の記述』で組み上げてはいるけれど。

  今迄以上に『光の理力』を高めて凱旋する桐乃と、胸を張って向き合う為には。
  私も先輩も、己の道を真っ直ぐに、心身を賭して進んでいくしかないのだもの。
  
  その上で、私達は遂に『最終決戦』<ラグナロク>に挑む事となって。
  その戦いの先にこそ『理想の世界』へと至る道が開かれる事でしょう。

  計を立てるにはこれ以上ない位に相応しい、今日この日に。
  弛まず邁進して行くと、私は改めて己にも誓ったのだけど。

  まあでも。今日の所は皆の好意にも甘えておこうかしらね?
  折角のこの『神衣』の力も、存分に奮わなければならないでしょうし。

  先輩の部屋に着いたら、まずは五更家特製のお雑煮を味わって貰いましょうか。
  その後は、初売り目当ての買い物を済ませたら、お正月位は部屋でのんびりと
テレビでも見て過ごすのも悪くないかもしれないわね。

  本当、以前の自分からは考えられない、贅沢極まりない時間の遣い方だけど。
  最近になって、そんな一時こそが大切で掛け替えがないと実感しているもの。
  
  あなたと。大好きな人と一緒に過ごす、そんな何気ない時間こそが、ね。
  
「どうした、黒猫?なんかぼんやりしてるが、少し休んでいくか?振袖ってのも
結構大変なんだろ?」
「……そんな事はないわ。それに、こんなところで無駄な時間を費やす暇はない
わよ?あなたのアパートの近くの商店街の初売り時間に遅れてしまうもの」
「新年早々、相変わらずだな、お前は。ま、無理はしないでくれよ?その格好で
倒れらたらさすがに色々と大変だろ」
「あら、何時だって助けてくれるのではなかったのかしら?」
「おう、勿論だぜ。もしそうなったら、お前が恥ずかしいから下ろしてくれって
頼んでも、絶対に抱えて運んでやるからな。覚悟しとけよ?」

  私は先輩とのおしゃべりの傍ら、そんな『幻視』<ビジョン>を垣間見ながら。
  年を越したばかりの新しい気に満ちた街並みを、大切な人と共に歩んでいく。
  
  今は普段の延長でしかない、そんな光景が精々だけど。
  何れは私達の、いえ私達を取り巻く全てが大きな変化を迎えるはず。
  その為にもこの歩みを止めるわけにはいかないものね。
  
  そう、全てはこの先に待つ、暖かな未来を目指して、ね。

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