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『続・家庭派アイドルの11月29日』:(直接投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
  昨年「良い肉の日」にちなんで俺妹HDを題材としたSSを書き始めて早1年。
個人的には思い出深いSSでもあるので、今年も「良い肉の日」にちなんだSS
「続・家庭派アイドルの11月29日」を投稿させて頂きました。

この話は「家庭派アイドルの11月29日」はもちろん
俺妹HD家庭派ルートをベースにした拙作SSから話が続いています。

そちらでの人物関係や出来事を把握していないと説明不足のところも
多々あるかもしれませんが、合わせてお読み頂ければ有難く存じます。

それでは相変わらず五更家での出来事を好き勝手に妄想しているだけの
拙い作品ですが、少しでも楽しんで頂けましたら幸いです。

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「すまないね、五更君。今日は早く上がれる予定だったのにこんな時間まで」
「いえ、こんな重大発表に関しての打ち合わせですから仕方ないですよ」
「そう言ってもらえるのは助かるけど、これも高坂君との男の約束だからね。
  君の事をくれぐれも宜しく、と土下座までして託された身としては
  君の大切な家族団欒の機会を奪ってしまったら彼に合わせる顔がないよ」
「お気遣いありがとうございます。でも夕飯の準備にもまだ間に合うと
  思いますから気に為さらないでください。それではお先に失礼しますね」
「ああ、お疲れ様。高坂君にも待たせてしまって申し訳ない、
  と伝えておいてくれるかな」

私は河上さんに、はい、と応えるや直ぐに踵を返して事務所を後にした。
そして愛用のスマホで時間を改めて確認すると、一度大きく
深呼吸をしてから最寄り駅までの道を駆け出していた。

……急がないと夕飯の準備どころか
お父さんたちが帰ってくる時間になってしまうわね。

今日は11月29日。巷では語呂合わせで
「良い肉の日」なんて言われることもある日よね。

とはいえ日常ではそれが話題が出ることもあまりないので
せっかくのお肉業界の遠謀も、この日の本の国に
どれほどの影響を与えているかは疑わしいものがある。

それでも近所のお肉屋さんやスーパーではこの日に合わせて
しっかりお肉の特売があったりするので、我が家の食卓と家計を
ある程度担っている身としては割と馴染のある日でもあるわ。

それに我が五更家では、お父さんやお母さんの意向で
こんなマイナーともいえるような記念日でも、それにちなんだ
イベントや料理を用意して家族で楽しんだりするのがお約束なのよね。

他の家庭とは違うそれが、小さいころは不思議だったし
少し前の私はそんな流行り物に迎合するような享楽的な所に
嫌悪感を抱いたこともあるくらいだけど。

今ではその意味も理由も良くわかっている。

だって、それが私を今まで支え、導いてくれた力になっていたのだから。

どんなに心細くて不安に苛まれても。何度も辛くて挫けそうになった時も。
私が目標に向って歩んでいくために背中を押し続けてくれたのだから。

そのおかげで今回のような大きな成果に結びつける事も出来たのでしょうね。
まあ、その大きさのあまりに、この『夜魔の女王』を持ってしても
いささか肌が粟立つほどの重圧を感じるくらいでもあるけれど。

だから私もそんな家族との一時を大切にしたいと思っているわ。

今日この日も。これからもずっと。
そして何時か私が『遙かなる理想郷』にたどり着いて
新しい家庭を持つ事になっても、ね。

それほどの距離は離れていないとはいえ、この『仮初の身』には
堪える時間を走り続けて、私はようやく最寄駅に駆け込んだ。
肩を上下させて大きく息をつき呼吸を整えながら
次の電車の時間を確認する。

これは松戸でも走らないとダメでしょうね……

その事実に少し気が滅入ってしまうけれども。
家で待っている大切な人たちの顔を思い出して意を決すると
ホームに入ってきた電車に急ぎ足で乗り込んだ。



    *    *    *



「それではお夕飯にしましょうか」
「「「「「「「頂きます!(にゃぁん)」」」」」」」

テーブル一杯に並べられた6人分のお肉料理に皆思い思いに箸を進めていく。
そしてテーブルの横では、我が家の飼い猫である夜も
特製の猫用に調理したお肉を嬉しそうに頬張っていた。

普段はお父さんや、時にはお母さんも仕事が遅くなってしまって
なかなか全員が一緒の時間に夕飯を食べることはできないけれど。

今日は土曜日の事もあって、二人とも早めに帰って来てくれたので
家族揃っての食事を楽しむことが出来たわね。

最近は私のアイドル活動で帰りが遅くなってしまっている事も多いし
写真撮影で今日も我が家に来ていた京介も加わっているので
こんな賑やかに食卓を囲めるのは本当に久しぶりで。

「良い肉の日」に合わせた献立のお肉の美味しさもあって
ついつい頬が緩んでしまうのが抑えられなかった。

「どう?どう!?今日のお肉美味しいでしょ?
  なんてったってあたしがほとんど作ったんだからね!」
「そうか、また腕を上げたなぁ、日向。焼き具合も見事なものだし
  絡まっているソースが肉のジューシーな味と良く合っているよ」
「ふふっ、ソースは瑠璃のレシピを見て何度も練習していたものね。
  お肉は家の献立だと機会が少ないのによく頑張ったわね、日向」
「おねぇちゃんのつくってくれたお肉、
  たまねぎさんがとっても甘くておいしいです」
「台所姿もなかなか堂に入ってきたもんなぁ、日向ちゃん。
  そのうち瑠璃とツーショットで写真撮っても面白いかもな」
「いやぁ、皆そんなに褒めないでよー。照れるじゃん?
  ま、家の台所はもうあたしに全部任せてもらっても大丈夫だからね!」

皆にべた褒めされてハイテンションにはしゃいでいる日向。
今日の「良い肉の日」の料理は、前々から日向が自分で作らせて、と
言ってたくらい気合を入れていたのだけれども。

だから私も急いで家に帰って来たものの、既に料理を始めていた
日向にメインディッシュのお肉料理は任せることにして
私はつけ合わせやサラダ、お味噌汁を作る役に回っていた。
まあ先輩の撮影のためにも台所に立つ必要はあったものね。

そういえば久しぶりに日向と一緒に台所で料理をしたのだけれども
今回の意気込みに負けないくらい日向の料理の腕前は上達していた。
正直あの日向が、と見違えるほどに、ね。

やはり日向のお肉好きが一番の原動力になっているのかもしれないわね。
まさに好きこそものの上手なれ、というところかしら。

今日の豚肉を使ったステーキ「豚テキ」も、ボリュームたっぷりの
豚ロース肉をこんがり焼き上げ、タマネギとにんにくを利かせた
特製のソースで絡めた逸品に仕上がっているものね。

まあ贔屓目無しに80点くらいは挙げても良いでしょうね。
でもここは後々のために、ちょっと厳しく言っておこうかしら。

「でもお肉の下ごしらえがちょっとたりなかったようね。
  お肉が少し反り返ってしまっているわよ?」
「あれ、うーん、お肉の叩きが足りなかったのかなぁ?」
「いえ、見ていた限りはきっと筋への切れ込みの入れ方ね。
  筋に垂直に入れたほうがより効果的だから、機械的にするのではなくて
  しっかりと方向を見定めてから入れたほうがいいわ」
「えー、判ってたならその時に教えてよ、ルリ姉!」
「あら、さっき全部任せても大丈夫だと言ってたのは誰だったのかしらね?」

私がくすくすと笑うと、日向はむーと唸ってさらに抗議の声を上げていた。
まあ少し意地悪だったけど、こうしたほうがあなたの身に
なるというものでしょう?

だって、すぐに私の教えることもなくなってしまうのでしょうからね。
今のうちだけでも姉としての役目を果たさせて頂戴。

「あまり気にする事はないわよ、日向。瑠璃だってお肉料理は
  なかなか上達しないから、私がいろいろと指導したんだけど
  その度にお婆ちゃんに泣きついていたんだから」
「そ、そんな昔の事を今更掘り返さないで頂戴、お母さん!」

日向の文句を聞き流していた私に、予想外の横槍が入った。
さすがにそちらは聞き捨てならずに、大慌てでお母さんに
釘を刺したのだけれども。

「あー、そういわれてみれば、ずっと前にルリ姉の作った
  ぱさぱさのしょうが焼きとか食べた気もするなぁ。
  あたしが美味しくなさそうにしてたら、ルリ姉今にも
  泣きそうな顔になったから、頑張って全部食べたんだよねぇ、あの時は」
「へぇ、瑠璃もそんな時があったんだな。
  俺もその時の瑠璃の作った料理、食べてみたかったもんだぜ」
「さすがに料理は無理だけど、後でアルバムを見せてあげるわ、京介君。
  ふふっ、エプロン姿で頑張ってる瑠璃、とっても可愛いのよ?」
「お、おおお、お母さん!?どさくさにまぎれて何を言っているのよ!」

ここぞとばかりに反撃してくる日向はともかく
京介までこの恥かしすぎる話題に乗ってきたばかりか
ますます調子付いたお母さんがさらなる燃料を投下してくれている。

まったくお母さんは楽しいことを見つけたら
人の言う事なんて全然聞く耳を持ってくれないのだから……
その辺は立派に日向に受け継がれているところよね。

「わたしも姉さまの小さいころのしゃしん、見たいです!」
「ええ、ご飯が終わったらみんなでお茶をしながら見ましょうね」
「そのうち小さい頃の瑠璃が台所で奮戦している時の写真をブログで
  公開するのもいいんじゃないか、京介君。家庭派アイドルの原点だって」
「いいですね!後で河上さんに提案しておきますよ」
「珠希やお父さんまでそんなことを言って……」

そして珠希やお父さんまでもその話題で盛り上がっていた。

闇の宿命にも目覚めていない唯の人間として過ごしていた頃の
私の姿など、今更自分で振り返る事ですら恥かしいと言うのに。

それをみんなの話のネタにされるなんて『夜魔の女王』として屈辱以外
なにものでもない。いくら身内とはいえまったく不遜極まりないわ。

とはいえ、私の小さい頃の話で全員が盛り上がっているこの流れは
私一人が文句を言うだけでは押し留めることは不可能のようね……

クッ、それならば私にも考えがあるわ。
本当は夕飯が終わってもう少し落ち着いてから皆に切り出す
つもりだったのだけど。こうなれば背に腹は代えられないものね。

「そんなことより、皆に聞いて欲しいことがあるわ!」

私は箸を置いてその場で立ち上がり、歌手活動で
すっかり鍛えられてきた声量で高らかにそう宣言した。

さすがに皆、何事なのかとおしゃべりを止めて私に注目する。
狙い通りとはいえ、改めて皆の視線を集めると
これから伝える内容と相俟ってちょっと緊張してしまうわね。

私は一つ咳払いをして、改めて皆の顔を見回してから話始めた。

「実は今日になって、河上さんから伝えられたわ。
  私の紅白出場が正式に決定したんですって。
  公式には明日、発表会の場で伝えられるのだけれども、ね」

私の言葉を聞いて、皆一様に驚きの表情を浮かべてから。

「「「「おめでとう、瑠璃(姉、姉さま)!!」」」」

そして皆揃って私に祝福の言葉を向けてくれた。
やはり全員が同じように満面の笑顔になって。

「ええ、ありがとう……これも全部皆のおかげよ」

きっかけは恥かしさのあまりに話題を逸らせようとしたことだったけど。

皆のそんな暖かな気持ちを受け取った私は、先の口惜しさなど
すっかりどこかに吹き飛んでしまって、感謝の言葉を素直に口にしていたわ。
もっともそれは常々思っていることでもあるのだけどね。

「じゃ、お祝いもかねてもっとお肉食べといてよ、ルリ姉!」
「ちょ、ちょっと日向。さすがにそんなには食べきれないわよ」

私のお皿にお代わりの豚テキを山盛り装おうとした日向を慌てて引き止めた。
あなたの気持ちは嬉しいのだけれど、せめて3切れくらいで許して頂戴。

「姉さま、おおみそかはいっぱいいっぱいおうえんしますね!」
「ええ、珠希。あなたのその鼓吹が私に無窮の力を与えてくれるわ」

小さな身体のありったけで私を応援してくれる珠希の想いに
応えられるよう、私もアイドルとしての自負を胸を張って示す。

「瑠璃、紅白のステージでは目一杯楽しんでおいで」
「勿論よ、お父さん。大舞台に向けて私の心も最高に奮われているもの」

まるで私の心の奥底の緊張を見透かしたように優しくいうお父さん。
私は精一杯の不敵な笑みでそれに返す。例え半分は虚勢だとしても、ね。

「舞台衣装は新調するのでしょう?ふふっ、私にも手伝わさせてね、瑠璃。
  私の手がけた衣装で娘の晴れ姿を見られるなんて母親冥利に尽きるものね」
「余り時間もないから助かるわ、お母さん。クククッ、更なる魔力を織り成す
  我が『闇衣』が、新たなる紅白のボスとして君臨する姿が目に浮かぶようね」

子供のように興味津々な表情でお母さんはそう提案してきた。
その理由は嘘ではないのでしょうけど。いつもは私のやりたい様に黙って
見守ってくれてるというのにね。だから私もその心遣いを素直に受け止めた。

「にゃああぁぁん」
「あら、夜も私を激励してくれているのかしら?ふふっ、どうもありがとう」

いつの間にか私の足元に擦り寄って私を見上げていた夜。
私は夜の頭を軽く撫でて、その温もりとさらさらの手触りを味わう。

「瑠璃の紅白で歌う姿、さぞかしきらきら輝いているんだろうなぁ」
「そ、そうね。今までの活動の全てを賭して最高の舞台にして見せるわ」

夢見るような惚けた表情の京介に、思わず心臓が跳ね上がった私は
なんとか平静を装いつつそう応えていたのだけれども。

「ぬおぉぉ、是非とも俺の手で最高の一枚に収めてみたかったぜ!」

続く京介の本音を聞かされて、今度はお腹の底からの深いため息が漏れていた。

……まったくさっきの私の胸の高鳴りを返して欲しいものよね。

まあ、それももうあなたの生きがいといえるのでしょうし。
あなたとあの時に交わした『永遠の盟約』に従って
私はあなたの望みを全力を持って手助けしなければならないわ。

それにきっと。

あなたがそんな態度の奥底に隠した気持ちにも察しが付くから。

「ふっ、なにも悲嘆にくれる事などないわ。
  これからも私は『比類なき偶像』の道を進んでいくのだから」

私は『堕天聖の見得』を切るとそれに相応しく妖艶に微笑む。

「だから、私の魂が最高に輝く瞬間をあなたの手で
  切り抜けるその時のために、今は研鑽を積みなさいな」

そして見得を切った右手をあなたに真っ直ぐに差し出した。

「だって私の魅力をもっとも引き出せるのは
  後にも先にもあなただけ……そうでしょう?」
「ああ、そうだな。もう少しだけ待っててくれよ、瑠璃。
  必ず最高の舞台に立つ瑠璃の究極の写真を撮ってみせるぜ」

私の右手をぐっと握り返すと、京介もにっと不敵に微笑んでくれた。

「ふふっ、期待しているわ、京介」

それに安心した私にも思わず笑みが零れる。

でも、早く私専属のカメラマンになってくれないと困るのよ?
ああは言ったけれど、私だって永遠にアイドルを続けるわけには
いかないのだから。

いつか私たちが迎える『遙かなる理想郷』のためにも、ね。

そうして暫し互いの手の温もりを感じながら
静かに見詰め合っていた私達だったのだけれども。

「で、いつまでやってるの、二人とも。まったくいつでもお熱いよねぇ」
「ち、違うのよ、日向。これは不甲斐ない京介に発破をかけてあげただけで」
「はいはい、わかってますって。でも、せっかくのお肉なんだからさ。
  こっちも熱々のうちに食べて欲しいんだけどなぁ」
  
日向の言葉で漸く我に返った私たちは、慌てて手を離した。

見回せば呆れ顔の日向はもちろん、目を輝かせて見ている珠希、
何かを悟ったように頷くお父さん、心から愉しそうに微笑んでいるお母さん。

皆の表情はそれぞれだったけど、ずっと今の京介とのやり取りを
家族に見られていたのかと思うと恥かしさで堪らなくなって来る。

私はその気持ちを誤魔化すように慌てて席に座りなおすと食事を再開した。
日向の言うように、すっかり熱くなっていた顔を冷ますために
ただ黙々と箸を進めていく。

……でも、こうして皆に見守られて今の私があるのだもの。
こんな掛け替えのない家族の団欒に支えられて、ね。

ようやく顔の火照りも取れてきた頃、そう思い返すと
先の気恥ずかしさも不思議と心地良く感じられてくる。

だってようやく私の成し得た成果も、それまでの長い長い雌伏の時も。
私の喜びも悲しみも。傍若無人な儀式も無謀なアイドルへの挑戦すらも。
どんな私だって変わらずに暖かく包み込んでくれていたのだから。

そんな私の全てを知っている皆に
今更恥かしがっていてもしょうがないものね。

だから私はそんな皆の気持ちに応えられるように
この歳晩の大舞台を必ず成功させてみせるわ。
それが私の家庭派アイドルとしての矜持なのだから。

私は肉汁溢れる豚テキを十分に味わいながら。
そんな大切な人達との絆も改めて噛み締めると
もう一度皆への感謝と私の決意を胸の中で固く誓っていた。

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