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『かわらないもの』:(直接投稿)

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
18歳のお誕生日おめでとうございます!黒にゃん!!
我ら闇の眷属、心からの祝福と賛辞をお送り致します!

そんなわけで誕生日にちなんだSSを投稿させて頂きました。

この話は黒にゃん18歳の誕生日ということで
原作終了からおおよそ1年後に当たる時間設定にしていまして
基本的な設定も原作12巻から引き継いでいます。

また拙作『光のどけき春の日に』から話が繋がっていますが
こちらのSSだけでも問題なく読んで頂けるかと思います。

また黒にゃんを『五更先輩』と呼ばせたい一心で
オリジナルキャラを登場させてしまっています。

そのような改変や原作後の話に抵抗のある方もいらっしゃるかも
しれませんが。この善き日に少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

後、このSSに出てくるバースディケーキを
行きつけのケーキ屋さんに頼んで作って頂きました。

http://dl6.getuploader.com/g/kuroneko_2ch/820/birthday_cake2014_01.JPG
http://dl6.getuploader.com/g/kuroneko_2ch/821/birthday_cake2014_02.JPG

こちらも本文に合わせて楽しんで頂けますと幸いです。

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「そういえば、もうすぐあんたの誕生日だよね?」

高校の新学期が始まってまだ幾何の時も立っていない
とある週初めの昼休みのこと。

3年生になるときにはクラス替えのないうちの高校では
クラスメイトの顔ぶれこそ昨年度と変化はないのだけれども。
とはいえ、ホームルームとなる教室は学年に合わせて変更されているので
その新しい教室や自分の席にもようやく慣れてきた感じがするわね。

でも、そんなことはまったくおかまいなしに。
昨年からこのクラスに入り浸って、すっかり級友にも顔馴染に
なってしまっている下級生が、休み時間になるや否や即座に
私の前の席に陣取ってお弁当を広げながら話しかけてきていた。

「そうね、今週末の日曜日、仮初の身とはいえ、私はついに肉体が
  もっとも光り輝くと聖なる闘士にも言われている18歳を迎えるのよ。
  ククク、その日を迎えて迸る私の力に精々今から打ち震えるがいいわ」

私のほうが最初はこの状況が恥ずかしくて仕方なかったのだけど
今となってはすっかりこの状況にも慣れてしまっていて
私もさも当然のようにお弁当の包みを解きながら応えていた。

前の席の男子(確か大田君だったわね)には申し訳ない気もするけれども。
まあ『ごめんなさい、ちょっとお席貸して下さいね?』
なんて桐乃に笑顔で頼まれて一も二もなく承諾していたから
本来心配することもないのでしょうけど。

思い返すと、まさにビッチと呼ぶに相応しい愛想の振りまきようだったわね。
さすがその銘の通り、男を篭絡する手管は堂に入ったものだわ。

それにすっかり逆上せ上がるような下賤な輩たちは、掃除当番の時などには
少しも女子を手伝おうとしないというのに全く失礼な話よね?

つくづく此方の世界の理はなにもかもが間違っているわね……
やはり高貴なる『夜魔の女王』に正しく導かれなければ
彼方の世界のような真の理想は実現できないようね。

「はいはい、邪気眼乙乙。でもさー、いいよね、18歳。なんてったって!」

テンション高くその次の台詞を叫ぼうとした桐乃の意図を
闇の感応波によっていち早く感じ取った私は
電光の速度を持って、桐乃の口に右手を押し当てた。

「少しは落ち着きなさい!あなたのいいたいことはわかっているから
  もう少しその丸い頭で状況を考えてから発言することね」
  
口を塞がれた桐乃はようやく事態に気が付いたのか
モガモガと解読不能な言葉を発しながら頷いている。
それを確認して私も桐乃の口元から手を離した。

「……まああなたにはそれは重要なことかもしれないけれど
  私には何らメリットは感じないわね?」
「へぇー、でもあんただってワナビ小説やゲーム作りの
  参考にプレイしてたりしているんじゃないの?」
「あれはマイナージャンルで入選するための戦略の一環だっただけよ。
  決して私がそういう作風を志向しているわけではないわ」

私は努めて冷静に桐乃の追及をかわす。そもそもネタとして
『知識の泉』からその手のジャンルのゲームの情報を
掬い上げることはあっても、自ら能動的にプレイしたり
あまつさえ購入したことなど1度だってないのだから。

ま、まあ『強欲の迷宮』のシナリオを作成するにあたっては
参考までに先輩が所有していたいくつかの作品を見せてもらったけど……

でも、正直に言ってしまえばほとんどそれらは参考にはならなかったわね。
あまりにも私の描く世界観とかけ離れた登場人物しか出てこないのだから。
なにせ、男性キャラはともかく女性キャラに至っては
誰もが年端も行かない妹だらけなのだし、ね。

まったくそんなものばかり桐乃から渡されるがままに
プレイし続けている先輩の嗜好がほとほと心配にもなってくるわね……

いえ、ある意味もう手遅れなのでしょうけれど。

「そんなこといって、小説の中で魅了の魔法をかけたとかで
  しっかりあんなことやこんなことを書いてたのはだれだったっけー?」
「あ、あれはゴシックファンタジーのダークな部分の表現としては
  必要不可欠なところなのよ!昔から人間の原初の感性を表すのに
  ホラーとエロティックな描写は表裏一体なものなのよ。
  その性的な記述によって生と死を濃密に顕現させて」

小説技法の基本も踏まえていないようなネット小説の大先生サマの物言いに
さすがに黙っていられずに思わず力を込めて反論をした私なのだけれども。

「……二人とも、盛り上がっているところ悪いんだけど
  もう少しトーンを抑えたほうがいい内容なんじゃない?」

そんな私の肩をとんとんと叩いて、秋美が呆れたように言ってきた。

「……え、え!?あ……うう……」
「あー、ゴメン。瑠璃が熱くなっちゃうのは予想してたんだけどねー。
  ついつい調子にのっちゃった☆」

桐乃がてへぺろとばかりに舌をちょろっと出しつつウィンクしていた。

もっとも私のほうは自らの口走った内容を思い返し
それがクラス中に聞こえていたことを意識した途端、一瞬で顔が沸騰せん
ばかりに真っ赤になってしまって、それどころではなかったのだけど……

クラス中の男子も女子も一様に何事かという表情でこちらを見ていた。
わ、私としたことが『熾天使』の挑発に乗ったとはいえ
何て醜態を晒してしまったというの。

「まあまあ、クラスのみんな。これもいつもの五更ちゃんの
  創作に対する迸るような情熱の現れだから、暖かく見守ってあげようよ」

秋美が教室中を見回しながらさながら先生のような口調で釈明していた。
それでようやく得心したとばかりに級友達の注目も離れていった。

昨年の学際の時に、私が部活で制作した『天使と巨神と黒猫と』という
ジュブナイル風冒険活劇のノベルゲームを展示したのだけど。
実際にプレイした人の口コミで、瞬く間に評判が広がっていって
最後には学校中で話題になるまでになっていた。

それからというもの、私はすっかり『物静かな職人気質な凄腕クリエイター』
としてのイメージが学校で定着してしまい。今回のような事も
『五更ならさもありなん』なんて調子で流されるようになってしまっている。

まあいろいろと問題を起きたとき(主に桐乃が原因で)なんかは
それで助かっているときが多いのも事実なのだけれども、ね。

とはいえ、冷静に考えてみると、これは単に皆から
私が変人認定を受けている、というだけではないのかしら……

くっ、この『夜魔の女王』に対してまったく無礼千万なことよね。
いずれは『闇の渦』に飲まれて等しく捌きをうけるがいいわ。

まあ、それはともかくこの場を収めてくれた秋美に感謝しておきましょうか。

「……助かったわ、秋美。ここは礼を言わせてもらうわね」
「いいっていって。五更ちゃんの創作に対する情熱は
  あたしだってよーくわかってるよ、うん」

それはそれで引っかかるような言い方だけど、秋美はうんうんと
頷いてから隣の席に座ると、私達と同じようにお弁当を広げていた。

「あっきー、普段はダメ人間なのにこういうときに
  限って割と頼りになるよねー。さすが歳の功」
「褒めるんなら素直に褒めるだけにしようよ!
  ま、桐乃ちゃんの言うとおりだけどさー」

秋美とは昨年のクラス替えでクラスメイトになったのだけど。
でも、私が秋美と知り合ったのは実はそのクラス替えの時ではなくて。
それ以前のゲームセンターでの一件だった。

実は対戦台で散々に打ち負かしてしまったのが出会いだったのよね……
おかげで当初は秋美側が私に一方的なライバル意識を持っていた。

普段は『めんどくさーい、ダラダラしてたーい』が口癖なくらい
何に対しても積極的にどうにかしようなんて考えない性質なのに。
本気になった事柄には負けず嫌いで絶対に諦めないのは不思議な物よね。

初めて対戦した時に2本連続パーフェクトゲームで勝ってしまった後
他には誰もいなかったのをいいことに、延々と20試合くらい
連続で乱入してくるくらいだったのだから。そのすべての試合で
私のキャラにほとんどダメージを与えられなかったにも関わらず、ね。

その後ゲームセンターで会うたびに対戦を挑まれるようになったのだけど。
私も半ば呆れながらもその心意気に少しは感じ入るものもあったわね。

その後、運命の悪戯なのか同じクラスになってしまって。
当初、名簿順に配置された席順では前後の位置になってしまったものだから
何かと関わり合う機会も増えていって。

気が付いたらすっかりお昼をいっしょに食べるような仲になっていたのよね。
まったく運命というのは、本当に小説よりも奇なり、よね。

それにさらに数奇な運命、ともいえるのは、秋美が中学時代には
先輩と同級生だったという事実よね。桐乃とも顔見知りだったらしい。

それを知った時には本当にびっくりしたものだったけれども。
私の運命が最終的にあの人のもとに結びつくのは、どの次元、
どの世界線においても宿縁なのだからそれも当然というものかしら?

様々な事情で2留してしまった秋美は、こうして私と同学年に
なってしまっているのだけど。そのあたりのことは
『ん~学校行きたくなかった時期もあったからねー』なんて
言うだけで、詳しい事は教えてくれなかった。

きっと、秋美自身が言いたくないようなこともあるのでしょうしね。
なんとなく……先輩が一枚噛んでいるような気はしているけれど。

まあおかげで対戦ゲームの方では話にならないとしても
この私にとっての『運命の宿敵』は、またもや一人
増えてしまっているのが問題ではあるのだけれども、ね。

「で、やけに盛り上がっていたのは何の話をしてたの?」

なにやら豪勢なお弁当にせわしなく箸を進めながら秋美が尋ねてきた。

「そもそもは私の誕生日が今週の日曜日、という事なのだけどね?」

その後の桐乃の暴走と私の失態に関しては触れないで済むように
桐乃が切り出した話題の大本まで話を戻した。

「へぇー、五更ちゃんの誕生日って
  4月20日だったんだ。18歳おめでとうー」
「実際にはまだ誕生日は迎えてないのだから、気が早いのではないかしら?」
「でも日曜日じゃ学校もないし。今のうちにおめでとうの予約ってことで」

秋美らしい物言いに、思わず苦笑いが出てしまうけれど。
それでも誕生日を祝って貰えることはありがたいことなのかしら、ね。

「そうそう、それを言いに来たんだった。瑠璃の誕生日がせっかくの
  日曜日なんだからさ。みんなで集まって誕生日パーティやろうよ!
  それなら誕生日当日におめでとうって言えるしね」
「そ、そんなことを考えていたの、あなたは」
「お、ナイスアイディアだね、桐乃ちゃん。
  あたしも一度くらいは友達の誕生日パーティとか出てみたかったんだ」
「でしょでしょー。沙織やオタクっ娘のメンバーにも声かけてさ。
  みんなで楽しくやれるといいよねー」

桐乃の突然の提案にも、そしてそれに意外と食いついている
秋美に驚かせられながらも、内心では悪い気はしていない。

……だって私自身、友人を呼んで自分の誕生日パーティを
祝ってもらった事など生まれてこの方なかったのだから。
そんな特殊イベント、無数の隠しフラグと膨大なリア充値を
積み重ねなければ実現できなものとばかり思っていたのだけれども。

まさかこの私がその恩恵に預かれる機会が巡ってこようとは。
仮初とはいえ此方の世界での人生というのも数奇なものよね。

でも、そこはやはり私の闇の眷属の運命、というものかしら。
そう簡単に幸福な未来を享受できるほど、甘いものではないのよね……

「……ごめんなさい、盛り上がっているところ悪いのだけれども。
  今週の日曜日は、すでに家族で過ごす予定になっているのよ。
  日向からもずっとその日に予定を入れないでって念を押されているし
  お父さんも入ってた仕事を無理やりキャンセルしてたくらいだから
  いまさら私だけダメになった、とは言えないし……」

楽しげに誕生日パーティの話をしていた二人に水を差すようで
申し訳ないけれども、私はその事実を告げなければいけなかった。

な、なにも私が誕生日パーティができなくて残念だ、
なんて思っているわけではないのよ?
二人が楽しそうにしているのに水を差してしまうことが
友達として躊躇われていたと言うか、後ろめたいと言うだけで。
だから、そんな下賎な憶測なんて口にしないで頂戴。

「……そっか、それじゃあ仕方ないかぁ」

秋美が心からがっかりしたように応えた。普段は嫌いなことや
面倒なことにはそもそも逃げ出すか、無関心で通す秋美だから
こんなに残念そうな姿を見るのは珍しい気がするわね。

「ま、まあ別段当日にしか誕生日を祝っていけないわけではないでしょうし。
  パーティとは行かないまでも、また日を改めて
  皆で集まればいいんじゃないかしら」
  
そんな秋美に対しての後ろめたさからか、私は取り繕うように提案する。
とはいえ、それでは普段皆で遊ぶのと何ら変わらないのだけれども。

「でも、やっぱり誕生日会、といったら、ねぇ。
  せっかく1年に1度しかない記念日なんだし。それに……」

最後のほうは小声になって聞き取れなかったけれど
秋美はやはり誕生日でのパーティにこだわりがあるようだった。

「ん~だったらさ、誕生日の前日からお泊り会ってのはどう?
  朝いちで帰れば瑠璃のご家族の用事のほうも問題ないっしょ?
  これならしっかり誕生日当日におめでとうって言えるしね」
「なるほど、今日は冴えてるね、桐乃ちゃん!
  それなら大丈夫そう?いけそう?五更ちゃん!?」

いつものように満面のドヤ顔で桐乃が提案すると
落ち込んでいた秋美も一気にテンションアップして追随してきた。

「ま、まあ確かにそれなら家の予定には問題ないと思うけど……
  でも、まだ4月だからといって受験生なのに
  週末ずっと遊び歩いてしまうのもどうかと思うし
  土曜、私が家を空けてしまうと、日向と珠希が夜遅くまで
  二人きりになってしまうのも心配になってしまうわ」

二人の期待の眼差しが闇の宿命を持つ私には眩しすぎたのかしら。
口から出たのは思わず否定的な意見ばかりになってしまった。
で、でもそれも丸っきりの言い訳、というわけでもないのよ?

いまだに進路に関しては決めかねているとはいえ
進学を選んだ場合、私が一番に目指している大学に合格するためには
今からだってしっかりと勉強していかなければならないし
日曜を完全に休みにする分、お父さんもお母さんも
土曜日は仕事で帰りが遅くなると言っていたから。

「なにいってんの、遊ぶときは遊ぶ!勉強するときは勉強する!
  そんなメリハリつけられないようじゃあこれから受験勉強なんて
  やってられないって」

でも、そんな私の言い分を、桐乃は強い口調で真っ向から否定してきた。
まあそれも確かに道理かもしれないけれど。最初は海外に行くつもりで
結局それを取りやめてうちの高校に陸上の推薦で入学したあなたは
そもそも受験勉強なんてしていないでしょうに!

「それに、さ。信じてあげなよ、日向ちゃんと珠希ちゃん。
  きっといつも面倒を見てもらっているお姉さんから
  自分達が信頼されているって思ったら、嬉しがると思うよ?」

そして一転、今度はまるで妹を諭す姉のように優しい口調で続ける。
うう、まったくあなたはどこまで計算して言ってるのよ……
時折見せるあなたのそんな殊勝な態度は破壊力が高いのよ?

『熾天使』の『聖なる囁き』は、私の『精神抵抗』すら打ち破って
私の気持ちをすっかりとその気にさせてしまっていた。

「そうそう、それに受験勉強なんてまだまだこれからじゃん。
  ま、あたしは高校卒業でお母さんへの約束は果たせるから
  進学しないで引き篭もる予定だし、こっちの心配は無用だよ」

さらに秋美があっけらかんと言い放ってくれる。
まあ、正直にいえば今はそこまでは気が回ってはいなかったけれど。
改めて言われると、友人としてはあなたの将来も心配になってくるわね……

「……わかったわ。そこまで二人がいうなら土曜はお泊り会にしましょう。
  でもどこでするというの?うちでは無理だしやっぱり沙織に相談かしら?」
「ああ、そういうことならあたしに任せてよ。今、お母さんが出張で
  しばらく家には家政婦さんしかいないから、夜とか騒ぎほーだいだよ!」
「さっすがあっきー。やっぱりここぞというときには頼りになるよねー」

そういえば本来は結構なお家のお嬢さんなのよね、秋美は。
普段は自分のことをあまり話したがらないから
私もそこまで詳しくは知らないのだけれども。

「よーし、こうなったら、あたしが長年考えていた
  計画を実行するときがついにきたようだね!」
「ん、なになに?なんかお泊り会のアイディアがあるの?」
「そう……ずばりお布団誕生会!」
「な、なによそれは……」

得意満面の笑顔で告げた秋美に、私は恐る恐る尋ねる。
秋美がこんな顔をしているときには絶対録でもないことを
考えているのはわかっているのだけど……

それでも、私の誕生日のためにアイディアを出してくれるのだから
少なくとも私は聞く義務があるというものでしょう。
……隣で桐乃が顔を手で抑えて頭を振っているのが気にはなるけれど、ね。

「良くぞ聞いてくれたよ、五更ちゃん。
  実は私の部屋は昨年引っ越してから10畳くらいはあるんだけれど。
  そこ一杯にまずはお布団を敷き詰めます」
「え?……ええ。それで?」
「そこ一杯にTVやパソコン、ゲーム機やお菓子、漫画なんかを準備して。
  勿論、誕生日パーティなんだからケーキや料理とかも必要だよね。
  それでみんなでパジャマを来て、のんびりまったりしながら
  五更ちゃんの誕生日を面白おかしくごろごろと迎えるの。
  --どう?素晴らしくない?最高じゃない!?」

目を爛々と輝かせながら上気した顔で己の欲望を赤裸々に語る秋美。
まるで桐乃が妹ゲーに関して語っているときと同じ表情で。
まったくあなたを桐乃レベルまで暴走させるその原動力は
どこからきているのよ……

「はぁ……あなたらしいわよ、秋美」
「でしょでしょ?だからみんなでお布団誕生日会、やろうよ!」

なんとも気持ちがいいまでの健やかな笑顔を向けられて
私と桐乃は思わず顔を見合わせた。桐乃の顔には
『あんたの誕生日会なんだからあんたが決めなさいよ?』
なんて表情がありありと浮かんでいるわね。

私はしばし逡巡した後、秋美に肯定の意を返した。

「……わかったわ。それでいいでしょう、秋美。
  それなら場所の準備はあなたに任せていいのかしら?」

いろいろと突っ込みたいところもままあるけれども、ね。

「おっけーおっけー、ばっちり任しておいてよ!
  ま、あたしの部屋を片付けるのは家政婦さんにお願いするけどねー」
「じゃああたしは沙織にも後で連絡しておくね。
  でもパジャマパーティだとオタクっ娘でも女の子限定になるよね?」
「まあ、そうだけれど。先輩とユウがこれないくらいでしょ?」
「んー、あんたがいいならそれでもいいけどねー」

桐乃はさも含みがあるようにそう言ってうんうんと頷いていた。
まあ、あなたが何を言いたいのか、くらいはわかっているつもりだけれど。
たまには女の子だけの集まりで、というのも悪くはないでしょう?

「そうそう、なんてったってパジャマパーティの究極の醍醐味といえば……
  夜通しおしゃべり!そしてその話題の中心といえば恋バナ!
  そんなのを男性陣に聞かせるわけにはいかないでしょ!」

長年の宿願が実現できることに、ますますテンションを高めている秋美。

「え、あなたまさか、このメンバーでそんな話をするつもりなの……?」

この顔ぶれでそんな話をしようものなら、のんびりおしゃべりなんて
ものじゃなくて。文字通りの修羅場しか想像できないのだけれども。

「ふっふっふっ、さあこの機会に今度こそ高坂と
  付き合っていたときの話を聞かせてもらうよ、五更ちゃん!」
「な……!?あなたまさかそれが最初から狙いだったというの?
  その件に関しては我が『常闇の追憶』の中でも秘中の秘。
  みだりに垣間見る者には幾星霜に渡り呪われることになるわよ」
「それから桐乃ちゃんにも当然聞かせてもらうからねー。あの時に
  アンモラルな関係をどこまで踏み込んだのか洗いざらい白状してよね!」
「なぁ!?そ、そんなの今更聞いてどーすんのよ」
「ふふん、もちろん最終的に勝利者となるあたしのために
  かっては彼女だった者どもの経験談を参考にさせてもらうわけだよ!
  ま、純粋に人様の恋バナにも興味もしんしんだしねー」

……予想通り、最初から修羅場しかありえないような展開になるわけね……

それにしても、秋美は先輩と顔を合わせるたびに
果敢に吶喊してはその度に砕け散っているというのに。
その執念だけには本当に頭が下がる気がするわね。
反面教師といえどもその不屈の闘志は見習うところは多いのかもしれない。

「……ククク、そこまでいうならいいでしょう。
  私と先輩の魂の繋がりがどれほどなのかを聞かせることで
  あなたがどこまで無謀で滑稽な『風車の騎士』であるかを
  思い知らせてあげるわ。精々楽しみにしておくことね?」
「上等だよ、五更ちゃん。キミとは必ず決着をつけなければいけない運命。
  キミの誕生日なのは遺憾ではあるけどあたしが引導を渡してあげるよ!」
「……いい加減あんたたちもさー、あいつにこだわらないで
  新しい相手を見つけた方がいいんじゃん?」
「「あなた(キミ)に言われたくはないわね(ないよ)!」」

新しく相手を見つけるつもりなんてさらさらないような
あなたに言われる筋合いはないわよ、まったく。
入学して以来、文武両道、才色兼備で注目の的のあなたが
交際の申し込みを悉く袖にしているって学校中で有名よ?

それでもね、桐乃。こんなことを当事者同士で言い合えているのは。
きっと少しは前向きになっているんじゃないかしら、ね。

「まあ、それはともかく、と。そろそろお昼も終わっちゃうし
  詳しい予定は沙織も交えて、夜にチャットで話そうよ」

桐乃はいつの間にか綺麗に片付けていたお弁当を巾着にしまって席を立った。
片や私たちの方は話に気を取られていて、お弁当の半分も減っていない。
さ、さすがは『熾天使』。やるべきところはきっちりとこなしていくわね。

「ええ、わかったわ、桐乃。じゃあまたいつもの時間に」
「んじゃねー、桐乃ちゃん」

私達は桐乃への挨拶もそこそこに、急いでお弁当の残りを
片付けに取り掛かるのだった。



    *    *    *



今日の授業も終わり、私は昨年から所属する事になったコンピュータ部、
通称コン部の部室に向かった。今日は特に部活の定例ミーティングなどの
予定はないけれど、週末の予定が完全に埋まってしまった事もあるし
現状の作業の進捗確認をしておこうと思ったのだけど。

「あ、お疲れ様です。五更先輩」

部室のドアを開けるやいなや、すっかり聞きなれた声がかけられた。

「ええ、こんにちは、小川君」

彼は2年生で、新入生の時から入部している小川結優君。

小柄で線が細く、色白でメガネをかけている、などという
見た目通りの典型的な文系の男子のイメージでもある。

童顔で中性的で顔つきなので、昨年の学際の時に部長に騙されて
女装コンテストに参加させられたときには、事情を知らない桐乃が
妹キャラキター、とばかりに大暴走して大変だったのだけれども……

性格も見た目通りに柔和で物静かな……というよりは
当初は結構な引っ込み思案で人見知りという感じだったわね。
最初はコン部の中でも相当人付き合いに苦労していたようだから。
……まあ私も人のことはいえなかったけれど。

もっともこの1年間の活動を通してそのあたりは克服して
コン部の部員としてもすっかり溶け込んで創作活動に勤しんでいる。

それに……やはりというか当然というか。彼もコン部に入るくらいの
オタク気質なところがあるわけで。自らの『領域』に関する事となると
途端に人が変わったような言動を取ることもあるのよね。

まあそれでも桐乃や瀬名あたりと比べると可愛いものだけれども。
昨年はそのあたりも含めて、弁天高のゲー研と同じように
なんとも賑やかで騒がしい部活動を行ってきたわね。

最初は小川君から自分が『五更先輩』などと呼ばれる
立場になっている事に違和感ばかりだったけれど。
さすがに1年間も言われ続けるとそれにもすっかり慣れてしまった。

もっとも、彼からは『五更先輩』よりも、我が魂の真名である
『黒猫』の銘で呼ばれる事の方が実は多いのだけれども、ね。

「今日は部室で作業ですか?」
「いえ、まだシナリオとシステムの構想を詰めているところだから
  実際の作業に入れるのは来週くらいからかしらね。
  今日はその辺りの予定を部長と打ち合わせようと思っていたのだけど」

でも部室を見渡す限り、まだ小川君しかここにはいないようだった。
学校には部活のために来ているような人なのに、珍しいことね。

「部長は今日は生徒会で予算の打ち合わせにいってますよ。
  だから部室にくるのはまだまだかかると思います」
「そう……じゃあとりあえず今の進捗表を見せてもらえるかしら」
「はい……っとこうなっていますね」

小気味良くキーをタイプしてエクセルの進捗表を表示する小川君。
彼はプログラミングが得意で、私もいくつかの作品で協力してもらっている。
入部した最初こそ、知識はあるけれど実践経験が伴っていない感じだったけど
ここ1年でめきめきと実力をつけていた。

特に、可読性が高く機能追加や保守の容易な綺麗なソースを書く
センスに長けていて、そこまでプログラムの得意でない私でも
必要があればすぐに手を加える事ができるのがとても助かっている。

瀬菜の持つ『魔眼使い』とはまた違うけれど。その優れた才能に
私は敬意を表して『統一原語』と呼ばせてもらっているわ。

「……なるほど、今のところ順調のようね。副部長の管理の賜物かしら。
  これなら金曜日にシナリオプロットの打ち合わせをしてもよさそうね」
「ああ、週明けに予定していた会議ですか。なにかあったんですか?」
「ええ、週末は用事が入ってしまって作業時間が取れなさそうだから
  それなら金曜日までにプロットとアイディアをまとめようと思ってるの。
  みんなとしても早いうちに把握できた方が作業に入りやすいでしょうし。
  じゃあその件に関して部長にメールしておくわね。ありがとう、小川君」

私は部室で使い慣れたノートPCの置いてある席に座ると
すぐさま予定の変更の件に関してメールを書き始めたのだけれども。

「ひょっとして週末の用事って五更先輩の誕生日で、ですか?」
「……どうして小川君がそれを知っているのかしら?」
「ああ、すみません、以前『松戸ブラックキャット』に関して
  情報を集めていた時、その辺のことまでわかってしまっていたので……」

最後の方はそれこそ以前の人との交流が苦手だった時の彼のように
力なく、聞き取り辛い小声になってしまっていた。

「別に怒っているわけじゃないわよ?隠すものでもないでしょうし。
  事実誕生日関連の用事であることも間違いはないわ」
「ああ、やっぱりそうなんですね。じゃあそうなると『オタクっ娘』で
  誕生日会かなにかが予定されている、とかですかね?」

小川君は気落ちした様子から一気にテンションアップして訪ねてきた。
まるで昼休みの時の秋美のような急激な変化、ね。
そこまで私の誕生日が気にある話題だったのかしら。

彼は実は高校に入学する前から『オタクっ娘あつまれー』の
一員として参加していたのだけど。いわゆる『裏』のメンバーとしては
昨年の春から正式に沙織の紹介で参加することになったのよね。

それ以来、私達裏のメンバーが集まるときにも積極的に加わってきて
今ではこちらにもすっかり溶け込んでいる。だからどちらかというと
『此方の世界』の仮初の呼称よりも、オンオフともに互いのハンドルである
『黒猫さん』と『ユウ』で呼んでいる時の方が多いくらいなのよね。

もっとも学校とかでは面倒なことにならないように
『仮初の名』を呼ぶことにしているのだけれども。

「残念だけど『オタクっ娘』の活動というわけではなくて。
  確かに誕生会ではあるけど、私の個人的な友達や家族との予定よ」
「ああ、そうなんですか……前のお花見は参加できなかったし
  次の機会は五更先輩の誕生日会になるのかな、って
  実はひそかに期待していたんですが……残念です」

再びがくっと気落ちした様子を見せる小川君。
そこまで落ち込まれるとこちらとしても何か悪いことを
してしまった気にもなってしまうわね……

「そ、そう……あなたのその気持ちだけでもありがたく受け取っておくわ」
「はい……あ、それなら来週の月曜日にはせめてプレゼント持ってきますね」
「何もそこまで気を回す必要もないのよ?
  それに……あまり軽々しく異性に贈り物なんてするものではないわ」
「ああ、いえ、まったく下心がない、なんていったら嘘かもですけど。
  『松戸ブラックキャット』に憧れるいちファンとして、といいますか。
  ほんのちょっとしたものにしますからそんなにお気になさらずに」

そもそも小川君が『オタクっ娘あつまれー』に参加したのは
ネット動画で見た『松戸ブラックキャット』のテクニックに憧れた彼が
その思いが高じてあらゆる手段で『松戸ブラックキャット』に関する
情報を集めた結果、『黒猫』のハンドルで『オタクっ娘』に
参加していると突き止めるに至ったから、だったのよね。

『オタクっ娘あつまれー』は建前上は女性のメンバーに限られているけれど。
事情を正直に管理人である沙織に説明して、正体をばらさない事と
問題行動を起こさないことなどを条件に参加を認めてもらったらしい。

とはいえ私は『表』の方ではあまり掲示板への書き込みや
オフ会等の活動をしていなかったこともあって。
最終的に『裏』の存在にも気が付いた小川君が再び沙織に頼み込んで
こちらのメンバーとしても参加することになったのよ。

そんな経緯を持つ小川君ことユウだったので、『オタクっ娘』のオフで
初めて彼に出会ってからというもの、まるで『偶像』のような
羨望と尊敬の眼差しを受けることになってしまっている。

まあそれ自体はこの『夜魔の女王』たる私に相応しいとも言えるけれども。
『此方の世界』での仮初の身には、あまりにも不慣れなその扱いに
ほとほと困り果ててしまうこともあったわね。

それから1年に渡って、過剰な『偶像』扱いしないように、と
言い聞かせてきたこともあって、今となってはサークルや高校の
先輩後輩としての立ち位置程度には収まってはいるけれども。

時に今回のような熱意をまっすぐに向けられてしまうと
やはりどう対応したものか戸惑ってしまうこともあるわ。

それに……いえ、それは考えすぎかもしれないけれど。

「ま、まあそれであなたの気が済むなら好きになさいな」
「はい、それじゃあそんなに期待しないくらいのレベルで
  それなりには楽しみにしていて貰えるとうれしいです」

先ほどの落ち込んだ様子から一転、嬉しそうな笑顔を
浮かべている姿を見るのは正直悪い気はしないわね。

でも、今の小川君のわかりやすいほどの一喜一憂をしている様子や
お昼休みの桐乃たちとのやりとりを思い返していたら
ずっと不思議に感じていた事がつい口から出てしまっていた。

「それにしても……私個人としては一つの節目でもあるし
  呪術的にも特別な日であるのは間違いないのだけれども。
  日向や桐乃たちもそうだったけれど、そこまで他の人の
  誕生日にこだわるものなのかしらね?」
「ああ、それはそうですよ。だって」

私の疑問に対して、彼にしては珍しく自信満々な調子で応えていた。
まるでさもそれが世界の真理だ、と言わんばかりに、ね。

「家族にしてもお友達にしても。普段お世話になっている大切な人に対して
  気兼ねなく祝福と感謝を伝えられるなんてとても素敵な日じゃないですか」

そう続ける小川君は眩しいくらいに優しい笑顔を浮かべていた。
なるほど、そういう考え方もあるものね。

普段の様々な気持ちや立場、しがらみを超えて
ただその人だけのための時間を互いに過ごす。
なるほど確かにそれは本人だけでなく、その周囲の
人たちにだって特別な日なのかもしれない。

普段はなかなか素直になれなかったとしても。
そんな特別な時ならば自分の想いと正面から向き合うことができる。
そんな場面を私も今まで何度も体験してきたもの、ね。

「それに……今回はきっと」
「え?何か特別な事でもあるのかしら?」
「……ああ、いえ。まあ機会を見つけては皆で楽しむ気持ちは大切ですよね?
  『オタクっ娘』やこの部のおかげで僕もそれを知ることができましたよ」
「……そうね。それに関しては私もそうかもしれないわ」

沙織に誘われたあの時までは。私は血を分ち合った家族以外とは
関わりを持つことすらままならなかった孤高の存在だったのだから。

あれから3年しかたっていないというのに、それが今やこうして
誕生日をいっしょに祝ってくれるような友達や仲間がいる。

「じゃあメールは出しておいたけど、明日また部長と副部長にさっきの件は
  直接打ち合わせる事にするわ。部長が来たらよろしく伝えておいて頂戴」
「はい、それではお疲れ様です。五更先輩」

私は椅子から立ち上がりながらノートPCをシャットダウンさせると
急ぎ部室を後にした。週末の予定を2日も開けるためには
急いで家に帰って片づけなければいけない事が山ほどあるのだから。

私は頭の中で週末までの予定を整理して、それを片付けるための
スケジューリングを行っていく。これは週末まではかなりの
気合を入れて掛からなければならないようだった。

でもそんな忙しい状況にも関わらず、私は弾む心が抑えられなかった。
こんな気持ちで誕生日を迎えるのは小学生の時以来のことかしらね。
我ながら子供っぽいと思いながらも、自分にもそんな気持ちが残っていた事に
自嘲だけではない笑みがこぼれていたわ。



    *    *    *



結局、桐乃、秋美、沙織は勿論のこと、桐乃が誘った瀬名も加わって
5人で私の『闇の盟友』による誕生日パーティは行われることになった。

土曜日の夕方から秋美の家に集まって、秋美の希望通りに
布団を敷きつめた部屋で、みんなパジャマ姿に着替えてから
なんとも不思議な誕生日会が開催されたわ。

そういえば私は普段はジャージで寝ているから
お母さんのパジャマを借りていったのだけれども。
『あんたって本当、普通にそうしているとお母さんだよねー』
と、またも桐乃に突っ込まれてしまったわね……

まあ確かに、桐乃たちの華やかな色合いのパジャマと比べると
お母さんの趣味である無地で飾り気もない薄いグリーンのパジャマは
私から見ても確かに地味で年頃の女の子らしくないのでしょうけど。

お母さんが家で着ている姿は、やっぱり似合って見えるのよね。
これが星霜を渉りえたもののみに宿る力、というものなのかしら。
私もいずれはそうなれたらいいのだけれども、ね。

ゆったりと食事やケーキを楽しんだ後は、皆の代表として
桐乃から大きめの袋に入った誕生日プレゼントを受け取った。
中には淡いブルーのシャツと対になる深い蒼のスカートが入っていたわ。

桐乃や瀬名に普段の服装も合わせて散々からかわれながらも
沙織や秋美にまで薦められて、その場で試着することになったのだけれども。

『うん、やっぱ瑠璃は名前の通り青が似合うね』と
さっきまでの態度とは裏腹に、とても優しい笑顔で桐乃に言われた私は
嬉しさと恥ずかしさと、そしてあの人の笑顔が重なって見えてしまい。

顔を真っ赤にしながらその場で固まってしまったので
結局それをネタに散々にまたからかわれることになってしまったわ……
本当、どれだけ私の心を振り回してくれるのかしら、この兄妹は。

その後も皆でゲームをしたりおしゃべりをしたり
順番にお風呂を頂いたりしながらのんびり過ごしたのだけれど。

日付が変わったその瞬間。

私以外の全員がいつの間にか私の周囲を取り囲むように移動していて。
そしてやはりいつのまにか隠し持っていたクラッカーを一斉に鳴らしながら。

『お誕生日おめでとう!瑠璃さん!!』

の大合唱で私の18度目の誕生日を言祝いでくれた。

毎年、家族が祝福してくれるそれと同じようで違うような。
優しくて暖かな気持ちに包まれるような感覚と共に
今この時に巡り合えた嬉しさも噛みしめられる。

今なら確かにこの時を逃したくなかった桐乃や秋美の気持ちが私にもわかる。
おかげでこの時は素直に『ありがとう、みんな』とお礼を返す事ができた。

その後には、いよいよ今回の誕生会のメインイベント、と
秋美が勝手に設定していた『恋バナ』が始まることとなった。

修羅場確定のこの状況下で、まずは穏便な内容で、ということで
現在進行形でお付き合いをしている瀬名の話から始まったのだけれども。

しかし予想外に、いえ、この『魔眼遣い』の真の姿を知る私達は
当然予想してしかるべきだったのかもしれないけれど、
瀬名を除くそこにいた全員が、悶絶するくらいのその内容に
私たちが平静を取り戻すには時計の長針が一周するくらいの時間を要したのだった。

あ、あなた、そもそもキチンとしていないことが大嫌いな
真面目な委員長ではなかったの?あの圧倒的なまでな『腐力』が
一度恋愛に向けられるとここまでのものになるというのね……

それに……真壁さんも涼しげな性格だと思っていたのにそんなことまで……
以前彼が暴走した時にも思い知らされたけど、本当、人間というものは
見た目や普段の人当たりではその深淵に潜みしものは窺い知れないものね。

それでも時たま文句や愚痴をいいつつも。
リア充爆発しろ、と呪詛の言葉を投げ掛けたくなるくらいに
(実際に秋美は叫んでいたけれども)幸せそうに自分の恋愛体験を
話している瀬菜の姿を見せられてしまうと。

今日のこの慶する日には野暮なことは言わずに見逃しておいてあげるわ。
寛大な『夜魔の女王』の慈悲に、感謝しておくことね?

開幕早々に覚醒必殺技ぶっぱ級の衝撃はあったけれど。
次はやはり軽く済みそうなはずの沙織の番になった。

けれど沙織は沙織で、槇島家の跡取りを迎え入れるためでしょうけど
ここのところ見合いの数も増えて大変な状態らしい。
先ほどとはうって変った話の重さに、やはり言葉を無くした私達だれども。

それでも沙織は努めて明るく、香織さんがしっかりと相手を見定めて
フォローしてくれているのだとか、沙織自身も趣味を受け入れてくれる人を
捕まえて見せるのだといつもの調子で力説していた。

その姿に、私は以前沙織に聞いた話を思い出していた。

『まあ人生、生まれや巡り合わせをなかったことにはできませんからな。
  家名を背負うべき娘であったり、身内や親友の兄を好きになってしまったり。
  でも、だからこそ我々はそれだけに囚われることなく
  いつだって全力で『自分の好きなようにする』べきでござろう?』

あなたも自らの運命と戦っている戦友なのですものね、沙織。
同じく見果てぬ理想を目指す輩として、共に邁進していきましょう。

そして次は秋美の番だったのだけれども(トリを私にしたかったらしい)。
やけにそれまでの言動のテンションがいつも以上に高いと思ったら
ひそかにアルコール入りの飲み物を飲んでいたのよね。

散々に自身と先輩との思い出やら、先輩に対する愚痴やらを
泣いたり笑ったり怒ったりしながら捲くし立てた後、ついに限界を迎えたのか
布団に突っ伏したかと思うとそのまま爆睡してしまった。

さすがにそのまま秋美を放って続けるわけにもいかないので
そこで『恋バナ』会はお開きにして、皆思い思いの布団に入って
寝ることにしたのだけれども。

私はなかなか寝付けることができなかったわね……
皆の赤裸々な話を聞いて。そしてそれを自分自身の状況と
重ね合わせて見たことで、いろいろと考えることばかりだったから。

その間も、隣の布団に入っていた桐乃がしきりに寝返りを打っていた。
きっとあの娘も同じように眠れなかったのでしょうね。

これから私やあなたが高校を卒業して。そして先輩が大学を卒業して
社会人になったらまたその度にいろいろなものが変わっていく。

今は『新約・運命の記述』に従って、こんな関係を続けていければ
いいと思っているけれど。その時になればまた私達は
新たな決断を下さなければいけなくなることでしょうね。

そのためにもまずは私はこれからの行く末を選ばなければならないから。

ねぇ、桐乃。私たちはこれからどうしていこうかしら?

そんな言葉を投げ掛けたくなる衝動を必死に抑えながら
私は止め処なく回る自らの問答をなんとか打ち切って
ようやく眠りの世界に落ちていった。


翌日、頭が痛いと自業自得の泣き言を漏らす秋美を無理やりに起こして
皆で朝食を済ませると、お泊り会はお開きとなった。

他のみんなにはもっとゆっくりしてもらいたかったのだけれど
私が家族の用事ですぐに帰らなければいけなかった事で
結局そのタイミングでの解散となったから。

来年はここに集まったメンバーは、桐乃以外は皆高校を卒業して
それぞれの道を進むことになっている。私達の歩んでいく道は
変わらずにはいられないけれども。

それでもまたこんな風に集まって皆で誕生日会をやれるといい。
それは今回の当事者だった私だけでなく、きっとそのときに
集まった皆がそう思ってくれていたと確信しているわ。



    *    *    *



眠たい目を擦りながら自宅に戻ると
今度は久しぶりに家族揃っての外出となった。

せっかくなので早速プレゼントに貰った服を着てみたわ。
家族の皆が口々に褒めてくれたのは嬉しいのだけれど
逆にいえば私の普段の格好はそんなにダメだということなのかしらね……

それはともかく目的地は数年ぶりとなる舞浜のテーマパークだった。
お父さんの会社の福利厚生として、ここのチケットが
抽選ではあるけど安く手に入ったかららしい。

まあ入場チケットは安く手に入ったとしても
日曜日だったこともあって、相も変わらず中は凄い混雑だったわね。

でもそんな人ごみももともとは嫌いではないのよね。
『夏冬の祭典』に比べればそもそも問題にもならないくらいだし
取るに足りないような人間風情とはいえども、それぞれの思い抱いて
そこに在る、活気のようなエネルギーを感じ取ることができるから。

まあ、そんな感傷に浸る間もなく。いつものように先ずは家族手分けして
ファストパスを確保してからは、効率よくアトラクションを回っていった。
今回は珠希も十分に大きくなっているので年齢や身長制限のあるような
激しいアトラクションでも問題なく乗ることができたのが
日向には好評だったわね。

まあ私は以前、とある目的から、現存するあらゆる
ジェットコースターをシミュレーターで仮想体験している。
故に、理論上コースターの達人である私は、今更ここのアットホームな
コースターなどにことさら興味などもてるはずもないのだけれども。

だから、パレードの席確保ために、ずっと場所取りを交代でしていた
お父さんやお母さんと変わろうともしたのだけど。
結局せっかくの誕生日だからと、お母さんや日向に押し切られて
全てアトラクションに付き合わされることになってしまった。

ま、まあ、寝不足の仮初の身には幾分堪えたけれども。
これで実践も積んで、理論のみならず『戦闘証明済み』の
称号をも得ることができたかしらね?

そういえば以前記した最初の『運命の記述』にも
先輩と遊園地で行う秘儀に関して書く予定もあったのだけど。
あの時は時間や状況の制限で結局それを実行することは適わなかったわね。

ひょっとしてあの時にそれが実行できたのなら
今の私の運命もまた違ったものになったのかしら……ね。
そんな愚にもつかないことを考えてもしまうわ。

その後はお昼のお弁当を挟みつつ、一通りアトラクションを回ってからは
ここの名物のエレクトリカルパレードを堪能したわ。
幻想的な雰囲気の中でキャラクターたちが生き生きと動き回る様子に
『彼方の世界』に迷い込んでしまったような感覚を受けるわね。

それは『此方の世界』での悩みや日々の疲れまでもが消え去ってしまうようで。
私も家族の皆もしばしの間、そんな幻想風景に目を奪われていたわ。



    *    *    *



パレードも終わり、私達家族も松戸の自宅へと帰宅した。

毎年の誕生日のこの日はお母さんが料理等をすべて用意してくれる。
今年も例外ではなく、さらに日向や珠希までももお母さんの手伝いに
奮闘しているので、手持ち無沙汰な私は、居間でお父さんと一緒に
お茶を飲みながら夕飯までの時間を過ごしていたのだけれども。

「そういえばお父さん。どうして今年はこんなに力を入れてくれたの?」

今年の私の誕生日は家族揃って祝いたいから1日予定を開けておくように、と
お父さんに言われた時から疑問に思っていた事を尋ねてみた。

普段は、夕飯がいつもより豪華で、ケーキが出て、プレゼントが貰える、
というのが五更家の定番の誕生日の過ごし方。だから今日のように
1日掛りで家族揃って出かけたりするような覚えはなかったから。

「ん?そうだな。その前に瑠璃は最近はどうなんだ?
  学校のことや趣味のこととか。それに友達のこととかも、な」
  
質問を質問で返されてしまったけれども
きっと私のことも何か関係があるということなのかしらね。

「……そうね、特に大きな問題もなく順調だと思うわ。
  昨日も誕生日パーティを友達に開いてもらったもの。
  勉強の方は進学するならもう少し頑張らないといけないでしょうけど」

きっと一昨年に私が2度もひどく落ち込んでしまったり
昨年は、何度か家を空けたり、寝る間を惜しんで創作活動に
打ち込んで倒れかけたりと、慌ただしい毎日を過ごしていたことを
お父さんは心配しているのだと思う。そんな私を気遣って、
ということなのかしらね?

「そうか。なあ、瑠璃。お父さんはいつだって瑠璃の味方だ」
「え?う、うん」
「勿論、お母さんや、日向や珠希だってそうだ。
  皆、瑠璃のために、家族のために力になりたいと思っている」

お父さんは普段の一見頼りないけれど、とても優しい表情で言葉を続ける。

「だから、いつだって瑠璃の思うようにやりなさい。
  そして困ったことや辛いことがあったらいつでも頼ってくれていい。
  どんなことがあっても家族皆で助けるからな」
「……はい」

それは私が小さいころからお父さんが口癖のように言っていたこと。
だから私は未だ短いと言えども、自分の思うような人生を歩んできたわ。

自分の趣味に没頭して、夢を追い続けてきた。そのために元々苦手だった
人付き合いが上手くいかなかったり、学校での生活態度を注意されることも
あったけれど。お父さんもお母さんも一通り私から話を聞いて簡単な助言を
してくれた後には、その度にずっと今の言葉を繰り返してきたわね。

そしてその言葉が本当だったと私はここ数年で痛いほどに実感させられた。
私が自らの目指したものの結果、心が深い闇に囚われることになった時に
私をずっと暖かく見守り続け、絶望の淵から助けあげて
さらには再び前に歩みだす後押しをしてくれたのだから。

「だから、来年進学するにしても社会に出るにしても、だ。
  ひょっとするとそのためにこの家を離れる事にもなるかもしれない。
  それでも、瑠璃が自分のために一番だと思う道を選びなさい。
  家族の心配の前に、ね」
「うん……でも」

私が反論を続ける前にお父さんは言葉を重ねてきた。

「日向や珠希も今日は1日大張り切りで頑張っているだろう?」
「え?ええ、そうね」

思い返すと確かに私が今朝方家に帰ってきたときには
二人とも朝ごはんやお弁当の準備をお母さんと一緒にしていた。
遊園地でも、日向は勿論、珠希だっていつも以上にはしゃいでいたし
今まで怖がっていたアトラクションにも積極的にチャレンジしていた。

そして今だって二人ともくたくたに疲れているでしょうに
夕飯の準備に台所で頑張っているものね。2人が何かの目的で
普段以上に頑張っていることは薄々感じてはいたけれど。

「瑠璃がこれから自分たちの心配ばかりしないですむように。
  今まで瑠璃に任せきりになってしまっていたことを
  自分たちでもやっていけるところを見せられるように、とね」
「……そうだったの」
「ああ、だから」

お父さんは一旦言葉を切ると、私の目を正面からじっと見据えてから続けた。

「瑠璃は来年の今日を、自分の目指す場所で迎えられるように
  これからも精一杯頑張りなさい」

そしてにっこりと微笑んでくれた。小さいころ、何かとよく
泣き出してしまうような弱虫だった私を、いつでもその笑顔で
落ち着かせてくれたように。

「……はい、お父さん」

だから私もまっすぐに、お父さんの、家族達の気持ちに応えた。

そして今日がそのために誂えられたのだとようやく理解できた。
例え今日が家族揃って祝える私の最後の誕生日になるとしても
憂いなく自分の目標に向かって進むための橋頭堡とするために。

私はその想いに応えるために、今まで漠然と考えていた通過点を
今まさにこの瞬間から、自らの確固たる目標として心に定めていたわ。

「まあ、俺は可愛い娘がずっと家にいてくれた方が嬉しいんだけどな?」

でも、そんな雰囲気を振り払うようにすぐに戯けて見せるお父さん。
その辺はその昔演劇をやっていたころ、トリックスターの役柄を
得意としていた面目躍如といったところかしらね。

「ふふっ、私もよ、お父さん」

こんな家族の元にずっといられるならどれだけ素敵なことなのかしら。
それも間違いなく私の本心でもあるものね。私は知らず形作った
笑顔を向けながらお父さんに応えていたわ。

ツッコミ待ちだったお父さんはそんな私の返しに
意表を突かれたらしく、二の句を告げないでいる様子だった。

それを見て、思わず今度は声を出しながら笑ってしまう私。
お父さんも頭をかきながらも楽しそうに笑っている。

日向が何事かと台所から覗きにくるまで
五更家の居間はそんな私達二人の笑い声に包まれていたわ。



    *    *    *



「さーて、では本日のメインイベントー!
  バースディケーキの入場です!!」

私の誕生日に合わせて、私の好きなものばかりが並んでいた
夕飯も食べ終わったころ。日向が大きなデコレーションケーキを
乗せたお盆を両手で持ちながら居間に入ってきた。

「えへへ、見てください、姉さま。
  わたしもいっしょうけんめい手伝ったんですよ?」

珠希がケーキのスペースを空けるために、テーブルの上を
片づけながら私に満面の笑顔を向けてくれていた。

「そう。もうケーキ作りのお手伝いができるなんて凄いわ。
  珠希はきっと素敵なお菓子職人さんにもなれるわね」
「はい、わたしももう3年生ですから!」

私は少しばかり立ち上がって珠希へと手を伸ばすと
3年生になっても相変わらずさらさらの頭を優しく撫でた。

「勿論あたしも頑張ったんだからね!どうよ、ルリ姉。この出来栄え!
  もうお店の商品として出しても恥ずかしくないよね!」

日向は自信満々な様子でケーキをテーブルに置いた。

五更家では誕生日やクリスマスは勿論のこと
ケーキが必要なときには大抵私かお母さんが自前で作っている。
なので私が誕生日の時にはお母さんが作るのがお約束なのだけど
今年は日向や珠希も一緒になってお母さんを手伝ってくれていた。

さっきの夕飯でも皮むきや盛り付けなどをはじめ
野菜を刻んだり、スープを煮込んだりと沢山の武勇伝を聞きながら
その2人の腕前をじっくりと堪能させて貰ったわ。

ふふっ、2人とも私の気が付かないうちにこんなに上手になっていたのね。
確かに私が心配するような事はもうないのかもしれない。
それが嬉しくて……ちょっぴり寂しくもあるわね。

「その自信が虚言でないか私が確かめさせてもらうわよ、日向」

ドヤ顔の日向に私も不敵な笑みを返してから
テーブルに置かれた大きなデコレーションケーキを見た私は。

「あ……これって……」

ケーキの上に大きく描かれたイラストに目を奪われていた。
私と日向と珠希が。寄り添いながら満面の笑顔を浮かべているその絵に。

「ええ、前の温泉旅行であなたたち3人で取った写真があったでしょう?
  あれを参考に描いてみたのよ、瑠璃」

全員分の紅茶を入れていたお母さんがそう説明してくれた。

そう、確かにあの時の写真の構図そのままだった。
私が『審判の日』の後に再び囚われかけた心の闇を
家族のみんなが優しく、力強く振り払ってくれたあの時の。

「ほらほら、見てよルリ姉。輪郭はお母さんが描いてくれたんだけど。
  あたしとたまちゃんでピューレやココアで色をつけたんだよ?」
「どうですか、姉さま。きれいにできていますか?」

それはあたかも、私達姉妹がこの先どんなことがあっても
決して離れる事などないのだと雄弁に物語っているように思えた。
お父さんの言うとおり、これからの私の決断の後押しをするために。

「……ええ、ええ……本当に……よく……できている……わ……」

あの時の気持ちを思い出して。そして今日のこの日に私に向けられた
家族みんなの気持ちを改めて受け止めた私は、心の奥から込み上げて来る
熱い塊に言葉を詰まらせてしまっていた。

二人に、家族のみんなに感謝の気持ちを伝えたいのに。
その熱い塊が邪魔をして思ったように言葉が出てこない。
その代わりにと、その熱が目元から次々と溢れ出していく。

そんな情けない姉の姿に二人の大切な妹たちは。

「ほら、ルリ姉笑って笑って。またこのときみたいに記念に写真撮ろうよ」
「そうですよ、姉さま。わたしたちはいつだって姉さまといっしょですから」

日向はいつものようにそんな私を茶化してくるわけではなく。
珠希はいつものようにそんな私を心配気に伺うわけではなく。

慈しみの笑顔を浮かべながら、日向が私の右側から、
珠希が私の正面から寄り添って互いの身体に手を伸ばして抱きしめ合う。
あの時と、この目の前のケーキと同じように。

「……ええ、そうね。ありがとう、日向、珠希。
  ありがとう、お父さん、お母さん」

二人の温もりのおかげか、徐々に落ち着いてきた私は
家族の皆にようやく感謝の言葉を紡ぐことができた。

「それじゃ撮るぞ。ほら、みんな。笑えー」

デジカメを構えるお父さんも。そのすぐ横で私達を見守るお母さんも。
そして私達も、今まさに最高の笑顔を浮かべていることでしょうね。

それはこの先何度誕生日を重ね、其々の人生を進む事になったとしても。
ずっとかわらないものとして胸を張って言うことができる
掛け替えのない家族の『魂の絆』なのだもの、ね。

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