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『光のどけき春の日に』:(直接投稿)

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
和風美人の黒猫にはとっても絵になりそうな
お花見にちなんだSSを投稿させて頂きました。

この話は原作終了からおおよそ1年後にあたる
今現在にあわせた時間設定にしていて
基本的な設定も原作12巻から引き継いでいます。

また拙作『支えてくれる人』からも
話が繋がっているようにもイメージして書いています。

原作後の話なので抵抗のある方もいらっしゃるかもしれませんが
少しでも楽しんで頂ければ幸いです。

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まるで高名な和歌の情景を切り取ったかのような風景が広がっていた。
すでに花の盛りも過ぎた昼下がり。麗らかな日差しに相応しい
微風に吹かれてすら、花弁は御許から別たれて空に舞い上がる。

さながら運命に弄ばれる哀れな子羊たちのように。
無力な輩にはいかな尽力とて志を遂げられる事はないとでもいうように。

……まったく、どうして日の本の民草は
こんな物悲しい物をわざわざ愛でるものなのかしらね……

一面に広がった薄桃色の眺望に見入ったのも束の間、
途端に遣る瀬無さばかりが胸の内を占めてしまい、知れず溜息が漏れた。

まるで……自分自身の運命の縮図を見せられているかのようで。
どんなに追い求めても望むものには届くことはないのだと。
よしんば届いたとてすぐに散り行く宿縁であるのだと。

「おや、どうしたでござるか、黒猫氏。こんな見事な桜景色を
  見ながら溜息とは。せっかくの春の幸せが花弁と一緒に空に逃げまするぞ」

隣に座っていた沙織が目敏くそれを捉えるや
いつものようにその長い腕で私を横から抱きかかえてきた。

少し前までは違和感ばかりだった素顔の時の『バジーナ』としての言動にも
今ではすっかり馴染んで、私はされるがままに沙織の腕の中に納まっていた。

「諸行無常……とでもいうのかしらね。
  永遠の『女王』たる私には甚だ縁も所縁もない情念ではあるけれども」
「そうでござるな。でも時にはそんな気分を愁然と
  味わってみるのも高貴なるものの嗜みでござろう?」

成程、それも道理かもしれない。多くの人間風情が永遠を求めるように
不滅であるが故に苟且なものに恋焦がれるのも、自らの欠けた断片を
埋める行為なのだろう。

そしてその逆も然り。日々の合間に自らの投影を重ね見て
己の宿因を領得せしめるのもまた此の世の天意というもの。

肩口から伝わる温もりに任せて今一度空を見上げる。
先とは変わらぬ花吹雪の中にも不思議と今度は安らぐ心地がしていた。

虚空に乱舞する花弁はただ時の風瀬に揺蕩うだけではなく。

その緩やかな一押しを心待ちにしていたかのようで。
旅立ちの決意を固めながらも離れ難い想いを断ち切る力とするようで。

風を得て頸木から放たれたものが行き着く先は。
それはきっとこの空の如く渺茫たる運命の広がりがあるのだろうから。



    *    *    *



こんな風に人の温かさに包まれながら桜を眺めていると
ついあのときの事を思い出してしまう。
あれからもう1年以上も経つというのに、ね。

今の私は皆に助けられたおかげでこうしていられるのだから。
『新約・運命の記述』を記し、その未来に向かうために。


沙織。私のかけがえのない親友。

闇の宿命と半ば諦念していた孤独の洞から私を引き出してくれた。
『熾天使』との文字通りの熾烈な闘諍を献身的に執り成しに立ち回って。
私達の『神魔の絆』を結える要となってくれたのだから。

ひととせ前の『審判の日』に向けても常に私に力添えてくれたわね。
その羽翼に私が終ぞ応える事が出来なかったのが口惜しいけれど。
あの二人を『理想の世界』に誘えたのはあなたのおかげでもあるわ。

まるで桜の花弁を支え咲誇らせるための雄大な樹幹。
あなたは私たちの運命を暖かな木漏れ日へと誘う『世界樹』なのだものね。


日向。珠希。私の大切な妹たち。

『運命の訣別』の時にも『審判の日』の時にも。
日向は私の悲嘆を分つ為に不甲斐ない姉の慟哭を受け止めてくれた。
珠希は心の張り裂けん痛み故に大切なものがあると再認識させてくれた。

あなたたちの想いに守られて、私は己の罪を贖うために
落ちた深淵の闇にすら囚われずに前に進みだす事ができたのよ。

同じ花托から生じ出でた互いを支えあう同胞。
例えいずれは其々の花弁として空に舞い散ったとしても。
私たちは決して離れぬ『魂の絆』で結ばれているわ。


お父さん、お母さん。私を暖かく見守り続けてくれた両親。

いつでも私の意思を尊重して。いつでも私を護ってくれている。
だから私は『理想の世界』を常に追い求めることができた。
我が身を顧みずに全てを賭した願いに挑むことができた。

それでも私の願いの全てを適えることは出来なかったけれど。
信念を貫き通すことの尊さをお父さんから。
万状を受け入れる鷹揚さをお母さんから。
そして二人の辿った数奇な因果を伝えられて。

私もまた、再び運命に対峙する決意を新たにしたわ。

それが桜の花が如く芽吹いては咲き、また散り行く儚いものだとしても。
幾星霜に変わらない想いと。次代にこそ至る宿望を抱き続けて。
頓ては掴みとる真の『理想の世界』のために。



    *    *    *



「二人とも場所取りごくろーさん、ってあんたたち、なにやってんのよ……」

しばしそのまま桜景色を沁々と眺めていた私と沙織に
ようやくこの場にやってきた桐乃が呆れた様子で声をかけてきた。

「おおー、これはきりりん氏と京介氏。なに、お二人を待つ傍ら
  見事な桜に見惚れつつ、黒猫氏とねんごろになっていたでござるよ」
「人聞きの悪い言い方はやめて頂戴。いつもの沙織の悪い癖が出ていただけよ」

私は肩をすくめて両手を上にあげ、身振りでやれやれと主張する。
本心では心地よかったのだろう、ですって?
憶測でも滅多な事を言う下賤の輩には、今すぐ魔王の呪いが降り注ぐわよ?

「ま、瑠璃は抱き心地いいもんねー。
  腕にすっぽり収まる感じだし、柔らかくてあったかいし」
「な、ななな何を言い出すのよ、あなたは……」
「おおーさすがきりりん氏。既にその真理に到達していようとは!
  やはり黒猫氏は皆で共有して愛でなければならないでござるな」

沙織はますます抱きしめる力を強めて私を胸元まで引き寄せる。
どうして私は相変わらず愛玩動物扱いなのよ……

『黒猫』の銘を関するとはいえ、私は誇り高き『夜魔の女王』なのよ?
まったく出会ってからというもの、不遜以外のなにものでもないわね、
この『熾天使』と『巨神』は。

「確かに黒猫はすっげー軽くてふわってしてるしなぁ。
  黒猫が倒れておんぶしたときは、背中がえらい暖かくて気持ちよかったぜ」
「あ、あのときのことは今すぐ忘れなさい!」

あろうことかこの責め苦に先輩までが同調して相槌を打ってきた。
そ、そんなセクハラまがいのことをどうして真顔で言ってるのよ、あなたは!

私の抗議の声があがったと同時に、電光の速度で振り返った桐乃が
ハードル選手のような見事なフォームの横蹴りを繰り出していた。
二人ともスーパーのビニール袋で両手が塞がっていたのだけれど
そんなことでは『熾天使』の攻撃力は衰えはしなかったようね……

かたや両手がふさがれていて、防御することすら
ままならなかった先輩は、まともに水月にその蹴りを受けてしまい。
情けないうめき声とともにその場に崩れ落ちていた。

「……お、おま……ビンも持ってるんだから、少しは手加減しろよ……」
「はぁ!?いたいけな女の子を恥ずかしがらせて
  喜んでるような変態には当然の報いだってーの!!」

文字通りの鬼の形相で吐き捨てる桐乃。
ま、まあ私のために怒ってくれた分は感謝するけれども。
さすがに無防備な相手の急所への本気の蹴りはやりすぎではないかしら?

それにまあ。あなたの本心はまた別のところにあるのでしょうしね?

「まあまあ、きりりん氏。京介氏の鈍いところはいつものこと。
  それよりもお二人とも飲み物の調達、お疲れ様でござるよ」

沙織の執り成しでなんとか桐乃をなだめている合間に
私は先輩に近づいて様子を伺った。

「ほら、もう袋から手を離してもいいわよ。
  この状態で飲み物を落とさなかったのは褒めてあげるけれど
  これに懲りたらもう少し頭も働かせてから発言することね?」
「……お、おう……気を付けるよ……」

片方ずつ先輩から飲み物の袋を受け取って、広げたシートの上にそっと置く。
両手がフリーになったとたん、先輩はお腹を押さえて
プルプルと震えながらしばらくしゃがみこんでいた。

さすがに場所が場所だけに直接な手当てはできないけれど。
少しでも痛みが楽になるように、と背中に手を当てて擦ってみた。

改めてみると……男の人の背中は本当に大きいものよね。
大学生活を過ごしたためなのか、高校の時よりもまた一回り
大きくなった気がする。それこそ先輩に背負われたそのときよりも。
身長はほとんど変わっていない筈なのに、ね。

まあ、昨年あなたが大学生に、そして桐乃が高校生になってからも
それまで以上に大変で問題だらけの日々が繰り返されていたものね。
それに振り回されていれば嫌でも逞しくなっていくというものかしら?

そもそも私だって予想外に桐乃が高校の後輩になったおかげで
転校してからの静かな高校生活が嘘のように騒がしい毎日を送っている。

まったく、予想通りに付き合ったかと思えば期間限定ですぐに別れて。
海外行きを取りやめたと思ったら私と同じ高校に進学してくるなんて。
どれだけあなたは私を振り回してくれれば気が済むというのよ。

「ったく、いつまで情けない姿してんのよ、アンタは。
  みんな揃ったんだから早いところお花見始めるわよ」
「……へいへい、わかってるって。黒猫、もう大丈夫だ、ありがとうな」

まだ痛みで顔をしかめながらも先輩は私になんとか笑って見せていた。
その笑顔に内心どきりとしながらも、ポーカーフェイスを崩さないように
『マスケラ』を被りながら頷くと、私は自分の荷物が置いてある場所に戻る。

そして家からタッパーに詰めて持ってきた料理を並べる。
その間に、桐乃と先輩がみんなのコップにジュースを注いで配り
沙織は小皿や食器をそれぞれに受け渡していた。

「わぁ、相変わらず瑠璃のご飯おいしそうだよねー
  あたしの頼んでたの忘れずに作ってきてくれた?」
「そんなに心配しないでもしっかり入れてあるから少しは落ち着きなさい」

身を乗り出してタッパーの中を覗きこむ桐乃を嗜める。
この1年、陸上大会の応援や学校行事で何かと桐乃のお弁当を作る機会が
あったのだけど、おかげですっかり餌付けしてしまったように思うわね……

な、なにもそれも計画通り!とか思っているわけじゃないのよ?
そんな『新世界の神』のような言いがかりをつけるのはやめて頂戴。

「それでは『オタクっ娘あつまれー』のお花見を始めましょうぞ!
  残念ながらメンバー全員は揃わなかったでござるが今年の桜を
  目一杯堪能しつつ、来年もまたこの場を設けられることを願って!
  かんぱーい!!」
「「「かんぱーーーい!!」」」

皆で声を揃えて乾杯の声を上げた。
きっと今日もいつものように騒がしくも楽しい一日になるのだろう。
そう思うだけで口元に浮かぶ笑みを抑えきれなくなってしまう。

「そうそう、あんたもこの前出た『電撃文庫格闘』やった?
  あたしは智花ちゃんでやってるんだけど、小学生は最高だよね!
  もう動かしてるだけでうはーってなっちゃう!声もちょーかわいいし」
「……対戦台で奇声を上げるようなマネはみっともないからやめなさいよ?
  まああのゲームの場合、キャラ萌えの濃いマニア層も多いのでしょうけど。
  でも真面目にやり込む気があるなら、せめてまともに対戦できるまで
  この私が手ずから鍛えてあげるから覚悟しておきなさい」
「おおーいいですな、ではこのお花見が終わったら
  早速その足でみんなでプレイしにいきましょうぞ!」
「おいおい、まだ花見は始まったばっかりだぜ?
  今は桜をゆっくり楽しもうぜ。黒猫の料理も相変わらず旨いしな」

そう、結局。今までなにがあっても。そしてこれから何があるとしても。

私はみんなでこうしているのが楽しくて仕方がないのだものね。

だから感傷に浸る気持ちを振り払って、今日を思いっきり楽しもう。

例え舞散ることを宿命付けられているのだとしても。
こんなにも今という時に見事に咲き誇っているこの桜の花たちのように、ね。

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