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『すべてが夢でも忘れられない』:(アップローダー投稿))

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匿名ユーザー

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二月十四日。
その日の千葉市は南海上からの低気圧に覆われ、あいにくのみぞれ交じりの雨模様であった。
その冷たい雨の中、セーラー服とコートに身を包んだ少女が一人、路上に佇んでいた。
手にした鞄の中に、きれいにラッピングされたチョコレートを入れて。
本当はこれを持って、かつてはよく訪れたあの家を、あの人のもとを再び訪ねるつもりだった。
もし彼が驚いたり、たじろいだりする様を見せるのであれば『あら、あなたの妹は私の友人よ。
友人の家に遊びに行くのは普通のことなのではないのかしら?』と、そして、チョコレートを
渡す様にいらだちを見せるであろうあの子には『お世話になった先輩だし、友達のお兄さんだし、
バレンタインデーにチョコレートくらいあげるのは普通のことでしょう?』と煙に巻き、
からかってやろうと思っていた。
それが、自分達のいつもの関係だったのだから。
だが、できるはずもなかった。
行けば、あの二人を、二人の仲睦まじい姿を、以前とは質の異なる仲睦まじさを見なくてはならない。
そうしてしまえば、否が応でも自分の心をもう一度見返さなければならなくなる。
親友はずっと胸に秘めていた想いを成就させ、愛した人は自分の心に正直となり、二人は幸せを得た。
そして自分は、二人のそばでそれを見守っていられる。
そんな思いが、自分と彼ら、そしてもう一人の大事な人との関係をつなぎ止める思いが綻んでしまう。
だから、ここに来た。
来てしまった。
あの人との思い出の場所であり、あの人がもう二度と現れないであろうこの場所、かつて自分が足繁く
訪れたアパートへと。

降りしきる雨の中、あの人が住んでいた部屋の窓を見上げる。
そうしていると、恋敵と争った後、あの人が自分に告げた言葉を思い出す。
あの人が、どんな思いでその言葉を口にしたのか、それはもうわからない。
だが、その時自分は、あの人の心が自分から離れていくことを感じながらも、それでもなお、
その言葉にすがり、待った。
十二月二十日、半ば予感していた別れを告げられるその時まで。
そうだ、あの日も雨が降っていた、と思う。
そこで、雨と一緒に涙は流し尽くしたはず。
だからこそ、自分は数日後、あの人の背中をもう一度押すことができたのだから。
そう思おうとしても、瞳の奥から溢れ出る熱いものは止められない。
視界に映るあの人の窓が歪む。
歪んだ窓が、あの日、帰り道で見上げたそれと重なって見える。
部屋にいるはずのないあの人が、窓から自分を見つけてくれる。
自分を迎え入れ、選んでくれる。
あるはずのない光景を夢想し、そんな夢想をしてしまうことを自嘲しながら、少女はアパートの窓を
見つめ続けた。

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