名前のない人々

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名前のない人々 ◆qbc1IKAIXA



「こんなのありえない……」
 草加は鹿目まどかのつぶやきを耳にした。
 二つのふさにまとめられた髪型。幼く可愛らしい小顔。
 背丈が低く、小動物のような印象を与えている。
 昔から想っていた幼なじみを彷彿させる要素はどこにもない。しいて言えば声だろうか。
 一瞬だけ真理を重ねたのは気のせいだろうと結論つける。


 ここは休憩用に見つけた民家である。夜道に慣れていないまどかを休ませるため、というのは表向きの理由だ。
 草加は真理を心配しているとはいえ、闇雲に探しに向かうほど愚かではない。
 現状を把握し、周りを警戒して、効率よく真理にたどり着く道筋を探す。
 現状はあまりにも情報が足りない。よって、自分のために息を潜める選択をしたのだ。
「杏子ちゃんも、さやかちゃんも、マミさんも……生きているはずはないのにッ!」
 まどかは語気が荒くなり、余裕をなくしていく。もともと追い詰められていたが、名簿の確認によって拍車がかかったようだ。
 放っておくのも面倒だ。草加の判断は早かった。
「まどかちゃん、落ち着いてゆっくり深呼吸をするんだ」
「で、でも……ッ!」
「いいから。まずは落ち着くことから始めないとね」
 爽やかな笑顔を浮かべ、まどかを落ち着かせる。優等生の仮面はつけ慣れていた。
 年下の少女を自分の都合のいい方へ誘導するなど、木場勇治を騙すことより簡単である。
 彼女は素直に深呼吸をしていた。単純だが現状だと頼るべき相手は自分くらいしかいないのだろう。
 ますます好都合だ。
 五回目の深呼吸をまどかが済ませたころ、草加は優しげな声をかけた。
「落ち着いたかい?」
「はい、なんとか……。でも、マミさんも、さやかちゃんも、杏子ちゃんも本当は死んでいるはずなんです。
この儀式に巻き込まれただなんて、絶対おかしい……」
「死人が蘇るか。まどかちゃんはそういう噂を聞いたことはないかな?」
 「噂?」とまどかは可愛らしく首をかしげた。
 死人がよみがえる現象は、草加にとって好ましい現象ではない。
 そう、それは――
「ここのところ、死人が怪物の能力と心を持って蘇る事件が発生しているんだ。
奴らは生前と変わらない生活を送りながらも、バケモノとして人を襲う薄汚い連中だ。
それがさっきも話したオルフェノクの正体。つまり、連中は死人がバケモノにされた存在なんだ」
「オルフェノク……待ってください! 草加さんはさやかちゃんたちがオルフェノクになったと言うんですか?」
「残念なことだが、その可能性が高い。生前と変わらないふりをするかもしれないが、騙されてはいけない。
奴らに人間の心は残っていないのだから」
 草加が断言しても、彼女は納得しきれていない。
 当然ではある。知り合いが自分を襲った怪物と同等の存在になったと聞かされたのだ。
 だが、まどかが草加の話を否定するのは別の理由があった。
 ゆえに、このときの会話を彼は後に感謝することになる。
「それは――ありえません。だって……だって……」
 まどかは大きく息を飲み、瞳を揺らしながら草加を正面に捉えた。

「みんな、キュゥべぇに騙されて、死人同然の魔法少女にされたもの!
もう一回生き返って……バケモノにされるなんてそんなのないよ……」

 草加は似つかわしくない単語の組み合わせに眉をひそめた。
 魔法少女など馬鹿らしいが、彼女のような年頃で夢見がちなら口にしてもおかしくはない。
 しかし、そこにオルフェノクのような『死人同然』という単語が絡んでいた。
 興味ないし放っておくことも選択肢に入れたが、すぐに考えなおす。
 情報が足りないと認識したばかりだ。それにこの刺青のこともある。
 どんな些細な情報でも貴重であるため、流すわけにはいかない。涙をためる彼女に近寄り、白いハンカチを差し出す。
「大丈夫、俺は味方だ。涙を拭いて、落ち着いたら話してくれないかな?」
「あ……ご、ごめんなさい……」
「気にすることはないさ。それに俺が年上だからってあらたまって話す必要はない。自然なままで構わないよ」
「はい、わかりまし……わかった」
 まどかは感謝するようにハンカチを受け取り、涙を吹きながら身の上を語った。

 魔女と魔法少女の戦いに巻き込まれたこと。
 華やかな魔法少女の力と、影である魔女の成り立ち。
 キュゥべえという理解不能な生物の理不尽な要求。
 魔法少女たちが立ち向かわなければならない『ワルプルギスの夜』の絶望感。

 すべてを聞いた草加はさすがに情報の処理に困った。
 彼女の友人たちがオルフェノクである可能性はたしかに低くなる。
 彼女はぼかしていたが、魔法少女はいわゆるゾンビに近い。
 魂が遠隔操作するラジコンといったところか。
 さすがのオルフェノクも、魂のない死体を怪物と化すのは不可能だろう。

 ただし、彼女の話が本当なら。
 草加としては貴重な情報だが、鵜呑みにするには危険なものだった。
 まどかは少々夢見がちな少女に見える。
 何かしら強いショックを受け、現実に耐えられず創りだした妄想、という可能性も捨てきれない。
 少し思案し、乱暴でリスクがあるが確実にオルフェノクかどうか確かめる手段を使うことにした。
「そうか……君も苦労したようだ」
「いえ、辛かったのはわたしより、マミさんやほむらちゃんだから。
だから、もしみんな生き返っているなら……ちゃんと確かめたい」
「安心していい。まずは俺が対応する。オルフェノクかどうか確かめる手段があるからね。
それにオルフェノクになる以外で死者が蘇ることは心当たりあるんだ。
むしろそっちの可能性が高いかもしれない」
「本当!?」
 まどかが目を輝かせてきた。
 草加にとってあまりいい思い出がない方法だ。むしろ最悪だと言っていい。
 不快感が込みあげるが表には出さない。ただ、手が気になってウェットティッシュで拭き始めた。
「ああ。そのことに関して今は詳しくは話せないが、可能性はある」
 だから希望を持とう、と草加は締めくくった。
 素直に従うまどかを観察しながら、地図に目を通した。
 気になる施設が一つある。少し遠いが次の目的地としてちょうどいい。
 そう結論つけたときだった。

 建物が倒壊する轟音が聞こえ、スマートブレイン本社が崩れ去るのを目撃したのは。


 周囲を警戒しながらも、草加はまどかを連れて外に出た。
 街の中央にそびえていたスマートブレイン本社が跡形もなく崩れている。
 憎いオルフェノクの象徴であるため、正直胸がスッとした。
 だが、個人的感情に流されるわけにはいかない。
 これはまずい状況である。スマートブレイン社はかなり大きい。
 そのビルを破壊できるほどの力を持つものか、支給品を持った参加者がいるのだ。
 さらに真理が巻き込まれているかどうかも心配だが、ここも安全ではない以上離れるのが常套手段となる。
 まどかという足手まといを伴って向かうのは危険だからだ。
 しかし、あちらで真理の安否を確認はしたい。離れるか、向かうか、どちらかはすぐに決めねば。
 ぐずぐすしている暇はない。草加は決断の時を迫られていた。
「おお……派手に壊れてんなー」
 物見山な少女の声がやけに大きく響く。
 イラッとくる態度だ。乱暴に草加が振り向いたとき、声は意外なところから上がる。
「杏子……ちゃん……?」
「おう。なんか死にぞこなったらしい」
 タハハ、と引きつった笑顔で、杏子と呼ばれた少女は頬をかいている。
 続けて現れた厳つい中年男性が杏子とまどかの談笑を目撃し、「知り合いか?」と訪ねていた。
 年季を感じさせる佇まいから、鍛えていることを察する。
 少なくとも一般人ではないだろう。しかし、人は良さそうだ。ちょろい。
 それはさておき、まどかは彼女自身の知り合いにあったようだ。
 当の本人は驚きのあまり、ぼーっと杏子を見つめているだけだったが。
 約束もあるので、仕方ないと間に割って入る。
「なんだてめえ?」
「俺は草加雅人、通りすがりの大学生さ」
「杏子ちゃん、草加さんはわたしを助けてくれたの。だからいい人だよ」
「まどかちゃん、ちょっといいかな? 君、杏子ちゃんだっけ?」
「お前にちゃん付けで呼ばれたくねぇよ」
 つんけんした態度に内心『使えない』と判断する。この手の人間は見たことがあった。
 乾巧と同じく、自分を好きにならないタイプ。いつか始末したほうが無難だろう。
 もっとも、今手を出すわけにはいかない。ひとまず、まどかの信頼をより深めたほうがいい。
 そう判断して、草加はファイズドライバーを彼女に押し付けた。
「あん?」
「こいつを巻いて携帯電話の五を三回押してから、中央にセットしてくれないかな?」
「おい、なんでそんなことをする必要が……」
「杏子ちゃん、草加さんを信頼して。きっと、悪いようにはならないと思う」
 まどかの後押しもあって、杏子が黙る。
 草加は続けて後ろにいる中年男性へと指示を出すことにした。
「あの、すみませんがアナタはもう少し左に移動してくれませんか?」
「構わないが……なにをするつもりだね?」
「すぐにわかります」
 短く切って、杏子へとさらに押し付ける。鬱陶しそうに杏子は受け取り、こちらの言うとおりにした。

 草加は知らないが、普段の杏子なら意地でもこちらの指示に従わない。
 まどかとの付き合いが短いというのもあるが、どこかほむらを思い出させる草加は敵対対象である。
 しかし、今の彼女は意地を張る気力もない。
 何も考えずにベルトを受け取り、腰に巻き付けた。

 草加は相手が受け取ったのを確認して、悟られないように動く準備をする。
 ボタンのプッシュ音が響き、彼女は面倒そうに中央へと差し込んだ。
「これでいいの……うわっ!」
 エラーの電子音が高らかに鳴り響く。杏子は悲鳴をあげて、ベルトが弾かれた。
 草加は飛んでくるベルトを回収し、杏子は予め指示した位置にいた男が受け止めた。
 唖然とするまどかをよそに、草加は相手がオルフェノクではないと理解した。
 もっとも、納得しているのは草加ひとりのみ。杏子は立ち上がり姿を一瞬で変えた。
 しかし、文字通り変身する彼にとっては、杏子のそれは変身というより着替えに近い。
「てめえ、なにしやがる!」
 まどかが止める暇もなく、杏子はフリルのついたスカートを翻して槍を突き出してきた。
 自分が「変身」とつぶやいたのは一瞬のこと。赤いブラッドラインを体に巡らせて、草加からファイズへと変わった。
 杏子の槍をあっさりと受け止めて、力を流す。
 もともと本気で突き殺すつもりはなかったのだろう。軽い。
「その姿はいったい? それに君もその力は……」
「おっさんは黙っていな。少しは楽しめそうじゃん!」
 杏子が距離を取り、男が驚愕の表情でこちらを見る。
 草加はまどかが静止の叫びを上げそうだと認識して、変身を解いた。
「なんのつもりだ、おい?」
「危険な目に遭わせたのは謝罪する。だけど、こちらにも事情があったんだ」
「うるせぇ! こっちは収まりがつかないんだ。さっさと変身しなお……」
「杏子ちゃん、お願いだから話を聞いてあげて! 草加さん、わたしもどういう事か知りたいです」
 杏子は舌打ちをしながら、槍を下ろした。変身を解かないのは当然だろう。
 草加は頷いて、一歩前に出る。
「まどかちゃん、これがオルフェノクかどうか確かめる手段なんだ」
「え……どういうことですか?」
 杏子と中年男性がついていけず、疑問符を浮かべるがひとまずおいておく。
「このベルトで変身できるのはオルフェノクか……」
 草加はわざと悲壮な表情を作った。
 同情心を集めておくことに越したことはない。
 それに、これから告げる話は心の底に深く突き刺さる事実でもある。

「俺のように改造された人間のどちらかしかいないんだ」

 まどかがハッと表情を変える。
 あまり他人に言いたくない事実だが、現状を丸く収めるにはこの話しかないだろう。
 草加は多少怒りを覚えながら、オルフェノクについて杏子たちに簡単な説明をした。


 真実は多少異なる。
 正確にはオルフェノクの因子を植えつけられ、適応した人間が人のままベルトを使える。
 改造人間と説明した理由は、『魔法少女』という物語に憧れるまどかがいたからだ。
 魔法少女がいるのなら、『改造人間のヒーロー』がいても不思議ではない。
 少なくとも、まどかはそう思うだろう。
「じゃあ、アタシがそのオルフェノクかどうかって試すためにああしたわけか」
「その通りさ。ファイズになったとしても、すぐに奪い返せるよう準備はしたしね」
「ケッ、気に入らねえ」
 杏子はふてくされ、こちらを睨みつけた。
 女子中学生の眼光など痛くも痒くもない。
 華麗にスルーしたまま、夜神総一郎へ向き直る。
「俺が話した事情はこれですべてです。この儀式の名簿にも何人かオルフェノクが存在する。
あなた方も気をつけたほうがいい」
「ああ、理解した。こちらもキラ事件で超常現象を体験したばかりだ。
オルフェノクなどという存在が影にいたとしても、何ら不思議ではない。
ただ、私は警察にいたが黄泉がえりなど聞いたことがない」
「俺もそこは不思議に思っていました。普通に証拠を持って警察に訴えても無視されます。
いや、無視ならまだいい。警察が俺たちを追い回し、敵に回った時もありました」
「……警察にも手を回している存在がいるということか。
『俺』たちは法の番人。その象徴である警察に手を出すなら、何としても追い出してやる」
 自分の吐いた嘘を聞き、総一郎の声は怒りに震えていた。
 草加は予想通りお人好しだと確認でき、しずかにほくそ笑む。

 これまた草加が知らないことだが、夜神総一郎は超常現象を起こした殺人犯が対策本部に潜り込む、ということを経験している。
 しかも犯人は彼の息子だった。その時に理不尽さ、無情さ、命が失っていくさまをこれでもかと突きつけられた。
 だからだろう。警察を利用する何者かに怒りを燃やし、いつもの彼に戻るのは自然であった。

「ここから脱出したのなら、必ず手を打てるよう検討しよう」
 対応は柔軟であったが、草加は警察らしい物言いに内心苦笑した。
 さて、ここからが本題だ。
「ところで、園田真理という女性を見かけませんでしたか?」
「すまない。私は彼女とある映画を見ていてな」
「そうですか」
 使えないな、と内心見下す。再びスマートブレイン社によるべきか判断に迷った。
 もしも彼女になにかあったら、と思うと気が気でない。
 河原で母を見失った草加にとって彼女は光なのだ。
 安心すべき居場所。自分を理解してくれる女性。
 彼女だけは何としても救う。手段を選ぶつもりはない。
 結局、自分が動くしかない。
「まどかちゃん、夜神さんたちとしばらくここで隠れていてくれないか?」
「……真理さんを捜したいの?」
「ああ、彼女は俺が守らないといけない。多少危険でも、あそこの様子は見ておかないと」
 草加は視線をスマートブレイン社跡地へ向けた。
 囮としてまどかを使えないのはもったいないが、それはそれで別にいい。
 なにより優先すべき存在が他にいるからだ。
「そういうことですので、まどかちゃんをしばらくお願いします。確かめしだい、こちらに戻りますので」
「そういう事情ならしかたな……」
「お断りだね」
 草加の提案を却下したのは、まどかの知人であるはずの杏子だった。
 少し前までの無気力はどこにやら。杏子は草加に吹っ飛ばされた怒りからか、いつもの調子に戻っていた。
「佐倉くん、鹿目くんは君の友人ではなかったのか?」
「それとこれは別だ。だいいち、まどかはアタシの目的のために協力してもらっただけだ。友だちってガラでもねぇ」
「杏子ちゃん!」
 ひらひらと片手を振る杏子はシニカルな態度を崩さない。
 そして、続けてでた言葉は聞き逃せるものではなかった。
「アタシはあんたと違って、草加を信用できない。キザっぽい態度が鼻につくんだよ」
 やはりこいつは始末しておくべき人間の一人だ。
 乾巧といい、この少女といい馬の合わない連中は自分を排除しようとする。
 それどころか真理に取り入り、彼女を自分から奪っていくのだ。
 杏子と真理を会わせてはならない。優しい彼女は、きっと無粋な少女にも心を許すだろう。
「杏子ちゃん、そんな!」
「黙ってな。だいたい、まどかを最初に守ってくれたのはあんただろ? だから最後まで責任持てよ、ヒーロー」
「俺は最初からそのつもりだ。だが、その前に……」
「前も後もくそもあるか。とっととまどかを連れてこっから離れろって」
 ニィ、っと彼女が生気に満ちた笑顔を見せる。

「あっちにはアタシが行ってやるよ。ヒーローとの戦いが中途半端でくすぶってんだ。
真理って奴を見かけたら、よろしくいってやる」

 そう言って杏子は足取りを、ビルが存在していた場所へと向けた。
 なるほど、まどかは彼女にとっても大切な存在のようだ。
 しかし、もしも真理がいたら先に接触してしまう。それは好ましくないが、これはこれで合理的だ。
 草加はしぶしぶ納得した。
「佐倉くん、待ちたまえ。合流場所を決めておかないと、真理という少女に接触できたとしても意味がないぞ」
「ああ……そういう面倒くさいことはおっさんに任せるよ。どうせ付いてくるんだろ? こっちで待っているからさ」
 杏子は言葉通り、総一郎を待つことにしたようだ。
 対して総一郎は気難しい娘を持った父親のように、ため息をついた。
「向こうは彼女と私が向かう。合流場所はどうする?」
「そうですね……」
 草加は地図を開き、デバイスの現在位置と比べながらあたりをつけた。
 最初にその施設を目にした時から決めていた場所だ。
「少し距離がありますが、流星塾を合流場所にしましょう。ここなら俺の仲間たちも向かうはずです。
なにもない、もしくは真理か俺の仲間を見つけたらここに向かってください。
俺の仲間は園田真理、菊地啓太郎、乾巧です。ただ、乾巧には気をつけてください。
奴は俺や仲間たちを利用しているかもしれない危険人物です。決して気を許しちゃいけない」
「了解した。しかし、期限はいつまでにする?」
「期限は二回目の放送まで。ただし俺とまどかちゃんのどちらかが呼ばれたら、近寄らないようにしてください。
もっとも、彼女は俺が命にかえても守りますが」
「……ああ」
 総一郎は感慨深げに返事をした。
 少し不審に思って顔を見つめていると、向こうも己の態度に気づいたらしい。
「心配かけてしまった。君と話をしていると息子を思い出してしまってな……。
年が近いだけなのに、まいったよ」
「息子さんですか?」
「良い息子だったよ。あんな事件で、あんなものさえ拾わなければ……いや、気にしないでくれ」
 そう言って総一郎はすべての決定事項をこちらに復唱し、杏子の元へと向かっていった。
 身の上話はあまりしたくないだろう。されても付き合う気はないが。
「それともう一つ。カイザギアに注意してください」
「カイザギア?」
「このファイズと同じ変身ツールです。こちらは誰でも変身できますが……俺やオルフェノク以外は死んでしまいます。
多くの仲間が命を落としました」
「なんと……」
「見つけたら俺に渡すまでは手を出さないでください。ファイズより付き合いの長いベルトですので、俺なら性能を引き出せます」
「えっ、草加さんはファイズとして戦っていたんじゃ……」
 まどかの疑問に対し、用意していた回答をする。
「ああ、少し前にカイザベルトを手放してしまってね。ここ数日はファイズベルトを借りていたんだ」
「そうだったんですか……」
 彼女はあっさりと納得した。確認後、草加は総一郎に向き直る。
 これでお別れだ。生きて再会できるかは、別の話である。
「それでは草加くん、鹿目くん。お互いに生きて会おう」
 草加とまどかは総一郎の言葉に返事をする。
 杏子はツンとそっぽを向いたままだ。正直どうでもいい。
 後ろ髪を引かれる思いであろうまどかを連れて、草加はその場を離れようとした。
「おい、まどか」
 杏子がまどかに振り向いて、とびっきりの笑顔を向ける。

「そっちが先にさやかに会ったら任せる!」

 それっきり、総一郎を伴って杏子も離れ始めた。
 どこか早足なのは気のせいではないだろう。
 まどかは嬉しそうに小さな手をめいっぱい振った。

「杏子ちゃんもきをつけてー!」

 ぴょんぴょん跳ねて返事をするまどかは、人によっては愛らしいと感じただろう。
 口にするほど空気が読めないわけじゃないが、草加には余計な行動にしかみえない。
 ふと、乾巧なら遠慮なく余計なことを言っただろう、と思った。
 そういうところだけは羨ましい。
「草加さん、ひとついい?」
「構わないよ」
「真理さんって、草加さんとどういう関係なの?」


「オルフェノク……死者の復活……」
「おっさん、どうした?」
 「いや」とだけ杏子に返し、総一郎は名簿を広げたまま彼女に並んだ。
 杏子は最初怪訝に思っていたが、すぐに興味をなくして前を向く。
 総一郎はオルフェノクの存在を知って、もう一つ不安要素が増えた。

 もしかして、大量殺人犯であるキラ【息子】が復活したのではないか。
 最愛であり、間違った道に進ませてしまった息子【キラ】がまた目の前に現れるのではないか。
 しかも今度は、文字通り化け物となって。
 もっとも、杏子のように人間のまま蘇生した可能性があるが、その場合はキラという大量殺人犯だ。
 どの道、息子とは敵対する運命である。

 失念していた、と後悔する。キラのことを草加たちに伝えなかったのは、こちらのミスだ。
 ならば、と総一郎は静かに覚悟した。
 今度はLの手で殺すのではなく、自分の手で息子を逮捕することを。
 息子が彼らに出会う前に、決着をつけれるよう祈った。



【D-3/住宅街/一日目 黎明】

【仮面少女・草加☆まどか】

【草加雅人@仮面ライダー555】
[状態]:健康
[装備]:ファイズギア@仮面ライダー555(変身解除中)
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本:園田真理の保護を最優先。儀式からの脱出
1:真理を探す。ついでにまどかに有る程度、協力してやっても良い
2:オルフェノクは優先的に殲滅する
3:流星塾に向かう
4:佐倉杏子はいずれ抹殺する
[備考]
※明確な参戦時期は不明ですが、少なくとも木場の社長就任前です


【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:擦り傷が少々
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0~3(確認済み)
[思考・状況]
1:草加と行動を共にする
2:杏子、さやか、マミ、ほむらと再会したい
3:草加さんは信用できる人みたいだ
4:乾巧って人は…怖い人らしい
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆~ワルプルギスの夜出現の間からの参戦


【杏子ちゃんをあんあんし隊】

【佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、ストレス少々
[装備]:羊羹(1/2)印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入@現実
[道具]:印籠杉箱入 大棹羊羹 5本入×4@現実、不明支給品1(本人未確認)
[思考・状況]
基本:とりあえずビルが崩れたところへ
1:気合入った。さやかを見つけたらなんとかする
2:真理を見つけたら草加たちのことを一応伝える
3:ストレス解消に暴れたい
[備考]
※参戦時期は9話終了後です


【夜神総一郎@DEATH NOTE(映画)】
[状態]:健康
[装備]:羊羹(2/3)羊羹切り
[道具]:天保十二年のシェイクスピア [DVD]@現実、不明支給品1(本人未確認)
[思考・状況]
基本:休んでいる暇はない。ビルの跡地へ向かう。
1:警察官として民間人の保護。
2:真理を見つけ、保護する。
3:約束の時間に草加たちと合流する。
4:月が蘇ったのなら、犯罪者として対処する。
5:折を見て、杏子や草加たちにキラ=夜神月のことを伝える。
[備考]
※参戦時期は後編終了後です


036:The Third 投下順に読む 038:反抗
時系列順に読む
008:草加雅人なら大丈夫♪ 草加雅人 052:思い思いの重い想い
鹿目まどか
014:終人たちのプロローグ 佐倉杏子 050:ロスト・ワールド
夜神総一郎


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