その理想は誰がために-Justiφ's

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その理想は誰がために-Justiφ's ◆Z9iNYeY9a2



「真理ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」

どこにそんな力が残っていたのか。
自分に食いつく使い魔の腕を引きちぎり、頭を叩き潰し。

そのまま疾走態の脚で真理の元へと跳んで、使い魔の頭を両手に掴み叩き付けた。

真理と巧の二人の周辺で動く者はいなくなった。
いや、正確にはこの場で動くのは巧だけだった。

真理は背中から心臓を狙うように槍を突き刺され、腹部にはメイスを叩き付けられて。
既にその息はなかった。

「真理、真理!!!」

そんな事実など知った事か、と巧は真理を呼び続ける。
しかし息絶えた彼女が返事をすることなどない。

「―――――――」

園田真理は死んだ。
それはもう、まぎれもない事実。

「…何でだよ」

それを受け入れた時、巧の中に大きな喪失感が生まれていた。
この感情は一度味わったものだった。
澤田に真理を殺された時に味わった感覚。


あの時と同じだ。
また、守れなかった。

「……何でだよ…」

そう、また守れなかった。

啓太郎の、士郎の時と同じ。
そしてきっと、マミも同じ。

「何で、こうなっちまうんだよ…!」

守ろうとしたものは全て手の中からすり抜けるように消えていく。

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

やりきれぬ思いに絶叫する巧。
巧の心を覆い尽くすように闇が生まれてきて―――――



「ゲコッ」

その耳におかしな音が届いた。
思わずその方に目をやると、紫色の変な生物が、巧と動かなくなった真理を見つめていた。

「…何なんだよお前」

思わずそう問いかける巧。

「…間に、合わなかったか」

そんな巧に目の前に、一人の男が現れた。
帽子を被った長身で薄緑色の髪をした男。

「………何だよ、お前は」
「君が乾巧、だね。初めまして、僕はN。
 ほんの少しの間だけどマリとは一緒に行動させてもらっていた」

無念そうに瞳を下げながらもそう名乗ったN。
しかし巧はまともに取り合う気など生まれなかった。

「……で、何しにきたんだよ。こんなところまでいちいち」
「…一つはマリを助けにきた。だけどそれは達成できなかったね。
 そしてもう一つ。乾巧、君に会ってみたかったんだ。マリが言っていた、『闇を切り裂き光をもたらす救世主』という男がどういうものなのか、ね」
「残念だがそんなものここにはいねえよ。いるのはこんな化け物だけだ」

自嘲するようにそう自分を呼ぶ巧。
今は誰の相手をする気も起きない。ただ、一人になりたかった。

「確かに君は僕の思っていた人間とは印象が違う。
 だけど、それはまだ君自身に覚悟が足りないからじゃないかな?」
「…今更どうしろって言うんだよ。俺は何も守れなかった!!
 啓太郎も、士郎も、マミも、真理も!!」

怒りでそう叫ぶ巧。
もう失望されたかった。誰にも期待などされたくなかった。
救世主だの、ファイズだの、そんなふうに思われたくなどなかった。

いっそ、このまま見捨てていってくれればよかった。


「……一つ聞かせてくれ。なら君は、あそこでまだ戦っている一人の戦士を見捨てて、そこでずっとそうしているつもりなのかい?」
「…………」

そう言われて顔を上げる巧。
そこには、際限なく生み出され続ける使い魔達を前に粘り続けるさやかの姿があった。

全身を切り刻まれ、傷を追いながらもただ我武者羅に迫る使い魔達を斬り、抗い続けている。

そんな彼女を見捨てて、そうして腐っているつもりなのか、とNは問うている。


「………」
「もしそうでないのなら、まだ君は立ち直れる」
「…何で、そう言い切れるんだよ」
「君は色んなものを失ってきたと言っていた。でも戦う意志だけは絶対に失わなかった。戦いから逃げることはしなかった。
 それは、君の中には何かしらの強い理想があるからじゃないかな?」
「俺の、理想…?」
「ああ。それを失わないのなら、君はまだ戦えるはずだ」

「…あんたは、まだ俺に戦えって言うのかよ。俺がファイズだから、その救世主とやらだからって」

だが、それでも巧の瞳に焔は宿らない。

何も守れなかった人間にこれ以上戦いを強要し、そしてまた守れずこうして同じことを繰り返せというのかと。
ああ、確かにそれは残酷なことかもしれない。


「これ以上、俺に何が守れるってんだよ!」
「真理は言っていた。どんな姿になっても君は君だから、どんなになっても君のことを受け入れるから、と。
 君が救世主たりえるのは君がファイズだからじゃない。君が君でいるからなんだ、と」
「俺が、俺……?」
「確かに君は彼らの命は守れなかった。だけど、君は真理の願いを守ることはできるんじゃないかな?」

だが、それでも自分で選んだ道であるのなら。
それがどんな結果を導いたとしても、決して後悔はしないはずだ。
省みることはあっても、その選択そのものを否定することはないだろう、と。

「グレッグル!」

Nの叫ぶ声と共に、グレッグルはニャースに迫っていた使い魔へと拳を突き出す。
後ろに数歩吹き飛んだ使い魔はゆらゆらとグレッグルへと意識を向けて、やがてバタリ、と倒れて動かなくなった。

「だから、見せて欲しいんだ。君の選択を。君の理想を、守るものを」
「俺の、守るもの……」

ふと視線を動かす巧。

その先にあったのは、マミの動かぬ体。
それがもう二度と動くことはないのだろうという確信があった。

――――私が誰かを見捨てたとき、アナタはその人を守ってください。

ふと巧の頭をよぎった一つのマミの言葉。
それは、少女とかわした約束。
自分が守りたいものを守れなかった時、代わりにその相手を守ってくれと。


ガチャッ



ケースを開いて、ベルトを、ファイズギアを、その他一式を取り出す。
ファイズポインター、ファイズショット、ファイズアクセル。
それらを全てあるべき箇所へと装着。

「…行く前に一つだけ聞かせて欲しい。今の、覚悟を決めた君に。
 君には、夢はあるかい?」

Nの問いは、いつだったか、一人のポケモントレーナーに聞いたもの。
それと同じものを乾巧へと投げかけていた。

「……ねえよ、俺には、夢はない」
「なら、君はどうして戦うんだい?」

巧の返答は本来ならばNを落胆させてしかるもの。
しかしNには、その答えには続きがあるという確信があった。

「大したことじゃねえよ」

答えながら、一瞬だけNの顔を振り向いてその目を見ながら、巧は答えた。

「俺には夢はねえ、だけど、夢を守ることはできるんじゃないかって、な」

その答えに満足したようにNは小さく笑みを浮かべて。

戦地へと向かう巧の背中を見送った。



もう、何を考えて戦っていたのかも分からない。
むしろ、何かを思考してしまえばもう戦えないんじゃないかという恐怖を抑えて、ひたすらに使い魔達を倒し続けた。

いくら思考を誤魔化そうとしても、考えていた嫌な予感は迫ってくる。

魔女の攻撃。
リボンでの拘束。ティロ・フィナーレを連想させる砲撃。

魔女の使い魔。
きっと巴マミという少女が何かしらの思いを抱いていただろう者達。

いくら思考を隅に追いやろうとしても、そのたびに思いは確信へ変化していく。

―――マミさんは、もういない。
―――マミさんは、魔女になった。
―――あの魔女は、マミさんだったものの成れの果てなのだ。

無理やりに体を動かして戦い続ける。
しかしそのたびに太刀筋は鈍り、使い魔達の反撃を受けてしまう。

全身は既に傷だらけ。
修復してまた挑むたびに受ける傷は、そして魔女が生み出す使い魔達は増え続ける。

(―――マミさんが、魔女に…。なら、私達魔法少女って……、今まで倒してきた魔女って……)

思考がもしマミが魔女となった、で止まっていたならばここまで追い詰められるほどの精神状態にはならなかった。

だが、さやかはマミと同じ魔法少女だった。


バチッ

「――――あああああああ!!!」

電流がさやかに至近距離で命中。
そのまま爆発を引き起こしてさやかの体を吹き飛ばす。


(―――やっぱり、マミさんを殺すなんて……)

できない。

そう思ってしまった時、さやかの心に生まれたのは諦めだった。
いっそこの場でソウルジェムを砕かれさえすれば、魔女となる運命からは逃げられるんだろうか。

そんな考えが生まれた時、さやかは立ち上がることができなくなっていた。

(ハハハ、やっぱさ、私には無理だったんだね。正義の味方、なんて……)

そう考えた時、さやかは自分のソウルジェムに濁りが溜まっていくのを感じた。
しかしそんな彼女の目の前ではあかいろさんが槍をこちらに突きつけている。
まるであの時自分が佐倉杏子を斬り殺した罪を責めるようにも見え。

いっそその裁きを受けてしまうのもいいかもしれない。


そう思った時だった。


―――ドゴッ

あかいろさんの体が後ろに吹き飛ぶ。

さやかの視界にあったはずの死の気配は、一人の男の前に蹴り出した足へと姿を変えた。


「乾、さん…」
「下がってろ。後は俺がやる」

体を引き起こして後ろにさやかを下がらせる巧。

「…殺すの?」
「――――ああ」

恐る恐るそう問いかけるさやか。
しかし巧の返事は短く、そして強い決意に満ちていた。

「あれは、マミさん、なんだよ?」

それを認めてしまったからこそ戦えなくなった事実。
あの魔女は、巴マミそのものだということを敢えて前提にして再度問いかける。

「ああ、あれはマミだったものだ。
 だから、俺がやる。俺が、あいつを止める。
 あいつを殺す罪は、俺が背負う」

それを知ってなおも、巧の返答に迷いはなかった。

そのまま、静かに巧はさやかを振り向くこともなく、増え続けて数えることも億劫になるほどの使い魔の群れへと足を進めていった。




「そうだよな、迷ってる暇なんてなかったんだよな」

かつて決意したはずだった。
夢を守るために戦う、と。
もしそれが罪ならば、それを背負ってでも戦う、と。

なのに、たった一つ。
生きようという意志がなかった。それだけでこんなにも迷ってしまった。

自分の背負った罪に押しつぶされそうになって、自分が許すことができず。
ならいっそ、何か大切なものを守って死んでいければいいなんてことを考えていたのだ。

そんな思いで戦って、何かを守れるはずもないというのに。

「生きてやるよ」

こんな俺でも受け入れてくれる者はいた。
戦う理由をくれた者はいた。
だから、そいつらの死を無駄にすることは決してしてはいけないことだ。


「生き続けられる限り、俺が守ってやる」


―――――世界中の洗濯物が真っ白になるように、みんなが幸せになればいいなって


「啓太郎の夢も」


―――――ファイズは、闇を切り裂き、光をもたらす――

「真理の願いも」


―――――俺の夢を、守ると言ってくれた、桜の笑顔を含む、皆の笑顔を守ってくれるって

「士郎の希望も」


―――――私はいざというとき、アナタを殺します。だから。
―――――私が誰かを見捨てたとき、アナタはその人を守ってください

「マミとの約束も――――」


肩の荷がおりたように、気持ちがすっとしている。
ファイズギアを握る手には迷いなどない。


「全部背負って守ってやるよ!俺の命が続く限り――――」


ファイズフォンを開く。
あとはもう手慣れたもの。ファイズフォンに目をやらずとも体が覚えている。

「ファイズとして、戦える限り!!!」





―――――――――5・5・5   ENTER

Standing by――――――


「―――――変身!!」


掛け声と同時にファイズフォンを差し込み。

―――――Complete


ファイズフォンをベルトに押し込むと同時、電子音と共に光が結界内に広がる。

紅の閃光、フォトンブラッドは巧の体を包み込みその体をスーツが覆っていく。
胸部に白い装甲をまとい、顔には黄色の複眼の仮面が包み込み。

光が収まった時に立っていたその場所に立っていた戦士。
それこそが。


「闇を切り裂き光をもたらすという戦士―――」


―――――ファイズ



カタカタカタカタ

突如現れた新たな存在に使い魔達の注意が一斉にそちらへと向く。

槍の突きを、メイスの叩き付けを放ってくる使い魔に対し。

ファイズは槍を胸の装甲で受け止め、メイスを振るう使い魔の腕を掴み取る。


「――――らぁ!!」

そのまま、掴んだ腕をあかいろさんへと向けてぶつける。
メイスに打ち砕かれて砕け散るあかいろさん。

残ったネコミミさんは握った腕を上へと放って離し。
そのまま落下してくるそれを思い切り上へ向けて蹴り上げた。

体の中心に大きな穴を開けて崩れ落ちていくネコミミさん。

その様子を見て、使い魔達の動きが変わる。

それまで個々に動いていた使い魔が隊列を組むかのように一斉に動き始める。

多数の赤色さんが一斉にファイズの周りへと展開。
少し遅れた場所からネコミミさんがメイスを構えて迫り。
さらにその後ろでは多数のみどりいろさんが一斉に地を這う電流を放つ態勢をとる。

総勢30近くの使い魔達。
それらが巧一人を倒すために統率されているかのような動きをとって攻めかかる。

巧はその攻撃が開始される寸前、右腕のファイズアクセルへと手をやり。
そこに刺されているアクセルメモリーをファイズフォンのミッションメモリーと差し替える。

―――――Complete

電子音と共に胸部の装甲が肩へとせり上がり、全身の赤き流動線が銀色へと、顔面の黄色い複眼は赤色に変化する。

ファイズ・アクセルフォーム。

短時間しか変化できないファイズの一つの形態。
しかし、それ故にその能力は元のファイズを大きく凌駕する力を発揮する。


そんなファイズに向けてあかいろさんの槍が、ネコミミさんのメイスが、みどりいろさんの電撃が一斉に迫り。
それが命中するかどうかという寸前。

ファイズはファイズアクセルのスイッチを押す。


―――Start up

電子音が周囲に響き、巧の姿が掻き消えた。
困惑する使い魔達。

その頭上に、赤い円錐状の光が展開される。

ファイズに迫っていたあかいろさん、ネコミミさんにも。
離れた場所にいたみどりいろさんにも。

――――3

それらの光、アクセルクリムゾンスマッシュの閃光が一斉に動き始め。


――――2


使い魔達に次々と着弾、爆発を引き起こしていく。

――――1

元いた場所から使い魔全てを通り過ぎるような移動をしたファイズが地面に降り立ち。

――――Time Out

アクセルフォームが解除。

――――Reformation

それまで高速移動・攻撃を行っていたファイズの姿が元に戻り。
同時に周囲に展開されていた使い魔は一斉に消滅していった。

ただ一体を除いて。

振り返ったファイズの頬に横から拳が叩き付けられる。

カチ、カチ、カチ、カチ

まるで怒りを表すかのように全身の刃を打ち鳴らすオオカミさん。
アクセルクリムゾンスマッシュが当たらなかったわけではない様子であり、その左腕は二の腕から先が消滅している。
しかしそれを補うかのように、その背中に取り付いた魔女がリボンを伸ばして手の代わりとするかのように蠢かせている。

周囲に新しい使い魔が生まれる気配はない。
そして目の前の最後の一体は殲滅されたことに怒り狂っているように見えた。

(―――そうだよな、俺がお前の立場なら、きっとそう思うんだろうな)

走り寄ってきたオオカミさんは勢いをつけてファイズの顔面に拳を振りぬく。

腕でかばいダメージを抑えるが、衝撃で後ろに下がってしまうのは止められない。
よろけたファイズの肩を押さえつけ、腹に向けて追撃の拳を打ち付ける。

「……っ」

幾度も執拗に打ち付けられるその攻撃、しかしファイズが僅かに体をよじらせたことで大きく腕が空振り脇を通り過ぎる。
その腕を抑えて反撃と逃走を防いだ状態で巧はお返しとばかりに膝蹴りを叩き込む。


呻くような音を鳴らすオオカミさん、その声にあの悲鳴のような音も混じり始めた。
腕を離した巧はよろける相手の体を思い切り蹴り飛ばす。

吹き飛び地面に倒れこむオオカミさん。

ファイズは左腰に備え付けられたファイズショットを手に装着し、ミッションメモリーを差し込み。
ファイズフォンを開いてENTERキーを押す。

――――Exceed Charge

電子音が響き腕にエネルギーが流れこむと同時に駆け出すファイズ。
起き上がったオオカミさんは、迎え撃つように左腕のリボンを大砲へと変化させて発砲。

咄嗟の判断で横に飛び退くファイズ、そのまま攻撃後の硬直が一瞬の隙を生んでしまい。
それでもどうにか対応しようとしたオオカミさんの体へ、ファイズの拳が叩き付けられた。

赤いΦの文字が宙に浮かび上がる同時に吹き飛ばされるオオカミさんの体。
そこからフワリ、とおめかしの魔女の体が飛び上がる。


着地と同時におめかしの魔女は両腕のリボンを放ってファイズの動きを止めようとする。
腕を、足を縛り上げ動きを止めさせるおめかしの魔女。

巧はそれでも冷静にファイズフォンを腰から取り外し、キーを入力。

―――Single Mode

その音におめかしの魔女の拘束が一瞬弱まったような気がした。
巧は構うことなく、ファイズフォンから放たれた光線でリボンを焼き切り。
その後もしばらくは放たれ続ける光線をおめかしの魔女へと向けた。

体に光線を受けて火花を散らしながら後ろにはじけ飛ぶおめかしの魔女。

「………」

そんな魔女に、巧は静かに右腰のツールを取り外す。
ファイズショットにそうしたように、ミッションメモリーを差し込んで、右足に装着。


――――Exceed Charge

足に力を入れるように中腰の姿勢で構える。

魔女が起き上がりこちらへと視線を戻したその時、意を決したように飛び上がるファイズ。

空中に飛び上がった巧の足のポインターから放たれた赤い円錐の光が魔女の体を捉える。

(……マミ…!)

これがあいつを救う唯一の道だ、と自分に言い聞かせながら、巧は足を前に出して飛び蹴りの態勢をとり。


クリムゾンスマッシュ。
フォトンブラッドと共に強化された飛び蹴りを放つファイズの必殺技。

その一撃を叩き込もうとした巧は。


「何…!?」

その間に割り込んできた存在に驚きの声を上げる。

おめかしの魔女の前で、それをこちらの一撃から守るようにあの灰色の使い魔が右腕を構えてクリムゾンスマッシュを受け止めていた。
腹に大きな穴を開け、少しずつ体を崩壊させながらも自分を生み出した主を守ろうとしている。


(…やっぱ、そうなんだよな。俺がもしそいつだったら……)


競り合いを続けながらも巧はそう思考する。
きっとあの魔女がマミで、あの灰色のオオカミが俺ならば、きっと同じことをしたかもしれないと。

同時に、この一体しか現れず、それ故に使い魔の中でも一線を画す強さを持っていた灰色の使い魔に、どれだけ彼女が自分に対して強い想いを持っていたのかを思い知らせた。


(―――悪かった、マミ。約束したのに、お前の傍にいてやらなくて)

あの時、彼女を離すことなくずっと近くにいてやればここまで絶望することはなかったのではないかと。
巧は小さくマミに心の中で謝罪の念を込める。

(―――だから、マミ。そんなになってまで傷付くな…、お前は、もう休め…!)
「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


心の軋みに耐えながら、巧は構えた足に力を込める。

その身をもってクリムゾンスマッシュを受け止めていた灰色のオオカミの腕が砕け散り。
赤い円錐はその崩れかけた肉体を貫通。

のみならず、その後ろにいたおめかしの魔女の小さな体へもその蹴りを撃ち込んだ。


地に足を下ろした巧の背後で、二つのΦの文字が浮かび上がり消滅していく二つの影。

自分の後ろで消えていく気配を感じながらも体を起こした巧は。


――――――ありがとう
「…!?」

聞こえるはずのないマミの声が耳に届いたような気がした。
思わず振り向く巧。

しかしそこに残っていたのは、小さな一つの黒い石だけ。
まるでそれがあの少女の生きた証なのだ、と言わんばかりに。

その石、グリーフシードを拾った瞬間、周囲の景色が歪み始め。
魔女の生み出した結界が消滅し、元いたあの殺し合いの場の景色へと戻っていった。


【おめかしの魔女 消滅】


膝をついて黙り込むさやか。

彼が戦っている間、ずっと見ていることしかできなかった。

『あいつを殺す罪は、俺が背負ってやる』

ずっと、あの時巧が言った言葉が脳内でリフレインする。

罪を背負う。

自分にはあの魔女を、憧れの魔法少女の成れの果てを殺すことができなかった。
魔女が魔法少女の迎えた結末だと知って、戦いに強い迷いを持ってしまった。


『己の信じる『正義』の為ならば同胞の『魔法少女殺し』も厭わないのでしょう?』

かつてとある男に言われたその言葉に、何故ああも言葉を詰まらせてしまったのか、今ようやく理解した気がした。

戦う覚悟はあった。
自分が傷付く覚悟もあった。

だけど。
罪を背負う覚悟はなかった。

「…ははは、そんなんで、戦えるわけなんか、ないじゃん……」

自虐のように笑って呟くさやか。

「君は、どうするんだい?戦うのかい?それとも、もう戦うことを止めるのかい?」
「………」


傍で問いかけるNの言葉を、沈黙をもって受け止めることしかできなかった。

「なら、君はこの先の戦いを見届けて答えを出すといい」

それだけをさやかに対して告げて、Nは意識を戻さぬニャースを連れて立ち去っていく。


この先の戦いとは何なのだろうか、とそう疑問に思ったさやかの肩に、巧の手が乗せられた。
振り向いたさやかに向けて、ひょいと何かが投げられた。

グリーフシード。
おめかしの魔女の、マミの遺した小さな石。

「使えよ。お前らにはそれ、必要なんだろ?」
「………私は…」
「話は後だ。ちょっと用事ができたんでな、そこで休んでろ」

と、巧はさやかに背を向けて歩き出す。

「用事……?」
「いるんだろ?出てこいよ」

巧は変身を解くことなく、虚空に向けて呼びかける。

その時、物陰から黒い影が姿を現した。

ファイズの同種にも見える装甲を身にまとい、しかしその色は見る人間に畏怖の念を与えかねない漆黒の鎧を装着して。

「決意はついたか?」

木場勇治。
巧が決着をつけねばならない最大の敵は、既にその身を帝王の姿へと変化させている。


「ああ、俺はお前とは一緒にはいけない。
 俺はあいつらの願いを守って生きてやるよ。
 …当然、お前の理想も」
「俺の理想?」
「人間とオルフェノクの共存、お前の掲げた理想も、俺が守ってやる」

木場と相対しても、もう気圧されることも迷うこともなくそう言い切り巧。

「フ、ハハハハハハハハハハハ!!」

そんな巧に、木場はまるでおかしいものでも見るかのように笑い始める。


「そんな理想など、守る価値なんてない!
 俺はもう理想を捨てた!オルフェノクとして生きると決めた!」
「………」
「だけど」

と、笑うことを止めて静かに巧を見やる木場は。

「そんな君だからこそ、俺が倒すべき相手に相応しい!
 君を殺した時、俺は完全にオルフェノクになることができる!」
「させねえよ。お前の心、ぶん殴ってでも俺が取り戻してやる」


そのまま、静かに向かい合った乾巧(ファイズ)・夢の護り人と木場勇治(オーガ)・帝王。

やがて同時に走り始め。

「木場あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「乾いぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

互いに名を叫びながら、拳を振りかざして。

二つの拳がぶつかり合った。



本当の姿を、意志を取り戻した男。
理想を捨てて帝王の力を手にした男。

二人の相反する存在の戦いは、失楽園へと続く物語を刻み始める―――――



【D-2/さくらTVビル付近/一日目 夕方】


【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、肩から背中に掛けて切り傷(ほぼ治癒)、ファイズ変身中
[装備]:ファイズギア+各ツール一式(変身中、ファイズエッジなし)@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:ファイズとして、生きて戦い続ける
1:木場と決着をつけ、人間の心を取り戻させる
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です

【木場勇治@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(中)、心を蝕むような迷い、オーガ変身中
[装備]:オーガドライバー一式(変身中)@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト
[道具]:基本支給品、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、アヴァロンのカードキー@コードギアス 反逆のルルーシュ、
    クラスカード(ランサー)@Fate/kaleid linerプリズマ☆イリヤ、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考・状況]
基本:オルフェノクの保護、人間の抹殺、ゲームからの脱出
1:乾巧と決着をつけて人間としての心を消し去る。
2:すべての人間を殺したあと、村上を殺す。
[備考]
※コロシアムでの乾巧との決戦の途中からの参戦です



【美樹さやか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(大)、左目に傷(治癒不可?) 、強い迷い、魔法少女変身中
[装備]:ソウルジェム(濁り90%) 、トランシーバー(残り電力一回分)@現実、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ
[道具]:基本支給品(食料ゼロ)
[思考・状況]
基本:私は…どうしたらいいんだろう…
1:マミさん……
2:ゲーチスさんとはもう一度ちゃんと話したい
[備考]
※第7話、杏子の過去を聞いた後からの参戦
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※魔法少女と魔女の関連性を、巴マミの魔女化の際の状況から察しました


【D-2/一日目 夕方】

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:疲労(大)ダメージ(中)、精神不安定?、ボール収納)、サトシのリザードン(疲労(小))@ポケットモンスター(アニメ)、タケシのグレッグル&モンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555
[道具]:基本支給品×2、割れたピンプクの石、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム) 、傷薬×2
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:ニャースの手当をする
2:世界の秘密を解くための仲間を集める
3:ポケモンセンターに向かいたいが…?
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。


【ニャース@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:ダメージ(中)、全身に火傷(処置済み)、気絶中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、
[思考・状況]
基本:サカキ様と共にこの会場を脱出
1:気絶中
[備考]
※参戦時期はギンガ団との決着以降のどこかです
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線
※桜が学園にいたデルタであることには気付いていません


129:帝王のココロ 投下順に読む 131:それでも運命は進む
128:あなたの存在は認めない/許さない 時系列順に読む
119:蒼の精度 乾巧 140:パラダイス・ロスト
美樹さやか
122:マドルチェプリンセスの憂鬱 巴マミ GAME OVER
ニャース 142:一歩先へ(前編)
夜神総一郎 GAME OVER
間桐桜 141:喪失-黒き虚の中で少女は
129:帝王のココロ 園田真理 GAME OVER
N 142:一歩先へ(前編)
木場勇治 140:パラダイス・ロスト


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