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 正直、怖かった。
 ナニカ、ではなく、ナニモカモが。
 フェンリルはとても怖かった。

 移動しながら、これからどうなってしまうのだろうと、フェンリルは考えた。
 あの時、血塗れの雨が降る戦場跡で、祈祷は言った。

『生きろ』

 単純明快で、問題ですらない、含みすらない単純な答え。
 ――純粋な意思。

 それはフェンリルには楔のように打ち込まれていた。
 形は関わらず、あらゆる場所に、生きろというその言葉があらゆる意味で磔になっていた。
 その楔は、脆いフェンリルの衣を簡単にはがしてしまう。

 たとえばそれは決意であったり。
 たとえばそれは後悔であったり。

 たとえばそれは――不安であったり。

 多種多様。
 その姿は一つどころか、両手の指を使っても足りない。
 強いて言えばどれもこれもが、混在しあっていること。
 相反するものすらフェンリルには存在すること。
 その結果が、募り募っていること。

 これから先の、不安が彼女にのしかかっているのだ。


 そしてそれは、思考を負へと向かわせる。


 最初は単純に、死にたくないと言う感情だった。
 誰もが持つ一過性のようなもの。
 事実、フェンリルはそれを耐えた、自分自身であるが故に、他者を、他者に向ける感情を傷つけるには至らなかった。
 けれどもそれは次を読んだ。
 負は連鎖する。
 負から不へ、不から無へ、絶望にも似た何かを背負って、証明する。

 やがてフェンリルは祈祷の死を考えた。
 そして、今だ死しているかどうかが不明瞭な、自身の仲間達を考えた。

 まだ、壊れない。
 フェンリルは耐えている。
 生きると決意したのだから生きなくてはいけない。

 祈祷にかけてもらった一つのフード。
 抱えるように持つソードカトラス。
 自分のものであり、祈祷のもの。

 それがある限り少なくとも、フェンリルは皮をはげなかった。

 だと言うのに、自分の思考はさらに悪化する。

 考えてしまった。
 絶対に考えてはいけないのに。
 絶対に大丈夫だと思っていないとダメなのに。

 タクミ・エンジュ。

 彼女のもう一つの支柱。
 とてもとても大好きな、最愛の人。

 もし、彼が死んでしまったら。


 ジブンハイッタイドウスレバイイノダロウ。


 答えなど、絶対に見つからない。
 それはそこで何とかストッパーが働いたからか、それとも。

 目の前に、タクミの姿が見えたからか。


 ――


 全員で帰る。
 全員で救う。

 タクミはいった。
 ならば、その中に自分は一体含まれているのだろうか。
 含まれている。
 当然だ、自惚れではなく、タクミ惚れ。

 確信している。
 フェンリルの一番大好きなタクミ・エンジュという人間は、そう言う人間だ。

 だからだろう、フェンリルは座り込んだ。
 歩きつかれたからか、緊張が解けたからか。
 見晴らしのいい草原の、丁度岩陰になっている部分、別の場所からは死角になるそこで、足を休めていた。
 ずっと抱え込んでいたソードカトラスを地面において。

「ふぅ……疲れまし、た」

 大きく息を吐き出しながら、目の前に座るタクミを見る。
 今までと何も変わらない、人の好いような、そんな笑みを向けてくれる。

「大丈夫ですか? もう直ぐ放送ですし、大分時間も経っていますからね……疲れたでしょう?」

 様子を伺うようなタクミの言葉に、フェンリルは素直に頷いた。
 否定も、拒絶も今はしないほうがいい。
 彼に頼ってしまった方が、体を休めるには丁度いい。

「そうですか……ゆっくり休みましょう。
 多分、まだ先は長いですから」

 そういって、タクミは水を取り出す。
 ――どのデイパックにもはいっている基本的な支給品の内のひとつだ。
 倣って、フェンリルも同じように水のはいったペットボトルを外気にさらす。

「…………いきなきゃって、思ってるんです」

「……それ、は?」

「――大切な人が、死んじゃったんですよ。
 簡単に、当たり前みたいにぼろぼろになって。
 その人が言ったんです。
 生きろ、って」

 沈黙して、タクミは聞く。
 恐らく、誰だと聞きたかったのだろう。
 フェンリルの大切なその人は、多分タクミにとっても近しいはずだから。
 けれど、だからこそ、聞かなかった。
 聞け、なかった。

 ただ沈黙の末、それを破り、一言。

「がんばりましたね」

 フェンリルを褒めた。
 つらかっただろう。
 悲しかっただろう。
 不安だっただろう。

 だからこそ、タクミは自分の意思をかき回す。
 目の前の少女のために

「……怖かったです。
 苦しかったです。
 すごく、すごく悲しかったです。
 でも、いきなきゃって、生きないと、ダメなんだって。
 あの人は、確かに生きて、死んだから!」

 その不安は、恐らくタクミと出会わなければ、フェンリルを押しつぶしていただろう。
 そうでなくとも負荷を書け、自分自身を危ういところへさらしてしまうものだっただろう。
 だけれども、目の前にタクミがいる。
 フェンリルを慰めてくれる、最強の味方がそこにいる。


 ――ニコリと、いつものように笑っている。


「もう、大丈夫ですよ」


 それだけでもう、フェンリルは限界だった。
 ただ無言で、タクミにすがりついた。


 ――




「ここからもう少し進めば、ここでであった仲間がいます。
 恐らく、かなり頼りになるはずですよ」

 いくらかの時間が立った。
 どれほどのそれかは解らなかったが、タクミはやっと、無言の沈黙を破る。
 そういって、たちあがる。
 少し影に大われ、タクミの姿がフェンリルからはぼやけて見える。

 手を伸ばし、タクミはニコリと微笑みかける。
 残念ながらそれはフェンリルに伝わっていなかったが。
 とかく、フェンリルは右手を伸ばす。
 タクミの下へ、自分を吸い寄せるかのように。

 しかしそれは、叶わない。


 唐突に襲い掛かってきた爆風。
 大地を切り裂いて余りある体を可笑しくしてしまいそうな暴音


 原因は、日陰になっていた岩の塊が、破壊したことによるものだ。


 ――


 一つ、ゴーヤはにやりと笑う。
 訳は何も考えない、自然と出たから、自然と笑う。当然だ。理由を後付けるなら幾らでもできる。だが今は目の前を見る。
 ……そもそもそれが恐らく、ゴーヤが笑むわけなのだろうが。

 敵は二つ。
 すぐさま対応し、立ち上がり警戒する男が一人。
 少し反応が遅れたものの、それでも十分及第な速度で身構える女が一人。
 どちらも多少は戦闘慣れしているだろう。先ほどの戦闘と比べるとどちらが上質か、問うとなれば疑問だが、どちらも恐らく換わらないだろう。

 ゴーヤは最上の結果を、最上の行動で得る。
 それによっていま、ここにいる。


 ――


 どちらの掛け声があるわけでもなく、両者の戦闘は開始された。
 強いて始動を上げるなら、思わせぶりなゴーヤの構えに、思わずタクミたちが反応したと言ったところか。

 言うまでもなく、まず動いたのはタクミだった。
 どこからか取り出した淡い水色の警棒。
 一度扇げば風を起こし、二度仰げばタクミによって風刃へ変わる。

 無色の一撃はそのままゴーヤへと迫り、場違いな得物に驚愕に似たものを覚えていたゴーヤへ突き刺さる。肩と膝、きっちり二発、ゴーヤを切り裂いた。

「何……?」

 多少、眉をひそめるゴーヤ、次へ備えつつ、ならば接近しながらと考える。
 続けざま、迫るクナイのような形をとった氷の刃。
 二個、三個と出来うる限り回避の困難な隙間でもって接近する。
 それをゴーヤは意味もなく金棒を振るって弾き落とす。 
 とはいえそれで隙を作るゴーヤではないが。

 続けざま、二度三度、タクミが警棒を振るいながら接近する。
 今度は速度もたいしたことはない、人間のそれ、だが恐らく本命は……考えて合点がいく。
 タクミの力、どういった前提のものかはともかく、それは間違いなく風だ。

 面倒、だがそれ以外はない。
 見えないのならば、見えない状態で戦えばいい。
 非常にごく単純で、簡単な思考。だと言うのに、まるで天才軍師の策を破ったときのような、そんな笑みをゴーヤは浮かべる。
 単純にゴーヤがそれを意識しているか意識していないか、それに関わらず戦闘を、笑んだまま彼は続行させる。

 先行して喰らいつく風の一薙ぎ、それを金棒で軽く振るい落とす。
 原理は単純で突風に、それ以上の威力で返しただけである。
 それを感じ取ったのか、タクミが表情を険しくさせる。
 読み取ってみれば、風自体はあくまで密度を上げただけであるが、速度は人間の出せるものの数倍である。それを軽々と薙いだことに、驚愕を隠せないらしい。

 バカバカしい。

 当然じゃないか、考えつつ。
 さらに迫るタクミの警棒を、丸ごと金棒で押し返す。
 剣のような風を纏った警棒に対し、そもそも大きさからして桁が違う金棒。
 せめぎ会えと言うほうが無理だというもの。
 ならば、とそれを補助すべく、フェンリルが動く。

 生成したのは一つの礫、先ほどの刃と同じく鋭くとがった一本槍。
 両手で抱えてから、一気に解き放つ。

 それは一瞬の交錯を行い、タクミを吹き飛ばそうとしていたゴーヤの元へ、弧を描きながら迫って来る。狙うは片足、その足場だ。
 一瞬、目の前に集中していたがために気がつかなかったが、それでもすぐさま凶弾に気がつく。
 流石に放置は不味いと判断したか、一歩退いて、金棒を構えなおす。

 再び交錯するタクミとゴーヤ、どちらにとっても、ここからが本命。

 一瞬の交錯。
 タクミは普段であれば笑みで細めるその両目を、敵意でもって鋭くしながら。
 ゴーヤは戦場には幾らか場違いな風貌でもって笑みを湛え。

 激突する。

 耳を割っていくかのような轟音。
 主はゴーヤだ。一つ一つが大地にどうしようもない亀裂を与える一撃、生身で受ければどうしようもなく、タクミ自身、ギリギリでせき止めるので精一杯だ。
 そも、ゴーヤはこの状況を楽しんでいるように見える。
 じわりじわりとタクミを追い詰める。
 それにゴーヤは愉しみをえている。

 そこだ、そこを狙うしかない。

 目の前の存在は恐らく自分たちよりも数倍上手、こうして打ち合うことも二対一であること――それも、連携を手馴れているタクミとフェンリルだからこそだろう。
 コレがもし、即席のコンビであるとしたら、ゴーヤにいとも簡単と、捻り潰されてしまっていただろう。

 相性の問題もある。
 タクミたちの見たところ、ゴーヤは直線的な近接型。
 比べると、タクミもフェンリルも中衛に位置する人間だ。
 もしコレが前衛の人間であるとしたら――
 少し、まだ学園にいるであろう同じ風を扱う能力者を、タクミは思い浮かべた。

 なんにしても、結局、自分に出来ることは単純に、一つしかない。
 下手に動けばあの金棒の餌食になりかねない。
 ならばこうしているしかない、時間稼ぎしか、出来る方法はない。
 むしろキーはタクミではなく……


 そう考えたときだった、膠着していた戦闘が、一気に終息へ加速する。


 ゴーヤが“それ”に気がついたのは偶然だった。
 時間稼ぎにも限界を向かえ、後は押し切るのみだと、力を込めたとき、ゴーヤはある種の違和感を覚えた。それは感覚に訴えるものだ。
 そして、それを理解する。

 この違和感、可笑しな感覚、それは凍えだ。

 最初に抱いたのは、驚きだった。疑問と言い換えてもいい。
 それが一体なんなのか、興味がなかったというのは、流石に嘘が酷い。

 結論から言えば、それは文字通り――というのも少し可笑しいが、冷気だった。
 足元に漂う薄い氷の幕のようなもの。
 だが、原因まではわからない。
 何故か、何故だ。ふざけているのか。
 何度か意思を確認し、ゴーヤは果たして、それに気がつく。

(氷がない……だと?)

 フェンリルが放った妨害用の氷、たしかゴーヤの足元に突き刺さり、そのままだったはずだ。
 と、いうことは――


 気がついた時にはもう遅い、ゴーヤの全てが、そうして凍りついた。


 足元が凍りつき、身動きが取れなくなる。
 段々とそこから氷がゴーヤを絡めとり始める。
 ゆっくりと、しかし確実にゴーヤを蝕んでくる。

「ぐっ!」

 流石にそれは、苦悶の表情を浮かべ、ゴーヤも対処する。
 段々と凍え、動けなくなるからだ。
 魔術のような力を使おうにも、言葉自体が回らない。

 ならばとそのまま体を回して――全力でタクミに殴りかかる。

 一瞬の事だ、構えたまま、彼を守る風の刃ごと、彼を吹き飛ばし、死に至らしめるだろう。
 ――けれども、そこにいるのはタクミだけではない。
 そもそも、コレの原因はもう一人――


 跳ねるような銃声があたりに響く。


 ――フェンリルのものだ。
 ソードカトラスを怯えたように構え、ゴーヤを打ち貫く。

「ごぅっ!」

 うまく回らない舌が、ギリギリでそんな声を上げる。

(うそ――だろ?)

 あせったように、表情を変える。
 ゴーヤは何とか態勢を元に戻しながら、しかし自身の失敗を悟。

 既に、タクミは次の一撃を構え終わっている。

「これは――余り人には使いたくはなかったのですが。
 だからこそ、貴方へとこれを使いましょう――!」

 例えるなら、テニスのバックハンドのように構えられたタクミと警棒。
 存分なタメを持って、それは放たれる。

「風が風を呼び、必殺へ至らしめる。
 もと来た道に、逃げ帰りなさい――!」

 風が風を生み、それが刃とばり、ゴーヤを傷つける。
 最後には、再び風を生み、そして――


(ち、ッくしょおおおおおおおおおおおおお!)


 声にすらならないゴーヤの叫びが、こだました。


 ――

 フェンリルの元へ向かい、倒れこむようにタクミは腰を降ろした。
 それに駆け寄ってくるフェンリルを抑え、一度大きく息を吐く。

 ふと、ずっと警棒を握り続けていたらしい手を見ると、赤く腫れたようになり、少し汗が滲んでいた。

 緊張――もしくは緊迫。
 なんにしても変わらない。
 それはおそらく、恐怖も混じっていただろう。

 何だか、実感もない。
 こうすることに違和感も、義務感も、嫌悪感もない。
 ただやるべきことをやっただけ。
 守ったのだ、フェンリルを。

 ――助け合ったのだ、お互いが。

 まだ、探さなくてはいけない仲間がたくさんいる。
 だったら、休憩などしてられない。

 どうだろう、まずはあの二人と合流すべきか。
 ならば――と考える。


 その時だった。


 タクミは、非常に嫌な違和感を、ふと覚えた。


 ――


 ――ゴーヤには非常に強力な壁のようなものがある。
 これは単純には突破できるものではなく、強者に制限がかかるこのゲームでも変わらない。
 対処法は、精々レベルを上げて物理でなぐるか、そもそもダメージ以外の方法で倒すしかない。

 たとえば今回、フェンリルはゴーヤそのものを凍らせてしまうべきだったのだ。
 倒れた後も、氷を張りなおし、身動きが取れなくするべきだった。

 ゴーヤ自身そうなるものと思っていたのだ。
 けれども、タクミの詰めが甘かったか、それとも性格的に甘かったか、そのおかげでゴーヤは窮地に一生を得た。
 これは単純な幸運。
 戦闘の決着をタクミがフェンリルに任せていればどうなっていたか解らない。

 だが、ゴーヤはこうして立っている。
 不死身のように、立ち上がる。


 ――


 最初、ナニが何だかわからなかった。

 フェンリルはへたりこみ、硬直している。
 動くことは、ままならない。

 ドウシテ?

 ナニガドウナッテイルノ?

 メノマエニアルノハナニ?

 ナンデ?

 ナンデアイツハタッテイルノ?

 ナンデ?

 ナンデ?

 ナンデアイツハ。
 ナンデタチアガッタノ。
 ナンデホノオヲウッテクルノ。
 ナンデウゴケナイノ。
 ナンデシンジャウの。
 ナンデゴメンもイエなイノ。
 ナンデタクミサンはこッチにキテイルノ。
 ナンデ私のマエにタッてイるの。
 ナンデ私をカバうヨウにしていルノ。
 ナンデ両手を広ゲテ守ろうとシテいルの。
 ナンデ死にそうナノを喰ラッテたトウとしているの。
 ナンデ。
 ナンで。
 ナんで。
 なんで。
 なんで。
 なんで。


 ナンデ、タクミさんは笑っているの?


「――もう、大丈夫ですよ」


 右手を伸ばして、立ち上がらせようと。
 救おうと。
 守ろうと。

 だったら、だったら、どうして、届かない。

 目の前にいる人の右手が、やがて、ゆっくりと――


 ――


 愉快。

 痛快。

 爽快。

 幾ら言葉を並べても足りない。

 最高だ。

 目の前の茶番を、ゴーヤは素直にそう思った。

「ハ――ハハ――ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 やがて大声をあげ、笑い出す。
 目の前の存在全てを、生きる全てを無様だと切り捨てるように。

「バカだ! 最高のバカやろうだ! 自分が守れなかったってのに背を向けて、守った気になって死んでいきやがった! さいっこうのクズやろうだ!」

 その声は、以上に響いた。
 フェンリルに、だけではない。
 辺り全て、嫌に響き渡るそれを、ゴーヤはにやりと笑う。

 視線の先。
 ゆっくりと崩れ落ちる、一人の死。
 ただ、フェンリルはそれを無言で待つしかない。

「嘘だって言いたいのか? 残念だなぁ! 現実なんだよ! 目の前でくそみてぇな無駄死にさらしてくれたバカやろうも、それをぶっ殺してやった俺っちも、俺っちに嬲り殺されるおめぇも」

 全部。
 全て。
 一切。

「幻想なんかじゃ、ねぇんだよぉ!」

 気がついた時には、ゴーヤはすでにそこにいた。
 目と鼻の先、フェンリルの真正面で、その顔を笑みにゆがめている。
 聞くに堪えない、嫌な音。
 ゴーヤの右腕が容赦なくフェンリルを痛めつける。

「……ぁぐ」

 思わず漏れる声。
 けれども、意思はどこにもない。
 それを悟ったゴーヤはにやりとその笑みをさらに深める。

 一瞬の間。

 一時停止のビデオのように止まっていたそれが動き出す。
 倒れこむようになるフェンリルの鳩尾を、ゴーヤは一切のためらいなく、踏みつけるようにけりこむ。

「悔しいか? だったら恨んじまえよ」

「が、あぐぅぅぅ」

 一つ一つ、教え込むように、ゴーヤはフェンリルを踏みつける。
 容赦なく、そもそも、感情すらなく。

「恐ろしいか? だったら怯えてみろよ」

 繰り返す。
 お決まりの文句のように、何度も、何度も。

「殺したいか? だったら――」

 より一層、ゴーヤは振り上げる足を持ち上げる。


「死んじまえよ!」


 すさまじい衝撃。
 耐え難い、苦痛。

「あ、くぁアアアアアアアアアアアアァアアアアぁああああああああああああああ!!!」

 何かが折れる、音がした。


 ――その時、だった。


 一瞬にして、ゴーヤは吹き飛ばされた。


 ――


 何があったのか、その瞬間は理解できなかった。
 それを理解したのは地面を二、三度バウンドしながら地面を転げまわった後の事。
 今まさに、自分を覆う、激痛。

 正体は――そう、水晶だった。

 広い広い草原の、異質とかした戦場跡から、ゆっくりとゴーヤを覗く影がある。

 シェルロッタ、クリスタルのように、ただ佇んでいる。

「――無様といえばいいかな、それともざまあないと貶めるべきか、さて」

 それははっきりと、ゴーヤの元へ聞こえてきた。

「な……んだよ、おめえは!」

「名乗る意味があるのかな? 私が、お前に」

 ――ふざけるな。
 ふと、そう考えた。
 よぎったと、言っていい。

 それが、彼の非常に脆い防波堤を決壊させた。


「ふ、っざけんじゃねぇぞォぉぉォオオオオオオオォオオオオオ!!!」


 一瞬の業熱。
 その後に、ゆっくりと、“それ”が顔を見せる。

 “それ”は太陽だった。
 紅く滾り、大地を照らし、空を晴らす。

 紛れもなく真紅のような、赤い紅い炎の塊りだ。

 人であれば命はなく、一瞬で炭へと姿を変えてしまうだろう。
 ――明らかなオーバーキル。
 容赦のない、殺戮の一撃。

「オレっちは負けねぇんだよぉぉ! おめえらみてえな奴がでぇきれぇなんだ! だから! 打ち殺してやる! ぶちころして――」

 そこまでだった。


 上空、その一撃は、太陽すらも飲込んで、一つの罪へと叩きつけられる。


 ――審判「ラストジャッジメント」――――それが、その罪深き裁判の名だ。
 青白くひかり、ゴーヤを飲み込むそれだ。

 ありえない。
 ありえない。

 何故だ。

 何故死ななくちゃいけない。

 何故こんな痛みを覚えなくてはいけない。

 オレっちは――

「ぶ、ちころ――ブチコロ、ブチ……コロ――ブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロブチコロ――ッッ!!!」


 そして、それは終わりを告げた。


 ――


「判決、地獄行き、誰も救えないその命、一度地獄で洗い流してくるがよろしいでしょう」

 四季映姫・ヤマザナドゥはその声を確りと張らせ、有無を言わせぬ口ぶりで、それ“だったもの”に告げる。

 ――ゴーヤは跡形すら残さず消滅した。
 だからこそ、映姫はこうして消えた先へ、言葉を残す。

「――絶望ではありません、希望を、貴方はそうするべきなのでしょう」

 そして続けた、区切りの後の言葉。
 振り返り、誰へともなくそれを告げた。

{【タクミ・エンジュ@HA 死亡】}
{【ゴーヤ@コロッケ 死亡】}

【場所・時間帯】B5、橋の手前、昼前

【名前・出展者】フェンリル@Heroes Academy
【状態】精神的ダメージ大 体の各所に打撲のダメージ
【装備】ソードカトラス@BLACK LAGOON
【所持品】基本支給品一式、不明支給品一品、祈祷のデイパック{基本支給品一式、おたま@現実、替えの弾薬}
【思考】基本:生きて帰る。殺し合いには乗らない
1:――どうして。
2:絶対に生きて帰る
3:出来たら他の生徒達と合流したい
※武器は持っていますが、殺し合いに乗るつもりはありません
※描写しませんでしたが、タクミ達と一緒に北上して水色エリアに行くつもりです

【名前・出展者】シェルロッタ@FINAL FANTASY CRYSTAL CHRONICLES Echoes of Time
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品×1~×3(確認済みかと思われますのでお任せします)
【思考】基本:殺し合いには乗らない
1:……
2:北上して水色エリアに行く

【名前・出展者】四季映姫@東方project
【状態】健康
【装備】なし
【所持品】基本支給品一式、不明支給品×1~×3(確認済みかと思われますのでお任せします)
【思考】基本:殺し合いには乗らない。もし乗っている者が居れば説教する
1:今は、誰も絶望すべきではないのでしょう。
2:北上して水色エリアに行く


――


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