ソウルが巨大な鎌を一振りすると、まるで波のように風の刃が――鎌鼬が発生する。森の木々に傷をつけながら、鋭い真空の刃がレミリィ達に襲い掛かった。

「シーナ、下がって!」

レミリィはシーナが答える前に腕を引っ張り、強引に下がらせた。
そして急いである呪文を唱えると、彼女達の周囲に透き通った氷が現れる。真空の刃が彼女達を切り裂かんと、まずは氷の防壁――プリズン・シールドに激しくぶつかった。
現れた氷の壁が、ミシミシと音を立てる。おかしい、とレミリィは感じた。
術者であるレミリィが動けなくなる代わりに、プリズン・シールドはあらゆる攻撃を無効化する筈だ。それがレミリィ唯一の防御魔法なのだから。けれど目の前で彼女達を守る氷は、無効化どころか今にも砕け散りそうだ。

(一体、どうなって)

ソウルが再び鎌を振り、新たな刃が発生した。
ついに氷は砕け散り、真空の刃は無慈悲にも彼女達に襲い掛かった。

「くっ……ああああっ!」

無数の風がレミリィの肌を傷つける。
木にぶつかっていたことや、氷の壁である程度相殺していたお陰で致命傷にはならずに済んだ。しかし、一つ一つの傷こそ浅いが、傷の数は多い。塵も積もれば山となる。彼女は、いきなり満身創痍の状態となった。

「れ、レミリィ!」

レミリィの後ろにいたことで大して傷を負うことがなかったシーナが悲鳴に近い声を上げる。
仲間を発見して安心しきっていた。嫌いなソウルを見つけてもまるで他人事のように思っていた。その結果が、これだ。大事な友人がボロボロになってしまった。

「無様ね」

死神(ソウル)が彼女達を嘲笑う。

「ねえ、おかしいと思わなかったの? だって、あの参加者の中には私たちみたいに魔法を使える存在だけじゃなく、どうみても弱そうな子供とか、いっぱいいたじゃない」
「な、にを……」
「強い存在の中に弱い存在が居たら、それだったら強い存在のワンサイドゲームになってしまう。それって殺し合いじゃなくて、ただの虐殺よね。じゃあ、弱い存在が強い存在と対等に殺しあうにはどうしたらいいのか、分かる?」

レミリィは全身の痛みに顔を顰めながら、ソウルを睨みつける。
さっさと答えを言え、と言わんばかりに。

「簡単よ、ハンデをつければいいの。強い存在を弱い存在のレベルに出来るだけ近づけてあげればいい。だからあなたの防御魔法は無効化を失ったし、私の鎌鼬も威力が落ちたから、連続で使って壁を崩した。たったそれだけのことなの」
「何、偉そうにお喋りしてるのよ……」
「威力が落ちるんだったら、鎌で直接あなた達の首を落とした方が速いと思わない?」

死神が、もうすぐそこまで迫ってきている。
レミリィは痛みに耐えて杖をソウルに向けた。傷ついたって何も出来ないわけじゃない。例え威力が落ちていても、炎で炙られれば火傷するし、氷の刃をぶつければ怪我だってする筈だ。
させない。させるわけがない。
ここまでやられて、これ以上黙っているわけにはいかない。レミリィ=ライフィルアは死なないし、シーナ=クレイドルは殺させない。
レミリィ=ライフィリアは決意を固め、呪文を唱えた。

「フレイム――!」

次の瞬間、魂奪う死神の刃はレミリィのすぐ目の前まで迫っていた。

(や、ば――――!)

斬られる。
そう思って怯んだレミリィは、呪文の詠唱を中断してしまった。
それがいけなかった。鎌の刃の部分はレミリィに掠りもせず、長く固い柄の部分が彼女のこめかみ部分を強く強く打った。後ろで震えていたシーナの悲鳴は、最早声にならなかった。
赤と水色、それぞれ色の違う瞳が大きく見開かれ、レミリィは地面に崩れ落ちた。

「れ……レミリィ! レミリィ!!」

シーナが悲痛に叫ぶ。
けれどそんなのはお構い無しに、レミリィの意識はどんどん遠のいてゆく。

(あ……だめ……。立た、なきゃ……たたかわ、な…………きゃ……)

レミリィの意識は、そこでぷっつりと呆気なく途切れた。


【場所・時間帯】E―3・森・朝

【名前・出展者】レミリィ=ライフィルア@三つ巴の世界
【状態】全身に切り傷。気絶。
【装備】杖
【所持品】杖、基本支給品一式
【思考】基本 とりあえず生き延びよー。
    1.…………。

【名前・出展者】シーナ=クレイル@三つ巴の世界
【状態】怯え、混乱
【装備】大剣
【所持品】大剣、基本支給品一式
【思考】基本 怖い怖い怖い怖い怖い……!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……!!!
    1.う、嘘……レミリィ……!
    2.なんとかしなきゃなんとしなきゃ

【名前・出展者】ソウル=クレイシア@三つ巴の世界
【状態】戦闘態勢。正常。
【装備】大鎌
【所持品】大鎌、ミニ虫取り網、基本支給品一式
【思考】基本 邪魔な子から消して行こうか♪…ん?それじゃあほぼ全員邪魔ね。
    1.さて、あとは首を刈り取るだけね
    2.レミリィ&シーナを殺害する




   *   *   *

塔を目指して森をのんびり歩く2人+1匹の姿があった。
新聞記者の少女唄方朱里
同じく新聞記者の少年謳方悟
投げると爆発する魔界最弱のペンギン(っぽいもの)プリニー

「塔、まだかなー」
「すぐ近くだと思ったけど、結構遠いな」
「って、歩き始めてまだ3分も経ってないっスよ。そんなんじゃカップ麺すら作れないっス」

やれやれー、とプリニー。
ブン投げるわよペンギン、と朱里。
ヒィッ! と再びプリニー。
まあまあやめてやれって、と悟。
――と、その時。

「――レミリィ! レミリィ!!」

聞いたことも無い少女の、悲痛な叫び声がすぐ近くで聞こえた。
2人(+1匹)揃って綺麗に声の聞こえた方向を見やると、まず最初に青いワンピースを着た銀髪の少女が目に入った。年は朱里と同じか、少し下ぐらいだろうか。手に大きな鎌を持っている。
少しよく見てみると、銀髪の少女の足元にオレンジの髪の少女が倒れており、それを薄水の髪の少女が必死に揺り起こそうとしている。

「……どうする?」
「めんどくさい」
(こいつ見捨てる気だ! っス!)


【場所・時間帯】E3・森の真ん中あたり・朝

【名前・出展者】唄方朱里@魔王武器職人専門学校
【状態】健康
【装備】黒いボールペン
【所持品】プリニー・黒いボールペン・基本支給品一式
【思考】
基本:殺し合いとか今ンとこはその他だその他
1:うわぁめんどくさい
2:あー、どうしようかな

【名前・出展者】謳方悟@魔王武器職人専門学校
【状態】健康
【装備】剣
【所持品】剣・フランスパン・基本支給品一式
【思考】
基本:殺し合いとか今ンとこはその他だその他
1:なんかヤバそうだなぁ
2:さて、どうするかなぁ

【名前・出展者】プリニー@魔界戦記ディスガイア
【状態】健康?
【装備】なし
【所持品】なし
【思考】
基本:プリニーっス!
1:ええっ助けてあげないっスか!?
2:助けてあげましょうっス!
3:えっ本当の本当に助けてあげないの? っス

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最終更新:2011年04月10日 19:13