うーん、と少し考え込むような素振りを見せた後、基山ヒロトは呟いた。
「何か悪いことしたかなぁ、オレ」
『それを僕に言われても……』
彼がグランを自称していた頃に十分悪いことはしていたのだが、それを突っ込める人間は残念ながらこの場にはいなかった。というかそもそも、“人間”がこの場にいなかった。
だからといって、基山ヒロトという少年が現実にはいない架空の存在に向かって話しかける痛い人、というわけではない。
彼は、手元にある青を基調とした機器――PETの中にいるネットナビ、“ロックマン.EXE”に語りかけていた。
ヒロトは、同じイナズマジャパンのチームメイトの木暮夕弥と森の中を歩いていた筈だった。自主練習から戻る途中、河童にサインをねだられ、あげたらお礼にきゅうりを貰い、道に迷って川辺でキャンプをした。その後、色々あって河童とサッカーをして、帰り道を教えてもらったのだ。
森の出口らしき光が見えたところまでは記憶にあるが、気がついたらあの場所にいた。
「……まあ、覚えはあるけど」
『え、あるの?』
そして何故かつけた覚えのない首輪を付けられ「殺し合いをしろ」ときた。
最も、エイリア学園のグランだった頃ならいざ知らず、今のヒロトは言われたとおりはいそうですかと殺し合いをする人間ではなかった。
父親の愛に飢えているわけでもないし、友達が少ないわけでもない。というかもし叶えたい願いがあっても、あの女性の言う「なんでも願いを叶えてやる」が滅茶苦茶疑わしいわけで。
(円堂くん達、今頃どうしてるかな)
イナズマジャパンのキャプテンである「円堂守」がこの殺し合いの場にいないことを安心してヒロトは、ロックマンのいるPETの液晶画面を見つめて、これからどうするかを考えるのだった。
* * *
(落ち着け、落ち着くんだ。ここで取り乱したらあの天人崩れの思う壺だ)
輪廻はひたすら、気持ちを落ち着けようとしていた。本当なら、あの場でてんこ……ではなく比那名居天子をぶん殴っていたはずだった。首元で鈍く輝く、この爆発機能付の首輪さえなければ。
勿論、天子の言いなりになって殺し合いをする気なんてミスティアの涙ほどもない。
(まずは、祈祷のことを探――)
「こんにちは、お姉さん」
聞き覚えのない声に振り返ると、そこには1人の少年が立っていた。
年は彼女の妹である祈祷と同じか、それよりも少し下ぐらいだろうか。短い髪の色は真っ赤で、猫の耳のようなハネ方をしている。瞳は切れ長の緑色で、思わず「病気なんじゃないか」と心配になってしまいそうな肌の色をしている。
「お姉さん、さっきあの青い髪の女の人に何か言ってた人だよね? もしかして、殺し合いをする気なんて無いのかな?」
「……その前に、何者だ? お前は」
『ヒロトくん! 初対面の人に会ったらまず名乗らないと』
「それもそうだね。ごめんなさい、お姉さん。オレは基山ヒロトっていうんだ」
「なっ!?」
輪廻は驚いたような声を上げる。
別に少年基山ヒロトが名乗ったことに驚いたわけではない。明らかにヒロトのものとは違う声が何処からか聞こえてきたことに驚き、周囲を見回した。
「お姉さん?」
「誰か隠れているのか? 話がしたいのなら、ちゃんと出て来い」
「ああ、彼のこと? それなら、ここだよ」
ヒロトはそう言うと、手に持っていた青色のそれを輪廻に見せた。そこには1人の少年が映っていた。
『あ、はじめまして。僕はロックマン……』
「喋った!?」
思わず裏返った声を上げる輪廻。ヒロトと、画面の中のロックマンは思いも寄らなかったのか、その反応にきょとんとしていた。
少しの間の後、ヒロトはくすりと笑った。
「ほら、だから言ったろう? こんなに進んでる技術知らないって」
『うーん、そっか……』
(喋ってる……青い箱の中に入った人間が、喋ってる!?)
幻想郷にはこの「青い箱」のような技術は愚か、現実で言う携帯電話のような技術すらない。なので、輪廻が困惑し驚くのはまあ当然といえば当然のことである。
最も、ヒロトはそんなことは全く知らないわけだが。
「名乗ったことだし、話の続きをしたいんだけどいいかな」
「へ? あ、ああ、いや……」
「そうだ。お姉さんの名前をまだ聞いてなかったね」
青い箱の中の少年――ロックマンに驚いた所為か、ヒロトにそのつもりが全くないのにも関わらず、すっかりヒロトのペースにのまれつつある輪廻。
――いかん、このままでは天子の前に子供に舐められる。
背筋を伸ばし、表情をキリッとさせ、輪廻は名乗った。
「私は命輪廻。幻想郷の地獄で、鬼神長をやっている鬼だ」
「……鬼?」
再びきょとんとした顔になるヒロト。そして、
「輪廻さん。鬼っていうのは想像上の生き物で、本当にはいないんだよ」
まるで小さな子供に言い聞かせるような口調で、微笑ましいと言わんばかりの表情でそう言い放たれてしまった。
* * *
「ほら、すぐそこに町があるんだ。そこでこれからどうするか話そうか」
「お、おいちょっと待て。私は本当に地獄の鬼神長だ。ほら、このツノが何よりの証拠だろう」
「素敵なアクセサリーだね」
輪廻はいや、だから、と言葉を続けようとして、結局諦めた。このまま話していても信じてはもらえないだろう。そう察した輪廻は、がっくりと肩を落とす。見た目は溜め息を吐いている程度だが、心の中では「orz」である。
――どうしたら信じてもらえるか……とりあえず町に着いたら能力でも見せてみようか、いやでも、無理に信じさせる必要も、いやいやうーん……
輪廻がそんな風に悩んでいるとは露知らず、ヒロトは実に涼しい顔をしていた。
(殺し合いに乗ってない人が1人でも多く集まれば、もしかしたら、ここからなんとか脱出する方法も見つかるかもしれないな)
今の自分はもう、エイリア学園のグランではなく、イナズマジャパンの基山ヒロトなのだ。
(それにしても、鬼かぁ……)
ほんの少し前まで一緒にサッカーをしていた、ヒロトのサインをほしがってくれた河童のことを思い出し、ヒロトは思わず微笑む。
(河童がいるんだから、鬼がいてもおかしくはないかな?)
それは輪廻本人に言わないと意味がないのだが、ヒロトは口に出さなかった。
【場所・時間帯】B5・朝・町付近
【名前・出展者】基山ヒロト@イナズマイレブン
【状態】正常
【装備】PET(ロックマン)@ロックマンエグゼAXESS
【所持品】基本支給品一式、チップセット@ロックマンエグゼシリーズ
【思考】
基本:殺し合いには乗らない。このゲームからの脱出
1:輪廻さんって面白い人だなぁ
2:町で輪廻と今後のことについて話す
3:木暮くんと立向居くんを探したいな
【名前・出展者】命輪廻@東方二次幻想
【状態】正常
【装備】不明
【所持品】基本支給品一式、不明支給品×1~3
【思考】
基本:打倒てんこ・祈祷を探す
1:ううー……
2:町でヒロトと話をする(自分が鬼だと信じてもらう?)
3:祈祷を探したい
【名前・出展者】ロックマン.EXE@ロックマンエグゼAXESS
【思考】
1:熱斗くんがいなくて安心したけど、でも……
2:ヒロトと輪廻を出来る限りサポートする
【PET(ロックマン)@ロックマンエグゼAXESS】
AXESS仕様のPET。シンクロチップをスロットインすることで、クロスフュージョン(要するに合体)を行うことが出来る。
ただし、1度クロスフュージョンを行うと1度放送が終わるまで再び行うことは不可能。
※PETの他の機能が生きているかどうかは別の筆者さんに任せます
※ヒロトは付属の説明書を一通り読んでいます
【チップセット@ロックマンエグゼシリーズ】
戦闘支援プログラムバトルチップ詰め合わせ。シンクロチップもこの中に含まれる。チップの組み合わせ次第で「プログラムアドバンス」という強力な技を使える。
尚、クロスフュージョン中にバトルチップを使うには、シンクロチップを使う前にバトルチップをスロットインする必要がある。
チップ一覧
シンクロチップ×1
ソード×1
ロングソード×1
ワイドソード×1
スプレッドガン×3
バリア×1
バブルショット×2
ヒートショット×2
アクアタワー×1
フレイムタワー×1
ウッディタワー×1
フミコミザン×1
パラディンソード×1
※1度にスロットイン出来る数は、シンクロチップを含めずに最大5枚
※消耗品ではないです
* * *
――一方、その頃森の中では……。
「なんだか、大変なことになっちゃったな……」
しょんぼりとした顔で、木の根元辺りに座り込む1人の少年――ライラック・エルの姿があった。年はまだたったの9歳。因みにフリーですよお客さん。お菓子で釣って仲間に引き込むなら今のうち。おっとげふんげふん。
さっきまでいた会場内には彼の尊敬する人であり、保護者的存在であるコバルトの姿もあった。名簿を見る限り、参加しているのは間違いないようだ。
(ううん、こんなところで凹んでちゃ駄目だ。コバルトさんに笑われちゃう)
――まずは自分が何を持っているのか確かめないと。
ライラックは意を決して、支給されたデイパックを開けた。がさごそと探り、そして探し当てた何かを取り出した。それは――
『やあ僕シャルティエ!』
――まるで貴族の使うような装飾の、喋る奇妙な剣だった。
【場所・時間帯】E3・朝・森の中
【名前・出展者】ライラック・エル@星屑の幻想
【状態】正常
【装備】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブデスティニー
【所持品】基本支給品一式、不明支給品×1~2
【思考】
基本:殺し合いはしたくない・コバルトさんを探す
1:剣が喋ってる……凄い
2:木に登ったらコバルトさん見つかるかな……
【名前・出展者】ソーディアン・シャルティエ@テイルズオブデスティニー
【思考】
1:……あれ? 坊ちゃんは?
2:この子誰?
※ロワ内では誰でもソーディアンの声を聞くことが出来ます
※また、威力は落ちるものの晶術の使用も可能です
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最終更新:2011年04月10日 16:25