(2011年4月23日 第一案起案)

(2013年6月20日北日本図書館大会での発表に際し一部改案)


被災地の学校図書館復興のための予算措置を
~知と心の学習センターの再構築を目指して~

 2011年3月11日(金)に発生した東日本大震災 は、本震後1カ月以上が経過してもなお被害の全貌がつかめず、復旧と復興の長期化が予想されています。
 一方で教育環境の整備と復旧の歩みは始まっており、被災地では避難所生活の継続と学校の再開という困難な課題を抱えながら新しい学期を迎えている地域もあります。
 本声明は、被災地の学習環境整備復旧の一環として、学校図書館復興支援への呼びかけを行うために、学校図書館研究や学校図書館司書教諭養成に携わる専門家によって作成されたものです。

 読書が子どもの知的発達や情緒の涵養に有効であることは、今回の災害後被災地の子どもたちに本を送る活動が、国際機関や業界団体、ボランティア団体など複数のルートで速やかに実施されたことからにも見られるように、社会的に広く認知されています。しかしながら、義務教育の児童生徒が必ず毎日通う図書館である学校図書館について、日本では必ずしも先進国として十分な整備が行われてきたとは言えません。
 たとえば学校図書館法によって専門的な職務を掌ると規定されている唯一の存在「司書教諭」でさえ、その配置は全国40,000校の60%に留まっており、それも大半が兼任教員という現状です。
 このような常態からは、被災地域の学校図書館の大半に明確な担当者が存在せず、学校図書館復興に必要な措置を求める声が学校現場から上がる可能性に期待できないことが示唆されています。担当者不在の学校図書館には、復興のための十分な財源が確保されない怖れがあります。

 日本は、過去20年間に阪神淡路大震災・新潟中越地震といった大規模地震を複数回経験していますが、過去のいずれの災害においても、被災した学校図書館に対する組織的かつ専門的な復興支援が実施されたことはありませんでした。その理由として、日本には欧米先進国のような学校図書館専門職制度・団体が確立していないことがあげられます。専門職の結束によるボトムアップ型の支援を集約する拠点が欠けているのは、日本の図書館界における構造的な問題です。しかしながらそうした制度や団体の構築を待っていては、今回の復旧・復興には間に合いません。このままでは、被災した学校図書館は十分な復興予算や措置を望むべくもなく、被災地域と、被災地域外の学校との学習環境格差がますます拡大していくことが懸念されます。

 東北全体の復興計画に関しては、既に政府の専門会議が議論を開始しました。東北地方の学校復興計画に際して、平時の学校機能を取り戻すことに加え、特に学校図書館支援の見地からは、児童生徒が以下の点について十分な保証と支援を得られることが肝要です。

① 困難から立ち上がるために必要な科学的知識および信頼性の高い情報へのアクセス
② 未来へのビジョンを描ける構想力を養うための豊かなメディア・情報源の活用
③ 上記①と②を最大限に活用するための情報リテラシーの育成

その実現のために、東北被災地域の学校図書館を「知と心の学習センター」と位置づける新しい学校図書館ビジョンを策定し、学校の復興計画の中に明確に位置づけることを要望いたします。

 本声明に賛同する以下の者は、これらの被災地域学校図書館の復興計画のために、経験と専門知識を提供し、計画の策定と実施を支援する用意があることをここに表明します。


平成23年4月23日


発起人 河西 由美子(玉川大学 通信教育部・教育学部 准教授)

賛同者(順不同)
最終更新:2014年01月24日 21:05