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聖闘士星矢考察 冥王ハーデスの目的と聖戦後の脅威

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聖闘士星矢考察 冥王ハーデスの目的の謎と聖戦後の脅威


                 

『聖闘士星矢』 作中最大の敵は、冥界を支配する神・冥王ハーデスである。

………

ハーデスが作中で述べとるところによると、彼は人間の堕落を食い止めるため、
冥府において生前愚かな行いをした者たちに苦行を与え、
その恐怖から現世の人間たちを戒め続けてきたのだという。

ここだけを聞けば、世の道徳を保つべく協力している人間の庇護者であり、
善神であるかのようにも見える。

だが、本人の言とは裏腹に、彼は地上を支配する事に関して非常に貪欲で、
神話の時代から地上の支配権を巡り、
アテナと何度も聖戦を繰り広げてきた事になっている。

………

もしハーデスという神が、土地が痩せてほとんど収穫もなく、
苛烈な環境下にある領地しか持たぬというのなら、
美しい地上界の領有を目論むのも理解できる話である。

ところが星矢世界では、ハーデスは地上以上に美しい楽園
『エリシオン』を領地として所有しており、
そこでは側近の神やニンフたちが何不自由ない暮らしを行っている。

………

これだけ恵まれた条件にありながら、いったいなぜ
わざわざ全面戦争をしてまで地上界などを欲するのだろうか。
これは長年星矢ファンの間で大きな謎となってきた。

                 

聖闘士星矢の第3章にあたる冥界編では、
ハーデスは『グレイテスト・エクリップス』という
わけのわからない宇宙的奇跡を行っている。

簡単に言えば永遠の日蝕を引き起こす事で地球の気温を劇的に低下させ、
氷河期に戻し、地球上のあらゆる生けとし生ける者を
寒さと飢餓で皆殺しにするという計画だ。

………

日蝕とは、地球上のある地点において、太陽が月によって覆われて見える現象である。
当然そのように見えるのは限られた地点からのみであって、
他の場所から見ると太陽はいつも通りの姿をしているに過ぎない。

しかし地球上のあらゆる場所で日蝕が見られるというのだから、
いったい彼がどのようなシステムで全地点観測型の日蝕を引き起こしているのか、
こちらが聞きたいほどである。

また、この奇跡においてハーデスは太陽系の全ての惑星を一列に並べているが
日蝕とまったく関係ないこのアラインメントにはいったい何の意味があったというのか。
まさか他惑星の微々たる重力ごときで、地球に対して
重力干渉でも行うつもりだったのだろうか。

………

そもそも地球とは比較にならないほど巨大な木星や土星の軌道を
自在に変えられる力があるのなら、地球を直接太陽から引き離して
即効的に寒冷化させればいいのではなかろうか。

また地球の自転を急に停止させ、地球上の全物体を慣性で吹き飛ばしてしまうなり、
もっと効率的なジェノサイドの方法があったのではないだろうか。
わけのわからない事ばかりである。

もっとも、大きな悪事を企んでいるにも関わらず、やたら意味不明なほど
迂遠な行動に出たがるのは、車田作品の巨悪に見られる顕著な特徴だが。

………

ちなみに、嘆きの壁の前でアテナと対面した時、ハーデスは
あと僅か数分後にグレイテスト・エクリップスは完成する」と言っていた。
 それからかなりの時間が経過しているのに完成に至らなかったのは、
 アテナによってかりそめの肉体を追い出され、
 計画に支障を来たしてしまったためなのだろう。

                 

それにしてもハーデスはいったいなぜ地上などを欲するのか。
神話の時代に世界の支配権をめぐり、兄たちと籤引きをして負け、
僻地である冥界の統治を押し付けられてしまった事を
未だに根に持っているとでも言うのだろうか。

………

ひとつだけ明らかなのは、大日蝕による全人類の抹殺を計画し、
復活早々、躊躇いもなく実行に移してしまうほどなのだから、
地上の愛と平和のため、そして人間のために戦うアテナとは異なり、
ハーデスはもはや完全に人間という種を見限ってしまっているという事である。

………

しかし氷河期の到来によって生物の死に絶えた地上など、
白一色で何の面白みもない南極大陸と同じである。
永遠に変化の見られない死の曠野である。
エリシオのように花が咲き誇る事も、鳥が鳴く事もない。
そのような無価値な土地など手に入れたところで何になるというのか。

………

ドラゴンボールのフリーザのように、テロによって地上の支配権を奪った後、
その土地を金目当てに他の宇宙人に売り飛ばすというのならまだ理解できる。
しかしハーデスにそのような相手などはおらず、そもそも配下のカロンとは異なり
金銭に対する執着など見られない。

また、20世紀以降の世界人口の激増に伴い、
死者の靈魂が増えすぎて冥界が手狭になってきたため、
これ以上冥府に訪れる靈魂を増やさないためという理由も考えられる。

同時に増えすぎた魂を管理するための、冥界の地続きとなる
新しい土地が欲しかったのだという理由も思いつく。
しかし決定打は無い。

………

そもそも作中のハーデスは音楽を愛し、美しい肉体にのみ憑依する
芸術家肌の神であり、その本拠地であるエリシオンも
乱開発によって自然の姿を損なうような事もせず、美しい花々が
咲き乱れていたところからすると、環境の保全にも気を遣っているのだろう。

にも関わらず、そのような神が氷河期を到来させ、その結果訪れる
生物ひとついない氷点下の曠野などを果たして欲するものだろうか?

いったいなぜハーデスが地上を欲するのか。
それについては先述した通りやはり長年の謎と言わざるを得ない。

                 

こうした疑問についてヒントとなる点が幾つかある。
例えばハーデスに先立って星矢たち5人が戦った海皇ポセイドンは、
神話のデュカリオンの大洪水を再来させ、
水によって人類の文明を崩壊させる事が目的であった。

しかしそれはただの破壊ではない、と
ポセイドンの配下中最も哲学的に見えるクリシュナは言う。
彼によると今の時代は暗黒の時代カリ・ユガなのだという。
(作中ではカーリーと言っているが、これはカリ・ユガの悪魔カリとは別物である)

………

インド哲学によると人類は2万4000年をかけて4つの時期を繰り返している。
黄金の時代サティヤ・ユガ、白銀の時期トレーター・ユガ、
青銅の時期ドヴァーパラ・ユガ、そして暗黒の時代カリ・ユガ。
それぞれの長さは約4:3:2:1であり、時代が下るにつれ人の寿命は縮み、
悪徳が蔓延っていく。

………

この頽廃の時代を支配するのは悪魔カリとその眷属で、
人類は最悪の時代を迎える事となる。

だが、この時代の最後に白い馬に乗ったヴィシュヌの化身 (アヴァターラ)・
救世主カルキが現れ、カリの一派を根絶やしにする。
そして暗黒の時代は終わり、再び黄金の時代サティヤ・ユガが訪れ、
ヴィシュヌの化身クリシュナが世界を新たに創造するのだという。

………

当サイトの別のページでも書いているが、
ヒンドゥー教の本質は多神教に見える一神教であり、
ヴィシュヌの十大化身はそれぞれ聖書の各項目に対応している。

ヒンドゥー教において世界の終末に光臨し、悪しき世を滅ぼして
善なる世を創り出す、白い駿馬に乗った破壊の救世主。

それは聖書の黙示録に登場する、やはり終末の時代に白き馬に乗って降臨し、
サタンと悪しき世を滅ぼし、千年王国を築き上げるイエス・キリストと
構造的に同一の存在である。

もっと言えば、ヴィシュヌの化身クリシュナとは
そのエピソードが誕生から死に至るまでよく似ているように、
イエス・キリスト本人を指しているのだ。

………

ヒンドゥー教、仏教の神話には、その節々に
顕著にユダヤ・キリスト教に酷似した思想や特徴が見られる。

これらは紀元前10世紀頃には既に古代イスラエル王国とインドが
交易を通じて頻繁な文化交流を行っていた事、
またイエスの死後その使徒トマスがインドにて布教を行い、
その際原始仏教がキリスト教の影響を受け、大きな変貌を遂げた事など、
歴史的に互いに影響を与え合っていたためでもあるのだろう。

………

一見まったく無関係に見えるふたつの宗教であるが、
地下水脈のようにその根底に於いて1つに繋がっているのである。
また別の機会に述べるが、それはギリシア神話に於いて同様である。

                 

話が大きく逸れたが、「星矢」作中に於いては、
ヴィシュヌの第十化身であるカリ・ユガの末の救世主カルキと
第八化身である創造主クリシュナは、
共に海皇ポセイドンという存在に仮託されている。

海闘士クリシュナによると、ポセイドンは世界を水で破壊した後に、
新たに作り直すのだという。

………

一方『星矢』シリーズから派生した
作者公認の外伝作品である『エピソードG』には、
黄金聖闘士たちの最大の敵となるティターン神族が登場する。
彼らは人間を矮小で愚かな、存在価値の無いものと見做しており、
その抹殺を計画する。

しかしポセイドンやハーデスとは異なり、破壊行為によって
生けるものの存在しない死の曠野を作り出すのではなく、
時間そのものを太古の時代にまで逆行させ、
そこから新たな世界と秩序を創造しなおそうとするのだ。

………

遡ってギリシア神話を見れば、ゼウスがポセイドンと組んで
大洪水により人類を滅ぼそうと画策したのも、
新たに人類を作り直すためであったとされる。
こちらも創造の下準備としての破壊である。

………

神話のゼウスに於いても、星矢世界のポセイドンやクロノスに於いても、
ギリシアの神々にこうした行動パターンが見られる以上、
星矢世界の冥王ハーデスも同目的と推測される。

つまりハーデスが地上を欲し、そこに住まうものを一旦滅ぼそうとするのも、
彼ら同様、その後に新たな人類を作り出し、
自らの理想世界を築き上げるためであるのかも知れない。

                 

さて、余談だが、薄暗い冥界に引きこもって
暇を持て余していると思われるハーデスであるが、
神話においてはその業務は多忙である。

………

まず冥界の統治者としての第一の責務として、
死者たちの靈魂の管理という点が挙げられる。

その一方で冥界にはタナトスなどの不気味な男神のほか、
ネメシスやモイライなど、闇夜の神ニュクスを由来とする、
苛烈な性格を持つ執念深い女神たちが住んでおり、
冥府の王として彼らをも統括せねばならない。

彼女たちは少しでも機嫌を損なうと、大きな災いを齎す疫病神である故に、
その扱いには胃を痛めたであろう事が容易に推察される。

………

そして靈魂や冥府の神々の管理以上に、厄介な3つ目の業務が
地底の獄タルタロスの管理である。

………

タルタロスはそのかみ、始祖神の1柱、天空神ウラノスが
自身の子供であるキュクロプス(単眼巨人)や
ヘカトンケイル(百腕巨人)らを封じこめた領域だ。

この巨人たちがハデスの兄ゼウスらによって解放されると、今度は入れ替わりに
ティタノマキアでゼウスたちオリンポス神族に敗北した、
ティターン神族がタルタロスに封印される事になった。
その後も、タルタロスにはゼウスの怒りを買ったものたちが送り込まれている。

………

独善的な神ゼウスが統治する、オリンポス政権に反対する政治犯たちの収容所。
それがタルタロスである。

ひとたびこの封が解かれれば、かつてキュクロプスがハデスに隠れ兜と、
ポセイドンに三叉の鉾、そしてゼウスに雷霆という秘密兵器を与えるまで、
オリンポス神族を圧倒していたという強力なティターン神族が復活してしまう。

復活したティターン神族はオリンポスに攻め登り、
その結果天界を揺るがす第二次ティタノマキアが勃発するだろう。

それを最前線で食い止めている“門番”とも言うべき存在がハーデスなのである。

………

ハリウッド映画 『Clash of the Titans (タイタンの戦い)』では、
ハーデスは天界のゼウスを妬み、彼に対して復讐を試みる小悪党として描かれる。
彼が似たようなポジションで登場する作品は他にも多々見られる。

………

とかく、ギリシア神話を題材にした作品において悪役にされがちなハーデスであるが、
反面ゼウスがこのような重要施設の管理を任せているという事は、
それだけこの兄を信頼しているという事に他ならない。
彼が本当に敵であったなら、即座にこの牢獄を解放して天界に牙を剥くであろうからだ。

ゼウスの兄でありながらオリンポス十二神の1人に数えられず、
地上世界の統治権を持たない事から、世間では軽んじられる事の多いハーデスであるが
その実オリンポスから重要な役割を任されていたのである。

                 

余談だが、確かにハーデスは少女ペルセフォネを誘拐して妻にしたという罪がある。
これは立派な犯罪行為である。

だが、よく考えて欲しい。
では他の神々は潔白であるのか?

……

実はギリシアの神々は総じて性に奔放で、淫蕩でさえある。
主神ゼウスなど性器に手足がついているかのごとく好色家で、
様々な存在に化身しては沢山の美女たちと交わり、
ペルセウス、ヘラクレス、カストール、ポリュデウケスなどといった
多くの子を産ませている。

ハーデスは確かに1人の少女に悪事を働いた。
だが、手をつけた相手が1人どころではない主神ゼウスと比べれば、
それすらも霞んでしまうのである。

……

また、被害者であるペルセフォネも、強制的な形で妻にされたものの、
その後はハーデスの妻である立場を受け入れ、
ギリシャ神話では夫のそばにいる場面が多い。
またハーデスの浮気相手メンテーを厳罰に処しているなど、
夫の浮気にも強い嫉妬心を見せている。

意外にも夫婦仲がいいと思われる一方で、
また彼女は人間の美少女アドニスを深く愛し、
1年の3分の1の間、彼を堂々と恋人として側に置いている。

ギリシア神話を題材とした二次創作物では、小心者で欲深な人物として
描かれる事の多いハーデスだが、原典においては、
妻の浮気に対して度量の広い人物と言えるのかも知れない。

                 

さて、ここで「星矢」の話に戻るが、何か気づかないだろうか。
原作星矢のラストで、女神アテナはハーデスの眷属全てを数珠に封印したのみならず、
ハーデスの側近タナトス・ヒュプノスを、果てはハーデス本人を
考え無しにも倒してしまった。

その結果グレイテスト・エクリップスは中止し、地球は救われたのだが、
ハーデスの死によってエリシオンは崩壊し、冥界もまた消滅してしまった。

………

これは同時に封印されていたタルタロスが解放された事をも意味する。

アテナは冥王を倒して地上を救うどころか、
人間界に大きな地震を齎していたティターン神族ほか、
神話の時代からタルタロスに封印されていた者たちを復活させ、
オリンポス相手に大きな戦争を起こす火種を作ってしまったのだ。

………

…もっとも、これらティターン神族は、星矢本編の前日譚であり、
外伝作品である『Episode.G』の中では、
既に原初神が1柱・ポントスによって封印を解かれ、復活を果たしている。

しかし黄金聖闘士たちによって倒され、更に二度と復活できないよう、
その小宇宙は原初神復活の糧として吸収されてしまっている。

………

もし『Episode.G』が星矢正伝と無関係の作品であるというのなら、
当然ハーデスを倒した後のティターン復活の危惧はあろう。
しかし正伝に繋がる正史作品であるというのなら、
ティターンの復活も当然無くなるわけだ。

もしかして星矢作者の車田氏とEpisode.G作者の岡田氏は、
そこまで考えてこの外伝を作り上げていたのかもしれない。

………




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END
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