(03)396 名無し募集中。。。 (蘇る記憶)



「なんやの、スッキリせんなぁ…」


愛は喫茶店で一人呟いた。
最近、何かがおかしいのだ。何がおかしいのか分からないが、気持ちがスッキリしない。
何も変わっていないはずなのに、ポッカリと穴が開いている気分だ。


「んー。あかん、全然分からん」


あの日から自分に対して違和感を感じ、その理由をずっと考えているが、分からない。
いつもの自分ならこういう時どうしていただろうか。


「あ。相談すればいいんや。…え、でも誰に…?」


記憶上、田中や道重あたりに相談した事はない。
亀井や下の子達にも、勿論悩み等を打ち明けた事はないはずだ。
じゃ自分は今まで誰に相談事をしていたのだろうか。



自分は誰にも相談をした事が無い。否、それは違う。
間違いなく自分は過去に何度も「誰か」に相談をしている。
そしてその「誰か」に何度も助けられているはずだ。
それは一体誰なのか…


「なんで思い出せんのや。なんで…」


どうしても思い出せない。なぜここまで考えても分からないのか。
その程度の付き合いの人間だったのだろうか。
いや違う、それは絶対に違う。根拠はないが、それは違うと言い切れる。
なぜならそれは絶対に忘れちゃいけない人なんだと、本能が叫んでいる気がするから。


「あの夢を見てからやな…なんであんなに泣いてたんやろ」


あの日、目が覚めたら泣いていた。
夢の内容は覚えてないが、とても悲しい夢だった気がする。
そう言えば自分は、あの日から少し口数が減ったかもしれない。
小春も前よりイタズラをしなくなった。
前なら、怒られるためにわざとイタズラをしていたような子だったのに。
じゃあ、その小春を叱っていたのは誰だったんだろうか。
自分…ではない。道重か田中あたりだったろうか。



「…違う。…他にもう一人いるはずや…」




眉間に皺を寄せ、一人で考え込んでいると、光井が来た。
光井も何か考え事をしているのか、いつもの笑顔ではない。


「どうしたの光井、そんな顔して」


愛が聞くと、光井は愛の顔を見て少し考える素振りをしてから口を開いた。


「あの…愛佳の能力って、最初全然上手に使えなかったじゃないですか」
「あー、そうだったね。でも今は違うじゃん?」
「今みたいに使えるようになったのって……あぁ、あかん、分からへん」
「練習したんやなくて?」
「違うんです!練習はしたんですけど…なんか「誰か」にずっと教えて貰ってたような…」
「…もしかして、その「誰か」が思い出せんてこと?」
「そう、なんです…なんで忘れてしまったんやろ…」


光井の話を聞いた愛は、自分と光井が忘れている人は同一人物ではないかと思った。
はっきり言って、リゾナンター達の交流関係はさほど広くない。
みんな元々、孤独に苦しんでいた人達ばかりなのだから。



「あれ?高橋さん、お守りどうしたんですか?」
「お守り?」


光井がカウンターの端に置いてある愛の携帯を見て言った。


「お守りですよお守り。嬉しそうに付けてたじゃないですか」
「付けてた…?」
「付けてましたよ。…あれ、でも誰に貰ったんやったかな」
「ちょ、ちょっと待って!それ…それって…」


確かに自分はお守りを貰って、それをずっと携帯に付けてた。
その時とても嬉しかったのを覚えている。
確かそれは「誰か」も持っていて、お互いを守ると約束までしたはずだ。
そこまで覚えていてどうしてその「誰か」が思い出せないのか。
おかしい、おかしすぎる。
そこまで考えて愛はハッと気がついた。



―忘れているんじゃない、忘れさせられたんだ―



…でも一体誰が。何のために。



「うー…」
「ど、どうしたんですか高橋さん」


愛は思い出せないまま頭を抱えて唸りだした。
「誰か」の名前を言いたくてしょうがない。
いつも呼んでいたはずだし、自分も呼ばれていたはずだ。



――『はい。愛ちゃんにこれあげる』――
――『お守り。いつも愛ちゃんに守られてばっかりだったしね』――
――『愛ちゃんが、あたしを守ってくれる分、あたしも愛ちゃんの事守りたいから』――



「愛ちゃん!!」
「うわ!いきなり叫ばんといてくださいよ、びっくりしたー」
「ほや、いつも名前で呼ばれてたやんか…」


どんな辛い事があっても、その声を聞くだけで癒されてた。
自分には真似出来ない、とても優しい声。
2人きりの時には、自分も「誰か」の名前を呼んでいた気がする。
その名前は確か…




「お守りには「R」って書いてましたよね?」
「R…?」
「愛佳の予知では「A」やったんですけど…交換でもしたんですか?」
「交換…お守りを交換…」


そうだ、自分は確かに「誰か」とお守りを交換した。
イニシャルだから、お互いのを持とうと。お互いを守るために。
自分はあの時、一生を賭けて守ると心に決めたのだ。
何を犠牲にしても、絶対に守りぬくと。



――『あたしは、愛ちゃんを守るから、絶対に』――
――『そんなんあたしかって…ちゃんを守る』――
――『ほんとにぃ?それ、信じちゃうからね?』――
――『信じてええよ。あたしは…ちゃん信じてるから』――



「里沙ちゃん!里沙ちゃんや!!」
「へ?…あぁ!!そうや、それや!新垣さん!!」
「光井!急いで全員に集合かけて!里沙ちゃんが危ない!!」
「はいっ」




ごめんね里沙ちゃん。今助けに行くから。
何があっても守るって約束したのに…頼りないなぁ自分。
こんなんでほんとに里沙ちゃん守れるんやろうか。


いや、守る。絶対に守るんだ。
約束したし、里沙ちゃんと。





あぁ、そうか。記憶無くしてからの自分は、寂しかったんだな。
いくら記憶が無くなっても、その時の感情までは消せない。
忘れられる訳がないんだ、自分より大事なあの人を。
忘れるなんて、辛すぎる。




だからお願い、無事でいて。
もう一度あの場所でみんなと一緒に笑って過ごそう。




















最終更新:2012年11月23日 11:22