(22)271 名無しじゃないやい (裏切り者の懊悩)



雨が降る、雨が降る、心まで凍らせてしまうような冷たい雨が降る。
深い深い闇から、まるで迷子の子供のように途方もなく、どうしようもない雨が降る。


「教えて、あたしはこの先どうしたらいいの?」


彼女の問いに答える声はなく、凍てつくような冷たい雨がただただ、世界を濡らしていく。
その世界の中心で、彼女は雨に打たれたまま一歩も動けない、動かない。

見上げているのは闇夜、目に浮かぶのは仲間達の温かな微笑み。
こんなはずじゃなかったのに、胸が痛い。

待っている人がいるのに、どうして自分は彼女達と共に在りたいと願うのだろう。
無力な自分ではけして叶えることが出来ない願いだというのに、何故そうなればいいと望むのだろう。

雨の音しかしない、夜の公園。
それなのに、耳に聞こえてくるのは彼女達の笑い声。

何もかもを捨てて彼女達の元で心から笑いたい、そう思ってしまいそうな自分が嫌だった。
忘れてはいけないのに、今ここで生きているのはあの人が自分を助けてくれたからだというのに。


「―――いつ終わるんだろう、あたしのこの苦しみは…」


雨が降る、雨が降る、どこまでも冷たくて悲しい雨が降る。
涙を流せない彼女のためであるかのように、深い深い闇から糸のように細い雨が降る。

携帯電話が奏でる音に顔色一つ変えることなく、彼女はただただ空を見上げる。
いつか、この暗闇に一筋の光が差し込むことを願いながら、分厚い雨雲に覆われた夜空を見上げる。
―――その横顔は、まるで泣いているかのようだった。




















最終更新:2012年12月02日 12:31