(24)862 『絶対解ける問題 X=A+KSa(3)』



「ご家族の方ですね?残念ながらこれ以上オペを施したとしても意味はありません」

 これは事実だ。もう処置の施しようがないところまで来ている

「えっ!?どういうことですか!?」
「当病院としましてもこれまで可能な限りのオペは施しました。これ以上はもう
 ご本人の生きる気力に掛けるしかありません」
「そんな!貴方それでも医者ですか!」

 半狂乱で亀井絵里の母親が私に掴みかかる・・・
 私は、辛そうな表情を作る

「せめて、娘さんの手を握っていてあげて下さい・・・」
「そんな・・・そんな・・・うっうっ・・・」

 泣き崩れてしまう絵里の母

「そこのご友人の方、貴方も亀井さんの手を握っていて上げて下さい」
「そんな・・・先生、何とかならないんですか!」

 私はさらさらとメモに言葉を書いて道重さゆみに渡す

『ヒーリングを使え』


 メモを見た道重さゆみは目を丸くした

「あ、貴方は一体!?」

 すかさず、私はさゆみの耳元に口を近付け小声で囁く

「想いが奇跡を起こすこともあるかもしれませんよ」

 しばし、じっと道重さゆみは私を見つめ、何かを決意したかのように目を閉じ
 亀井絵里の手を握る

「分かりました・・・信じます、絵里の生きようとする力と、私の想いを」

 >道重さゆみから治癒能力波動、検出

 そうだ、それでいい
 私は脈を確かめるふりをして亀井絵里の腕に手を当てる

 >ナノマシン注入用ニードル、注射
 >目標の静脈にナノマシン群、注入
 >完了

 後は心臓に到達したナノマシンを遠隔制御し、異常な部位を破壊しつつ、再構築の道しるべ
 を作り再生させる。再生、再構築の助けになるのが道重さゆみの能力『成長力の異常促進』だ。
 現状、最も可能性が高い方法・・・それでも成功する保証はない
 まさに『奇跡』を起こさなければならない

 >ナノマシン群、心室に到達
 >作業開始


 道重さゆみがベッドの布団の中で握った手から光が漏れている
 私がナノマシンの遠隔操作作業を開始すると、一層その光は眩さを増す
 幸いなことに、周囲の人間は誰も気付いていないようだ

 >ナノマシンコントロール脳量子波、道重さゆみのヒーリング能力の波動と同調

 なんだ?偶然かこれは

 >Resonant

 リゾナント・・・だと?何だ?何が起こっている?
 まさ

 >システムに異常発生

 なんだこの感覚は・・・忘れていた、暖かいこの感覚・・・
 道重さゆみの、亀井絵里の、そして・・・私の生命の波動を感じる

 治癒能力の光は一層その輝きを増した


 >システム、回復
 >思考修正

「患者さんの心拍、急速に回復しています!」
「信じられん、脈拍周期が完全に正常になっている」
「あの状態からどうやったら回復するんだ!?」
「さっき何か光らなかった?」
「うん、確かに光った」

 どうやら、終わったらしい

 >亀井絵里の胸部、スキャン

 亀井絵里のデタラメな心臓は、完全に正常な成人のそれに姿を変えていた
 間のメモリーがなぜか飛んでいるが『奇跡』が起こったようだ
 後は亀井絵里をラボに搬送するだけだ



 >回収班に通信
 >目標、ICUで昏睡中。プラン通り拘束願う

「もう大丈夫です。理由は判りませんが娘さんは完全に回復しています」
「せ、先生・・・」

 安堵したのかへなへなと崩れ落ちる絵里の母
 昨晩、いやその前から眠っていなかったのだろう

「君達、ご家族の方を別の病室へ」
「わ、判りました!」

 わらわらと看護士達が絵里の母を搬送する
 私は適当に看護士達や他の医師達に指示を出し、ICUから遠ざける
 もうすぐ回収班が到着するだろう、プラン通りだ


 最後にICUに残ったのは道重さゆみだった
 まだ亀井絵里の手を握ったまま座っている
 ミッションの妨げは、排除しておくべきだろう

「もう大丈夫ですよ。貴方も家に帰って休んだ方がいい」

 しばしじっと、道重さゆみは私を見つめ口を開く

「先生・・・なぜ私の能力のことを知っていたんですか?」
「私も能力者の端くれでね、と言っても軽いリーディング能力ぐらいだが」

 適当に考えた嘘をつく。ここは波風を立てたくない

「そうでしたか・・・でも先生の力は、もっと凄い力だと思います」
「えっ!?」
「私の癒しの力だけじゃ絵里は助からなかった。先生の力と共鳴したから
 奇跡は起こったんだと思います」

 共鳴・・・?何のことだ?

「共鳴?はて、何のことやら?純粋に貴方の想いが、亀井さんを助けたんだと思いますよ。
 貴方もお疲れでしょう。今日は私達に任せて帰ったほうがいい、他に用事もあるでしょう?」
「用事・・・そうだ!すみません先生、私帰ります!今日は本当に有難うございました!!!」

 私の言葉ではっ、と道重さゆみは何か大事な用事を思い出したようだ
 私に深々と頭を下げると立ち上がり、ICUの出口に向かって駆け出してゆく



 しかし、道重さゆみはICUの扉を前にするとピタリと歩を止めた
 ん?何だ?何を

 >未知の破壊エネルギー、検出

 しまった!

 >エネルギーの弾道を予測
 >緊急回避

 避わしきれず、エネルギーが掠めた私の左腕が消失していく
 組織も未だ解明出来ていない、未知の破壊波動を行使する能力者
 彼女が目覚めたのか

「久しぶりですねぇ。さゆみの目は誤魔化せても、私の目は誤魔化せませんよ」

 >道重さゆみ、道重さえみに人格転換
 >戦闘モード




















最終更新:2012年12月02日 09:50