(24)670 名無し募集中。。。 (俺)



「あの『R』が負けるなんてなあ…。」
俺は今、ダークネスの地下一階にある休憩室で1人寂しく飯を食っている。
だが、殆ど何も喉を通らない。今日だけじゃない。ここ2、3日ずっとだ。
そう、同僚のメールで『R』の敗北を知ったあの日から『R』の顔が頭から離れてくれない。どういう理由かは自分でもよく分からないが、ポッカリ心に穴が空いてしまったようで、何もする気が起きないのだ。
本当なら休暇を取りたい所だが、有給は全部使っちまったし無断欠勤は当然“処罰”の対象になるだろう。

“処罰”となれば当然“あの部屋”に連行されるのであろうが、その部屋の主であった『R』はもういない…。『R』の“愛の鞭”なら喜んで受けたのだろうが、他の奴等からの仕置きなど御免だ。



ダークネスの地下深くには部屋全体がピンク色で彩られた『R』専用の“お仕置き部屋”が存在する。失態を演じた構成員は、そこで一時間『R』からの裁きを受ける。
最後まで耐えることが出来れば放免となるのだが、当然『R』の“愛の鞭”は生易しいものではなく、殆どの者は一時間保たずに絶命、若しくは再起不能に陥る。



…あれは何ヶ月前のことだろう。
「覚悟はできた?お馬鹿な下級兵ちゃん。」
そう、実は俺は『R』の気を引きたくて、わざと任務を失敗し『R』の“お仕置き部屋”に招かれたことがある。
普通は自ら命を捨てに行くような愚かな行為はしないもんだが、俺には『神』から細やかな“治癒能力”と一時的に肉体を“鋼鉄化”できる『チカラ』を授けられたのだ。
最後まで生き延びれるかどうかは賭けだったが、何とか俺はその『神のチカラ』のお陰で致命傷を負うことなく最後まで『R』からの“愛の鞭”に耐えることが出来た。
今思えば、一秒でも長く『R』と二人だけの空間を満喫したかったという不純な動機が俺を突き動かしていたのかも知れない…。

「へぇ、やるじゃん。私の“愛の鞭”にここまで耐えられた兵士はあんたが初めてよ。」
そう微笑みながら『R』は部屋を後にした。あんな至近距離で『R』と接したのはあの日が最初で最後だった。あの美しくて、どこか愁いをおびた彼女の微笑みは今でも俺の目に焼き付いている…。


あ、また俺『R』のこと考えちまってるじゃねぇか。一体俺はどうしちまったんだ?
まさか俺はそこまで本気で『R』に惚れ込んでいたというのか?
馬鹿な。俺は『神』であるダークネスの一員なんだぞ?
愛だの恋だの凡人共と同じ様な下らない感情に振り回されてどうする?しっかりしろ!!
後はあのリゾナンターとかいう鬱陶しい蠅共を駆除するだけなんだからな。

『R』の敗北は確かに予想外だったが、慌てる必要は全くない。
同僚からのメールによると、ダークネス四天王『DD』の一人『A』にリゾナンター抹殺の指令が下り、すでに出撃した模様だ。
『A』は世にいう“サイボーグ”って奴で、ダークネスの天才科学者『Dr.マルシェ』が造りあげた彼女の自信作だ。
一切の感情はなく、敵を抹殺する為“だけ”に造られた究極の殺人マシーンが相手では、今度こそリゾナンターは一巻終わりだろう。


しかしDr.マルシェって奴もあんな可愛い女の子を殺人マシーンに改造してしまうなんて恐ろしい女だぜ。
俺は一度同僚に参考資料として『A』の写真を見せて貰ったたことがあるが、とても“サイボーグ”には見えなった印象がある。
それどころかもし『A』が普通の人間だったら、今頃アイドルとして芸能界で活躍してても可笑しくない位のルックスだった。
実は『A』の顔も俺の好みだったりするんだよな…。『R』とはまた違った魅力もあるし…。
…嫌、そんなことはどうでもいい。リゾナンターの戦闘データは全て『A』の電子頭脳にインプット済みだろう。奴らが生き残る可能性は、今度こそ“ゼロ”だ。今頃きっと『R』の無念を晴らしてくれている筈だ…。



…あ、また『R』のこと考えちまってるよ…畜生…。

「何冴えない顔してんだ?」
「…なんだ、またお前かよ…。」
突然俺に話かけてきた男。それは人嫌いな俺がその中でも一番苦手にしてる男。そして俺の携帯メールの着信音を鳴らす唯一の男でもある。
この男は何故かいつも俺に付き纏うとするので、本当に鬱陶しい。
しかも頼みもしないのに組織の裏ネタを“ここだけの秘密”だと言って俺に話そうとする。時には只の構成員であるこの俺が本来知るべきでない“最高機密”まで喋るもんだから本当に心臓に悪い。

まあ、今この俺がダークネスという『神』の組織の一員になれたのはこの男の口利きが大きかったようだからで感謝はしているんだが。



「『R』のことは残念だったな。ま、どう考えても『R』はお前には高嶺の花だ。諦めがついて却ってよかったんじゃないか?」
「また俺の心を読みやがったのか?相変わらず悪い趣味してるぜ。」
精神感応。これがこの男の能力。他人の心に土足で踏み込むこいつの性格に相応しい“チカラ”だ。
「帰れよ、今日はお前の髭面なんか見たい気分じゃないんだ。」
「そう言うなって。折角俺が仕入れた取って置きの情報を親友のお前に教えてやろうと、わざわざ来てやったのによ。」
何が親友だ。誰も頼んでないのに、恩着せがましいこと言いやがって…。
「ここだけの話だがな、近々全ての幹部連中が本部に集まってくるそうだ。緊急幹部会が開かれるって話。」
…おいおい、さらりとまた重大なことをペラペラ喋りやがって。幹部が全員本部に招集されるなんて只事ではないって新入りの俺にでも分かる。何があったんだ?
…そうか!!もうすでに『A』がリゾナンター共を排除しているであろう今、俺達に刃向かう邪魔者はもう誰もいない。幹部を全員集めて、一気にこの世界をダークネスの闇で覆い尽くそうってことか!!
いよいよ俺を馬鹿にしてきた連中を見返す時がきたんだな!!

「…残念ながら、そうじゃないんだなあ。全く逆だ。」
「…???…どういうことだ…???」
俺の動揺した姿を見てニヤリと笑うと、髭面の男は俺の耳元でこう囁いた。

「もうすでに『A』はリゾナンターに敗れたそうだ。」
「…………………」
一気に凍りついた俺の表情を見届けた後、男は一瞬で姿を消した。男のもう一つの能力“瞬間移動”を使って―





















最終更新:2012年12月02日 09:04