(24)545 名無し募集中。。。 (ジュンリンvsA)



人間は、意味を見つけて初めて居場所を見つける。
それがどんなモノであれ、自身の存在を示すことが出来る所。
生きたいと想える。
誰かを想える。
その感覚が薄れつつあった幼少時代。
自身のみを愛し、信じ、生きてきた自分自身。

振りかざすそれは凶器と狂気を入れ混じらせ。
赤く染まった世界と血塗られた現実のみを知らしめて来た。
砂ちり舞う砂辺に陣取る赤。
だが見上げた世界は、赤とは対照的な青があった。

見上げることの無かった空。
真っ直ぐにしか見なかった少女は、ただただ見上げていた。
悲しみを帯びる赤とは違い、世界の美しさに垣間見た瞬間。

 ―――居場所と意味が欲しかった少女は、初めて泣く事を知った。



李純、ジュンジュンは背中に感じる悪寒の意味を悟った。
自身の中に宿る獣の本能が危険を感じて居る。
今までに感じたことの無い殺意の塊。

 「―――来ル」

隣で歩いていた銭淋、リンリンが呟いた刹那、それはすぐ眼前に居た。
瞬間、ジュンジュンは疾走したかと思うと、半獣化した腕を振り下ろす。
鋭く、凶々しく増長した爪はだが、その対象を掠める事無く回避される。

ジュンジュンが体勢を整えようとした時、襲撃者は持っていた棒の
先端を持ち、引き抜いたと同時に現れたのは白々とした刃。
緩く湾曲している其れは、紛れも無く大業物の刀だ。

 「ジュンジュン!」

背後から聞こえたリンリンの声に反応するように準備しておいた突きを放った。
だがそれも軽やかに避けられてしまう。
追撃するものの、追撃者は円弧を描くようにジュンジュンの変貌した爪を回避する。
追撃者の刃が放たれ、爪で防御。金属音の様な高音が世界に響く。

再び攻勢に出たジュンジュンの爪を、追撃者は柔らかく受ける。
左手が跳ね、手首辺りを狙い腕を叩き落した。
一瞬の隙。
追撃者の刃が無防備な空間へと進み、首筋に迫る鋭利な刃が頚動脈を引き裂く。

寸前、真横から現れたリンリンによって抜かれた短刀が防いだ。
赤い火花が咲き、新緑を浮かべる手で反撃するが、追撃者はこれを後退して回避。
ジュンジュンは体勢を整えると、追撃に備えて構える。



 「助カタヨ、リンリン」
 「あのヒト、何かヘンじゃなイ?ナンカ、人間じゃナイ」
 「気配は人間だけド…まるで…」

  高橋サンと似てイル。

ジュンジュンが呟いた其れが意味するのは、"追撃者"が繰り出すモノだ。
『リゾナンター』のリーダー、高橋愛は精神感応(リーディング)を行う事で相手が
推測する次の思考を読み取ることで攻防を可能にする。
人間の体が活動するのは全て脳で考えるからだ。

対して"追撃者"もまた、まるでこちらの手を読んでいるかの様に攻撃をしている。
ただの異能力者であるなら然程てこずる様な事ではないのだが、眼前に居る存在は奇妙だった。

 「リンリンは後方カラ援護して、私がヤル」

"追撃者"がどんなチカラを行使するのか分からない以上、二人での交戦は危険だと判断する。

ジュンジュンは全身の細胞配列を調整し、体組織に微細な特殊回路を形成する。
限界まで強化した腕は白黒で覆われ、獲物を狩る為の爪は獰猛に光る。
最高の機動性と最高の近接戦闘能力を併せ持つ獣の本能が咆哮した。

瞬間、ゾクリと背筋が震えた。
眼前に居る"追撃者"が微笑んだのだ。
まるで殺戮を楽しみ、血を啜り、慟哭に耳を済ませる悪鬼を思わせる其れ。
だがどこか儚げで、何かに耐えるように浮かべる其れ。

だがジュンジュンは突きを放ち、"追撃者"の頬を掠めた。
早く重い突きの連射砲となった連撃に防戦一方となり、耐え切れず態勢を崩す。
ジュンジュンの突きからの薙ぎ払いを受けたのは地面のコンクリート。



裂帛の気合と共に放たれる正面からの白刃。
半身となったジュンジュンの肩口を掠めた。さらに翻る刃を爪で受け止める。
片手は貫き手となって前に突き出された。
両目を狙われた指先を回転して逃れる。

"追撃者"は再び距離を詰めた。
ジュンジュンに飛燕の速度で追いすがり、蛇のような息吹と共に刃を放つ。
突きからの斬撃が利き手を狙ってくる。
瞬間、刀身に浮かんだ歪に気付き、"追撃者"は刃を反転させて回避。

念動力(サイコキネシス)
いかなる既知の物理的エネルギーや媒介物を用いずに物質に影響を与えるチカラは
後方で二人を見つめるリンリンから放たれたモノ。
"追撃者"は一瞬、彼女の方へと視線を向けたが、ジュンジュンの追撃へと専念する。

両者の間に散るのは火花と金属音の様に高音の多重奏。
"追撃者"の攻めは嵐の激しさと、機械の精緻さの其れ。

リンリンは考える。あの"追撃者"は紛れも無くダークネスの者。
だが普通の異能力者とは別格。
つい数日前に現れた『R』と名乗る女性にも似た雰囲気が在った。

粛清者。ダークネスの離反者、抵抗組織の処罰、殲滅を補う者。
『R』は言った。自身が光の粒子に呑まれる直前、微笑んだ表情はどこか儚げで。

 "これで…私は解放される"

その言葉が頭からこびり付いて離れなかった。
だから考えた。その意味を。そして、理解する。



チカラは自身の望みの為に使うモノ。
だからこそ、自らを利にすることの無い行為には疑問を抱く。
『銭淋』もまた、そのチカラ故に囲いの中で生きてきた人間だ。そして『李純』も。

利用される存在の気持ちは誰よりも分かる。
死は死の連鎖を結び、また殺しは殺しの連鎖を生む。

 粛清者もまた、意味の中で居場所を見つけようと必死なのかもしれない。
 己の信念と己の存在を賭けて、自分の中に宿る孤独と戦う為に。

だがリンリンは想う。自分が守るためのチカラもまた、その戦いの為にあると。
前方で咆哮が聞こえ、リンリンは意識を戻した。
ジュンジュンは肉体的に影響を与えるチカラの為、長時間もその変身を維持する事は出来ない。
薬物投与や特殊な手術を施していない人間の体でも限界が在るのだから。
所々に激痛を催しているのにも関わらず、彼女は最期の攻撃を放った。

"追撃者"もまた、最期の攻撃を放つ。
通常、剣技ではありえない方向、真下から真上への太刀筋。
ジュンジュンは爪で受け、衝撃を受けきれずに下がるが手で着地した"追撃者"は逆さとなり
逃げる途中のジュンジュンの胸部を掠めた。

血の霧と共に、両者の距離が離れていく。静謐を切り裂く硬質の沈黙。
瞬間、"追撃者"の首筋には朱線が浮かび、爆ぜた。

頚動脈を正確に狙った一閃を受けた其れからは溢れんばかりの血が吹き荒れる。
人間に戻りつつあるジュンジュンの身体にもそれは付着した。
慌ててリンリンは駆け寄り、崩れる彼女を後ろから受け止める。

地面に身体を打ち付け、"追撃者"はそのまま動かなくなった。隣に突き刺さる刀の刃。
首筋から流れる血は止まらず、体がその血液に沈んでいく。
赤く染まった口が、何かを紡いだ。
それがリンリン達に届く前に、命の灯火は消えて行った。 


 >メインシステムに問題発生。思考修正不能。再起動不能。
 >問題発生。問題発生。問題発生。問題発生。問題発生。…………
 >機能停止。機能停止。機能停止。機能停止。機能停止。…………
 ……
 ……

群青色の雲を赤に染めて沈み行く太陽。
ジュンジュンとリンリンがその場を立ち去った後。
認識阻害を施す捕縛用の『結界』を完全に解いた監視者は、連絡を繋げた。

 『もしもし、ガキさん?』
 「たった今終わったよ。ちなみに脳量子波なんとか装置っていうのは
 回収できないほど壊れてるみたいだけどね」
 『あー良いよ別に。あれは試作品だからデータは取ってあるし。
 それに今、改良版を開発中なんだよね。今度はデバイスに量子を組み込んで…』
 「私、この後これの処理をしなくちゃならないから、コンコンの説明は帰ってから聞くよ」
 『あぁ何だ残念、じゃあ今度スイーツでも用意して待ってるね』

電源を切る。監視者、新垣里沙はゆっくりと息を吐いた。
自分の使命に開放される日々を願うのは、誰しもが同じな事。
自身の願いにチカラが行使できるのなら、どれほど幸せな事だろうか。

見上げた空は闇色に染まろうとしていた。
あの時見た空のように綺麗な青を見るのは、もう出来ないのかもしれない。
それでも、戦い続ける。
自身が生き続けている間、死ぬまでずっと。

 哀しみも感情も無く、ただ浮かぶ月は惨酷なまでに美しかった。



















最終更新:2012年12月02日 08:42