(24)491 名無し募集中。。。 (豚まん一つ)



ビルとビルが重なり合って出来た谷間。
目を凝らさないと1メートル先も見えないような僅かな幅の空間に彼女はいた。
ボロボロになった着衣をまといながら、身体を丸めるようにして

「ジュンジュン、待ったかぁ~」
「いや、全然待ってナイ。 それよりスマナカッタデス」
「いいよ、どうせ今日は学校も休みやったし。 しゃあけど何でリンリンやのうてわたしを呼んだん」
「ここからだと愛佳サンの家が一番近カッタシ、それにリンリンはバイトがアッタシ。
どうしても休まナイとイケナイ時がアルから、ソウデナイ時はデキルだけ休マナクテイイヨウにシヨウと思ッタケド。
迷惑デシタか?」

つぶらな瞳に翳りが見える。

「いやいや、全然。 私を頼ってくれて嬉しいわ、ほんま」

“ダークネスが洗われた、銃火してやっつけた、服が破れた、愛佳助けろ”

そんなメールに呼び出されて、ジュンジュンが待っているこの場所までやってきた。
手には私より背の高いジュンジュンが身につけてもおかしくないような、大き目のジャージが入った袋。
着替え始めたジュンジュンの身体が隠れるように、思いっきり胸を張りながら隙間の前に立ちはだかりながら話しかける。


「それにしても助けを呼ばんと一人でよう戦ったなあ」
「数が多カッタだけだ。 一つ一つは大したことナイ」

人間の負の思念とダークネスの力が結びついて生み出された魔獣の群れ。
ジュンジュンが倒して今はもうその姿も痕跡も目で見ることは出来ないが、僅かな残留思念を感じることは出来る。
自分には絶対出来ないことを何事も無かったかのようにやり遂げた彼女が着替えを終えた。

「前に田中サンが言っテタ。 こういうときは交番に駆け込ンデ、男の人に襲ワレタと言エバ、服もクレルし
車で家まで送ッテモラエルって」

「あかんあかん。 そんなんしたら知らん人に迷惑かかるで」
「ワカッテル。 冗談ダヨ」

私はもう一つ手に持っていた小さな袋を渡した。

「ン。これは何デスカ」
「コンビニで買った豚まんや。 関東では肉まんやったかな。
中国ではなんていうのか知らんけど、結構長い間裸に近い格好でいたんやろ。
暖まるで。 慌てて出て来たんで一つ分しか買うお金無かったけど、私の家に着いたら買い置きの食べ物もあるし。
あ、確かバナナもあったんちゃうかな」


まだ湯気の立ってる中華まんを手にしながら、ジュンジュンは口にしようとしない。

「あ、もしかしたらあんまんの方が良かったかなあ。 ゴメンな」

ジュンジュンは黙って豚まんを二つに割ると、その一方を私に差し出した。

「えっ、これはジュンジュンが食べえな。 一人で頑張ったんやし」

半分になった豚まんの載ってるジュンジュンの掌を押し戻そうとしたけど、引っ込めようとしない。
穏やかな笑いを浮かべながら、私の顔を見つめている。
諦めた私はジュンジュンの手から豚まんを受け取ると口に運んだ。
それを見てようやくジュンジュンも残りの豚まんを口にする。

「ありがとな」
「アリガトウゴザイマス」

私の舌が感じているこの味はこれまでに何度も味わったことがある筈なのに、これまでに味わったことのないような味がした。
それは何て言い表したらええんやろうなあ。





















最終更新:2012年12月02日 08:27