(21)950 『最後の夜が来たら』



私が発した問いに答えるあなたの笑顔が教えてくれた。

―あなたは今・・・嘘をついた

何気ないあなたの表情や、仕草や、話し方で・・・私はあなたの心まで分かるようになっていた。
いつの間にか、私はあなたのことを誰よりも分かるようになっていた。

だけど・・・そのことが逆に別れの時の切迫を示している。
あなたと初めて出逢ったのも、そういえばこんな雨の夜だった。
その記念日――記念と言っていいのならば――を前に、私たちの関係は終わってしまうらしい。

私はまた一人ぼっちになる。
・・・いや、それは正しくない。
私はこれまでもずっと一人ぼっちだったのだ。
仮初めの仲間、仮初めの居場所、仮初めの安らぎ・・・
それが日常から無くなるだけのことだ。
それだけのこと。

・・・だけど、そう自分に言い聞かせてみても、締め付けられるような胸の痛みは消えない。
このまま何も気付かないフリをして・・・何もなかったような顔をして、あなたのぬくもりに抱かれていたい。
そんな叶うべくもない願いが胸中にこだまする。

あなたは優しい。優しすぎるほどに。
でも・・・その分辛い。辛すぎるの。

あなたと交換したお守りに、祈るように話しかける。
だけど・・・その祈りとは裏腹に、私たちの心は遠く離れてゆく・・・

せめて最後は・・・私から別れを告げたい。
勝手に過ぎる言い分だけれど、あなたに別れを告げられるなんて耐えられそうにもないから。

でも・・・それも私にはできそうもない・・・・・・


どうしてそんな風に無理するの?

私がどんな態度をとっても・・・あなたは優しい笑顔を崩さない。
私はみんなを裏切っているんだよ?
仲間のような顔をして、あなたをずっと裏切り続けてきたんだよ?
どうして・・・どうして私を責めてくれないの?
どうしてそんなに心地いい優しさで私を包み込むの?

そのあなたの優しさが罪なのよ?
私の決心は、いつもあなたの優しさを前にすると鈍ってしまう。

ああ、もう少しこのままここに居たい。
そう、あなたと居たい。

でも、それは決して叶わぬ願い。
私がしてきたことを知れば、あなたがいくら優しくてももう一緒にはいられない。
そのときは・・・そのときはちゃんとお別れを言ってよね。
「もうあなたとは一緒にいられない」ってはっきり。

だけど・・・だけどそのときが来たら、そう言う前に抱きしめてほしい。
冷たくてもいいから・・・・・・

・・・何を言っているのだろう私は。
何を身勝手なことばかり。

最後の夜はすぐそこまで迫っている。
あなたとの別れは。

最後の夜・・・あなたとの別れを、私は強気なまま貫けるだろうか。

あなたがもし少しでもいつもの優しさを覗かせたら私は・・・・・・





















最終更新:2012年12月01日 16:29