(21)908 『青い争い』



闇に紛れて戦い続ける




彼女たちの存在に我々は気づかない





そう、彼女たちが奏でるのは





静 という名の青い争い



大都会、東京。
夜も眠らない街。
光り輝くネオンが街を煌々と照らす。
所狭しとビルが立ち並び、妖しい光が人々を惑わせる。

雑踏を歩くのはくたびれたサラリーマンやホステス、ホスト。
なにをしているのかわからない人に家には帰らない中高生たち。

その中にこの場所におよそ似つかわしくない少女がゆっくりと歩いていた。
アヒルの群れの中の白鳥は一際美しく感じるように、彼女もまた満ち行く人を振り返らせていた。


「かーのじょ、なにしてるの?」
大半は振り返りつつも通り過ぎる人が多い中、
若さゆえの無謀さなのかそれとも単に足りてないだけなのかいかにも馬鹿面の男3人組みが彼女に声をかけてきた。
彼女は顔色も変えず何も答えず歩き出した。
それを男は反抗と受け取ったのだろう。
彼女の腕を引き、路地裏まで連れていった。

「ふざけんじゃねーぞ!!」
建物の壁を叩いて彼女を威嚇する。
それでも彼女は顔色を変えないし、なにも言葉を発しない。

仲間の一人が彼女の様子を気味悪がるが、
他の二人はこれ幸いとばかりに彼女の服を脱がそうとする。


「待ちなさい!!!!!」
後方から声が飛んできた。
「その人から手を話しなさい!!」
女子高生が学生鞄を握りしめ、必死に叫んでいた。
少々、カマ声ではあるがれっきとした女子高生。
男たちは下品な笑い方で笑った。

「お嬢ちゃん。なんでしゅか?正義の味方のつもりでちゅか?」
最近の流行なのか、髪の毛を肩の下まで伸ばし真っ黒に日焼けした男が女子高生に歩み寄る。

女子高生はひどく怯えていた。
それもそうだろう。
彼女は生まれてこのかた、そう多くの男性と触れ合ってはいない。
敵意丸出しでくる一般人と対峙したことはないのだ。

「手を離しないさい!!」
それでも、なお懸命に女子高生は叫ぶ。
「うるせぇな!なんならお前も一緒に楽しむか?」
男はどなり女子高生とさっきの女性を並ばせた。
怒鳴られるたびに女子高生は体を震わせていた。

「だ、大丈夫です。すぐに助かります」
足を震わせながら女子高生は女性に言った。
女性の顔は相変わらず変わらない。
女子高生の目にはかすかに涙がたまっていた。

「なに、ごちゃごちゃしゃべってんだよ!!!」
業を煮やした男が腕を大きく振り上げた。
瞬間、女子高生は目を閉じた。












待てども待てども殴られない。
女子高生は恐る恐る目を開けた。
すると目の前には男はいず、さっき隣にいた女性が優しく微笑んでいた。

「ありがとう」
女性が言った。
「え?」
女子高生はきょとんとしていた。
「あなたのおかげであの人たちどっか行っちゃった。
ありがとう」
女性はそう言いながら満面の笑みを浮かべる。
見たものすべてを幸福にしてくれそうな笑みを。

女子高生はかぶりを振った。
「いいえ、愛佳はなんもしてませんよ」
「でも、あの人たちいなくなった。あなたが来てくれたから」
女性の笑みの前ではなにも言えない。
否定も肯定も、できない。



♪~


聞きなれた音楽が鳴る。
携帯のち着メロだ。
女子高生はすばやく携帯を取り出すと、メールを読む。
「ごめんなさい、もう行かないと」
女子高生はそう言いながら歩き始める。
もう、先ほどの震えも涙もなかった。
「また、会えるよ」
女性はそう言って微笑んだ。
女子高生はその言葉を待たずとして行ってしまった。





「おもしろいね、あの子」
女性は静かにつぶやいた。
「そうね。というかなっち、どうしてこんなところにいるのよ。探すの大変だったんだから」
空から人がゆっくりと降りてきた。
「もし、私が見つけなかったらあの子、殴られてたわよ?」
「ごめんね、圭ちゃん。でも、間に合ったでしょ?」
なっち、と呼ばれた女性はまたかすかに微笑む。
やはり圭もなにも言えなくなる。

「もし、もし私がここに来なかったらなっちはどうしてたの?」
「さぁ、わかんないや」

「ねぇ、圭ちゃん、『しずか』ってどう書くんだっけ?」

「青い、争いよ、、」
圭はタバコに火をつけながら答える。

「どうしてうちらはこんなに暗いところでこんなに静かなところで、
こんな・・・誰も気づいてくれない場所で、
戦うのかな?あの子達が悪だってわけじゃないのに、圭ちゃんが悪だってわけじゃないのに、
裕ちゃんやうちらが悪だってわけじゃないのに、、、。
どうして戦うのかな?」
「うちらはいったいいつまで『アオイアラソイ』を続ければいいのかな?」
なつみはかすかに目を震わせた。


「それ裕ちゃんに言ったの?」
圭はするどい目でなつみを睨む。
「言ってない・・・けど、、、」
「『共鳴』ね。ふん、笑わせるわ。誰も悪なんかじゃない。
でもそれはみんなが悪ってことよ。
みんなが少しずつ自分の生きたい世界を思い描いていて、
みんなが自分の生きたい世界を実現させようとしている。
たまたま組織が違うだけ。
なっちはなっちのまま過ごせばいいじゃない。
ダークネスにだってリゾナンターにだって、なっちの味方はいるじゃない。
もちろん、私だって」
圭は諭すように答えた。
「わかってる。けど・・」
「欲張りなのよ、なっちは。でも、もうタイムオーバーよ?お迎えが来たわ」
言い終わらないうちに圭はまた空へと飛び上がって行った。


数秒後、仲間たちが一斉になつみのもとへと駆け寄る。
中には泣いている者も。


彼女たちになつみは微笑んでみせる。
それだけでなつみの存在意義は達成される。



「また、会えるよ」
リフレインのように自分の言った言葉が頭の中を駆け巡る。


また、会う。
その時はきっと、殺し会うために。






















最終更新:2012年12月01日 16:27