(21)786 『闇の福音-Angel and satan-』



かつて、ダークネスの前身である"M"には、二人の強大な能力者がいた。

 「やっほー、なっち」

一人は「銀翼の天使」  そしてもう一人は「鋼翼の悪魔」

 「…ごっちん?」

既にダークネスをも離脱し、姿をくらませていた彼女。
それは唐突に――――弾かれた。



 「今は"G"だよ、それ以外に誰でも無い」

背後で羽ばたいていた漆黒の翼がまるでのたうつ蛇のように跳ね上がった。

 「!?――――Wall『壁』!!」

三歩の距離に迫っていた女性は、咄嗟に"チカラ"を紡ぐ。
地面から出現した壁はだが、まるで生き物のように伸びる触手は避けてくる。
仰け反るようにして上体をそらした次の瞬間には、黒い触手が
女性の鼻先すれすれを掠めた。

 「――――Spear『槍』!」

出現した数本の槍でその攻撃を振り払い、後方に跳躍して三撃目をやり過ごす。
女性が着地するのと同時に、"G"は触手を翼に巻き戻すと、口角を歪ませた。


 「言霊(スピリチュアル・メッセージング)、あはっ、やっぱりなっちだねぇ」
 「ごっちん、なんで…」
 「んあ?やーちょっと"一仕事"終えたから会いにきたの」
 「…ただ会いに来ただけで人を殺そうとするのかい」
 「なっちは優しすぎるんだよ。そのチカラがあれば何でも出来るのに…。
 人間を滅ぼすことも、あたし達を救うことだって出来るかもしれないのに」
 「ごっちん…」
 「…ま、別に良いけどね」

近づこうとした女性に満面の笑顔を見せ、片翼を触手に変えて一閃した。
慌てて飛びのくが、いきなりの攻撃によって頬に一筋の線が引かれる。
"G"は両翼を5本の触手に爆ぜると、一斉に急襲を掛けた。

 「―――遊ぶ玩具が減ったら、それこそ退屈過ぎて死んじゃうよ」

女性は側面からの二本を避けつつ、前方の三本を『槍』で迎え撃つ。
だがその目視不可能な動作をする触手が喉元めがけて突きこんできた。

 「―――Bomb『爆』」

小爆発が起こり、触手であったものは炎に焼かれて消失する。
"G"は舌打ちをし、一旦巻き戻そうとしたが女性がこれを素手で絡み取った。
手が炎で焼かれる瞬間、まるで何も無かったかのように消火されて。

一瞬の静寂。
二人は互いに射殺するような視線を相手に注ぎながら、どちらかが溜息を吐いた。

 「勿体無い、本当に勿体無いよなっち」


先に口を開けたのは"G"だった。
その言葉の意図が掴めないのか、女性は眉をひそめて首を傾げる。

 「どうして自分に蓋をしようとするのさ。そのチカラは"神様"なんだよ?
 なっちがこの世に君臨するための絶対権力よりも絶対的チカラなんだ。
 それを知ってても尚、何で人間であろうとするの?」

誰もが欲する世界の全て。
それを女性―――安倍なつみはまるで興味が無いとでも言うように
そのチカラを駆使することをしない。
何故。理解不能。不可解なその疑問が、余計に"G"は哀れに想っていた。

 「ごっちんには…いや、"G"には一生判らないよ。チカラこそが絶対だと
 想っている以上、なっちが何を言ってもそれは理解できない単語でしかない」

だから二人は"対立"する存在と成った。
同等の能力がある事で、"理解者"として成りえる為にはあまりにも"大き過ぎた"のだ。
そしてそのチカラは黒い憎悪として吐き出す結果を生み出す。

―――神に選ばれたのはどちらなのかを確かめる為に。

 「じゃあ、これからはもう、昔みたいには居られないね」

"G"は淡々とした口調でそう言い放つと、なつみに手に掴まれていた触手に"信号"を送った。
特殊な回路によって全身の細胞配列をナノメートル単位で調節し、体組織へと構成する。
理論的限界まで強化された肉体は、脳を除くあらゆる部位に加えられた
物理、自然的損傷を一秒以内に修復し、あらゆる情報構造体の攻撃を遮断する。

無敵の攻撃・防御デバイス。
それが、"G"の漆黒の翼に組み込まれた生体細胞"黒血"の正体である。


なつみは完全に死滅させた筈の触手の異変に気付くと、それを手放した。
瞬間、解き放たれた翼は筋肉の爆発的な収縮によって地上めがけて打ち出される。
鞭のようにしなる両翼は高速で伸びながら空中で絡み合い、一本へと融合された後、ゴムを引き伸ばすように
急速に直径を減じながら眼前めがけて襲い掛かった。

なつみは静かにその光景を見つめていたが、口を小さく開き、"チカラ"を紡いだ。
が、その瞬間に触手が10本に爆ぜたかと想うと、槍の穂先ごとく先端を尖らせ、前後左右からの攻撃を繰り出す。

 「―――Bullet『弾丸』」

それでも、なつみはただただ静かに見つめていた。
一瞬の躊躇もなく左前方に踏み込むと、空間に浮かんだ無数の弾丸を撃ち出す。
迎撃の末、空中に取り残された六本の切れ端がゆっくりと融け出した。

構造を維持できなくなった体組織。
それは"主"を見つけると、まるで我先にと元に戻ろうとする。
だがそれよりも先に、"防御"を失った"主"は浮遊感を覚えていた。

高層建築群よりもなお高いこの場所は、地上まで約80メートルもある。
幾つか弾丸を喰らった身体は鈍い痛みを訴えた。
重力を失い、徐々に堕ちて行く身体。
だが"G"の表情は、それよりも自分と対等できる人間の存在に歓喜していた。

嗜虐的な笑い声が木霊する。
「鋼翼の悪魔」はなつみから一度も視線を逸らす事無く、闇夜でその姿は消えた。


 ―――数日後。

 「なっち、何か妙なエアメール来てたよ」
 「エアメール?」

戦闘(バトル);ってヤバいね。
マジで=3楽しい☆            by “G”

 「…ねぇ、E・ビルってどこだっけ?」





















最終更新:2012年12月01日 16:15