(21)760 『Q.E.D』



「どしたの愛ちゃんそれー!」
いつものようにリゾナントの扉を開けた里沙は目を丸くして素っ頓狂な声を上げる。

中にいたのは苦笑いを浮かべながら開店準備をするれいなと、里沙を見るなり何やら
ポーズを取るリーダーの愛。何故か紺のブレザーにグレーのスカート、白のセーターに
胸元には紅いリボンとどう見ても高校生の制服姿である。

「いやー、なんか一昨日いきなり呼び出しくらってさ。
Kさん知ってるやろ?いつも色々お世話になってもらってるおまーりさんの」

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対ダークネス組織として人知れず戦い続けるリゾナンターであるが、敵の破壊活動や
戦闘に伴う周囲への損害――戦闘中は結界を貼っているとはいえ、周囲に全く影響が
出ないようにするのは中々難しい。特に敵が強力な場合は特に。――の保全、情報操作、
時には互いに情報を交換したりと、自らの活動を円滑に行うためにこの国の警察機構とは
それなりに密接関係を築いている必要があった。
これはリゾナンターの前身であるASA=YAN時代に構築され、その壊滅時に一度は途切れた
ものを前リーダーであった吉澤が復活させたものである。
もちろんリゾナンター自体は公然たる組織ではないので、この事実は本庁の警視以上の
人間しか知らない。
そして、Kはその警察庁側の窓口である某特務機関のトップである。
昨日愛は呼び出しを受けて、Kの元を訪れていた。

――――――――――――――――――――――――

「で、話ってなんやの?」
「まあ座ってくれ。実は君たちに頼みたい事があってね。」
「頼み?ですか。」
「実は、、、ある学校へ編入してもらいたい。」
「は?」


Kの話はこうだ。
とある高校を中心に、最近おかしな事件の発生が続いている。
これまでの調査ではどうも能力者が絡んでいるらしい可能性も出て来たが、今一つ核心まで
辿り着くには至っていない。
それというのも学校というのはそれだけで一つのコミュニティであり、外部の者が容易に
踏み込めない領域だからである。

「所詮彼らの抱える心の闇は我々大人、まして国家権力には覗くことはできん。
だが、まだいくらか年の近い君たちならあるいは。」
「加えて能力者が絡んでいるとなれば尚更、と。」
「そういう事だ。」
「なんだかどっかで聞いたような話やね。あーしはヨーヨーは使えんよ。」
「そう言ってくれるな。いやまあ、マンガと違って刑事の身分を与える訳にはいかんから、
あくまで民間に協力を依頼したという形になるのだが、まぁ大っぴらに出来る事でないのは
変わらん。」
「こちらのメリットは?」
「具体的にはない。が、まぁ我々に貸しを作っておくのは悪いことではないだろう。」
「はぁ。」
「そういう形だから危険を感じたら我々にまかせてくれればいい。もっとも、もし本当に
ダークネスが関係しているとなればむしろそちらの管轄になるのだろうがね。」
「まぁほうやね。」
「どうだろう、協力していただけないだろうか。」

少し考えて愛は答えた。
「――分かりました。これは貸しにしときます。」
「人選はお任せする。ただ手続きの都合もあるから今日中に決めてもらえると助かる。」



「――――ということがあったんよ。ガキさんには相談しようとも思ったけど、ケータイ
つながらんかったし。」
「それはゴメン。でもさぁ話はわかったけど、何で愛ちゃんが制服着てるのよ。あんた
もう22歳でしょーが。」
「それは無理あるかと思ったんだけどさ。」
とはいえ小春は仕事もある上に顔を知られすぎているし、愛佳に短い間とはいえ転校させる
訳にもいかず、ジュンジュンとリンリンは日本語のコミュニケーションに無理がある上に
手続きが面倒な事になりかねない。絵里は身体の事があるし里沙とさゆみは昨日は連絡が
取れなかった。
「あとはれいなかあーししかおらんのやけど、れいなは学校はいややて。」
「学校行ったらフリでも勉強しないとあかんやん。れいな勉強大っ嫌いやけん教科書とか
見ただけで頭痛くなるっちゃ。」
「ハァ、まぁ確かにれいなに学校は向いてないねぇ。」
「そう言うわけであーしが行くことになったんよ。今日行って制服ももらって来たし。」

久々に着る制服が嬉しいのか愛は妙にはしゃいでクルッと回ってみせる。

「で、いつから行くのよ。」
「明日から。ほらこれが学生証。」

差し出した学生証には愛がこれからの偽りの学生生活で使う名前が書かれていた。

――水原可奈 私立咲坂高校2年1組

これがリゾナントを揺るがす大事件の始まりだとは、この時誰も気が付いていなかった。


                              (つづかない)





















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原案 未完
最終更新:2012年12月01日 16:13