(20)959 『サンタさんと過ごす朝』



朝起きたら、枕元にかわいらしい袋が置いてあった。
「Merry Christmas」と書かれた金色のシールが貼ってある、
その赤い袋を手に取ってまじまじと見つめる。

「クリスマスプレゼント・・・?」

いつもならすぐに着替えてランニングに行くのだが、今日はそういうわけにはいかなさそうだ。

だって気になるやろ?

ランニングのことをすっかり忘れてしまっているわけではない。
ただ、プレゼントで頭がいっぱいなだけだ。
こんなにワクワクする朝はいつ以来だろう。

両親がいなくなった今、こんなことをするのはあの人しかいない。
少なくとも・・・サンタさんでは無いことは確かだ。

そういえば、サンタさんを信じなくなったのはいつだろうか。
きっと“ひとり”になってからやろうな・・・
そんなことを思いながら、丁寧に袋に貼られていたシールを剥がした。
中身を覗き込み、ニヤリと口元を緩める。

そのプレゼント―かわいらしいネコが描かれたマグカップを袋から取り出して
じっと眺めていると、店の方から物音がした。
瞬間、れいなはコップを持ったまま、反射的にベッドから飛び下りた。
ドタドタと階段を駆け降りると、いつもはまだ薄暗い店に、
今日はもう明かりがついていた。


「おはよー、れいな。朝から元気やね」

いつもは誰もいないカウンターの向こう側で、今日は愛ちゃんが笑っていた。

「おはよう・・・じゃなくて、愛ちゃんっ、これ・・・っ!」

れいなはコップを見せながら、
カウンターを挟んで愛ちゃんの正面に立ちはだかった。

「お、ちゃんと見てくれた?」
「これ何?」
「マグカップだよ」
「や、それはわかるっちゃけど・・・なんで?」

今日はみんなでプレゼント交換するのに・・・。

「れいなだけ特別にね」
「れいなだけ?」
「サンタさんからのプレゼント」
「サンタさん・・・」

いや、愛ちゃんやろ?

「サンタさんなんておらんもん」
「私はおるよ?」
「え、まぁ・・・そうやけど」

やろ?って満足げに頷いて、愛ちゃんはコーヒーを啜った。

「だから素直に受け取ってくれたらいいんだって」



「でも・・・」
「今年から、れいなのサンタさんもお仕事再開です」

そう言って、愛ちゃんは優しく微笑んだ。

長い付き合いだとは言っても、愛ちゃんが何を考えているのか
わからないことっていうのはよくあることで、今がまさにそれだ。
れいなが頭からハテナを飛ばしていると、愛ちゃんが言葉を続けた。

「これからは私がずっとれいなのサンタさんやから」
「・・・!」

やられた。そういうことか。
れいなは思わず苦笑を漏らしてしまった。

お母さんとお父さんが居なくなってから、れいなはずっと一人やった。
当然、プレゼントをくれるサンタさんもおらんかったから・・・。

「やっと、仕事してくれるサンタさんが見つかったっちゃね」
「そういうこと」

れいなが笑うと、愛ちゃんも楽しそうに笑った。

「ありがとう」
「いえいえ」

もう一度マグカップを見つめて、ニィーっと口元を緩める。
れいなだけのクリスマスプレゼントだ。



「よし、それじゃあサンタさんお手製ホットミルク・・・飲む?」
「もちろん」

ニヤリと笑うれいなの“サンタさん”にマグカップを手渡し、
れいなはカウンター席に座った。

「飲んだら、ランニング行ってくるけん」
「うん、気をつけてね」

今日は休めと言うこともなく、愛ちゃんはマグカップをカウンターに置いた。
白いホットミルクの上に、ココアパウダーで星が描かれている。

「クリスマススペシャル」
「おぉ」

愛ちゃんの得意げな顔を見ながら、れいなはココアを飲んだ。


「味も最高っちゃね」
「へへ、ありがと」

愛ちゃんが嬉しそうにはにかんだのを見て、れいなもなんだか嬉しくなった。

その後、れいなはサンタさんからのプレゼントを堪能した。

「じゃあ、そろそろ行ってくるね」
「行ってらっしゃい」

愛ちゃんにマグカップを渡して、れいなはいつも通りトレーニングに出発した。
今日は楽しい1日になりそうだ。
・・・あれ?
クリスマスって、こんなにワクワクする日やったっけ。

無意識にクリスマスソングを口ずさんでいた自分に驚きながら、
いつもより軽い足取りでれいなは町を駆け抜けた。





















最終更新:2012年11月27日 09:37