(20)883 『特別な20回目のクリスマス』



  共に戦ってきて、今でも生きていられることが不思議だった。

  これからもずっと、一緒にいられると思いたい。


  だから望む。
  新たな願いをこの胸に、新たな誓いをアナタへ。


     **


街中はイルミネーションで彩られてキラキラと輝いている。
その中を大勢の人が忙しなく歩いている。
これから友達とパーティか、家族とゆったり過ごすのか、はたまた恋人とロマンチックな夜か。

雑踏の中、人込みを掻き分けて目的地へと歩を進める。冷たい風が吹こうと関係無い。
辿り着いた場所は仲間たちがいる所、今日だけは臨時休業の喫茶リゾナント。


 「おまたせー!」
 「おー絵里、遅かったとねー」
 「ごめーん、ちょっと時間が長引いちゃってさっ」


病院からの帰り道はとても寒かったのに、店に入れば一瞬で身体も心も温まる。
れいなと会話をしながら店のカウンター席に座る。
すぐさま喫茶リゾナントのマスター・愛ちゃんは温かいココアを出してくれた。


 「ありがとー」
 「外寒かったやろ?これでも飲んであったまりよ」
 「今日はココアなんだね」
 「いつもはカフェオレやけど、今日は特製ココアやよっ」


得意気に言う愛ちゃんが可愛くて思わず笑顔になってしまう。
愛ちゃんと微笑み合っていると、さゆが隣に座ってきた。


 「さゆみにも特製ココアください」
 「さゆも欲しいんか?」


そう言いながら愛ちゃんはさゆの分まで作り始めた。
隠し味に何かを入れてるみたいだけど、その部分は企業秘密らしくて教えてくれなかった。
そんなやり取りをしている間にココアはすぐに出来上がり、さゆは嬉しそうに受け取った。


 「んーっおいしいですっ」
 「ほうか、ありがと」


今度はさゆと愛ちゃんが微笑み合っている。
やっぱりこのココアを飲むと自然と笑顔が出ちゃうんだろうなー…


 「二人とも、なにくつろいでんのよ!」
 「いいじゃないですかー、まだ絵里は休憩中ですよ?」
 「さゆみも絵里と同じく休憩中です」
 「カメはともかく、さゆみんは飾りつけの途中でしょ?」


店内を見渡せばクリスマスパーティの飾りつけでみんなはせっせと動いてる。
絵里も本当はパーティの準備を一緒にしたかったんだけど、生憎と今日の夕方まで病院での検査が入っていたから無理だった。
だから絵里以外のみんなが準備をしてくれてたんだけど、さゆは店内の飾りつけ担当なのにリンリンに任せっきりになってるし。
いろんな声が飛び交う中、それでも嬉しそうで自然と笑顔が出てしまう。
やっぱり喫茶リゾナントは、笑顔が勝手に出てしまうような何かを持ってる気がする。


 「愛ちゃんは何担当ですか?」
 「あーし?あーしはさっきまで料理作っとって、後はテーブルに並べるだけやよ」
 「すごい楽しみです!」
 「期待しとって~」


そう言って愛ちゃんは厨房のほうへと行ってしまった。
そしてそんな会話をしている間にさゆは飾りつけに戻ったみたい。
見ればリンリンに小さくごめんと言っている姿があって、大丈夫デース!とリンリンは言っている。

その光景を視界の端に置いて、目の前にあるココアに集中する。
少し時間が経っても一口飲むだけで広がる甘さは、身体を温かくしてくれる。
この喧騒の中、ココアの甘さにほっとしながら、ふと昔のことを思い出した。


        ◆◆


  一面に広がるのは白い壁と天井
  目を閉じれば花畑が見える理由は嫌でも分かる
  微かに匂うのは花の香りではなくて薬剤の匂い

  ふと視界に入る窓の外は知らない世界
  どこまでも続く青さをその時の自分はまだ知らない

  体調が良い時にたまに行ける屋上は
  青い空と知らない世界に少しでも触れることができる場所
  けれどそこにしか行けない自分は
  自由を奪われた鳥篭の中にいる飛べない鳥

  そんな鳥篭の扉を開けてくれたのは
  必要だという言葉をくれた強さを持った女性
  共に歩もうと言ってくれた
  一人じゃないと言ってくれた
  その手を取って私は籠から飛び立った

  導いてくれた女性に今でも感謝している
  けれど私は鳥篭から飛び去るときに
  隣で手を繋いでくれたアナタにも感謝している

  そのつぶらな瞳は私を見守ってくれる
  その手は私を引っ張ってくれる
  その声は私の名前を呼んでくれる

  そして、ずっと傍にいてくれる。


          ◇◇


 「……り……、り…絵里?」
 「ぅえ?」
 「絵里?大丈夫?」


いつのまにか呼ばれていたみたいで、隣からさゆに覗き込まれていた。
昔のことを思い出していたらいつのまにか遠くの彼方へと思考が飛んでいたらしく、さゆが少しだけ心配そうな顔をしていた。
周りのみんなは気付いていないようでほっとした。
というのも、あまり心配はかけたくないから。


 「絵里ちゃんは大丈夫ですよ?」
 「そう?ならいいけど…」


ちょっと不服そうな顔をしたさゆを見て、絵里は嬉しく思う。
だってさゆは昔から私を一番に心配してくれて、こうやってちょっとしたことでもすぐに傍に来てくれる。
それが嬉しくて、幸せ者だなーて思う。


 「…さゆに心配されて幸せ者だね」
 「だって目を離すとすぐに変なことしでかすでしょ?」
 「えー、絵里子供じゃなーい!」
 「だって子供じゃん」


こうやって話してる間でも、さゆは少しだけ心配してくれる。
だってほら、自分でも気付いてないかもしれないけど少しだけ下がり眉だから。


 「絵里は、大丈夫だよ?」 


そう言ってさゆの手を握る。
少しだけ驚いたさゆに、もう一言だけ。特別に。


 「いつもありがとね、さゆ」



この瞬間さえも、誰にも気付かないでほしかった。
だって今のこの言葉は、さゆにだけだから。

あの時から傍にずっといてくれた。
一番迷惑かけてるのに、嫌な顔せずに離れずに傍にいてくれる。
ここにいるみんなもそうだけど、さゆとは一番付き合いが長いからね。

もう何度目のクリスマスだろう?
それでも今年はいつもより特別だと思う。
だから、今年のクリスマスは特別。
愛ちゃん特製ココアの甘さと一緒に、感謝の気持ちをたっくさん込めて伝えるからね。


いつもありがと、大好きだよ。





















最終更新:2012年11月27日 09:31