(02)128 『愛車 ローンで』



事の始まりは、閉店直前の喫茶店「リゾナント」にかかってきた一本の電話だった
「何ね、こんな時間に!」
ちょっとムスッとしながら電話を取るれいな
「ちょっとぉ、テイクアウトならもう終わ・・・リンリン?リンリン!リンリン!どうしたと!?」
電話の内容は、喚き立てるれいなの声を聞いた愛が直感した通りのものだった
「店長!・・・じゃなかったリーダー!ジュンジュンとリンリンの中華屋にダークネスが現れたっちゃ!」
「すぐに現場に向かうやよ!リゾナントカー、発進!」
「えー!アレは恥ずかしいから簡便してほしいっちゃ・・・」
「つべこべ言わないで早く準備するがし!」
「はぁ~い・・・」
ぼやきながらもリゾナントのガレージに向かうれいな
「この色使い、どうしても好きになれないっちゃ・・・」
シャッターを開けると派手な原色のオープンカー「リゾナントカー」が姿を現す
「こんなんじゃ目立ってダークネスに狙われるっちゃよ・・・」
「あっし達が標的になれば一般市民への危害は減るがし!」
もっともらしい理屈なのだが何かそれは違う気がする・・・とは言えないれいな
釈然としない気持ちのままリゾナントカーのエンジンをかける
「リゾナントカー、発進!」
夜の闇の中軽やかに、原色黄色の車は走り出した。


渋滞もなく、程なくして愛達はジュンジュンとリンリンがアルバイトする中華屋「満金楼」に到着した。
リゾナントカーを止め、ドアを開けて降りた途端にガシャーン!という音と共に人影が窓を突き破って
向かいの塀に叩きつけられた。

「リンリン!」
窓を突き破って吹っ飛ばされてきたのはリンリンであった
全身に痣や傷を負い、血まみれの凄惨な様だ
「リンリン!、酷い傷・・・」
「敵は!?」
「タカハシサン・・・敵、強いネ・・・私達の念動力、効かなかった・・・」
「わかったやよ、もう喋らないで!」
喋らずとも、心の声で愛には全てが理解できていた
「お願いシマス・・・ジュンを助ケテ・・・」
ガクッ、と崩れ落ちるリンリン
「リンリン!死んじゃダメっちゃ!」
「大丈夫・・・気絶しただけ。れいな、さゆ達が来るまでリンリンを診てて」
「でもリーダー!」
一緒に戦いたい、というれいなの心の声を感じる
「あっしがリンリンの仇は取るやよ・・・心配しないで」
そう言って愛は中華屋の中に駆け出して行った


店の中に突入すると、ジュンジュンが青龍刀でダークネスの刺客、黒服の女に斬りかかるところだった
「覇ァ嗚呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼呼!!!」
しかし・・・
ガツッ
女は青龍刀の渾身の一撃を右腕の前腕部だけで受け止める
「き、斬レナイ・・・何故!?」
そのままの体勢で女の視線がゆっくりと愛のほうへ向く
氷のような冷たい光を放つ眼・・・しばらく愛をじっと見つめる
「余所見スルナ!馬鹿にシテルカ!」
ジュンジュンがもう一撃を食らわそうと青龍刀を振り上げた瞬間、
それまで青龍刀を受け止めていた右腕の拳が素早くジュンジュンの顎にめり込む
女の視線は依然、愛を見つめたままだ
「がっ・・・」
女のアッパーで天井まで叩きつけられるジュンジュン
「ジュンジュン!!」
女の眼が一瞬金色に光り、女が口を開く
「認識ナンバーi914、お前を抹殺する」


「i・・・914・・・」
女の口から放たれた何の感情も見えない氷のような冷たい声
何より「i914」という忌まわしい名前を何故この女は知っているのか?
激しい動揺が愛を襲う
「お、お前は一体何者やよ!」
「私は『A』、『ダークネス』公安部所属。組織の裏切り者の粛清が任務」
ただ、それだけを冷たく女は言い放つ
女の心の声を聞こうと、愛は意識を集中させる
しかし・・・この女『A』からは何も感じることが出来ない
(こいつ・・・心が、ない!)
心の無い人間、そんな人間が果たして居るのか?
愛の能力が目覚めてからこの日まで、そんな人間は居なかった
心の声が聞こえない人間、それは死人だけだった
しかしこの女は少なくとも目の前で動いている

混乱が愛の頭の中を激しく駆け巡る

「ミッション変更、i914の抹殺ミッション、開始」


『A』が信じ難い速度で間合いを詰め、混乱状態で中華屋の入り口に棒立ちの愛に一撃を食らわせる
「ガハッ!」
金属が入っているかのような重い膝蹴りが愛の九尾を捉え、中華屋の外まで吹っ飛ばす。

「リーダー!」
きりもみ回転しながら吹っ飛ばされて地面に叩きつけられ、血反吐を吐く愛を見て愕然とするれいな
「そ、そんな・・・リーダーが・・・」

店の中から現れ、れいな達には目もくれず倒れている愛にゆっくりと近づく黒服の女『A』
しかし、『周囲の能力者の能力の倍増』しか能力を持たないれいなには何の策もない

「こ、このままじゃリーダーが・・・あっ!!!」
涙目のれいなの視界に、ある物体が飛び込んできた

(ごめん、お婆ちゃん・・・あっしは、誰も助けられそうにないやよ・・・)
身体が動かない、そして相変わらず近付いてくる『A』の心の声も聞こえない
絶望が愛の心を闇で満たし、支配する
(これが・・・ダークネス・・・助けて、誰か・・・)
しかし、闇に包まれつつあった愛の周囲が突然、光に包まれる
(光・・・?)


「リゾナントカー!発進!」
それは、リゾナントカーのヘッドライトの光だった
(れいな・・・)
「頼むっちゃよ、リゾナントカー。行けえぇええええええええ!!!」
重いっ切りアクセルを踏むれいな
急発進したリゾナントカーが、全く無警戒の『A』を捉える

バンッ!

激突し、スローモーションのように吹っ飛ばされる『A』の身体
同時にれいなも鞭打ちになりそうな衝撃を受ける

「アイタタタタ・・・でも、やったとよ!」

しかし、顔を上げたれいなが見たものは信じ難い光景であった。
10mほど遠くでよろよろと立ち上がろうとする人影

「そ、そんな・・・」
「任務、続行可能。ターゲット変更。『リゾナンダー』の高機動ビークル」

ぶつぶつと呟きながら立ち上がる『A』

「ば、化け物ぉ!!!いい加減くたばれぇえええええ!!!」


再びアクセルを全力で踏むれいな。しかし、今回は『A』も全速力でこちらに向かってくる
激突直前で空高くジャンプする『A』
「えっ!?」
突然視界から消えた『A』に驚くれいな
次の瞬間、金属音と共に衝撃がリゾナントカーを襲う
上空から降ってきた『A』のキックがボンネットを突き破っていたのだ
「エンジン直撃!?やばっ・・・」
『A』が足で突き破ったボンネットから爆音と共に巻き上がる炎
反射的に目を瞑るれいな
その瞬間、れいなの脳裏に今までの人生の光景が巻き戻しのようにフラッシュバックしていく
愛との出会い・・・加護姉と彷徨った街・・・施設での虐待・・・両親との別離・・・
(あぁ・・・これってよく聞くアレ?じゃあ、れいな死ぬっちゃね・・・)

大爆発し、炎に包まれるリゾナントカー


「・・・って、えっ?熱くない」
目を開けると、遠くのほうでリゾナントカーが爆発し、燃えている
「なんで・・・あっ!」
れいなが横を見ると、愛が親指を立てている
「ありがとう、れいな・・・グッジョブ・・・やよ・・・」
間一髪、愛の瞬間移動でれいなは車外に転移したのだ
「リーーダーー!」
さゆが、えりが、小春がやっと到着する
「お前ら、遅かよ!!!もう敵はれいながやっつけたとよ!!!」

「全く、遅スギルネ!」
店の中からジュンジュンも現れる
「ごめ~ん、ご飯食べた後寝ちゃっててぇ」
「なかなか病院から抜け出せなくて」
「撮影してたとこ無理やり抜け出して来たんだよ!」


「言い訳なんか聞きたくなかよ!」
「まぁ、敵もやっつけたんだからいいじゃない。さぁてホイミホイミっと」
「そうそう、とっとと働くっちゃ。ベホマズンで10秒以内に3人をピンピンにするっちゃよ」
「無理だから」
「アハハハハハハ、でもすごいね。リーダー達が苦戦する奴に勝つなんてさ」
「そ、そんなに褒められると照れるっちゃよ・・・」
「新しいリゾナントカー代はれいなのバイト代から天引きするやよ」
さゆの治療で復活した愛がニヤニヤしながら言う
「そ、そんな・・・酷かよリーダー」
「冗談やよ、冗談。ありがとう、れいな」
「むしろ残業代が欲しいぐらいっちゃよ」

談笑するリゾナンダーのメンバーを少し遠くから見つめる人影
(襲撃の連絡は組織から無かったのに・・・一体『A』って・・・)


「あ、ガキさんだ!、ガキさ~ん!」
気付いたえりに手を振られて、慌てて駆け寄る里沙
「ごめ~ん、アタシも遅れちゃったぁ!」
「サブリーダー失格やよ」
「そ、そんなぁ~・・・ご飯奢るから許してぇ」
「ヤッター!」
大喜びのさゆとえりと小春
「アンタ達も遅刻したでしょうが!」
「ミチシケとカメイとコハルハ、うさぎ跳び50回ネ!」
「じゃ、明日学校あるから帰るね」
「アイタタタタ、心臓が」
「さぁて撮影撮影っと」
「コーラー、お前ら逃げるなぁ!」
「ヘルプミー!」
「アハハハハハ」
「あ、やばっ警察来たよ警察、全員解散!」

通報を受けて駆けつけた警察と消防から逃れるようにバラバラに散っていく愛達


1時間後
「車両鎮火、車両鎮火、これより現場検証を行います。あ~、運転手らしき女性の遺体発・・・」
途中で言葉を止める警官
「どうした?おい、応答しろ」
「・・・生きてます」
「えっ!?」
「女性は・・・生きてます!あ、ちょっと!どこ行くんですか?!事情聴取を・・・あっ!」

「ターゲット、ロスト。帰還します。損傷は回復。スーツを失いました。」

燃えていた車の中から現れた裸の女性が現場検証に行った署員を全員KOして逃げ去ったらしい・・・
その噂はあっという間に暁町所轄の署員達に広まった。
だがこの事件はTVでも、新聞でも報道されなかった。
何らかの巨大な権力が動いた。との専らの噂である。
その後、現場でKOされた署員や消防、民間人は全員口止めされた。
しかし、現場に居合わせたある署員は「すごい巨乳だった・・・」という情報だけは同僚に漏らしている。





















最終更新:2012年12月17日 11:37