(19)766 『コードネーム「pepper」- Inside story II』



それはあの夜の事。月に照らされた森の中…。

レイナとコハルが、リサとアイカの墓標の前に並んで座っていた。
「なあ、コハル…」
レイナが話し掛ける。
「…里沙さんの事はどう思っとる?」
「えー? 何でですか? …イイ人なんじゃないですかー? …たぶん」
コハルがちょっと横を向きながら答える。
「ホントにそう思っちょる?」
「…ええ、思ってますよ…」
「あの人、顔や姿も、言う事もガキさんそっくりっちゃね…?」
「…ニイガキさんとあの人は違いますよ…」
少し拗ねた様にコハルが言う。
「コハル…。コハルは、ガキさんはあの人のせいで死んだと思いよる…。 それは違うっちゃよ」
コハルは答えない。
「ガキさんは、そこにいたのがレイナでも、コハルでも、同じ事をしよった…」
「ガキさんはどこにいようと、誰が相手でも、自分の本当にするべき事をしよる人だったけん…」
「それに…ガキさんは死んだんと違う…。 ガキさんは自分の信念に従って、最後まで全力で生きた…。…生き抜いた。…そう、レイナは思うっちゃ…」
「…はい…」
「レイナも…。 そういう風に生きたい… いや、そういう風に…生きる。 レイナはそう決めたっちゃ」


「コハルも、里沙さんの事を…。 何であの人が、全然関係ないうちらの為に危険を冒して、科学技術局へ行きよったり、今もうちらと一緒に来よるのか…? よく考えてみたらよかよ…」
レイナはそう言うと立ち上がり、お疲れ、と手をひらひらと振りながら森の奥に消えていく。

コハルは一人残り、じっとリサとアイカの墓標を見つめていた。
まだ出合ってから2日も経っていないのに、コハルの脳裏には、出会ってからの里沙の…泣いている顔、驚いている顔、真剣な顔…が浮かんでくる。

…じばらくたって、ゆっくりと立ち上がったコハルの顔には、柔らかな笑みが浮かんでいた。

… … …

「pepper」たちと共にTukuba Cityへと向かう高速バスの中…。
ひとりの席に座る事になった里沙は、窓の外を眺めながら、あの夜のコハルの事を思い出していた。
コハルが…、自分に対してよそよそしい態度である事は里沙も感じていた。
リサの死のきっかけとなったのは自分であるし、リサをとても慕っていたように見えるコハルの感情は、痛いほど理解できた。
里沙はそれをある意味仕方のない事と考えながら「pepper」たちと同行していた。


しかし、あの夜のコハルは違った。
あの夜…。レイナと共に、敵の只中に飛び込み、自らの命と引き換えに皆を救ったあの日。
レイナの後を追って飛び出そうとしたその時、コハルはふと里沙に駆け寄り、以前にリサに見せていたような、屈託の無い笑顔を見せた。
そして里沙の肩にそっと顔を寄せると、小さな声でささやく。
「新垣さん…、コハル、ちょっとイイトコ見せますよっ!?」
それは、里沙がコハルたちに出会った時に、コハルがリサに言っていた言葉…。
「…え…?」
と驚く里沙を残し、コハルは外に飛び出していく。
その姿は、まるで背中に天使の羽でも生えているかのように軽やかだった。

「…コハル…」
バスの窓から流れる景色を眺めながら、里沙は思う。
どうしてあなたはあの時…あんなに明るく笑っていたの…?
「教えてよ、コハル…」
「…もう一度、アンタの笑顔が見たいよ…」
里沙の脳裏には、コハルの輝くような笑顔が浮かび、いつまでも消えなかった。



























最終更新:2012年11月27日 08:45