(19)662 『海上の孤島 -赤き鮮血、白き地で- 』



螺旋階段で白い場所へと再び戻り、先ほど愛が覗いた牢屋へと入っていく二人。

「さっき上に行く前にこの部屋覗いたけど、何も無かったよ」
「だって隠してるから」

そう言うと、里沙は一番奥の壁際の床と接している穴が空いた部分に手を差し込んだ。
少ししてそこから里沙はお守りを取り出す。

「そんな所に隠してたんか」
「うん、じゃないと没収されちゃうから…」

里沙は取り出したお守りを愛おしそうに撫でる。
彼女のその行動を見て、愛は嬉しくなると同時に少し恥ずかしくなる。


「見つかったなら、早くここから出よっ」
「あ、待ってよっ」


愛は恥ずかしさを隠すように牢屋から出た。
だが、愛は牢屋から出た瞬間、後悔することになる。


「見つけましたよ高橋さん、新垣さん。
 ……処刑はまだ、終わっていませんよ。」


そこには、愛達に情報を教えてくれたあの訪問者の姿があった。


    ◆◆


「…あんた、やっぱり敵やったんか…」


愛は目の前に現れた訪問者から里沙を庇うようにして言い放つ。

「愛ちゃん…?」
「高橋さん、新垣さんをこちらに渡してください。」
「嫌や」

睨み合う二人。
二人の関係性が分からない里沙でも、状況が良くないことは嫌でも分かる。
また、目の前にいる相手が自分を欲しく思っていることも。


「あなたが庇っている人はスパイだったんですよ。
 そんな人を庇ったって、何も得など無いじゃないですか。」
「里沙ちゃんは大切な仲間や。誰にも渡したりせん」


愛はさらに里沙を庇うようにして前に出る。
そんな愛にしがみつく里沙。


「…高橋さん、あなたは馬鹿な人です。そんな人を守る価値などどこにも無い。
 元スパイで、闇の集団に属していた人ですよ?なぜそこまでして守ろうとするのですか」
「…大切な仲間やから。それ以外の何物でもないよ」


訪問者がため息を付く。
その行動に少しビクついた里沙は、おもむろに愛の服を強く握る。
愛はそれに気付き、里沙を守らなければと強く思う。


「大切な仲間だから、か…。アホらしいね」


そう言うと、訪問者は懐から銃を取り出し二人に狙いを定めた。


「新垣里沙。早くこっちに来ないとあんたを守ってくれる人が死んじゃうよ?」
「行くな、里沙ちゃん。あーしは大丈夫やから」


行かなければ、愛は撃たれてしまうかもしれない。
しかし行くなと強く訴えている。

里沙は一瞬戸惑ったが、その場から動かないほうが良いと答えを出し、思いとどまった。


「……二人して馬鹿な答えを出して……
 ……新垣里沙!お前に死を!!」


途端、ひどい形相で里沙を睨み銃を撃つ訪問者に、愛はすばやく近付き刀を振るった。


赤い鮮血が飛び散り、白い部屋を染め上げる。
白に映える赤が二人の姿をも染め、その一瞬がスローモーションのように目の前に広がる。


弾道は逸れ、里沙の左腕を掠める程度に収まった。
しかし、愛の一振りは逸れることなく、訪問者の右わき腹から左肩へと一直線に斬っていた。

訪問者はその場に倒れ、口から血を吐きながらも言葉を続けた。


「にいがき、りさ…お、前は……一…生うら、ぎりも、の……」


その言葉を最後に、命を落とした訪問者。
里沙はその言葉を聞き、心を揺さぶられる。
しかし、いつのまにか傍にきていた愛が、優しく里沙の傷付いた頬を撫でながら言う。


「もう大丈夫やから」


またも静かに涙を流す里沙に、愛は優しく微笑みかける。
そんな愛の言葉に安堵し、里沙は愛の手に自分の手を重ねた。


幾度も戸惑う自分に温かい優しさを与えてくれることに
どんな自分も受け入れてくれることに

里沙は愛に感謝する。


「…ごめんね……ありがとう…」


大丈夫だと言う愛の強さと優しさに触れて、里沙は涙を止めることなどできなかった。





















最終更新:2012年11月27日 08:41