(19)657 『風のいたずら』



朝、すぐにベッドから出られなくなった。
そういう時、もう冬だなと思う。
思い切ってベッドから降りて、大きく背伸びをしたら、少しだけ眠さが無くなった。
寝癖があるなぁと何となく感じて、少しだけブルーになる。
ひざかけを肩にかけて、カーテンを開ける。
空は澄んでいて、空気の冷たさを見せている。
黄色いお日さまも出てる。
今日もいい天気だ。
手櫛で適当に髪の毛を整えたら、少しだけ気分が良くなった。
病室の窓からは公園が見える。
今日はお母さんと女の子の二人だけだ。
ぼんやり眺めていたら、女の子が泣いていることに気付いた。
木を指差している。
そこには赤い風船が引っ掛かっていた。
そういえば、最近近くのデパートで風船を配ってるってさゆが言ってたっけ。
デパートの方を見ると、ウサギの着ぐるみが風船を配っていた。
あれ、さゆなんじゃないの?なんて思いながら、ごめんなさいと呟いた。
窓を開けると、風が絵里の前髪をなびかせた。

「えいっ」

公園とデパートに向かって、一瞬だけ大きく風を吹かせる。
木は突風に煽られ、赤い風船を手放した。
ウサギさんも咄嗟に頭を押さえ、持っていた風船を手放した。
赤い風船は、色とりどりの仲間に合流して、水色の空を舞った。
女の子はお母さんと手を繋いで、風船を指差しながら笑っている。今度風船もらいに行くからねと、空を見上げるウサギさんに向かって、心の中で呟いた。
窓を閉める時に、病院の入口にさゆがいることに気付いた。
さて、風船の話をされたらどうしようか。
とりあえず寝たフリをしながら考えようと、絵里はベッドに戻った―





















最終更新:2012年11月27日 08:39