(19)553 『スノーエンジェル』



雪を見たい、と思った。
そう思う時、決まって思い出すのはあの人のこと。
だから本当は雪が見たいのではなく、あの人に会いたいのかもしれないと思う。

吐く息は白くなってもまだ11月。東京で雪なんて降るわけもない。
首に巻いたマフラーに顔を埋めて歩き出す道。
真夏には木陰の遊歩道は、今は落ち葉を降らせる。

「雪が見たい」なんて、あの人にはとても言えるわけがなかった。
あの人にとっての雪は、故郷の思い出であり、忘れたい能力の思い出。
一面を覆う白い雪は、一瞬であらゆるものを溶かすように消し去って、そして―――

―――それでもあなたと一緒に雪を見たいと願うのは、やっぱりわがままなのでしょうか。
あなたはどんな風に空を見上げるのだろう。どんな風に微笑むのだろう。
そして、どんな言葉を紡ぎ出すのだろう。

「ガキさん、北海道じゃもう雪が降ってるんだって」

あなたはあたしの気も知らず、無邪気に笑ってそう言った。
驚いて声も出せないあたしの頭を撫でる右手は、もうハタチになったあたしをまるで子供扱いするようで。
「やだなぁ、なっちはそんな弱くないんだよ」

 一緒に見に行こう。なっちのふるさと、見せてあげるから。

あぁ、忘れていた。あなたは心優しき、最強の戦士だったことを。
あなたはどんな悲しみや苦しみも乗り越え、笑顔に変えてみせる人であることを。

 ガキさん、約束ね。

真っ白な天使は小指を差し出す。
あたし一人が凍らせていたいろんな想いは、あなたと絡めた小指一本であっという間に溶け出した。






















最終更新:2012年11月27日 08:35