逃げていく最後の生き残りの背中に氷の槍を飛ばした。
今この土地で動いてるのは、あたしとあたしの後ろで震えているこいつだけ。
「ぐはっ」 流石に疲れたわ。
「ったくよお。 泣く子も黙る氷の魔女ミティ様をただ働きさせるなんて、いいタマだぜ」
恥じ入るように下を向き、言葉を発しないやつの首筋を一撫でしてやった。
向日葵。
十一月に向日葵が咲いてたって驚くようなことじゃないんだろう。
でも畑に群生してるのでもなく、街中で人に守られてるのでもない。
北関東の原っぱにぽつんと一本だけ生えている向日葵が、雪の便りが届けられるこの時期に
花の形を保っている根性は少しばかり誉めてやっていいいだろう。
「オメーはよ、こうやって一本だけ目立つから射撃の的にされるんだよな」
敵対する外国人組織を殲滅するという任務を果たし、本部へ帰還するために指定された
転送ポイントへ向かう途中に見かけた光景。
自動小銃を手にした男達が数十人ばかり。
その内の何人かが茎も花も色あせた向日葵を的に、射撃の練習をしていた。
見過ごすつもりだった。
だけど最初は離れていた着弾が徐々にこの向日葵の付近に集まり始め、水分の枯渇しきった
葉を一枚飛ばしたのを見たら、自然と身体が動いていた。
後に残ったのは謎の武装集団の屍の山ってわけだ。
「ミティ様、お迎えに参りました」
転送ポイントに到着しないあたしに痺れを切らして、マルシェが寄越したのだろう。
「そのヒマワリお気に召したなら、抜いて本部に持って帰りましょうか」
「どうやらお前固めて欲しいらしいな」
どいつもこいつもわかっちゃいない。この向日葵はここに生え、ここで咲き、ここで枯れる。
ミティ様は行きたい場所に行き、生きるのに飽き続けるまで生きる。
どっちも同じってこと。
この向日葵に手を出すってことは、ミティ様に喧嘩を売るっていうことさ。
凍死の恐怖に固まってしまっている下っ端の尻を蹴っ飛ばして、転送ポイントに向かうことにした。
あばよ、向日葵。
今度咲く時は仲間のたくさんいる場所で咲きな。
最後に振り返ると、やつが頷いたように見えた。
最終更新:2012年11月27日 08:29