「できれバ殺したくハなかっタ。だが・・・仕方ないナ」
李純(リー・チュン)は静かにそう呟くと、僅かに前傾の姿勢をとった。
次の瞬間、体中の筋肉が膨張を始め、着ていた服が一瞬ではじけ飛んだ。
同時に、白銀と漆黒の体毛が全身を覆い、鋭い爪や牙が生え揃ってゆく。
―大熊猫(ジャイアントパンダ)
暫時の後、殺意を剥き出しにした、その凶暴な獣のシルエットが夕闇の中に浮かび上がった。
「ぐるるるる・・・」
「ふふ・・・ふははは!笑わせる!それで私に勝とうと言うのか?」
だが、凶悪な唸り声を上げる猛獣を前に、女は余裕の笑みを浮かべた。
「“獣化(セリオモルフォシス)”の能力を持つのは・・・・・・何も貴様だけではない!」
そう女が叫ぶと同時に、その姿は人間のそれを離れ始めた。
褐色と暗色の体毛が全身を覆い、体は縮んで着ていた服からするりと抜け出した。
つぶらな瞳が愛らしいその顔には、白い体毛がかわいらしい模様を描き出す。
―小熊猫(レッサーパンダ)
暫時の後、愛嬌抜群の、その愛くるしい獣のシルエットが夕闇の中に浮かび上がった。
「今や時代はレッサーパンダなのだ李純!見ろ!2本足で立ててしまうんだぞ!どうだ!」
「ぐるるるる・・・」
「しかも貴様はぐるるしか言えまいが、私は獣化後も人語を操ることができるのだ!」
「ぐおおぉぉん!」
「悔しいか!貴様の負けだ李純!私の方が人気も・・・!?」
パキョッ!!
何かが弾け飛ぶような音が響き、そして辺りは静寂に支配された。
その中、大きなシルエットが静かに縮んでゆく。
「レッサーパンダのブームなどとっくに去っタ。時代は・・・・・・バナナダ」
獣化が解けて顕わになった素肌を幽闇の空気に晒しながら、李純は淋しそうな顔でバナナを静かに頬張った―――
最終更新:2012年11月27日 08:23