―ここまで来れば、もう大丈夫だ。
組織の追っ手も付いてはこれまい。
私は立ち止まって後ろを振り向いた。誰もいない。
―大丈夫だ。
ふうっと息を吐いて歩き出そうとしたその時――
「よくここまで来たね」
目の前にあの人が立っていた。
そこにだけ春の日差しが当たっているかのような肌と
何よりも深い闇を凝縮した瞳の持ち主。
「安倍さん…」
きりきりと、私の心を恐怖が締め付ける。
安倍なつみは柔和な微笑をその唇に浮かべたまま、言った。
「ちょっと、調子に乗りすぎてたみたいね。ここまで来たら取り返しが付かないよ」
「でも私は…」
「明日、いや今日か。今日は月曜日。あなたは間違いなく遅刻する」
その唇から笑みが消えた瞬間
急に目の前が闇に包まれた――
どうしよう…
最終更新:2012年11月26日 23:59