(18)322 名無し募集中。。。 (れいな、母への思い)



祭りの後の静けさはれいなを寂しくした。
ロフトの上で膝を抱え、小さな窓から切り取られた星空を眺める。

生まれてきて、よかったのだろうか。
不意に答えの出ない疑問が頭によぎり、首からさげたロケットをぎゅっと握った。
れいなを産み、育てた両親は記憶の随分端っこだ。
思い出したい思い出は、思い出したくない思い出に紛れて想うように手に入らない。
繋がらない記憶のかけらを必死に集めたが、それはただの断片に過ぎず
れいなが求めるものは手のひらに残らなかった。
色々なことがありすぎた。れいなの生きた19年は―――

「会いたいんよ。いっぱい、しゃべりたいんよ。」

じわり、と涙が浮かぶ。
無理にでも仲間を引き止めればよかった。
れいなのために開いてくれた誕生日パーティーは、楽しくて、嬉しくて、可笑しくて、それから愛に溢れていた。
恋しい。愛しい。この命をかけてでも、守りたい。

そう思える仲間と出会えた事を、伝えたかった。
今を、元気に生きていることを、伝えたかった。

「何で…」

れいなと同じで、強かったんっちゃろ?



ダークネスごときに、簡単に命を奪われるような両親ではない。
真実を知りたかった。
だけど、ずっと、避けてきた。
拾い集めた記憶ともしも違っていれば、
持っている汚れたピースが、自分が作り出した空想だったなら
愛された記憶が嘘だなんて、そんな事言うやつは容赦なく殺してしまえるくらい


――― 怖い。



不意に扉を叩かれる音がして、れいなは膝に埋めていた顔を上げた。
愛がれいなに買ってくれた、冬物の暖かな布団が涙を吸い込んでいる。
ぐしぐしと袖口で乱暴に涙を拭い、咳払いを一つしてロフトから飛び降りた。
何事もなかったような顔をして扉を開ける。

「愛ちゃん、どしたん?」

ほら、ちゃんと。いつものれいなだ。

「れーな」

いつもと、いつもと変わらない。

「…なん、愛ちゃん」

強くて、かっこよくて、たまに自分でも惚れ惚れしてしまうくらい

「れいな。」

リゾナント最強の共鳴力を誇る―――

「愛ちゃん」

仮面がくずれた。保っていた均衡が音を立てて、壊れていくようだった。
彼女の名前を呼ぶ声が、
コーヒーの香りと、それに混ざる、甘くて優しい特有の香りが


記憶の片隅にある母に似ていた。



「愛ちゃん!」


身体ごと全部、愛にぶつかる。
愛はそうされるのが分かっていたかのように、平然と受け止めた。
それから自分が持つ力全部で、強く抱きしめる。
その瞬間、小さなカケラだった記憶がフラッシュバックする。



――― ほら、れいな。寂しくなかとよ。お母さんずっと傍におっちゃるけんね。
    誕生日はなに買ってあげようか。れいないい子にしとるけん、好きなもん選んでよかとよ
    れいなはおっきくなったら何になるん?お母さんめちゃめちゃ楽しみにしとるんよ
    世界一好いとけんね、れいな。お誕生日おめでとう…、




 生まれてきてくれて、ありがとう。



「生まれてきてくれて、ありがとう」


母と、愛の声が重なる。
嘘じゃない記憶に、れいなは声を上げて泣いた。
愛は小さく震えるれいなの頭に頬を寄せ、穏やかに微笑んだ。






















最終更新:2012年11月26日 21:04