(18)264 『一対の手護』



浮かれ気分のパーティ後の朝。
ちょっとあくびしながら仕込みを終わらせて、もう一度ロフトに戻る
あんまり寝てないから、きっと寝転がったらまた寝ちゃう。
だから、どこにも寄りかからず、ちょうど真ん中で手紙と箱の山を眺める

待ちに待ったれーな自身の誕生日。
今日が次のパーティに一番遠いのか…
なんて、当たり前のことに気づいて待ち遠しくなるあたり、れなホントに祝われるの、好きぃ

今年で体は19になる。気持ちはもっともっと若いっちゃけど!
ああ、子どもでいれる最後の歳か…そう考えるとなんだかちょっと切なくなった

二十歳になったからって大人になれるわけじゃないと思う。
実際ハタチのガキさんだって、そっから2年進んだ愛ちゃんだって、
まだまだお子様なとこがいっぱいあるし…
ハタチって、ただ、子どもじゃなくなるだけで、すぐに大人になれる訳じゃないんだろうな…

もっともっと大人って思ってた。
きっとおおきくなったら自分で好きなことが出来て、楽しくて、いろんなとこに行けて…
すっごく自由になれるって、そう思ってた。


でも、あと1年で自分の状況が激変するとは思えないし、あんまり変わりたくないってのが本音。
わからんけどね、いざハタチになったら、やらなーって思うんかも…

  田中さんは、いつも優しくて  田中さん、いつもありがとう
  れいな、大好き  これからもよろしくね

部屋、汚くなるけど。手紙全部広げて、眺める
一生懸命書いてくれたであろう、一つ一つの文字と、プレゼントに精一杯感謝する

  れいなは優しくなんか、なかよ
  みんなが大事やから、そうなっちゃってる
  みんなが優しいから、れなも優しくしたいって、自然と出来る。

この字一つでも、欠けさせることは、しない。
みんなの存在が、れなにとって、なにより大切なプレゼント

それを見ながら夜に向け、針と糸でもう一つの仕込みをする。


支度を終え、梯子を降りると、そこには愛ちゃんが立っていた。
ジュン子共々夜更かしキングのこの人は、昨夜のドンチャン騒ぎ(れな、古いっちゃね)にも
関わらず、寝不足を感じさせない見事な佇まいで、れいなに「改めておめでとう」と言った

ちょっと照れくさくて、ありがとうを言うのが遅れたら、
ずいっと顔の前に袋を突き出された。

???でいっぱいになりながらおそるおそる受け取ると
愛ちゃんは「必要経費やから」という言葉を残して1階に降りてった。
なんやろ?プレゼントはもうもらったし…

「うわ…これ…」
ガサガサ中を探ると、スポーツ用品店の箱が出てきた
横のラベルには、“グローブ”の記載
普段から愛用しているものが、この間の戦いで穴が開いてしまってた。
でも、これ、大事なものだったから、新しいものにするのをかたくなに拒んでた
ジュンジュンに、田中さん、それ汚いです。とか言われてたけど、朝こっそり補修してごまかして使ってた

バレたくなかったんだ、愛ちゃんには…
これ、愛ちゃんにずっと前に買って貰ったものだったから。
絶対に大切にするって約束して無理にかっこいい高いモデル買って貰ったのに…
自分の分身としてずっと大切にしてきたのに…


どうしよう、気づかれてたか…当たり前っちゃけど…
なんて思いながらも、お礼と場合によってはお詫びをするために中身を確認する

かっこいい、黒いグローブ。
中の生地がピンクになってて、隠れピンクヲタのれなの血が騒ぐ
右手に着けてむぎゅむぎゅしてみる。新しいもの特有の堅さがあるけど、
良いものなんだろうな…ものすごく着け心地が良くて、良い意味で重い。
間違いなく、前回のものよりも良いもの…

左手も左手も!と当初の目的を忘れてつけようとして、
中にメモが入っていることに気づき、慌ててカサカサ開く


  武器は命 命にお金は惜しまないこと

                      愛

と、どこぞの武士のような言葉が書かれていた。
愛の横に書かれてたかわいらしいハートがなんか浮いてたと。

箱の中に慌てて手紙をしまって、左手にも装着してから階段を駆け下りる

ありがとう、愛ちゃん! その言葉を伝えるために…


1階に降りて礼を言うと、当初のれなの予定とは違う展開になった。

「壊れたんは、仕方ないやろー?
 それだけれーなが頑張って戦ってくれたってことやもん」

だから、早く言いま!あんたの手になんかあったらどうするがし!!
なんて説教されてしまった。でも、れなの顔は緩みっぱなしだった。

敵が早く出ないかな、なんて不謹慎だけど…
このおかげできっとれなはもっと強くなるよ。



カランカラン
終わらない説教に空気を読んでくれたのか。ドアが開いてお客さんが入ってきた。

愛ちゃんは笑顔にシフトチェンジさせ、接客を始める

れーなはひとまずグローブをポケットに大事にしまって、
愛おしい気持ちを表すために2度叩きキッチンに走った。




从 ´ ヮ`)<ウォラーッ!かかってこーい!!

川´・_o・)<田中さん、まだタグついてるぞ?





















最終更新:2012年11月26日 20:56