(17)816 『消え失せよ一切全ての者達よ』



あの子以外には何もいらないの。
あの子こそが私の世界、私の全て。
私とあの子を引き離そうとする人間は―――この手で消し去ってあげる。







『消え失せよ一切全ての者達よ』






物心付いたその時から、さゆみを守るのは私の役目だった。
か弱いさゆみ、人を傷つける力を持たぬさゆみ。

母が初めてさゆみを私に見せてくれた時の、得も言われぬ感覚を今でもはっきりと覚えている。
母の腕の中ですやすやと眠る、小さな命を愛しいと思ったその時から、私の世界は広がったのだ。


『さえみはお姉ちゃんなんだから、さゆみの面倒をしっかり見なきゃ駄目よ』


そう言って微笑んだ母に、うんと頷いたあの日。
それから、ずっと、私とさゆみは何をするのも一緒、どこでも一緒だった。

少しだけ年の離れた私達は、成長すると共に嫌でも離れなければならなくなる。
小学校、中学校、進級する度に離れ離れになった。
それは、この世界においてはごく普通の、当たり前のこと。

だけど、私は―――その、当たり前が何よりも憎かった。
私とさゆみを引き離す“当たり前のルール”など、なくなってしまえばいい、そう思っていた。

だってそうでしょう?
さゆみには私しかいないの、さゆみの全ては私なの。
それなのに、さゆみと私を引き離すなんてありえない。

幼かった私は、憤りを感じながらそのルールを飲み込むしかなかった。
親の庇護なくしては生きていけないこの世界。

でも、ある日私は―――全てを消し去る力を手にした。
手に触れたものを跡形もなく完全に消し去ってしまう、この力。


手始めに消したのは、さゆみと私の間に立ち入ろうとした母だった。
成長しても尚、さゆみと私の関係がただの姉妹のそれではないと気付き、私達を引き離そうとした母。

―――そのまま、何も見えぬ振りをしていれば消されてしまうこともなかったのに。


母がいなくなったことに狼狽するさゆみを宥めるのは、誰よりも傍に居てさゆみのことを知り尽くした私には容易いことだった。
母は私達を捨てて出ていった、もう二度と会うことはないと言う言葉に泣き崩れるさゆみを抱き締めて。
私はさゆみにこう言った、大丈夫、私はさゆみを捨てたりしない、さゆみのことは私が守るから、と。

私の半身、守るべき存在。
さゆみを私から奪おうとするものは―――消えてしまえばいい。

母がいなくなってから、私達の世界には私達以外の存在は誰もいなくなった。
誰も立ち入れることなく、誰も近づかせることなく私達はこの世界に二人きり、二人ぼっち。

幸せだった。
誰にも邪魔されない、完全かつ美しいこの世界。
この力があれば、何だって叶うのだ。

母がいなくなり、経済的に苦しくなることも―――赤の他人を消し、お金を奪えば問題なかった。
母の件もあり、さゆみは学校に通うこともなく常に私の傍を離れない。

そう、それでいいの、さゆみ。
学校も、そこで知り合うであろう友も、淡い憧憬を抱くかもしれない異性も―――さゆみには必要ない。
さゆみの全ては私で、私さえ傍にいれば他に何も必要なんてないでしょう?

人を傷つける力を持たぬ代わりに、人の傷を癒す力を持って生まれたさゆみ。
私とは真逆の力を持つさゆみは、まさに私の半身。
さゆみと私は二人でいて、初めて完全な存在なのだ。


お互いが完全であるために。
私達に必要の無い者は、私が消してあげる―――跡形すら残さず、完全に。


 * * *


私達はその日、新しい服を買うために外へと出かけた。
さゆみももう18歳になる、そろそろ大人っぽい服を買ってあげるのもいいだろう。

美しく可憐に成長したさゆみを連れて街を歩くのは痛快だった。
道行く者達が振り返っては、さゆみの姿に心を奪われる。

美しいでしょう、私のさゆみは。
誰にも傷つけさせることなく、ずっと大切に守り育ててきた美しい華。
これからも、ずっと、私が守り育てていく美しく愛おしき存在。

本当は、部屋から一歩も出さずにずっと、閉じこめておきたい。
だけど、さゆみが一度外に出たいと言えば、私はそれを拒むことが出来ないのだ。
聞くことの出来ない願い以外のことは、全て叶えてあげる。

淡い色のワンピースも、その白い肌を引き立てるアクセサリーも買ってあげる。
さゆみが欲しがるものを買うだけのお金なんて、幾らだって手に入れられるのだから。


二人で仲良く買い物を済ませて、後は晩ご飯の材料を買って帰るだけだった。
買ってあげた服やバッグの詰まった紙袋を大切そうに抱えるさゆみの手を取り、ゆっくりと歩いていた刹那。

私とさゆみは、突然―――外界から隔離された。


空間を切り取るかのように展開された“結界”内に取り込まれた私達は、辺りを見渡す。
さゆみと二人で出かけている時にこうした事態に遭遇したことはない。
震えるさゆみの肩を抱き寄せて、大丈夫、お姉ちゃんが絶対に守るからと宣言して。

私はこの空間を生み出した者が何処にいるのか、精神を集中して探る。
出来うるならば、さゆみと二人で居る時に戦いたくはなかった。
全てを消し去る禍々しい力を、さゆみの目の前では行使したくない。

だけど、そうも言ってはいられなかった。
この結界を生み出した者は、確実に能力者である私達を標的にしている。
さゆみを守れるのは私だけなのだ、私が守らなければ誰が守るというのか。

いつ来るか分からない攻撃に備えながら、私はさゆみから手を離し集中を開始する。


「―――それなりに楽しめそうだな」


溢れ出そうになる殺気を押し殺したかのような、低く鋭い声が聞こえた瞬間、私はさゆみを突き飛ばす。
刹那、さっきまでさゆみが立っていた地面に生まれた、球状の抉れ。
闇色の光弾が飛んできた方向へと、私はそのまま走り出す。

余りにも強く禍々しい力だった故か、全てを消し去るこの力には制限があった。
それは、その能力を行使する対象のどこかに必ず触れていなければ発動することが出来ないということ。

飛んでくる光弾をかいくぐりながら、私は徐々に相手に詰め寄る。
この指先が掠めるだけでいい、それだけで―――何処の誰が相手であろうとも、消し去ってみせる。

金髪の麗人は、かなりの手練れのようだった。
距離が詰められたことに動揺することなく、彼女は光弾を放ちながら鮮やかに後方に飛ぶ。
私の能力が遠隔操作出来ないものだと知っているかのように、距離を詰めたら詰めただけ離れていった。


どうしようもない膠着状態。
だけど、唯一の救いは彼女は標的を私だけに絞っていることだ。

早く逃げて、と叫びたかったけれど、それを言うのは躊躇われる。
その言葉に、彼女の意識がさゆみへと向けられてしまったら、庇いきれない。

何としてでも、私がこの手で彼女を消し去らねば。
心臓がバクバクいって、苦しくて、目眩がするけれど…さゆみを守るのはこの私。


「いつまでも逃げて…芸のない」

「んー、相手のテリトリーでやり合うほど馬鹿じゃないだけなんだけどね。
まぁ…そろそろ飽きたし、一気に止めを刺しますか。
そこの可愛い女の子は、あなたを仕留めた後にでもじっくり料理するよ」


そう言って冷笑を浮かべた彼女は、一気に私の方に向かって飛び出してきた。

―――速い!

横転してその拳を避けたものの、地面に転がった私に向かって容赦なく彼女は攻撃をしかけてくる。
この体勢で避けきれる程、彼女の攻撃は甘くない。

ミシッと軋んで折れたのは、自分の肋骨。
腹部を中心に走る激痛に、思わず声が漏れた私を嘲笑うかのように、彼女は私に向かって手を翳す。

絶体絶命のピンチ、だけど、この手さえ彼女に触れればこっちの勝利。
激痛に意識が霞みながら、私は必死に彼女の方に手を伸ばす。


ああ、集中しきれない!

痛みによって私の意識は拡散しつつあり、通常のように集中しきれなかった。
思うように手に力を込めることが出来ないまま、私の手は彼女に届くことがないまま。


「じゃあね」


低い声と共に、彼女の手から闇色の光弾が放たれようとした刹那。
私が目にしたのは、さゆみが女性に向かって体当たりした姿だった。

2メートル程転がった彼女は、ゆっくりと起きあがるとさゆみに向かって鮮やかに微笑みかける。
その微笑みは、絶望的な結果を予感させるのには十分だった。

怪我を負い、満足に動けない私と攻撃能力を一切持たないさゆみ。
しかも、私を助けるためにとさゆみが体当たりをしたことによって―――彼女と私との間には距離が出来てしまった。

手を伸ばしても触れられぬ距離。
私は息を吐いてから、必死に四肢に力を込めて立ち上がる。
倒すことが出来ないなら、せめて、さゆみをどうにかして逃がさなければ。

立ち上がった私は、さゆみを庇うように前に立って彼女を睨み付けながら、さゆみに小さく逃げなさい、と囁く。
出来ないよ、と言ってくるさゆみに、さゆみだけでも何とか生き延びなさいと声をかけた私に、さゆみはしっかりとしがみついてきた。

お姉ちゃんがいないと生きていけないの、だから、お姉ちゃんも一緒じゃないと駄目なの。
甘美かつ私の心をこれ以上ない程に震わせるさゆみの想いに、私は今起こっている事態を忘れそうになる。

可愛いさゆみ、そうね、あなたは私がいないと生きていけないんだものね。
ならばいっそ―――彼女の凶弾によってその命を奪われてしまうくらいなら、私がさゆみを…。


その刹那だった。
私の中に生まれた仄暗い想いをかき消すかのように、閃光が彼女の胸を貫いた。

突然の事態に私とさゆみは、閃光が放たれてきた方向を振り返る。
そこに立っていたのは、モノトーンの服に身を包んだ数名の少女達。

さゆみの方を見つめながら、リーダーとおぼしき少女が口を開いた。


「助けを求めるあなたの声が聞こえたから、私達はここにいる。
共鳴の声を発し、その声を聞くことが出来るあなたは―――私達がずっと探していた、仲間。
私達と共に、戦いましょう、この世界に闇を呼び込み壊そうとしている組織、ダークネスを倒す戦士として」


そう言って微笑む彼女達。
私の体にしがみつきながら彼女達を見つめ返すさゆみの瞳が、今までとは違った光を宿す。

何かが変わっていくことを感じながら、私はただただ、神に祈るしかなかった。
神様、どうか、私からさゆみを奪わないでください、と。


 * * *


祈りは届かず、私とさゆみの間には徐々に溝が生まれつつあった。
“共鳴”というものを感じ取れることが出来るさゆみ、それを感じ取れない私。

彼女達は優しかった。
さゆみにも、そして、共鳴の声を聞くことも発することも出来ない私にも。

その優しさが屈辱だった。
さゆみの全ては私でなければならないのに、彼女達は私の想いなど知ることなく、さゆみの心へと踏み込む。


何よりも屈辱的で、悲しかったのは―――さゆみが、私以外の人間にも心を開いたことだった。
外の世界をよく知らないまま成長したさゆみにとって、彼女達は姉である私以外に初めて出来た大切な存在。

奪わないで、さゆみから私を奪わないで。

そう言葉に発して言うことの出来ないまま、彼女達と共にダークネスという組織と戦う日々が続いた。
傷を癒す力を持ったさゆみは、この力が役立つようになって嬉しいと私に微笑む。

さゆみが変わっていく。
外の世界を知り、彼女達と関わっていくことで、徐々に今までのさゆみから違うさゆみへと。

さゆみと二人でいる時に、お願いだから余り深く彼女達とは関わらないでと懇願した。
今までのさゆみなら、私のお願いを必ず聞いてくれたのに。
皆大切な人達だから、それは出来ないよと言って私に背を向けた。

私の世界が壊れていく。
壊され奪われ、元の形を思い出すほどが困難な程に、変わっていった。


私とさゆみの間に生まれつつあった溝が、完全なものへと変わったのは、ある戦いがきっかけだった。

後方にさゆみを置いて、私と彼女達は敵に向かって突っ込んでいく。
それなりに何度も共に戦ってきたので、連携は完璧なものだった。

だが、敵は私達の攻撃を華麗にいなしながら、無防備なさゆみに向かって念動刃を放つ。
回避するのは困難な速度でさゆみに向かって飛んでいく念動刃に、私の心臓は張り裂けそうになった。
目を見開き、固まったままのさゆみに念動刃が触れそうになる刹那。

彼女達の一人が放った鎌鼬によって、念動刃は相殺された。
さゆみの方に向かって、鎌鼬を放った少女が微笑む。
そして、その微笑みにさゆみが微笑みを返したその瞬間―――私の中で何かが完全に崩壊した。


敵を倒し、一段落ついた。
だけど、私の心は一段落つくどころか、吹き荒れる感情の嵐に翻弄されている。

絵里ありがとう、そう言って甘えるように鎌鼬を放った少女に抱きついたさゆみ。
さゆみを抱き締め返し、柔らかな微笑みを浮かべる少女を―――私は、憎いと心底思った。

二人の傍へとゆっくりと近づく私。
消さなければ、私とさゆみの間に入る人間は消し去ってしまわねばならない。

精神感応で私の心を読んだのか、彼女達のリーダーが二人に向かって叫び声を上げる。
その声よりも速く飛びかかった私の攻撃を避けながら、少女は私の方を何故という目で見つめてきた。

無理もない。
妹を守ってくれてありがとう、その言葉が飛んでくるはずが、飛んできたのは全てを消し去る力を手に纏った私の鋭い攻撃。
何も分からないなら教えてあげる。


「―――さゆみを守るのは私の役目。
私からさゆみを奪おうとする人間は、全て消し去るわ。
さゆみの世界は私で、さゆみの全ては私なのに…あなた達は、私達を引き裂こうとする。
だから、私はあなた達を消し去るわ、そしてさゆみと二人で前までのように仲良く暮らすの」

「…お姉ちゃん、止めて!
―――お姉ちゃん、駄目だよ、そんなことしたら。
さゆみは、自分の意思で皆と一緒に戦っているの、それなのに何でそんなことしようとするの?
さゆみの世界にはお姉ちゃんだけがいるわけじゃないし、さゆみの全てはお姉ちゃんだけじゃない!
なのに、何でお姉ちゃんはそうだって決めつけて、私の意思を無視するの?
そんなお姉ちゃんなんか大嫌い、どっか行っちゃえばいいんだ!」


さゆみの拒絶の声に、私の心は打ち砕かれた。
彼女達と出会うまでの間、一体誰がさゆみの傍にいて守り続けてきたと思っているのか。
慈しみ、愛し、さゆみを傷つけようとする一切の者から庇護してきたのはこの私だというのに。

共鳴が、私とさゆみを引き離した。
彼女達が私とさゆみ二人だけで完結していた世界を壊してしまった。

元に戻したい、その想いを他の誰でもなくさゆみに否定されてしまった私は、そのままこの場から逃げ出した。
ひたすらに走りながら、追ってくる足音のないことに絶望しながら。

私の頬を伝う涙は、風に流れて消えていった。


 * * *


どれだけ走っただろうか。
気がつけば辺りは深い闇に覆われ、空に輝くのは禍々しいオレンジ色の月。

涙はもう出てこなかった。
糸が切れたように、私の体は脳が出す指令をはね除けるようにその場に崩れ落ちる。

拒絶されたことで、私は今まで目を背けていた事実に嫌でも目を向けることになった。

さゆみの世界が、全てが私ではなかったのだ。
私にとっての世界が、何もかも一切全てがさゆみだけだった、それだけのことだった。

思い返せば、その兆候は彼女達と会う前からあった。
時折、私の言うことに瞳を曇らせるさゆみ。
でも、それでもさゆみは最終的には頷いてくれたから―――私は、さゆみも何だかんだ言いながら私と同じなのだと思っていた。


けど、そうではなかった。
私しか庇護する者がいなくなったから、さゆみは仕方なく私に依存するしかなかっただけで。
実際は、彼女達のように他に頼れる者が出来てしまったら、さゆみはいとも簡単に私を拒絶した。

滑稽だった。
この想いを抱えていたのは私だけで、さゆみは全くそんなことはなかったというのに。
気付かないまま、ずっとそうなのだと思いこんで、必死になっていた。

全てを消し去るこの力を自らに使えるのならば、今すぐ使いたい。
私の全てだったさゆみに拒絶され、もう元に戻ることなどありえない今、生きていても仕方がなかった。

再び、目尻に熱いものがこみあげてくる感覚を感じながら、私は目を伏せる。
拒絶されても尚、私にはさゆみしかいない。
そのことが余りにも悲しすぎて、死にたくなった。


「―――自分を消すことが出来ないなら、それ以外の者を全て消すしかないんじゃないの?」


その声に、私は目を開けて声がした方に顔を向ける。
鮮やかに微笑むのは、私とさゆみが離れていくきっかけとなった戦いで、私に重傷を負わせた金髪の麗人だった。
あの時閃光に胸を貫かれて絶命したはずなのに、金髪の麗人は微笑みながら私の傍へと歩み寄る。
柑橘系の柔らかい香水の匂いが私の鼻を掠めた。


「可哀想に、大切だった者に拒絶されて居場所をなくしちゃったんだね。
でも、もう大丈夫―――おいで」


傷つき絶望した私に、その声は何処までも甘く優しく染みこんだ。
おずおずと手を伸ばした私の手を引き寄せ、そのまま彼女は私をしっかり抱き締める。
先程よりも強い香水の匂いにくらくらしながら、私は彼女の背に腕を回した。


「キミは、自分自身の世界に革命を起こすしかないよ。
あの子が全てだった自分の世界を変えて、新しい世界を切り開かなければキミはそのまま潰えてしまう。
憎いだろう、あの子が。
キミなりに大切に育ててきたというのに、他人にうつつを抜かし、今までのことなど何もなかったかのように
彼女達の手を取りキミを切り捨てたあの子が。
そんなこと、許していいわけがない―――さぁ、共に、彼女達を、あの子を消し去るために戦おう」


耳元で囁かれた言葉に頷いて、私は彼女の唇へと己のそれを寄せる。
甘く切ない口付けは―――誓い。

私の全てだったさゆみを消し、彼女達も消し、何もかも一切全てを消し去ってみせる。
何もかももう元に戻らないなら、全部消してしまえばいいのだ。

さようなら、さゆみ。
私の世界、私の全て、何もかもであったさゆみ、でももう、いいの。

闇に墜ちていく感覚が心地よかった。
多分、私は、元々こっち側の人間だったのだろう。
自分の想いのままに、生んでくれた母親を消し、さゆみに近づいてくる一切の存在を消し去ってきた私。

待ってて、さゆみ。
もうすぐそこに行くから―――あなたを消し去るために。


 * * *


黒衣に身を包み、私は戦いの場へと赴く。
結界を展開し、目を伏せて。


まもなく、彼女達と共にさゆみも現れるだろう。
どんな表情を見せてくれるのか、それを考えただけで背筋に甘い震えが走った。

結界をこじ開けて、彼女達が私の前へと姿を現す。
目を開ければ、そこには驚愕の表情を浮かべた少女達。

私は微笑みながら口を開いた。


「久し振りね―――さあ、始めましょう。
私はあなた達を消し去り、新しい世界を生み出すわ」


私の言葉に愕然としたまま、動こうとしない少女達を見つめながら私は婉然と微笑んだ。

さぁ、始めよう、私の世界を生まれ変わらせる戦いを。



―――消え失せよ、一切全ての者達よ。





















最終更新:2012年11月25日 21:58