(17)605 『共鳴修学旅行~リゾナンターでんねん~ 』



共鳴修学旅行~リゾナンターでんねん~


「今日は一日、自由行動なのだっ!」

大浴場ジュンジュン獣化祭りから一夜明けた早朝、
3組臨時学級委員長新垣里沙の声がロビーに響く

「いやっほーぃ!」

リゾナンター達は一気に色めきだつ
その周りにいるクラスメート達は予め予定を知っているため、喜びの声を上げる者はいなかった
明らかな温度差が浮き上がる

「ねぇ愛佳…みんなすっごいテンション上がっちゃってるんだけど…」

ある種、異様な盛り上がりを見せるリゾナンター達を控え目に指差しながら
愛佳のクラスメート安倍夏子ちゃんは怪訝な顔をしている

「あは…あはは…みんな朝からえらい元気やなぁ…あはは」

愛佳は笑顔をひきつらせながら適当に誤魔化した…
そして、ススス~と里沙に近づいて耳打ちする

「新垣さん…あやつら、早いウチにシメといた方がええんやないですか?」
「おぉみっつぃー…それはワシも今、思うとった所よ…」
「さすが新垣殿…先を見る目は確かでいらっしゃる」
「いやいや、光井殿。そちもなかなかの者じゃよ…フォッフォッフォッ…」
「フォッフォッフォッ…」


「何、コソコソ喋っとるがし」
「ぅおっとぉ!」
「あ、いや、何でもないです!」
「ほーか?なんや二人とも悪っそうな顔しとったで?」
「愛ちゃんの気のせいだから!ってか、今日はあんまりハメはずさないでよ!」
「わかっとるがし!」
「愛ちゃんが一番心配なんだけどなぁ…」
「あーしは良い子にしとるがし。ほやけどあっちで早速モメとるで」

愛がニヤニヤしながら自分の背後を指差す

「ワタシはたこ焼き食べタイ!」
「絵里ちゃんはどっちかって言うと~お好み焼きな気分かな~」
「その前にミナミで買い物するったい!」
「小春、かに道楽のかにが見たいっす!」
「カニドーラク?ダッタらエビドーラクもアルですカ?」
「いいんちょー…早くも混乱してるの」

さゆみが呆れ顔で里沙に向かって両手を上げて降参のポーズ

「こっ…コラーーーーーッ!!!!」

今日一発目の委員長の雷が落ちた


━…


リゾナンター&安倍夏子ちゃん一行は買い物を済ませ、
おいしいたこ焼き&お好み焼きを食べた後大阪の観光地のひとつ
道頓堀橋(通称ひっかけ橋)に来ていた

「おぉ~この人テレビで見たことあるったい!」

橋の側のビル壁面にドでかく設置された陸上選手をモチーフにした企業看板を見上げる

「すっごい笑ってるね、この人ウヘヘ」
「そこなの?」
「ワタシテレビで見たノもっとギラギラ光ってマシタ!ギラギラ!」
「ニガキ、アレ光らナイのカ?」
「今はお昼間だからねぇ…」
「小春が光らせましょーかー」
「いいから!光らせなくていいから!」
「あっちにかにがおるったい!」
「ほんとだぁ~。大きいねぇ…おいしそうですよ?」
「そこなの?絵里は相変わらず視点がおかしいの」
「エビは?エビはドコにいマスカ?」
「リンリン、もともとえびはいないから」
「ニガキ、あのカニの動きトテモゆっくりデ異常ダな」
「異常なのはジュンジュン、アンタの感覚だから…」
「はいはーい!小春が早く動かせましょーかー」
「いいから!絶対しなくていいから!」
「里沙ちゃんもなんだかんだ言うて楽しんどるがし」


がははと高らかに笑う愛にもたれかかりながら、ため息を吐く里沙

「これのどこが楽しんでる風に見えるのよ…もー愛ちゃんもしっかりしてよ…」
里沙が苦悶する横でバシバシ写真を撮りまくるリゾナンター達

「平和だねぇ…」
「ほんまやなぁ…」

ハイテンションについて行けない愛佳と夏子ちゃんは少し離れた所で他人の振りをしていた

「愛佳ぁー!なっちぃー!一緒に写真撮るとー!」

れいなが大声で呼びつけて、二人の他人の振りを台無しにする

「田中っち!なななななっちって呼ばないの!」
「なん?なっちはなっちじゃないですか」
「コラーッ!ダメーッ!」
「ガキさん、細かい事は気にしない方がいいですよ?」
「カメはもうちょっと細かい所を気にしなさーい!」

苦笑いの二人と、かにの下で騒いでいる集団に通行人の視線が集まる

「しゃーないなぁ…」
「せっかくだしね…一緒に写真撮ろっか?」
「せやな!」

愛佳と夏子ちゃんはみんなの方へと歩み寄る
しかし、通行量の多いこの場所
前を横切る人が邪魔で、なかなか皆の所まで辿り着けない


「やっぱり大阪は人が多いなぁ…」

愛佳がつぶやく

「わっ!ちょ…やだっ!」「ナツ?大丈夫?!」

夏子ちゃんの慌てた声に愛佳が振り返ると、人混みのむこうでもがいている夏子ちゃんの姿

「何してんの…」

愛佳が夏子ちゃんに向けて右手を差し出す
しかし、その手を握ったのは夏子ちゃんではなく見知らぬ男だった
愛佳は反射的にその手を振り払って、睨み上げた
視界に入るだけで気分が悪くなる様な、ニヤニヤした不快な笑い顔

「こんにちは、光井愛佳さん」
「ッ!!」

愛佳は危険を察知して素早く二、三歩後退った

「お前…何者や」
「愛佳!大丈夫と?」

いち早く愛佳の隣に駆け付けたのれいなが小声で問いかける

「愛佳は大丈夫ですけど…」

夏子ちゃんとの間には真っ黒いスーツを着た男が立ち塞がっている
愛佳は男に警戒しながら、夏子ちゃんの様子を伺う
橋の向こう側の欄干の前で体の大きい男に背後から羽交い締められている夏子ちゃんが見えた



「あんたら…関係ない子を巻き込まんといてんか」

続いてれいなとは反対側に立った愛の冷たい声

「ようこそ大阪へ、リゾナンターの皆様」

唇を曲げて下品な笑いを浮かべる男
リゾナンター9人とスーツ姿の男が橋の真ん中で対峙する
その周りを通行人達が何事かと取り囲む

「白昼堂々とこんな場所で…何考えてるの…」

さゆみがいらついた気持を吐き出す

「おや…我々の歓迎がお気に召さない様ですね」

スーツの男はパチンと指を鳴らした
野次馬の中から数人の男達が飛び出して来る
その数は5人で、計7人のお揃いの黒スーツ男達がリゾナンターの前に立ちはだかった

「何するつもりや…」

愛が威嚇する

「それは貴方のお得意の精神感応で読み取ってはいかがですか?高橋愛さん
 あぁ、光井愛佳さんの予知能力で観てみるのも良いですね」
「この人達…さゆみ達の能力の事も把握してるの…」
「もちろん…何故ならば…」

バラバラとリゾナンター達に向かい合っていた男達が一斉に動き出して横一例に整列する


「我々は、ダークネス関西!」

    ………。

両者の間に一陣の風が吹き抜ける

    シーン。

「フッ…フハッ…フハハハハ!恐怖のあまり声も出ぬか!」

言葉を失ったリゾナンター達の中で最初に動いたのは愛だった…

「アッヒャー!ダークネス関西やて!関西!」
「安易なネーミングなの…」
「ウヘヘ…寒いですよ?」
「ちょっ、アンタ達!思ってても口に出しちゃダメでしょーが!」
「そう言う里沙ちゃんも“関西”はどうかと思うやろ?」
「うん…まぁ…あのネーミングセンスは…厳しいよね…」

里沙でさえフォローできず、愛に同意せざるを得なかった

「なっ…きっ…貴様ら…」

馬鹿にされきったダークネス関西のリーダー格の男はわなわなと拳を震わせた
そんな男へトドメを刺したのはれいなの一言だった

「………ダッサ」

「!!!」

リーダー格の男の顔色がスッと青ざめた後、一気に紅潮した

「お前らっ!しょーもない事ぬかしとったらシバき倒すぞ!ワレェ!」

激昂した男は声を荒げて喚き出した

「ニガキ、アイツの日本語オカシイ」
「いや、あれは関西弁って言ってね…」
「!!おちょくっとったらしまいには泣かしたんぞボケェ!」
「イヤや…あんなんと同じやなんて関西人として恥ずかしいわ…」

思わず愛佳は本音を溢してしまう
しかし、それを聞いた男はすかさず反論する

「アホか!滋賀県民はホンマの関西人ちゃうやろが!
 滋賀県はなぁ琵琶湖があるからしゃーなしに関西にしてやっとんねん!」
「うっさい!偉そうな事言うとったら淀川の水塞き止めんで!
 そしたら大阪人干からびんねんで!」

※解説しよう!
 滋賀県の琵琶湖は別名“関西の水瓶”と呼ばれ、
 そこから流れる淀川の水は大阪府内流域の水道水として使用されているのだ!

「やれるモンならやってみろや!淀川塞き止めたら琵琶湖の水、溢れてまうねんぞ!
 滋賀の田舎モンは溢れた水で溺れてまえ!そんで隣の田舎の福井にでも亡命せぇや!」
「ちょっと待つやよ!!」


低レベルな関西人同士の罵り合いにいきなり割って入ったのは愛だった

「アンタ…今…福井を…福井をバカにしたやろ!」
「え?ちょ…愛ちゃん?」
「は?…あぁ…お前が幼少期に過ごしたのは福井の田舎だったな…フン」
「またバカにしよって!許さんやよっ!」

ムキーと怒り出した愛

「愛佳っ!徹底的にやったるで!」
「はい!」

ここに強力な福滋同盟が立ち上がったのだった
愛佳はスッと目を細めた後、リゾナンター達だけに聞こえる小声で告げる

「右から4、1、6、2、3、5です」
「了解~」

愛佳の発言に絵里がやんわりと答える

「あーしは最後にするがし!」
「じゃぁ、れなが一番に行くと!」
「その次は小春が行きまーす!」
「アー…ジャァ、ワタシ3番目ですネ?」
「なっち!アタシはなっちをっ!」
「新垣さん…少し落ち着くの…」

次々に交される会話にとまどいながらも、引くには引けないダークネス関西からの刺客達

「何ごちゃごちゃぬかしとんねん!もぉええわ!お前ら!かかれっ!」

リーダー格の合図に男達が一斉に動きを揃えて飛びかかる


しかし、そこは人間の動き
いくら訓練を重ねようともその攻撃には若干のズレが生じてしまう
先程の愛佳の指定した番号はその僅かなズレを予知したものだった
リゾナンター達は愛佳が告げたそのズレの順番を頼りに迎え打つ

“1”と指定された、右から2番目に立っていた男の足にれいなの下段蹴りが叩き込まれる
バランスを崩した男は前のめりになり、思わず両手を突き出した
その手は地面に届く前にジュンジュンに捕まれる
ハッとして顔を上げた時には既に遅し
ジュンジュンは男が駆け込んで来た勢いにジュンジュン自身の怪力も加え、後方にポーイと投げ捨てた
男の体は空高く舞い上がり、橋の欄干の向こう側へと消えて行った
同じように、愛佳の予知能力によって見透かされた男達の攻撃は次々に看破されて行く
2番目の男は小春の念写能力によって仕掛けられた足元の大きな穴に気を取られ、
怯んだ隙にジュンジュンに首根っこを掴み上げられて飛ばされた
3番目の男はリンリンの漫画模倣術のひとつであるカメハメ波(もどき)による炎に右足を燃やされ、
慌てた所をジュンジュンの強烈なアッパーで打ち上げられた


4番目の男はさゆみの放ったうさちゃんズに動きを封じられてもがいている所、
ジュンジュンの重量感のある裏拳によりライナー性の放物線を描いて消えて行った
5番目の男は絵里が起こした竜巻にきりもみ状態で飛ばされて行った
その間、僅か数秒
ボチャーンと道頓堀川の水面を叩く激しい水音が連続して辺りに響いた

「残されたのはアンタとアイツだけや…」

愛は表情を崩さず夏子ちゃんを捕まえている男を顎で指す

「クッ…」

リーダー格の男の顔に明らかな焦りの色が滲む

「ほれ、アンタの仲間達と同じ様に大腸菌と一緒に水遊びするやよ」

静かに最終宣告を浴びせた愛の姿が音もなく消えると、
リーダー格の男は苦しげな息をひとつ吐いてその場に崩れ落ちた
瞬間移動した愛が背後からお見舞いした首筋への一撃があっさりと効いたのだった
ジュンジュンは小石でも拾うかのように倒れた男の上着を摘み上げて川へ放り込んだ

「で、アンタ一人になってもーたワケやけど?」

ゆっくりと振り返る愛
夏子ちゃんを捕えたまま、最後に残ってしまった男は恐怖のあまり小さく悲鳴を上げた

「その子を離すやよ…」
「今更許しを乞うたって遅いわよ!」


「へ?里沙ちゃん?」
「アンタはねぇ!それぐらい大きな罪を犯したんだからね!」
「ウヘ…ガキさんがキレましたよ」
「なっちを…なっちを人質に取るなんて外道の風上にも置けないのだっ!」
「よくわかんないけどブチギレてるのは確かなの…」
「卑怯なその行い、なっちが許してもアタシが許さないのだっ!」
「新垣さんマジギレしてるっす…」
「怒ったニガキはつおソウだナ」
「怒った新垣サンは何スルカわからナイデス!」
「キレガキさんの眉毛が揺れよう!ハッハッハッ!」

リゾナンター達が口々に切れたと騒ぎたてる度に男の顔から生気が消えていく
手も足も震え、喉から途切れ途切れの息がかろうじて吐き出だされる

「その罪、地獄で未来永劫悔やみ続けるのだ!」

カッと見開かれた里沙の両目
その目に射抜かれた男は突然頭を抱えて暴れだした
怯えきった絶叫を上げ、その場でのたうちまわった挙句、
自らその身を道頓堀川へと投げたのだった
それを見届けた里沙は我に返り、フゥとため息を吐く
そして愛佳はペタリとその場に座り込んでしまった夏子ちゃんの元へ駆け寄った

「ナツ!大丈夫?!」
「あ、うん、なんとか…」


そう言って、夏子ちゃんはかよわい笑顔を浮かべた

   パチ…パチ…パチパチ…

「へ?」

どこからともなく起こったまばらな拍手に愛佳が気付いた時には既に大きな拍手の渦になっていた

   パチパチパチパチパチパチ!!

周りの群衆は拍手と共に、感動と讚美の言葉をリゾナンターへ向ける

「あ…人が見とること忘れとったわ」
「ちょ…愛ちゃん…これ…」
「自分ら凄いな!テレビかなんかの撮影なん?」

野次馬の中の一人が愛佳に声を掛けてきた
いきなりの事に動揺しつつも愛佳は素早く切り返す

「あ…あの…わっ私達、新喜劇に入りたくて大阪に来たんです!」

   おぉーー

ひっかけ橋全体を大きなどよめきが包む

   あの演技力ならいけるやろ
   むしろ可愛すぎてアカンのちゃう?
   どっちかっちゅーと、手品師の方が向いとるやろ

口々に感想を述べ合う野次馬達

「それで、あの…なんばグランド花月はどこですか!?」

「あぁ…それやったらこの道グワー行ったらラーメン屋あるから
 その角ピュッて曲がってブワーて行ったらドーンてあるわ」
「ありがとうございます!」

愛佳が元気良くお礼を告げると同時にリゾナンター達は教えられた道に向かってグワーっと走りだした
愛佳も夏子ちゃんの手を引いてメンバーの後を追いかけた
背後から野次馬達の“がんばれよー”なんて激励の声が飛んで来る

「ハッハッハッ!あの人達、愛佳の言い訳信じとーよ!」

先頭を走るれいなが体を反転させ、後ろ走りしながら笑いかける

「みっつぃー!どうせならもっと上手い嘘つきなよ!」
「やって、とっさの事で何も思いつかへんかってんもん!」
「ちょっと愛佳!?どーなってんのよぉっ!!」

まだ状況を飲み込めきれない夏子ちゃんは、必死に走りながら問いかける

「後で説明するわー!グフフ」

笑いながら答えた愛佳は隣を走る里沙にチラリと視線を送る
里沙は少しバツが悪そうな笑顔を返した

その後、人通りの少ない路地に入ったリゾナンター達は里沙の精神干渉能力をれいなの能力で増幅し、
辺り数km内に居る人間の記憶から自分達を跡形もなく消し去った


それはいつも少し寂しさの残る作業だった

だけど、今日だけは、愛佳は笑っていた
能力を晒け出した後でも、友人は愛佳の手を握ってくれた
恐怖に怯えるでもなく、不快感を表わすでもなく
夏子ちゃんは愛佳が差し出した手を握って、ついて来てくれた
それだけで愛佳は嬉しかった

その気持ちはこの場にいる誰もが理解できた
だから、里沙は夏子ちゃんの記憶に少しだけ残して置いた

夏子ちゃんのために果敢に敵に立ち向かう愛佳の姿
そして、すべてが終わった後、素早く夏子ちゃんの元へ駆け寄る愛佳の姿

ちなみに、里沙が「なっち!なっち!」と取り乱した部分は勿論、綺麗さっぱり削除された

「なんや、自分に都合の悪い記憶を消せるてええですね…」
「いや、あの、普段からこーゆー事してるわけじゃないから!」
「ホンマですかぁ?」
「ホーントだってば!」


愛佳は日記でも始めようかな…とちょっと思ってしまったのだった





















最終更新:2012年11月25日 21:23