(16)672 『答:③秋。理由:  』



「ねー、れいな。何の季節が好き?」

これ、夕方だれかに聞かれた質問。
記憶の中はたしか…絵里かさゆ…まぁ、発問者は大して問題じゃなか。

咄嗟に、秋って答えてしまったっちゃけど、なんで秋?

春はなんか始まりって感じがぞくぞくして好き。
冬は寒いけど、もういくとこまでいってて、ブーツとかれいな大好きやけん、好き。

けど今までは、一番好きなのは、夏って答えてた。
いろんなところに遊びに行けるし、学校を公然と休めるし
水着可愛いし、花火綺麗やし、浴衣着れるし…

それに比べてなんか、秋ってぱっとせん。
それなのになんで、秋を選んだっちゃろ?

そんなことをぼーっと考えながら、空の星で点描する。
うーん、あの星がもうちょいずれてくれてたら…なんて考えながら見ていたら
愛ちゃんに上から覗き込まれた。


「不良猫は今日も夜遊びけー?」

屈託のない笑顔で微笑む彼女の手に握られたコップから立ち上る湯気。
それが今宵の気温が冬に傾いていることを知らせる。
そして、それが二本であることで、れいなの頬は上がった。

隣に腰掛けた愛ちゃんにふと、あの質問をする。
普通に聞いたら一文字しか返ってこん場合があるから、ここは慎重に。

「愛ちゃん、何の季節が好き?あ、理由も聞きたい」

ずずず、っと美味しそうにコーヒーを飲んでいた愛ちゃんは一度ゆっくり瞬きすると
コップを歯で鳴らして、考え込み始めた

きっと待つ時間の割に、短い回答しか得られないってわかってるから、
れいなは自分自身の回答をよく考えてみることにした。

なぜ秋と答えたか、ではなく、なぜ、秋と答えることに違和感を覚えたのか

<田中れいな式あるなしクイズ 解答者:じぶん>

秋にあるもの
誕生日、食欲の秋、芸術の秋、運動…は正直あんまり好きじゃない。
トレーニングは欠かさんっちゃけど。

秋にないもの
…秋に、ない…もの…



「秋、かなぁ…」

もう少しでれいなの中の答えが導き出せるというところで、愛ちゃんが答えを発した。

「理由なんやけどの…ちょっと変でさぁ…」

  嫌いやったんよ、秋って。
  なんか、ホントは冬の方が夜が長いって分かってるんやけどさ、
  一番短かった夏から急に暗くなる気がして、急に寒くなる気がして

「なんか、自分が寂しいってわかる気がして、嫌いやった、あき。」

愛ちゃんの言葉に、空気がしん、と静まる。
夜が長くなる気がする―それはれいなの思ってたものと同じだった。

楽しみを全て奪われたような、そんな気になって。
孤独の恐ろしさに改めて気付いて。

一番楽しい夏に行く為に、最も長い間待つ秋に生まれた
そのことが自分の本性を表している気がした。

  ホントウハ、コワイ、孤独ガ。ダカラ、誰カ、一緒ニ、イテ。



「けどま、今はなんか。この長すぎる夜も好きで」

  それは、なんでなんか考えたら
  やっぱ、みんながおってくれるからやろうな。もう寂しくないから。

反動。かもしれないよね、愛ちゃん。
寂しくてたまらなかった秋に孤独がこみ上げないこと。怖かった夜が穏やかなこと。
それだけで、自分がもう孤独の虜囚じゃないとわかって、
秋がものすごく好きになってるのかもしれない。

「わかる気がする」

これ以上言わせたら、あーもう!!とかって投げ出しそうな愛ちゃんから、発言の機会を奪った。
そっかぁ、良かった。さすが、れいなやな。
こみ上げる喜びを口にしながら、愛ちゃんは再び、ずずずっとコーヒーと口にした。

改めて、司会の田中れいなに解答をする。

れいなの好きな季節は、秋です。
理由は、みんなと過ごす、この長い夜です。
それは直接的に一緒にいるという意味でも。たとえ離れていたとしても。
れいなを認めてくれる、大切な仲間と、この時を刻んでいる
そのことがれいなを孤独から解放する。



「さってと、年寄りはもう、寝るわ。」

よっこいしょ、なんて台詞を吐きながら、愛ちゃんが立つと、
その手のものが、カップからブランケットに変わっていた。

「どうせ、早く寝ろって言っても寝ええんのやから、これ置いとく」

れいながすごく良い意味で愛ちゃんくさいそれを膝にかけるのを見届けると、
しゅいん、と光になって消えた。

いくら冬の足音が近付いていても、まだそれは少し厚すぎる布だった。
それでも、れいなはそれを動かさなかった、何か仲間ってこんなもんじゃなか?なんて思いながら。


今日はとことん行こうか?
秋の夜長がどれほど長いか、それなのにどんなに自分の心が満たされているか
夜の深まりを感じるたびに、その想いが深まる、その確信をゆっくりと噛み締めながら。




















最終更新:2012年11月25日 18:17