(16)246 『共鳴修学旅行~リゾナンター長時間移動の過ごし方~』



共鳴修学旅行~リゾナンター長時間移動の過ごし方~

愛佳が呆然と窓の外の景色を眺めるその横で
友人の安倍夏子ちゃんは里沙の質問攻めに戸惑っていた

「あべなつ、子ちゃんの誕生日はいつなのだ?」
「1月8日だけど…」
「安倍さんの誕生日が8月10日だから…うおおぅっ!!逆なのだ!奇偶なのだ!」
「へ…へぇ…そうなんだ…」
「あべなつ、子ちゃんは普段なんて呼ばれてるのだ?」
「愛佳とかにはナツとか…あとはアベちゃんとか…」
「なっ…なっち…なっちって呼んでも良い?」
「はぁ…別に良いけど」
「うおおぅっ!!じゃ…あの…なっ…なっち?」
「…はい」
「うおおおおおぅっ!!たっ…たまらないのだ!!」

「新垣さんまで壊れはったら愛佳…どないしたらええんですか…」



愛佳は不安に思い、右隣に座るさゆみの様子を伺った
さゆみは座席についてから一言も発せず何かの雑誌に集中していた

「道重さん、何読んではるんですか?」
「これ?関西に行くって聞いたから急いで買ったの」

そう言って表紙を愛佳の方に向けた

[この店のシールがすごい!~関西版~]

「………シール」
「そうなの!せっかくだからかわい~ぃご当地シールとか欲しいじゃない?」
「そんな雑誌、売ってるんですね…」
「そうなの。さゆみも見つけた時はビックリしたの!密林は何でも売ってるんだよね~…」
「密林?」

愛佳は駅前の比較的大きな書店を思い浮かべた
しかし密林書店とか言う店名ではなかった気がする

「どこにあるんですか?そのマニアックな本屋は」
「もぉ~みっつぃーったら、密林は本屋さんじゃなくて、
ネット通販のア・マ・ゾ「あぁ~わかりました」

愛佳は軽い頭痛を覚えて、視線を正面に向けた



「小春、喉乾いちゃった!お茶買っておけば良かった~」
「クスミ、一杯ダケならヤルぞ。飲むカ?」

そう言ってジュンジュンはカバンの中から大きめの魔法瓶を取り出した

「わぁーい!ジュンジュン優しーい!飲む飲む!」
「仕方ナイな…」

無表情のジュンジュンが魔法瓶のフタ兼コップに中身を注ぐ

「ちょジュンジュン…それ何やの?」

注がれたのは白くドロドロとした物体

「ジュンジュン特製バナナジュースダ」
「気持ち悪~い!ドロドロしてて気持ち悪~いっ!」

見ているだけで乗り物酔いしていまいそうなバナナジュースから目を背け、
通路を隔てた向こう側の座席に座る残り4人の様子を伺った



「ほやから京都は日本の歴史が詰まったすごい土地なんやよ!」
「オウ!ワタシ歴史好キデス!楽しみデス!」
「もし織田さんが生きとったら歴史はえらい変わっとったはずや!」
「オウ!もし張飛がオ酒に酔ッテなかッタラオ城を奪われテなかッタ!」
「そや!なんやようわからんけど、そういう事や!」

「高橋さんは三國志はあんまり興味ないんやな…
てか、知らんのに同意してはるし…テキトーや…」

次に愛佳は歴史談義に花を咲かせる愛とリンリンの向かいに座る
れいなと絵里の様子を…

れいなと絵里の…



れいなしか居なかった

れいなはイヤホンで音楽を聞きながら頬杖をついて窓の外を眺めていた
カッコつけて一人黄昏ていた

「…まさか…ここに来てまさかのはぶられいなですか…」

愛佳はそっと席を立ち、れいなの隣に移動した
れいなはその気配に気付いたのかイヤホンを片耳だけ外して微笑んだ

「愛佳?どうしたと?」
「いや、亀井さんはどこ行きはったんかなと思って…」
「絵里?そこで寝とるよ」

れいなは自分の座っている座席の背もたれの方を見た
今、れいなと愛佳が座っているのはこの車両の一番後ろの席なので
愛佳の目には背もたれと車両の壁しか入らなかった

「えと…壁…ですか?」
「違うって。そこの間におるやろ?」

愛佳は腰を浮かせて背もたれの向こう側を覗き込んだ
そこにはれいなのカバンに座ったまま、背もたれと壁に挟まれて
幸せそうな顔でスヤスヤと眠る絵里が居た

「カワイイ顔で寝とるっちゃねー」

一緒に覗き込んだれいなも幸せそうな顔で笑う



「…安眠してはりますね…」
「絵里、結局ホームでれなのカバンに座ったまま寝てしもうたけん
運ぶのが大変やったと!れな一人やと座席に移せんかったけん
壁と席の間に突っ込んだんやけど絵里はその方がよかやろ」
「まぁ確かに…隙間が好きですからね…亀井さん…」
「やろ?ニシシ…」

嗚呼…なんて素敵な仲間愛…


愛佳はお手洗いにむかいながら呟いた


「その仲間愛…愛佳にも向けて下さい…」





















最終更新:2012年11月25日 18:05