(15)730 『譲れない戦い』



「バナナなんて人間の食い物じゃねえ!!」
「何言うデスカ!!」

相譲れぬものを賭けた女の戦いが始まった

目の前の女に特に能力を感じないジュンジュンは、念動波で正面から攻撃した

「青龍堰月刀、一刀両断」
岩をも砕く刃をイメージした念動の力が射出され、命中した

「き、効かナい。 どうしてアル」

女はニヤニヤと不敵な笑いを浮かべている

「なラば、至近距離から崩すだけデす」
一気に間合いを詰めたジュンジュンは、女の首筋に両手を押し当て、最大限の気合を込めて
念動力を放つ

(え、内側から相殺さレてる)

「あなた、これは一体?」

「気の力やね。 昔上海で修行したことがあるんや。 一日だけやけど」

「中国四千年の歴史を馬鹿にするアルか、たった一日でそれだけのことが出来るはず無いアル」

「修行の長さは問題や無い。 大事なのは求める心
姉ちゃんの念力の衝撃を内気功で相殺し、回復する。 そして、覇亜ーっ」

女が撃ち出した気の力に吹き飛ばされるジュンジュン

「このままでは負けてしまう。 こうなったら」


心の内に潜む聖なる獣に呼びかける

「お願い、力を貸して」

目が妖しく光り、体毛が急速に亢進し、爪が伸び、筋肉が隆起し、まとっていた衣服が襤褸切れとなって
辺りを舞う

「ほお、それが獣化能力か。 しかしパンダって結構獰猛そうやねんな」

女の言葉に「ガルルル」という唸り声で応答するジュンジュン変じたパンダ

鋭利な爪の一撃を女に浴びせる

「はっ、これは流石に避けるわ」
先ほどまでの馬鹿にしたような笑みこそ消えたが、女の表情にはまだ余裕があった

一撃、二撃と間髪を置かず繰り出されるジュンジュンの攻撃を紙一重で回避しながら、気の力の
籠った掌打を黒と白の剛毛で覆われたジュンジュンの体に炸裂させる

「ほう、硬いな」
どんな屈強な戦士でも一撃で倒す破壊力を秘めた気の一撃が、眼前の獣には通用しない
いやダメージは与えている感触はあるのだが、決定打には至らない

(こうなったら、根気比べか。 それやったら攻撃と回復を同時に出来るうちの方に分があるな)

僅かずつとはいえ、増大していくダメージの蓄積に焦ったジュンジュンは一気に勝負をつけようと
女に組み付いた

「ちっ、させるか」


今にも自分の頭を噛み砕こうとしているジュンジュンの大きく開かれた口に、自らの左手を強引に
捻じ込んだ女。

次の一瞬

「うっ、」獣化が解けて崩れ落ちるジュンジュンの姿があった

「こっちの手を一気に食いちぎってたら、そっちの勝ちやったけど、一瞬ためらってもうたな」

女の言葉には憐れみの色を帯びていた

すっかり獣化が解け、真珠色の素肌をさらすジュンジュンの目から一筋の涙

「中澤様、ご苦労様です」

「ん、?」

女が振り返ると、ダークネスの戦闘員が控えていた

「何の用や」

「はい、マルシェ様から実験材料として、獣化能力者の確保を命じられておりまして」

「ふーん」
軽く対応しながら、女、中澤はジュンジュンの露わになった胸に、自分の両掌を押し当てると、
「ふん」と気を加えた

死んだな。 これで元、獣化能力者や。 
こんなバナナの臭いのする女を基地に連れて行くって冗談も大概にせえと、マルシェに言っとけ」


「しかし、それでは…」

「ええから、マルシェにはあとで話をつけるから。
その屍骸は捨てとけ。 あとそいつの持ってるバナナの房、うわっ、ここまで匂うがな。
それは供えとったれや。 そいつも一人でよう頑張ったからな」

「では中澤様は」

「私はもうちょっと外の風に当たっとく」

中澤は戦闘員を追い立てた


――(さてと、李純、いやジュンジュンやったか)

ピクリとも動かないジュンジュンの身体を眺めながら、呟く

「うちが最後に胸に打ち込んだのは、最大限の回復の気や。 おかげでこっちはスッカラカンや
あんたが強かったら、また立ち上がれるやろ。 弱かったらそれまでやけどな」

中澤は自問自答する
何故組織に抗うようなことをしたのか、と
それは十年近く前、仲間との圧倒的な力の差を埋めようと一人修行に向かった中国の地で、
自分を暖かく受け入れてくれた彼の地の人と同じ何かをあの娘から感じたからか

「もしかして、これって共鳴? え、うちもリゾナンターとしてやれるんちゃうん」

愉快げな笑みを浮かべながら、中澤は歩を進める
「ビール買って帰ろ」




















最終更新:2012年11月25日 17:38