(15)497 『A only place』



しんと静まりかえった喫茶リゾナント。
カウンターに置かれたランプと月の光だけが店内を照らしている。

「さっきまであんなに騒がしかったのに」

小さく呟いた独り言をかき消すものは何もない。
多少の寂しさを感じながら、私はコーヒーとカフェモカを作り、
カウンター席と向かい合うように椅子に座った。

今日は私の誕生日だ。
0時から始まった誕生日パーティーは、あっという間に終わってしまった。
とは言っても、すぐに終わってしまったというわけではない。
プレゼントをもらったり、ゲームをしたり、いろんなことをみんなはしてくれた。
どの瞬間もすごく楽しくて、時間はあっという間に過ぎていった。
2時、3時・・・と時間が経つごとに睡魔にやられていく子が増えていき、
3時半になろうかという今、ようやく完全にお開きといえる状況になったのだ。
本当に、あんなに笑ったのは生まれて初めてじゃないかな。
そんなことを思いながらコーヒーを飲んでいると、階段を降りる足音が聞こえてきた。

「やっと終わったよー」
「ご苦労様。ありがとう、ガキさん」
「いえいえ」

2階の寝室にみんなを寝かしに行っていたガキさんが戻ってきた。
カウンターまで歩いてくると、カフェモカを見て「お、ありがとー」と言いながら、
私の目の前に座った。



「もうこんな時間かぁ」
「あっという間やったね」
「ねー。こんな時間まで何やってんだか」
「そうやねぇ」

きっとガキさんもパーティーのことを思い出しているんだろう。
楽しそうに、それでいて嬉しそうに口元を緩めた。

「本当、みんなもね、あれで真剣だから笑えるよね」
「おかげでいっぱい笑わせてもらったわ」
「だって愛ちゃんウケ過ぎだもん」
「だって絵里がさぁ~・・・」
「愛ちゃんはツボが浅すぎるんだよ」
「そんなことないよ」

あー思い出すだけでも笑えてくる。
涙が出る程笑って、腹筋が痛くなる程笑った。
それでもまだ笑わせてくれるなんて、本当にみんな面白い。
だから私のツボが浅いとかではないと思う。

「ま、今日は愛ちゃんが主役だから、それでいいんだけどさ」
「うん、ありがとう」
「みんなずーっと前からどうしようどうしようって考えてたんだからね」
「ほんとぉ?」
「本当だよー。私が何回買い物に付き合わされたと思ってんの」
「ごめんねー」



みんなに頼まれて、断れないガキさんの姿が目に浮かぶ。
「プレゼントぐらい自分で選びなさい」とか言いながら、
最後は「もぉ、しょうがないなぁ」なんて言って。
そんなことを考えて、また笑ってしまった。

「笑い事じゃないんだからねー、こっちの身にもなってよー」
「はは、ごめんごめん」

みんなといると楽しいなって改めて思う。
自分のことばっかり考えてるかと思いきや、全然そんなことなくて。
自分の心配はさせようとしないくせに、他人が我慢すると怒って。
怒りながら、気付いてやれなかった自分に腹が立って、涙を流して。
本当に、ほっとけない子ばかりで、頼れる子ばかりだ。

「来月は愛ちゃんの番だからね」
「へ?」
「私にもくれるでしょ?プレゼント」
「・・・はいはい」
「なーにーその言い方!」
「ちゃんとわかってるってー」
「もー、本当にわかってんの?」
「だいじょぶだいじょぶ」
「愛ちゃんの大丈夫は心配しろって言ってるようなもんだよ」
「え、そうなん?」
「・・・もういい」

予想通りの反応に、案の定私は大爆笑だ。
それでまた怒らせてしまうのも、予想通り。



「もぅ、怒るよ?」
「ごめんって。来月やろ?任せてよ」
「じゃあ楽しみにしてる」

来月は忙しくなりそうだな、と思いながら軽く苦笑した。
メンバーのみんなの為なら、忙しくてもなんだってやれるんだけど。
よし、いつもお世話になってるガキさんの為にも、頑張るかぁ!

「あーほら、またバカみたいな話してたらこんな時間だよ」

ガキさんが椅子から立ち上がって、窓の外を見ながら言った。

「もうすぐ朝だね」
「愛ちゃんと話してたらすっかり眠気も吹き飛んじゃったよ」
「それは良かった」

2つの空のカップを片付けながら笑うと、ガキさんは小さく眉間に皺を寄せた。

「良くないよぉ。今日もリゾナントは開店でしょーが」
「もちろん」

私が即答すると、やっぱりねという風に肩をすくめられた。
それでも一度大きく伸びをすると、私の方に振り向いて一際大きく声を発した。

「じゃ、今日も一日頑張ろーねっ」
「・・・おぅっ」

もうすぐ夜が明ける。
誕生日を祝ってくれる仲間がいる。

――もう一人じゃない。




















最終更新:2012年11月25日 17:31