しんと静まりかえった喫茶リゾナント。
カウンターに置かれたランプと月の光だけが店内を照らしている。
「さっきまであんなに騒がしかったのに」
小さく呟いた独り言をかき消すものは何もない。
多少の寂しさを感じながら、私はコーヒーとカフェモカを作り、
カウンター席と向かい合うように椅子に座った。
今日は私の誕生日だ。
0時から始まった誕生日パーティーは、あっという間に終わってしまった。
とは言っても、すぐに終わってしまったというわけではない。
プレゼントをもらったり、ゲームをしたり、いろんなことをみんなはしてくれた。
どの瞬間もすごく楽しくて、時間はあっという間に過ぎていった。
2時、3時・・・と時間が経つごとに睡魔にやられていく子が増えていき、
3時半になろうかという今、ようやく完全にお開きといえる状況になったのだ。
本当に、あんなに笑ったのは生まれて初めてじゃないかな。
そんなことを思いながらコーヒーを飲んでいると、階段を降りる足音が聞こえてきた。
「やっと終わったよー」
「ご苦労様。ありがとう、ガキさん」
「いえいえ」
2階の寝室にみんなを寝かしに行っていたガキさんが戻ってきた。
カウンターまで歩いてくると、カフェモカを見て「お、ありがとー」と言いながら、
私の目の前に座った。
「もうこんな時間かぁ」
「あっという間やったね」
「ねー。こんな時間まで何やってんだか」
「そうやねぇ」
きっとガキさんもパーティーのことを思い出しているんだろう。
楽しそうに、それでいて嬉しそうに口元を緩めた。
「本当、みんなもね、あれで真剣だから笑えるよね」
「おかげでいっぱい笑わせてもらったわ」
「だって愛ちゃんウケ過ぎだもん」
「だって絵里がさぁ~・・・」
「愛ちゃんはツボが浅すぎるんだよ」
「そんなことないよ」
あー思い出すだけでも笑えてくる。
涙が出る程笑って、腹筋が痛くなる程笑った。
それでもまだ笑わせてくれるなんて、本当にみんな面白い。
だから私のツボが浅いとかではないと思う。
「ま、今日は愛ちゃんが主役だから、それでいいんだけどさ」
「うん、ありがとう」
「みんなずーっと前からどうしようどうしようって考えてたんだからね」
「ほんとぉ?」
「本当だよー。私が何回買い物に付き合わされたと思ってんの」
「ごめんねー」
みんなに頼まれて、断れないガキさんの姿が目に浮かぶ。
「プレゼントぐらい自分で選びなさい」とか言いながら、
最後は「もぉ、しょうがないなぁ」なんて言って。
そんなことを考えて、また笑ってしまった。
「笑い事じゃないんだからねー、こっちの身にもなってよー」
「はは、ごめんごめん」
みんなといると楽しいなって改めて思う。
自分のことばっかり考えてるかと思いきや、全然そんなことなくて。
自分の心配はさせようとしないくせに、他人が我慢すると怒って。
怒りながら、気付いてやれなかった自分に腹が立って、涙を流して。
本当に、ほっとけない子ばかりで、頼れる子ばかりだ。
「来月は愛ちゃんの番だからね」
「へ?」
「私にもくれるでしょ?プレゼント」
「・・・はいはい」
「なーにーその言い方!」
「ちゃんとわかってるってー」
「もー、本当にわかってんの?」
「だいじょぶだいじょぶ」
「愛ちゃんの大丈夫は心配しろって言ってるようなもんだよ」
「え、そうなん?」
「・・・もういい」
予想通りの反応に、案の定私は大爆笑だ。
それでまた怒らせてしまうのも、予想通り。
「もぅ、怒るよ?」
「ごめんって。来月やろ?任せてよ」
「じゃあ楽しみにしてる」
来月は忙しくなりそうだな、と思いながら軽く苦笑した。
メンバーのみんなの為なら、忙しくてもなんだってやれるんだけど。
よし、いつもお世話になってるガキさんの為にも、頑張るかぁ!
「あーほら、またバカみたいな話してたらこんな時間だよ」
ガキさんが椅子から立ち上がって、窓の外を見ながら言った。
「もうすぐ朝だね」
「愛ちゃんと話してたらすっかり眠気も吹き飛んじゃったよ」
「それは良かった」
2つの空のカップを片付けながら笑うと、ガキさんは小さく眉間に皺を寄せた。
「良くないよぉ。今日もリゾナントは開店でしょーが」
「もちろん」
私が即答すると、やっぱりねという風に肩をすくめられた。
それでも一度大きく伸びをすると、私の方に振り向いて一際大きく声を発した。
「じゃ、今日も一日頑張ろーねっ」
「・・・おぅっ」
もうすぐ夜が明ける。
誕生日を祝ってくれる仲間がいる。
――もう一人じゃない。
最終更新:2012年11月25日 17:31