(15)360 『共鳴者~Darker than Darkness~ -17-』



ああ、そうか。
高橋愛は、頭蓋を屠られ、肋骨をへし折られながらも、どこか得心がいった気分を噛み締めていた。
小川麻琴だ。
目の前の彼女は、田中れいなは、似ているどころではなく、そのまま小川麻琴の再来なのだ。
正義の味方。
そんな夢物語に縋り続け、最期までその理想に殉じた彼女。
彼女は帰って来た。
当然なのかもしれない。
高橋愛は、小川麻琴の、その理想とは相容れない選択をした。
だから彼女は、目の前の彼女は、そんな高橋を止める為に再来したのだ。

「…ま、せん…といて」



けれどもう、手遅れだ。
高橋は選んでしまった。
この選択肢は取り返しがつかない。
すでに大勢を殺した。
すでに大勢をこの手にかけた。
もう、高橋愛は人間を辞めたのだ。
今更あとには引き返せない。
高橋愛はすでにもう、闇よりもなお暗い何者かに成り果てている。

「邪魔、せんといてよ…マコトぉおおおおおおお!!!」





  *  *

二人はすでに満身創痍だった。
高橋の頭蓋からは血が吹き出し、肋骨が折れ、腕や脚にもあちこちヒビが入っている。
田中も額から血の稜線を垂れ流し、左腕は完全に機能を失い、神経が全身で悲鳴を上げている。
それでも尚、両者が倒れることはない。
すでにその手に武器はなく、ただ己が拳で殴り合うのみ。

高橋愛の正義。
仲間達の為に、共鳴者の理想社会を形成する為に振るわれる力。
だが、同時にそれは、復讐の名の下に多くの罪なき人を殺める行為。

田中れいなの正義。
ひとつでも多くの悪を挫き、一人でも多くの弱者を救済しようと粘るその力。
だが、それは理想論。とても小さな希望に縋る、自身の破滅さえ呼びかねない行為。

闇よりもなお暗い正義と、理想のような蒼く輝ける正義。
国道の中央。
闇と光の境界線。
そこで二つの正義が鬩ぎ合い、相克し、やがて、決着する。



ドサリと、人の倒れる音が響いた。
すでに日は低い。
黄昏が空の茜を喰い尽くしていく
国道の中央に立つ人影は、ただひとつ。

誰そ、彼は。

逢魔が時。
人の顔が見分け難くなる時刻。
そこに佇む影は――魔か、人か。



fin.




















最終更新:2012年11月25日 17:26