しばらくして運転手が到着を告げる
その声は小さく聞き取りにくかったものの、里沙の思考を現実に呼び戻すには十分だった
里沙は携帯をそっと閉じた
タクシーを降りるとそこは見慣れた風景
今、自分が立っている交差点から長く続く道
ゆっくりと発進して走り去るタクシーのテールランプが道の向こうにある暗闇に飲み込まれて行く
自分がこれからも歩んで行くのはこんな道なのだろうか…
自分は道の向こうで消えて行った赤い光なのだろうか…
暗闇の向こうで待っているのは…あの人の笑顔?
あの人の、あの笑顔
それが見たくて、もう一度見たくて…
これまで歩んで来たこの道
里沙はゆっくりと振り返る
「田中っち…?」
「………」
「…どうしたの?こんな所―」
「ガキさん」
まっすぐな瞳が里沙を真正面から捕らえる
「何?」
「アイツらはれいなの大切な仲間やけん」
「何?田中っち何言っ…」
「たまにウザいし、アイツらと一緒におったら面倒くさい事も多いっちゃけど…れいなはアイツらが好きやけん」
「………」
まっすぐな瞳に鋭さが増す
「アイツらに何かあったら、れいなが守る」
「………」
「アイツらに何かするような奴は、れいなが潰す」
「…そんな事わざわざ言うためにこんな所まで来たワケ?」
里沙の口元に自然と笑みが浮かぶ
「そう。なんかわからんっちゃけど…今日、ガキさんに言いたかったけん」
「…そっか…」
「じゃ、れいな帰るったい」
「ウチ、近いけど…寄ってく?」
「あぁ…また今度。」
れいなはニヤリと笑った後、猫の様に身を翻して里沙がタクシーで来た道を戻って行った
里沙はれいなの後ろ姿が見えなくなるまでその場から一歩も動かなかった
動けなかった
「私…なんで…田中っちをウチに呼ぼうとしたの?」
―――夜の闇はまだ明けない
最終更新:2012年12月17日 11:21