(12)250 『BLUE PROMISES 2』



2.


   ―――あれ? 今日はガキさんおらんの?


  ―――ガキさんって誰のことですか?

   ―――え? 何をとぼけて…


  ―――愛ちゃんこそ何寝ぼけてるんですか?
  ―――夢でも見てたんとちゃいますか~


      ―――どうして? なんでみんなガキさんを…?
      ―――一緒に戦ってる大切な仲間じゃん…?



  ―――あはは、愛ちゃん、どんな夢見てたんですか?―――

  ―――私たちにもその「仲間」の夢、教えてくださいよ―――




 慌てて見たケータイのメモリからは、ガキさんの情報は消えていた




もう、誰も信じない。

あの日、愛はそのままリゾナントを飛び出した。
止める声が聞こえていたのも構わず瞬間移動を繰り返して、
誰にも見つかりそうもないところにまで場所を移していた。

…逃げて、いた。


どれだけ場所を離れてみても時間が経ってみても、涙が止まらない。

どうして、どうして、ガキさん。どうして。
みんなまで、どうして…

愛は届かぬ疑問を投げ続けた。


直感で気づいていた。
メンバーからは、里沙に関する記憶がすべて消えていると。
それが、他でもない里沙本人の手によって行われたものであることすらも。
とぼけて愛をからかっているにしては不自然すぎだったし、
本当に里沙という人物を知らないのであると考えれば、それが自然だと思えた。

けれど、なぜ愛だけが里沙のことを覚えているのか。
愛の記憶だけ消し忘れるなど、そんなミスをするはずもない。
喫茶「リゾナント」に置かれていた里沙の私物からケータイのメモリまで、
一切の痕跡を、何もかもをなかったようにしているにも関わらず―――

―――だったら、なぜ。



里沙がいなくなった。
この現実を受け止めなければならないのが自分一人しかいないと思うと、
愛はその重みに耐えうる自信などなかった。
いつだって自分は里沙を頼り、里沙に相談し、里沙に支えられて生きてきた。

それなのに。

肝心の彼女はあらゆる「存在した事実」を消した。
何の必要があって?
彼女に何か深い悩みがあったのだろうか?
それならば、どうして相談してくれなかった?

 それよりも―――あーしはどうしてそれに気づけなかった?


全幅の信頼を置いていた里沙は消えた。
メンバーはこの事実を知らない。
うろたえ、怯える自分が情けない。
こんなにも弱い自分のことが、憎くてたまらない。

だったら、誰を頼って、誰を信じて生きていけばいいの?

納得のいく答えを見つけることができぬまま、日は過ぎるばかり。

メンバーからの連絡はない。
ケータイも置いて飛び出してきたから、当然だった。
まして愛本人ですら、自分のいる場所がどこなのか把握していない。

 あーしはまた、孤独に戻るんやな…

もう、誰も信じない。
愛は、考えることをやめた。





   ―――その日、愛は、闇へと堕ちた―――





















最終更新:2012年11月24日 19:40