(11)647 『パニック☆チェンジ』



これは神様のいたずらだろうか。
そうだとしたら、本当に大変なことをしてくれた。
気まぐれとかそーゆー理由なら、勘弁してもらいたいと思う。

「絵里が1番好きなのは、れいなだよ」
「え・・・絵里ぃぃぃー!」

「リンリンは、バナナ以下」
「ジュンジュン嘘デショ!?」

「ガキさんはあーしの嫁!!」

ああああもう!!

「いい加減にしなさーい!!」






『パニック☆チェンジ』








ダークネスを倒す為、いつものようにみんなで町に繰り出した時だった。

「ガキさんお願い!」

愛ちゃんの声を合図に、自分の力を発動しようとした時―

「・・・!?」

精神干渉をするはずだったイメージが、私の目に焼き付いてくるような感覚に襲われた。

「あれ…?」

上手く敵の精神に入り込むことができず、困惑してしまった私は思わず目をこすった。

「どうしたん?」
「いや、なんか・・・」

愛ちゃんが最後の敵をジュンジュンとリンリンに任せて、一瞬で私の目の前に現れた。

「力が上手く発動できなくて・・・」

愛ちゃんが首を傾げたのと同時に、背後からさゆの声が聞こえた。

「今日も小春ちゃんは可愛いぞ♪」

あの子は戦闘中に何を・・・ん?
今なんて言った?



「今日は特別に毛穴見せてあげよう☆カナ?」

ちょ、ちょ、ちょ・・・え?

愛ちゃんと顔を見合わせ、同時に後ろを振り返った。
みんな呆然とした様子でさゆを見ている。

「さ、さゆ・・・?」
「いきなりどうしたと・・・?」

特に同期の二人は信じられないという気持ちでいっぱいのようだった。

「二人共可愛いけど~・・・小春ちゃんには負けるかなぁ~」

それもそうだろう。
いつものさゆからは考えられない言葉ばかりだ。

「あのー・・・」

みっつぃーが小さく手を挙げて、衝撃的事実を口にした。

「さっき久住さんが、精神干渉できるようになったーってはしゃいでたんですけど・・・」

 ・・・は?

「久住・・・っ、久住は!?」
「ココ」
「敵はバッチリやっつけマシタ!」

愛ちゃんが叫ぶと、いつの間にか戦闘を終えていたジュンジュンとリンリンが答えた。


「く、久住・・・?」

ある程度の実力がないと、精神干渉をしている間は、本体の方はからっぽになる。
ジュンジュンが持ち上げている久住は、まさに魂のない人形のような状態だった。

「じゃあ、まさか・・・」
「さゆは小春ちゃんに操られとるってわけやね・・・」

さっきまでびっくりしていた二人も、呆れた表情でため息をついている。
もちろん私も同じだ。

それにしても一体なんでいきなり・・・。
私が能力を使えなくなったのと何か関係があるのだろうか。

「そういえばガキさん、さっき力が使えないって言ってなかった?」

愛ちゃんも同じように考えたのか、私の方に視線を戻した。

「うん・・・なんかまぶたに映像が焼き付くような感じになるんだよね」
「それってもしかすると、念写の能力とちゃいます?」
「・・・あ」

みっつぃーと顔を見合わし、数秒置いて苦笑い。
愛ちゃんの方を見ると、困った表情で髪の毛をガシガシと掻いていた。

あちゃー・・・こんな展開ってアリ?

「さゆ!大丈夫!?」
「どこも変になってないと!?」

さっきから騒がしいと思ったら、カメとれいながさゆの中から出るように、久住を説得していたようだ。
ジュンジュンに掴まれていた久住も、今は楽しそうに跳ねている。


「これは厄介なことになったな・・・」

愛ちゃんの独り言のような呟きが聞こえて、私は無性に申し訳ない気持ちになった。

―――
――

とりあえずリゾナントに戻ってきたわけだけど、さっきからこの調子だ。
久住が次から次へと精神干渉を行い、みんなの意思をコントロールして遊んでいる。
今は愛ちゃんの中に入り込んで、さっきから私の前とカウンターを瞬間移動で行き来している。
そして、それを見て爆笑するカメ。

正直かなりうっとーしい。

久住が操っているのはわかってるんだけど、さっき愛ちゃんに申し訳なく思った気持ちは撤回させてもらいたい。

カウンター席では、久住に操られた時の話を聞いて落ち込んでいるさゆを
れいなが一生懸命励ましている。
隣のテーブルでは、ジュンジュンがリンリンにさっきの言葉の弁解をしている。

なんでこんなことになってしまったんだろう…。
ううう…頭が痛い。
机に突っ伏している久住の本体をぶん殴りに行きたい。

「新垣さん」
「ん?」

かなり不機嫌な顔と声になっている自覚がある。
机を挟んで私の目の前に座ったみっつぃーが、一瞬びくついたのは気にしないことにしよう。



「何か心当たりはないんですか?」
「心当たりって言われても・・・朝久住とぶつかったぐらいかなぁ・・・」
「それですよ!」

みっつぃーはガタンと椅子の音をたてて立ち上がった。

「もう一回ぶつかりましょう!」
「え、いや、いやいやいや!」
「絶対それですって!」
「いや、でも、そんな漫画みたいなこと・・・っ」

みっつぃーは目をキラキラさせながら、私の手を引っ張ってくる。
そんな馬鹿みたいな話があってたまるか。
でも、それしか心当たりがないのも事実だ。

「新垣!」

ジュンジュンが私の名前を呼んだ。

「だから新垣さんで・・・」

―ゴンッ!

「いった・・・ぃ!」

激痛の走る頭を押さえながら顔を上げると、ジュンジュンに掴まれた久住が目に入った。
久住の額も赤くなっている。

一体なんなんだ!
もぉ~我慢できない!

涙目のままジュンジュンの顔を睨むと、ジュンジュンは至って真面目な様子だった。


「新垣!戻ったカ?」
「バッチリデスカ?」
「新垣さん大丈夫ですか?」
「え・・・うん、大丈夫、だけど・・・」

みんなしてそんな顔で見ないでほしい。
さっきまで一人で怒ってたのが馬鹿みたいじゃんか。

「ガキさん泣いとーと!?」
「小春ちゃんを怒るなら、さゆみも一緒に怒りますから!」

いつの間にか、れいなとさゆも集まってきた。

「ガキさーん、どうしたんですかぁ?」

カメの緊張感のない、それでいて優しい声も聞こえてきた。

「大丈夫・・・大丈夫だから」

だからちょっと離れてくれないかな。
こんなことで泣くだなんて恥ずかし過ぎるっ。

「あれー!?なんで新垣さん泣いてるんですかーぁ?」

一際高い声がリゾナントに響いた。

アンタのせいでしょうがぁ!!
今回ばかりはごめんなさいじゃ済まさない!
怒ってやろうと大きく息を吸い込んだ時だった。

「オマエのせい!」



ジュンジュンが小春の身体を持ち上げたまま、怒った顔で久住を見ている。
みんなもそーだそーだと久住を怒り出した。

「え~!?なんでなんで!」

いまいち状況が掴めていない久住は、宙に浮いたままジタバタと暴れ出した。

「いたずらもほどほどにってことですね」

さすがの相棒も、今回ばかりは久住を庇うことは出来ないようだ。

それにしても、みんなが怒るから怒鳴るタイミングを逃しちゃったな。
まぁ、いいんだけど。
なんだかちょっと嬉しい。

みんながガヤガヤやっているのを眺めていたら、リンリンがそっと近寄ってきた。

「モウ大丈夫デスカ?」
「へ?」

あ、そうか。
久住が本体に戻ったってことは・・・。

暴れている久住に向かって、力を発動した。
久住の脳内に入り込み、意識の網を手繰り寄せる。

よし、いける!

「迷惑かけてごめんなさい。今日は小春が一人でリゾナントの掃除します」

 ・・・使えた!



意識を自分に戻すと、何が何だかわかっていない様子の久住と目が合った。

「掃除よろしく~♪」
「ええええ!」

掃除で許してあげるんだから、軽いモンでしょ。

「うへへ、ガキさんを怒らせた罰だね~」
「新垣さん甘いですよー!」

みんな楽しそうに笑っている。
今日はいろいろ災難だったけど、嬉しいこともあったから許してあげよう。

今はまだ、みんなの仲間だと思っていたいから。
少しぐらい夢を見たって罰は当たらないだろう。
いつか辛くなるのは自分だってわかってる。
でも、今はまだ・・・みんなの信頼を素直に心地よく感じていたい。

ギャーギャー言っている久住とワイワイやっているみんなを見ながら、
私は何かを忘れているような気がしてならなかった。

何かが足りないよーな・・・。

「ガキさん!?」
「うぇ?」

私を囲んでいるみんなの間を抜けて、愛ちゃんが近付いてきた。

そうだ、愛ちゃんだ・・・!


「なんで泣いとんの?」
「あ、これは・・・」

まだ目が赤かったのかもしれない。
みんなの優しさが嬉しくて・・・なんて、こんな恥ずかしいこと言えるわけがない。

私が何も言えずにいると、愛ちゃんはみんなの顔を順番に見た。
みんなひきつった表情で、ゆっくりと同じ方向に視線を移した。

「え、え?」

7人の視線を浴びる久住は、さっきからずっとテンパっている。
あー・・・これは掃除どころじゃ終わらないかもしれないね。

「久住!」
「はいっ」

今までに見たことないってぐらいの顔で、愛ちゃんが久住の名前を呼んだ。

「反省文とゲンコツ、どっちがええか選び」
「え、ええーとー・・・」
「そーか、両方か」

愛ちゃんが右手でグーを作り、久住に歩み寄る。

「え、ちょっとま・・・!」

―ポカッ

ん?ポカッ?


「反省文は今日中に出すこと!」
「・・・」
「わかった!?」
「は、はい!」

やっぱり愛ちゃんは愛ちゃんだなぁ。
ゲンコツ弱すぎるでしょ。
相変わらず優しいんだから。

「よーしっ、じゃあ急いでお店の準備するよー!」

ポカンとしていたみんなも、愛ちゃんの声につられて動き出した。
目が合った子に、一人ずつありがとうと言いながら、愛ちゃんの後を追った。

「愛ちゃん」
「ん?」

愛ちゃんに続いて、私もカウンターに入った。
カウンターに居るのは、私たちだけだ。

「ありがとう」
「・・・ん、ええよ」

その瞬間、胸に暖かいものが流れてきた。
無意識に共鳴したみたいだ。

「恥ずかし・・・」
「どうして?」
「嬉し泣きやったんか」
「あぁ・・・」


共鳴した時に、私の気持ちも流れてしまったようだ。

「嬉し泣きやったなら、久住に悪いことしたかな」
「大丈夫でしょ。今日は久住が悪い」

二人で顔を見合わせて、同時に声をあげて笑った。

今この瞬間だけでも、リゾナンターとして笑っていたい。
自分がそんな風に考えてしまうようになったことに気付いて、心の中で苦笑した。

ぼーっとみんなを眺めていたら、久住が私の目の前で立ち止まった。

「新垣さん、ごめんなさい」
「もういいんだよ」
「ちょっとやり過ぎました」
「もう絶対あんなことしちゃいけないよ?まぁ、入れ替わるなんて滅多に無いことだけど」
「はい、絶対約束します!」

よしよしって久住の頭を撫でてやると、久住は嬉しそうにエヘヘと笑った。

「あー!ガキさんっ、絵里も絵里も!」
「はぁぁぁ?」

今日もリゾナントは騒がしい。
慣れてしまった自分に苦笑い。
いつか来る未来のことは、まだ・・・ね。




















最終更新:2012年11月24日 16:32