(10)159 『スパイの憂鬱5』



会議と言う名の里沙の主張大会は、まだ始まったばかり。
ブラックは初期戦隊物にはいないのに、何故そこまでブラックを推すのかとリンリンに突っ込まれても
里沙はめげない、何故なら里沙はブラックの位置が好きでたまらないからだった。
ブラックの位置も作品によって様々だが、特に好きな設定は沈着冷静だけれど子供や自然を愛する
心優しい青年というような、所謂いいとこ取りみたいな設定が大好きである。

もし、オーラの色で立ち位置が決まるわけでないのなら。
あたし、ブラックをやりたい、っていうかやらせてというのが里沙の主張だったが。
うちは名前的には戦隊って名乗ってるけど、実際は組織だからそういうのはちょっときついやよー、
と苦笑いした愛に言われあえなく断念した。

―――けして、泣いてなんかいない。


一度火がついた戦隊物魂(だが、その知識は昭和な上に偏っている)を絶やすことなく、里沙は
自己主張第2弾を投下することにした。

里沙の目の前では、里沙にヤキモチを妬かせたい愛が無駄にさゆみと絵里にセクハラを繰り返し。
れーな、ブルーに相応しいキャラになるっちゃと燃え上がるれいなを、小春と愛佳が応援し。
藍色な私はどうしたらいいのだと悩むジュンジュンを、影の薄いグリーンという設定がぴったりな
リンリンが励ましてる。

まったくもって、平和すぎて泣けてくる光景であった。
頭が痛くなってきたような気もするが、里沙は口を開く。


「ねぇねぇ、戦隊ついでに質問するけど。
裏においてあるゴーカートって、何の意味があるの?」

「さすが里沙ちゃん、素人だったらあっさりスルーするようなところにも食いつく。
そういうところ、あっし超大好きやよー」

「愛ちゃんの自己主張はいいから。
で、あれって何のために存在するわけ?」


愛のアピールを一瞬にして遠いお空にファーラウェイして、里沙はツッコミを入れる。
喫茶リゾナント自体はいたって普通の、落ち着いた雰囲気の喫茶店なのに。
何故か裏のゴミ捨て場の隣に置いてある、ゴーカート。
使わないなら、業者とかに引き取ってもらえばいいのにと発見した当初から里沙はそう思っていた。


アピールを瞬殺されたことを気にも留めず、愛はニヤリと笑ってリンリンの方を見る。
その笑みを受けて、リンリンは立ち上がった。
何事かと、里沙はリンリンに注目する。


「新垣サンの為に、リンリンが説明しまス。
新垣サンがゴーカート、と言っているのはリゾナンターにとっテ重要な乗り物なんデス」

「えー、どこをどうみてもただのゴーカートでしょ、あれ
遊園地とかでよく見る奴とそっくりじゃん」

「違いまス、あれはリゾナンカーと言いまして、
緊急の際に2人まで乗っテ移動することガ出来る、立派な乗り物なんでス。
あぁ見えて、時速300㎞出ルんですよ、すごいデしょー、リンリンの説明バッチリデース!」

「あ、そう、ふーん…」


リンリンの要点のみ押さえたと思われる説明に、里沙は頭を抱えたくなる衝動をこらえた。
何でゴーカートのくせに300㎞でるのよとか。
2人しか乗れないって、他の7人はダッシュで現場に急行かいとか。
っていうか、ゴーカートじゃ公道走れないじゃん、意味なくないとか。
様々なツッコミが一瞬にして、里沙の脳内を駆けめぐったのだが。

そのツッコミを、里沙は口にすることが出来なかった。
誇らしげに胸を張り、ニコニコと笑うリンリンの姿。
何かある度に里沙を気遣ってくれる優しい心の持ち主であるリンリンに対して、
そんなツッコミをガツンといれてしまえるキャラだったら、ダークネスでもなめられずに済むのだ。

スパイなのに、妙なところで心優しい里沙。

―――少なくとも、その心優しさは今のところ何の役にも立たなかった。




















最終更新:2012年11月24日 15:45