(09)146 『スパイの憂鬱4』



(帰りたいけど帰れない、そう、私はスパイだから。スパイとしてしっかり任務を果たさないと。)


己に自己暗示をかけるかの如く、里沙はひたすら心の中で任務を果たさないとと呟き続ける。
そうでもしないと、精神的疲労が激しすぎてパンクしそうなのだ。
バナナ1本でマジゲンカ寸前とか、加減して殴ろうとして気絶させちゃうとか、リアクション見たさに
転ばされたりとか、ささやかな胸を揉まれるとか、付き合ってもいないのに浮気とか言われるとか。
まぁ、とてもじゃないけれどふざけるなこの野郎って気分なのは仕方のないことだ。

凹まされてもくじけない、そうじゃないと世の中渡ってはいけない。
くじけてもすぐに気持ちを立て直さなければ、いつまで経ってもこの嫌な気分からは抜け出せないのだ。
そう、こんなことは慣れている、ダークネスで数年怖い先輩達に揉まれ続けたのだから。


「で、今から何しようってわけ?」


里沙の疑問の声が、9人いると若干暑苦しいリビングに響く。
いつの間にか、下にいたはずのリンリンも2階にあがってきたので全員集合と相成ったわけだが。
愛を上座にテキトーに座る面々を見る限りは、何か話し合いのようなものが開かれるようだ。
両手にさゆみと絵里をはべらせた愛が、無駄に爽やかに笑ってこう言った。



「第259回目くらい、リゾナンター会議を今から行うんやよー」

「へぇー、あ、そう」


会議なのは分かった、だが何故何回開いたかを正確に言えないんだこのリーダーは。
っていうか、何を話し合う必要があるのか全く分からない。
個人的に言いたいことなら沢山ありすぎるくらいなのだが、会議ともなるとやはり
そういう発言は出来ないし。
何を話し合うのかは知らないが、こういうところで思わぬ情報を得られる可能性もある。
里沙はツッコミモードから一気にスパイモードへと頭を切り換え、会議の開始を待つ。


「えーと、今日の会議の内容なんだけどもー、リゾナンターに入って日の浅い里沙ちゃんのために
今日は里沙ちゃんから皆に聞きたいことがあったら何でも聞いてねってことにするやよー」

「何でも聞いていいんだ…ふーん」

「あ、でも内容によっては答えがもらえないこともあるがし。これでも、超能力者組織やから
機密事項もあるんよ。まだ日が浅い里沙ちゃんにはちょっと話せないこともあるし、そこは
勘弁してほしいんやよ」


女好きなだけかと思っていたら、意外とこのリーダーちゃんとしている。
っていうか、これってかなりチャンスだよね。
質問の仕方さえちゃんとしてれば、貴重な掘り出し物クラスの情報が得られるかもしれない。

そう思ったものの、里沙はやはり自分が聞きたいことを聞こうと思った。
と、いうよりも機密事項はいずれ教えてもらえるだろうし、今は自分の主張を言っておかねば気が済まない。
スパイとしてしっかり任務を果たさないと、という思いは日頃の思いをぶちまけられるチャンスに跡形もなく消え去った。


「じゃあ、質問その1。何で、超能力組織なのに超能力戦隊って名乗ってるわけ?
組織なのに戦隊っておかしくない?」

「あー、それさゆが言い出しっぺなんです。オーラの色が、何だか戦隊物みたいだって話で盛り上がったから
じゃあ、組織の名前を超能力戦隊リゾナンターとかにしたら面白いかなぁって」

「言わせてもらってもいいかな、密かに戦隊物好きな女子として」

「どうぞなの」



「戦隊は5人しか認めません、9人とか多すぎ。4人は基地に待機して5人のバックアップとかなら
まだ許せるけど、全員がメインなのはおかしいと思う。学芸会で全員がシンデレラやるような
そんな違和感を覚えるので、戦隊って名乗るのはやめるべき。なお、超能力戦士リゾナンターに
改名するなら、9人でも何ら問題はないと思う、以上!」


一気に言い切って、里沙は少し息をつく。
以前から気になっていたことの一つに対する解答を得られた上、その解答に対する主張が出来たことで
里沙は小さな満足感に浸っていた。

ちなみに、戦隊物は5人じゃないと駄目なのに戦士となると9人でもいいという理屈は
里沙の好きなマンガ「美少女戦士モーニングムーン」の影響である。
モーニングムーンも最初のクールは5人+頭に太陽の模様のある猫という構成であったが、クールを
重ねる事に1人また1人と増えた。なので、戦士ならば5人以上いても問題ないというのが里沙の主張である。

1人満足げな里沙だが、他の8人はというと。
モーニングムーンを知っているのか、その主張にウンウンと頷いているリンリン。
後の7人はというと、惚けた顔で里沙を見つめている。
リゾナンターの中で唯一の常識人という認識が、この主張で崩れたことに里沙は気付かない。
気付かないまま里沙は一気に主張を続ける、さっき以上って自分で言い切ったというのに。



「だいたい、戦隊名乗るんだったら全身覆うスーツとか、光線銃とかロボットとか出して欲しいよね。
後、移動用のバイクとかさー。後、リーダーはレッドじゃないと駄目だし、イエローはカレー大好きじゃないと
許せないし、グリーンは陰が薄いんだけどいい人じゃないといけないし、ピンクがヒロインだけどピンクは
もうちょっと可憐さの中に気の強さが見えて欲しいし、後ブラックがいないのはおかしい!
ブラックのいない戦隊物なんて胡椒のかかっていない醤油ラーメンくらい味気ない!っていうか」

「ガキさん、落ち着くっちゃ。熱い思いは充分伝わったけん、とりあえずいつものガキさんに戻ってほしいっちゃ。
ブルーは沈着冷静・頭脳明晰キャラだけどれーなには合わんよね…」

「まさか、ガキさんが戦隊物オタだとは思わなかったの。とりあえずその理屈で行けばヒロインはさゆしかいないの。
唯一のヒロインだから皆にモテモテ…さゆにこれ以上ないぴったりな設定なの」

「えー、オレンジとかどうしたらいいのー?絵里だって何か役割欲しいよ、ピンチに颯爽と駆けつける憎い奴とかー、
決め台詞つきで超強い必殺技とか出しちゃって、一躍一番人気になるの」

「やった、小春がリーダー!やったやったー!主人公主人公!」

「…パープルとかどないしたらええねん。あれか、パープルはレッドとブルーを足した設定なら問題ないん?」

「ジュンジュンの色、何キャラになるダ?」

「リンリンは陰薄くないヨ?本当だヨ?バッチリデース?」

「あーし、別にカレーそこまで好きじゃないんだけどどうしたらいいわけ?里沙ちゃんの好みの女になるために、
好きでもないカレーを大好きって言いながら食べるべきなわけ?」


女3人で姦しいと書くが、女9人だとカオスなことになるもので。
第259回目くらい、リゾナンター会議(というより、里沙の主張大会)はまだまだ続く。




















最終更新:2012年11月24日 14:26